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第107回 事例で学ぶ物流改善:『燃料メーカーH社の輸送品質改善』

協力運送会社による納品、ハンドリングのミス、車両事故等のトラブルが多く、一向に好転する気配がない。業を煮やした荷主が社外のコンサルタントの手を借り、改善に本腰を入れることに。ドライバーの業務実態を調べたところ、予想以上に事態は深刻だった。

おんぼろ車両に横乗り調査
H社は近畿地方の2府4県に10カ所の営業所を展開する業務用燃料メーカーである。
売上高は約50億円。原料となる重油を元売り会社を通して産油国から輸入し、大阪府郊外の自社精製工場で約250アイテムに加工して販売している。製品の約9割は精製工場からエンドユーザーに直接納品している。残りは営業所を経由して、営業担当者が得意先に納品する。
荷姿はドラム缶、ボトル、梱包ケースなど様々で、得意先の顔触れも大手メーカーから商店レベルまで多岐にわたっている。
H社で物流担当責任者を務めるA部長はながらく、直送分の配送を委託している協力運送会社による納品ミス、商品・車両事故に頭を悩ませていた。A部長と配下のS課長の2人が中心となって改善を促してきたが、トラブル件数は一向に減る気配がなかった。そこで外部の専門家から指導を受けようということになり、当社日本ロジファクトリー(NLF)に業務改善の依頼が入った。
事前打ち合わせのためA部長、S課長と面談し、まずはH社の要望を確認した。2人の説明によると、ミスの多くは、伝票の回収忘れと納品数量の間違いであり、また商品事故や車両事故も少なくないため、得意先に大きな迷惑をかけ、クレームを発生させているとのことであった。その処理費用や未収金の発生などが、H社にとって大きな負担になっていた。
最初の面談から約1カ月後、我々NLFのスタッフが現地調査に入った。H社は協力会社3社・計25台の車両を配送に使っている。使用車両の内訳はタンクローリー車2台、4トン車7台、3トン車6台、2トン車10台である。このうち5台を選び、いわゆる〝横乗り調査〟を実施した。
配送車両の助手席に乗り込んで、積み込みから輸配送、荷降ろし、納品、回収までのドライバーの一連の業務をチェックしたのである。
この横乗り調査が3日目を迎えた頃には、トラブルの主たる原因がつかめてきた。原因の1つは高齢化だ。
ドライバーの大半は50代以上で、文字の細かな伝票や暗い中での伝票チェックが負担になっていた。
加えて、大手企業に納品する場合などには、H社の納品伝票のほかに大手得意先向けの「指定伝票」も処理しなければならず、作業が繁雑であった。荷物の積み込み時の数量検品も杜撰であった。
出勤時間が遅く、出発ギリギリまで積み込みを行っているドライバーもいて、検品を徹底するどころかノーチェックが横行していた。
納品先でも、検査場や資材庫に常駐のスタッフがいる場合には立会い検品が行われるが、それ以外のところではドライバーが自分で格納庫に搬入し、事務所で受領サインをもらうといったやり方だった。
納品ミスが発生するのも当然だった。
しかも、タンクローリー車以外の納品は、フォークリフトでのパレット降ろしか手降ろしで、高齢ドライバーには作業負担が大きく、また重量物のためにハンドリングミスによる製品の落下、破損をしばしば発生させていた。
油類の破損は、その清掃と処理に大変な手間がかかる。ミスをしたドライバー自身が現場で処理をして、納品先に謝罪し、その場で丸く収めているケースもあったが、大きな事故になると、H社に直接クレームが来た。しかし、クレーム窓口となるS課長は、A部長に全てを報告しているわけではなかった。協力運送会社のドライバーに対する温情もあったのかも知れないが、そのことが輸送品質の改善にはブレーキとなっていた。車両の傷みも酷かった。
燃料を取り扱っているため車両は常にオイルで汚れている状態であった。洗車は行っているものの、普通のやり方ではなかなか汚れが落ちない、むしろ染み付いていく始末であった。新型車を投入してもすぐに汚れてしまうことから、協力運送会社は古くなった車両をH社の業務に回す傾向があった。
老朽化した車両が多く、ライト切れやパンクが月平均3〜5件起きていた。ブレーキの利きも悪く、横乗り調査で助手席に乗っていた筆者は何度も冷や汗をかかされることになった。協力運送会社はいずれもH社とは長い付き合いで、業務運用上のルールや報告などは曖昧になっていた。
協力会社3社のうち運行日報をH社に提出していたのは1社だけ。他の2社は日報を自社に持ち帰っていた。その内容を調べてみたところ、記述はいい加減で空欄も多かった。

高齢者に配慮して伝票レイアウトを修正
これらの調査結果をA部長とS課長に報告した。その内容に2人は驚きを隠せなかった。そこまでドライバーの業務が不安定かつルーズであるとは信じがたいといった表情であった。
通常の輸配送管理では出発時の状況しか見ることができないため、実態を掴めていなかったのである。
後日、我々は次の項目を改善策としてH社に提示した。いずれも基本的な取り組みであるが、その徹底が必要と判断した。

①H社納品伝票の改善
②運行日報提出の義務化
③「輸送品質向上ミーティング」の定期開催
④社別・担当者別ミス・事故グラフの張り出し
⑤指差し検品(数量)の徹底

このうち「①H社納品伝票の改善」は、伝票のレイアウトを高齢者にも見やすくすることで、ドライバーの読み間違いを減らすことが目的である。
得意先の指定伝票をH社で勝手に変更することはできないが、H社が発行している納品伝票であれば、すぐにも修正できる。
具体的には、紙のサイズは変更せずに、文字を一回り大きくし、行数も12行から7行に減らした。そして工場内のピッキングリストと同様に、数量検品の行毎のチェック欄と当事者の署名欄を設けた。

「②運行日報提出の義務化」に関しては、協力運送会社に改めてルールを伝えると同時に、H社側でも協力会社から提出された日報の管理を、物流管理部門の日常業務のなかに明確に位置付けた。
車両管理に対する重要性を促す狙いから日報には、各車両の出発前点検の「未」、「済」を必ず入れてもらうことにした。そして納品後の車両はH社に戻らず、協力会社各社の車庫へ直接戻ることとなっているため、各社の事務所からH社へファックスするという流れを採った。
これをH社側ではS課長がチェックして、各車両の運行距離、納品件数、残業時間を把握する。そのためにS課長の業務の一部をパート社員に振り替えて、人員を増やすことなく、物流管理項目に運行管理を追加した。

「③輸送品質向上ミーティング」は、それまでの〝丸投げ〟を改め、月1回、毎月第3土曜日の午後に、荷主と協力運送会社3社の責任者が同じテーブルを囲んで、改善を進めていこうとするものだ。
S課長が司会役を務め、当面はA部長も同席し、主に以下の議題について討議する。

●前月のミス、事故件数、状況の報告
●それに対する改善点、注意点の指示
●納品先からの意見・要望・評価の伝達 (ドライバー→H社、H社→ドライバー)
●今月の予定、注意事項

荷主の覚悟が協力会社を動かす
「④社別・担当者別ミス・事故グラフ」は精製工場の出荷スペースに隣接して現場事務所前に大きく張り出すことにした。
当初はドライバーの個人名まで張り出すのはやり過ぎではないかという意見も出た。しかし、トラブルが頻発している現状ではやむを得ない手段であり、開示に耐えられない会社もしくはドライバーには退場してもらうしかないと覚悟を決めた。

「⑤指差し検品(数量)の徹底」は、数量検品のやり方として〝指差し〟という具体的な動作を指定するところがポイントだ。
当初は「オマエの数を読む声が大きすぎてオレが数えられない!」と他のドライバーから怒られている者もいた。大半が高齢者ということもあって、新しいやり方に慣れるには少々時間を要したが、それでもドライバーは総じて協力的で、徐々に定着していった。開始から3カ月間の取り組みで、思うように数値が好転しない場合は、協力運送会社3社のうち、最も成績の悪かった1社との契約を見直す方針であった。
これに対しては協力会社以上に、H社のオーナーが心配していた。〝こんなご時世(不況)にウチの仕事が無くなれば、その会社は潰れてしまう〟と周囲に漏らしていたという。しかし、オーナーの心配は杞憂に終わった。

取り組み前には毎月10件以上あったトラブルが3カ月後には月1件程度に大きく改善された。その報告を受けたオーナーは、〝次は全社の物流コスト削減がテーマだ〟と、物流管理担当の2人そして我々NLFに通告したのであった。