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第103回 事例で学ぶ現場改善:『中堅卸E社の新センター開発プロジェクト』

バブル時代に建設したセンターの狭隘化から中堅卸が新センターの開発に乗り出した。これを機にレイアウトに余裕を持たせて作業効率を向上させたいところだが、一定の保管能力を確保する必要もある。什器やマテハン類は既存設備をできるだけ使って初期投資を抑えたい。様々な制約を受けながら一つひとつ課題をクリアしていった。

庫内作業の「6つのない」
業務用の包装資材を扱うE社は、九州管内の5カ所に営業所を構える年商約50億円の中堅卸である。
福岡に物流センターを置き、九州全域を商圏としてカバーしている。取扱いアイテム数は約3万。物流センターから出荷する荷物の95%は小売りやサービス業などのエンドユーザーへの納品、営業所経由は残りの5%のみ。基本的には商物分離が確立されている。ただし、物流センターは著しく狭隘化していた。
20年ほど前に建設した延べ床300坪強の自社センターは、その後の売り上げの増加によってキャパオーバーに陥っていた。保管スペース確保のために、庫内の通路幅は年々狭められ、ピッキングカートが相互通行(750㎜×2台)できるのは、最も出荷頻度の高い「SAランク」ゾーンのみであった。他のゾーンは通路に商品が直置きされていて、カートの横を人が通るすき間もないほどであった。その結果、庫内スタッフの残業が慢性化していた。
定時の終了時間が17:30のところを平均で19:30、物量の多い月曜日には21:00〜22:00までの残業が発生し、幹部社員まで手伝いに入る始末であった。パート・アルバイトの勤務体制や作業手順などにも問題はあったが、最大の要因はやはり狭隘化であった。物量の増加への対応が限界に達していたのだ。
その対応策としては一般的には、既存施設の増床や建て替え、一部業務を外注化し協力物流会社の施設を賃借する方法、あるいは物流不動産会社や倉庫会社からのリースなど、複数の選択肢が考えられる。しかし、E社の場合は、既存センターの近隣に土地を確保し、そこに自社センターを新たに建設する方法を選んだ。
会長がゼネコンと相談のうえ、トップダウンで決断した。そのうえで我々日本ロジファクトリー(NLF)に、新センターの庫内レイアイトおよび保管ロケーション作成が依頼されたのであった。我々NLFはE社に対して、「6つのない」を新センターの開発コンセプトとして提案した。
現場の作業員を、①歩かせない、②持たせない、③待たせない、④探させない、⑤考えさせない、⑥書かせない、ことを目指すものだ。元々は生産現場で用いられてきた管理手法だが、近年では物流にも広く適用されるようになっている。
この提案がE社から歓迎された。ゼネコンから上がってきたラフ図面によると、E社の新センターの建屋は、ワンフロア約700坪の2階建てであった。将来の売上拡大を考慮しても、スペースとしては十分過ぎる規模だった。そこでプロジェクトメンバーとも話し合い、建物の一階だけを新センターとして利用し、2階の半分は研修ルーム、残りの半分は予備スペース兼、将来のVMI(ベンダー主導型在庫管理)を視野に入れたベンダー用倉庫として利用することにした。

作業効率VS保管能力のトレードオフ
庫内レイアウトの作成に当たってE社の経営層からは、「既存センターの一・五倍の保管能力」と「旧センターの設備をできるだけそのまま活用してイニシャルコストを抑えたい」という要望を受けていた。
また柱の太さ(500㎜×500㎜)と位置、そして1階の天井高(2700㎜)は既に決定されていた。これらを制約条件として、我々は旧センターで使用していた保管棚や作業台などの什器、マテハン類を、新センターでも使えるようにレイアウトを工夫した。
旧センターで使用していた保管棚は全部で162基。サイズは1800㎜(高さ)×1700㎜(横幅)×600㎜または450㎜(奥行き)がメーンだった。日本の保管棚の横幅は通常1800㎜だが、それよりも100㎜間口の小さい安価な韓国製を使用していた。これを活かしたうえで、新センターには新たに68基の保管棚を投入した。新規で追加する棚には、高さが旧センターのものよりも600㎜高い2400㎜のものを選んだ。
高い位置の作業は効率が落ちるが、保管能力を確保するうえではそれだけの高さが必要であった。また通路幅も当初は格納作業の生産性を考えて1400㎜を予定していたが、これを1250㎜に変更せざるを得なかった。
カートを相互通行させるには最低1500㎜が必要だ。しかし、それでは保管効率が著しく落ちてしまう。
また1250㎜より狭くすれば今度はハンドリフトが使用できなくなる。あるいはピッキングカートと人がすれ違うことができないなどの不具合が生じてしまう。保管効率と作業効率は基本的にはトレードオフの関係にある。その点においてE社の場合は、必要な保管能力の確保を優先し、その後に「6つのない」をコンセプトにレイアウトを組むという進め方をとらざるを得なかった。
レイアウトの最終決定までにはプロジェクトチーム内で侃々諤々の議論があった。プロジェクトメンバーには専務や常務などの経営幹部も参加していた。彼等自身、毎週月曜の〝手伝い〟を経験していたこともあって、センターの現場作業については素人ではなかった。さらには同業他社の物流センターや関連メーカー、物流会社のセンター見学なども積極的に行った。そこから様々な仮説や要望がメンバーから打ち出されていったのであった。
プロジェクトチームが新センター移管に伴って改善を行った主な事柄およびテーマを挙げると以下の通りである。

1.保管棚のサイズアップ(保管効率の向上)
2.チェック作業台から梱包作業台までのローラーコンベア化(「歩かせない」)
3.作業台およびローラーコンベアの高さを現スタッフの屈伸動作が最も少ないと思われる800㎜に統一(「持たさない」)
4.女性でも使用できるハンドリフトの導入(「持たさない」)
5.ピッキングカートのサンプル手配による作業性の検証(結局、既存のショッピングカートが最も使い易いという結果になった)
6.ピッキングリスト、納品書、送り状を一体でプリントアウトする統一伝票の導入(「探させない」「書かせない」)
7.昇降機の機種選定
8.透明ガラスで仕切った事務所を一階に設置(二階に設置すれば現場状況の把握度が低下する)
9.SAランクを対象としたパレット積みケースゾーンの設置(補充動線の短縮/「歩かせない」)
10.SAランクを対象とした直置き商品と棚置き商品の分離
11.SAランクの棚置き商品を対象としたフローラックの検討(フローラックには奥行きが1500㎜必要でスペースが取られるため、最終的には保管効率を重視して通常保管棚を選んだ)
12.通路の片側の棚だけから商品を摘み取る「Iピッキング」を左右両面の棚から摘み取る「Zピッキング」に変更。(当初は作業員に戸惑いもあったが、いったん定着した後はピッキング作業の生産性が120%に上がり、「慣れればZピッキングの方がやりやすい」との声が現場から上がるようになった)
13.入荷〜格納までの時間とスペースを確保するための仮置きゾーン設置(旧センターは入荷スペースが狭かったため格納作業が一日中続いていた。このことが在庫差異の原因にもなっていた)
14.レイバーコントロールの実施(勤務シフトの見直し、最も作業が停滞する梱包作業への人員投入)
15.パート、アルバイト体制の見直し(人件費が安価ということでシルバー派遣を導入していたが、様々な問題があり、直接パート・アルバイトを雇用して教育により短期戦力化する方法に切り替えた)

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詳細レベルではさらに多くの改善を行っている。これらの改善策の立案を含め、レイアウトの作成については、結局2ヶ月弱で概要を固めることができた。

棚番地の設定で意見が割れる
次は商品の保管ロケーションの作成である。そのために庫内レイアウトの作成と並行して、出荷頻度のABC分析を進めていた。
上位20%のアイテムが出荷量全体の80%を占めるという〝パレートの法則〟はE社の物流にも当てはまった。その分析結果を基に、超売れ筋のSAランクについては、アイテムごとに最適な保管方法を検討した。
ピッキングのしやすさと容積をもとに、アイテムごとに縦置きにして格納するか、横置きにするかを判断していった。またAランク以下のアイテムの棚割りは、メーカー別にカテゴリーの中分類で保管ゾーンを分け、保管方法も大まかに設定して後から微調整する方法をとった。
これらをクリアし、いよいよ棚番地の策定を迎えた。旧棚番地は、「階層/棟/棚番号/段数」という項目で構成されていた。このうち「階層」は新センターでは必要なかったが、それに代えて商品ランク別にレイアウトした「ゾーン」と「列」を項目として設定した。さらにプロジェクトチームは「段数」をさらに仕切った「コマ」を項目として設定する必要があるかどうかを検討した。専務および情報システム部門のメンバーからはピッキング精度を上げるために「コマ」まで管理すべきだという意見だった。
一方、常務とセンター長は管理が煩雑になるため「段数」までで良いという考えだった。検討の結果、「コマ」の管理は必要ないという結論に達した。その理由は以下の通りである。

①商品の入れ替え(終売、新商品流行他)が多く、棚番のメンテナンスに手間のかかること。
②一段につき三コマが最多であり、段数の指定だけでも作業員が判断に迷う恐れがないこと。
③自動的な作業がかえってミスの発生につながる可能性もあり、ピッカーが自分でチェックするという工程を入れることが、必ずしもマイナスとは限らないこと。

その後もプロジェクトは続いた。ゼネコンとは、昇降機サイズ・機種の選定、床加重(400㎏/㎡)の確認、建ペイ率に含まれる雨よけの長さの決定などの擦り合わせが必要であった。システム会社とは商品マスターのメンテナンスや、旧センターでは検品時のみに使用していたハンディスキャンの用途拡大を話し合った。またマテハン会社とは既述設備の確認、見積り、納期確認と搬入など。
さらには引越し会社相手に設備の移動や付帯サービスの範囲などを調整するなど一つひとつ歩を進めていった。
新センターの立ち上げには様々な調整業務が発生する。決してハードルが低いとは言えないプロジェクトであったが、形のない計画が形になっていく、何もないところから新しいセンターが立ち上がっていく課程を間近で体験するのは筆者にとって大きな喜びであった。