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第109回 事例で学ぶ現場改善:『雑貨卸J社のパート現場活性化プロジェクト』

業務用雑貨卸の経営者から相談が入った。作業員の頭数は足りているはずなのに残業が慢性化している。パート中心の現場だが、閑散期でも人件費は減らないという。物量の変動に合わせて現場に投入する労働力を調整する「レイバーコントロール」ができていないようだ。

パート人件費がコストを圧迫
J社は北陸に本社を置く年商80億円の業務用雑貨卸である。
創業は1923年で、既に90年近い社歴がある。大手による統合・合併の進む同業界にあって、J社は取扱い品目の差異化と事業展開エリアの独自性によって経営の独立を維持してきた。独自企画の輸入品を中心に約4500アイテムを取り扱っている。営業所は、福井、石川、富山、新潟に展開している。市場規模としては小さく、かつ地域性の強いエリアを対象に、高いシェアを獲得している。販路は多岐にわたっている。
なかでも7年前に開始した通販チャネルが好調で、ここ数年は順調に売り上げを拡大させている。物量の増加によって、それまで使用していた物流センターが手狭になったため、3年前に移転、拡張した。
その新センターの現場改善が今回、我々日本ロジファクトリー(NLF)に与えられたミッションである。
J社の三代目となるO社長から直接相談を受けた。「作業スタッフの頭数は足りているはずなのだが、残業がなくならず、コストアップになっている」という。その数日後、我々はJ社が新センターを置くK市に足を運んだ。新センターは延べ床面積約1400坪の二階建てで、自前の施設であった。運営もJ社自身で行っていた。
庫内を一見しただけでも「2S(整理・整頓)」の行き届いた現場であることは分かった。その日は約1時間半の現場視察と、現場責任者のSセンター長を相手に約2時間のヒアリングを行った。それによると、新センターには直接雇用のパート・アルバイト42人が常時出勤し、繁忙期には派遣会社から8〜10人の人員を調達しているとのことだった。直接雇用のパート・アルバイトは手厚く遇されていた。年末には能力や勤務態度に関係なくパート全員にボーナスを支給していた。いったん採用されれば本人から辞めたいと言い出さない限り、クビにされることもなかった。
J社に限らず、農村地帯などの地域コミュニティの強いエリアでは、パート・アルバイトであっても簡単にクビを切ることはできない。悪い噂がすぐに広がり、新規募集が難しくなってしまうからだ。老舗のJ社はとくにその点を気にしていた。
J社が新センターにK市を選んだのも北信越のなかでは都会的で、地域コミュニティのデメリットも相対的に小さいだろうと考えてのことであった。そのうえで、パートの扱いには相当な配慮をしていた。
しかし、このことがセンター運営コストを押し上げる大きな要因となっていた。その日の物量と関係なく作業人員が一定であるため、閑散期には人手を余してしまう。
現場では時間のメリハリがなくなり、作業のムダ、ムラを生んでいた。せっかくのボーナスも、金額・時給のわずかな違いが不満要因となり、かえってモチベーションを低下させていた。Sセンター長からのヒアリングだけでも、新センターのおおよその課題・問題点を察することはできた。
そこでO社長に対して、まだデータ的な裏付けを得ておらず、仮説に過ぎないと前置きしながらも、「レイバーコントロール」が効きそうだとの見通しを伝えた。するとO社長は「それだ! それが必要だ」と膝を叩いたのであった。
レイバーコントロールとは、物量の波動に合わせて、現場作業に投入するパート・アルバイトの人数を柔軟に調整する仕組みである。
これによって、それまで固定費だった作業人件費を変動費化することができる。物量の変動の大きな流通の川下のセンターには、とくに効果的な管理手法である。具体的には以下の6つのプロセスを踏んで、J社のセンターにレイバーコントロールの仕組みを導入した。「①生産性目標の設定」、「②昼礼の徹底」、「③多能工パートの育成」、「④終わりじまいの実施・徹底」、「⑤ピッキング・梱包人員の補充」、「⑥センター長の適正判断」である。さらには「パート人事考課制度の導入」を第二ステップの課題に掲げた。

作業生産性の目標を設定する
このうち「①生産性目標の設定」はレイバーコントロールの〝要〟とも言える部分である。「一人一時間当たりの作業量(人時)」を指標として業務別の生産性を把握する。さらには得意先別生産性にまで展開することも可能だが、大半の現場は業務別生産性による管理だけでも事足りる。
業務別生産性を採るにはまず、センター作業を「入荷」、「格納」、「ピッキング」、「検品」、「梱包」、「出荷」に分解し、各業務ごとに生産性を図る基準を決める。入荷、格納作業であれば「ケース」。
ピッキングは「伝票行数」。検品は「件数」。梱包、出荷は「ケース」といった具合である。ピース出荷が多い現場では、「ケース」ではなく「ピース」を基準にしたり、個品ごとに重量の違う不定貫商品を扱う場合は「kg」を基準にするなど、その現場で取り扱っている商品の特性や出荷ロットに応じた基準を選ぶ。
次にパート各人の能力差を加味して作業の処理スピードを測定する。例えば、作業の最も速いパートを「MAX」、最も遅いパートを「MIN」、平均的と思われる作業者を「AVE」と設定し、それぞれの作業速度をストップウォッチで測る。そしてMAX、MIN、AVEの平均値を、その現場の大まかな生産性の目安とする。
これと平行して、平均的な一日の作業スケジュールを作成する。入荷開始時間と最終車両への積み込み時間の双方から、つまり作業のスタートとエンドから、各業務プロセスの開始時間と終了時間を詰めていく。その結果、各業務プロセスに与えられた時間が弾き出される。その時間と作業に必要な時間を比較する。
作業に必要な時間は、「生産性の目安×作業量/投入人数」で計算する。与えられた時間に対して作業に必要な時間が20%超以内であれば、その後の改善によって十分対応が可能である。また、ここでの注意点は、J社のようなパート社員30〜50人クラスのセンターの場合、応援に入ることのできる社員もしくはフロアリーダーを投入人数の計算時には人数にカウントしないことである。
そうした臨時の労働力を予備人員として備えておくことで、見込みと実績のズレを調整するのである(表1)。

2012年02月■第109回●図1
以上のスケジュールを曜日別に展開させて、さらには繁忙時シフト、閑散時シフト、平常時シフトをそれぞれ作成する。
ちなみにJ社の場合、平常時シフトでは1日約800個を出荷していた。また作業スケジュールは現場スタッフと共有する必要があるため、大きめのホワイトボードを使って一目で分かるように可視化する。(写真参照)

2012年02月■第109回●図2
この時には生産性の算式などは外し、目標数値と終了時間だけをホワイトボードに掲示する。磁石で作成したネームプレートを使って、各パートが担当する作業を明示すると便利である。

「②昼礼の徹底」はレイバーコントロールを機能させるための必須事項である。基本的に朝礼では出勤人員の確認と体調チェック、注意事項の伝達と労務管理に主眼を置く。
昼礼では、レイバーコントロールの仕組みが定着した段階では、利益管理を行うことになる。午前中に受注した今日の出荷量に、午後からの受注見込み分を加えて、どれだけ早く業務を終了できるかを追求する。
具体的には昼礼では、各フロアリーダーとパートリーダークラスが集まり、午前中の作業状況(予定より早く進んでいるか遅くなっているか)の確認と午後からの見通し(ヒトが余るのか足りないのか)を伝え、センター長が中心となって全体の作業量に対する人員の過不足を調整する。いわゆる〝終わりじまい〟(その作業の終了をもって一日の終了とする)で、早上がりができそうな業務から、残業が発生する可能性の高い業務に、パートを振り分けるのである。

多能〝班〟化が効果的
ここで必要となるのが「③多能工パートの育成」である。他の業務にパートを振り分けようとしても、そのパートに一定のスキルと知識がなければ戦力にはならない。
他のパートに仕事を教えてもらっているようでは返って生産性が低下し、終了時間が延びてしまう。そこで閑散期にパートを教育しておく。基本的には一人のパートで3つの業務に対応できるようにする。
パート全員がすぐに多能工化に対応できるわけではないため、まずは上位3分の1程度の優秀なパートを対象にする。ただし、筆者の経験から言うと、女性パート中心の現場では、個人単位よりも数名による班(グループ)単位で教育したほうが余計な軋轢を起こさずに済む。つまり多能工ではなく〝多能班〟を育成するのである。
またパートが50人以上いる現場では、リーダーが全員の名前を覚えることさえ難しくなるので、パートが胸に下げる入退出許可証や帽子の側面などに、ピッキングが出来るパートは黄色、検品は赤、梱包・箱詰めは青といった具合に、それぞれのパートが対応できる業務をカラー表示しておくとよい。

「④終わりじまいの実施・徹底」に関して、それまでJ社では終わりじまいの制度自体を実施していなかった。
新センターへの移行に合わせて、制度は作ったものの実践はできていなかった。早上がりできる閑散期においても、センター長や現場リーダーはパートたちの顔色を見て、彼女たちの手取りが減ってしまうのを避ける傾向があった。しかし、パートの労働時間を固定したままでは、いくら作業を改善しても意味がない。パート現場の生産性を上げるために、終わりじまいがいかに重要であるか、我々NLFは時間をかけて説いていく必要があった。

「⑤ピッキング・梱包人員の採用」は当初は想定していなかった項目であった。「①生産性目標の設定」で各作業を計測したところ、物量の増大に対してピッキング・梱包業務の人員が不足していることが明らかになった。
当初、O社長が話していた「頭数は足りているはずなのに、残業時間がなくならずコストアップになっている」という認識は誤りであった。
確かにトータル物流コストは増加していたが、売り上げの伸びはそれを上回っていた。厳密に計算すると売上高に占めるトータル物流コストは0.2ポイントほど下がっていたのである。
地元紙2紙の折り込み広告で、ピッキング・梱包要員それぞれ2名を募集した。ところが3週続けて募集を行ったにもかかわらず1件の応募もないという。チラシをチェックしたところ、募集時給がエリア相場よりも100円安かった。応募がないのも当然である。そこで時給を改定した結果、23人の応募があった。当初の募集で相場より安い時給を設定したのは、既存パートの時給水準に配慮して差を付けたためであった。ボーナスの支給も含め、時給体系、評価制度に問題があるのは明らかであった。

「⑥センター長の適正判断」について、我々はO社長と幾度か協議を重ねた。しかし、Sセンター長は既に高齢であり、不適任となれば降格か解雇の選択肢しかないという。それは先代の会長が許さず、またセンター長の後継者も育っていないため続投となった。Sセンター長は管理職として十分な役割を果たせずにいた。しかし、それは本人の責任だけではなかった。常に少人数で運営することを会社側から求められてきたため、Sセンター長はオールラウンド作業員となってしまっていた。センター長として何を管理すべきなのか教えられてもいなかった。会社側にも反省すべき点はあった。

こうして6項目の施策を実施したほか、構内アナウンスを利用して、最終入荷車両の到着連絡や終了までの残り伝票数などの作業情報をパート全員に伝えるようにした。これは現場のモチベーションアップに効果的であった。
J社の取り組みは、言ってみればO社長の勘違いからはじまった改善であった。新センターへの移行によって現場の生産性が悪化しているわけではなかった。しかし、結果として、全体の生産性は取り組み開始から約3ヶ月で15%上昇した。
さらなる向上には、庫内レイアウト・保管ロケーションの見直し、パート人事考課制度の導入、Sセンター長への管理職教育が不可欠である。
これまで管理が十分でなかっただけに改善余地は大きい。次の節目となるプロジェクト開始から6カ月目にはどれだけの成果が出るだろう。筆者は楽しみにしている。