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第141回 事例で学ぶ現場改善:『部品メーカーの物流コンペ&管理機能強化』

長年、グループの物流会社に業務を事実上〝丸投げ〟してきた。しかし、グループ再編が進み、今後はM&A等によって資本関係が切れてしまう可能性も否定できない。物流パートナーをゼロベースで見直す必要があった。しかし、荷主としての物流管理機能は脆弱そのものだった。物流子会社との関係を見直す

B社は大手メーカーA社のグループに所属する年商約500億円の部品メーカーだ。
国内の工場内に物流センターを構え、そこ1カ所から全ての製品を国内外に供給している。物流オペレーションは同じグループ内の兄弟会社、つまり親会社の物流子会社のC社にずっと委託してきた。というより、C社に〝丸投げ〟してきたと言ったほうが実態に沿っているであろう。
物流子会社のC社は、もとはA社グループが100%出資する純血会社であった。しかし、その後の事業再編で現在は株式の半分近くをファンドや他の大手物流専業者が所有している。外販比率も拡大し、C社にとってB社は事実上、一般荷主の一つでしかなくなっている。
この状況にB社の物流部長は危機感を抱いていた。「もうC社は我々の内輪とは言えなくなりつつある。資本的にも、いつ他のグループの物流会社の傘下に入ってもおかしくない」というわけだ。そこで年末に契約更新時期を迎えるのを1つのメドとして、ゼロベースで物流パートナーを見直すことにした。
その手助けが今回の我々日本ロジファクトリー(NLF)の役どころである。外部の我々から見てもB社の物流部長の懸念は杞憂とは思えなかった。物流会社とりわけ物流子会社のM&Aは、今や日常茶飯事となっている。親会社のA社がいつC社の株式を手放しても不思議ではなかった。早速、物流コンペの開催に向けてプロジェクトチームを組織し、「RFP(提案依頼書)」の作成に取りかかった。ところが、この作業に思いのほか難儀した。RFPの基本となる物流のスペックや全体のフローを、B社側では誰も把握していなかったのである。
手元にあったのは在庫関連情報のみで、それ以外の大半のデータや業務実態については、B社の若手社員がコンペの開催を気付かれないように、C社のスタッフにヒアリングして情報を集めるという有り様であった。毎年の料金交渉こそ行ってきたものの、B社は必要な物流管理機能を備えていなかったのである。物流パートナーの候補として全部で11社をリストアップし、そのうちC社を含め四社にコンペへの参加を打診した。しかし、うち1社からは「おたくにはグループのC社があるじゃないですか。情報収集としか思えませんね」と辞退されてしまった。〝あて馬〟にされるだけで勝ち目はないと判断されてしまったのである。
結局、残る3社が説明会に訪れ、その後の提案まで進んだのであるが、そのうちの1社は今回のコンペを営業担当者の勉強の機会という程度に考えていたようで、本気で案件を獲りに来たようには見えなかった。
実際、コンペには経営層どころか部長クラスでさえ、最後まで顔を見せなかった。結局、最終的な比較検討対象は、既存のC社とX社の2社だけとなった。その選考過程を通して見えてきたのは、C社との契約を打ち切ることのリスクであった。
現状のオペレーションをそのままC社以外の物流会社に移管することで、これまでB社側では意識していなかったコストが発生することが分かった。
X社の見積もりを精査していくうえで、「その場合には管理費が別途課金されます」「回収コストはB社側で負担する見積もりになっています」など、今までは同じグループ内のC社がパートナーであったために融通の利いていた部分がサービス項目として明確化された。なかでも最大のリスク要因が情報システムだった。
一般に物流パートナーの変更もしくは新センターの立ち上げで現場が混乱する原因の9割近くは情報システムに起因している。C社を切るには、そのリスクに十分に備えなければならない。B社のプロジェクトメンバーたちは、現状の居心地の良さを再認識せざるを得なかった。
同時に現状の物流管理能力では、C社との契約を更新するほかにB社には有効な選択肢がないことを思い知らされた。それでも、コンペの開催は決してムダではなかった。このコンペを通じて、C社から一定のコストダウンを引き出すことができた。そしてB社は物流管理機能を強化する必要性を、はっきりと自覚することができたのであった。C社との契約更新が決定したことで、B社の物流改善のプロジェクトは大きく舵を切ることになった。
物流のあるべき姿を明確化し、それに必要な物流管理機能を構築することが新たなテーマである。具体的には中長期物流計画の策定、管理項目の抽出とそれに必要なデータ・資料の収集、そしてC社との「SLA(サービス・レベル・アグリーメント)」の締結が到達点として設定された。

「現状認識」が改革の成否を分ける
いずれの課題も現状の把握、「現状認識」が大前提であった。ところが、そのためにどんな情報をどこから収集すれば良いのか、B社のプロジェクトメンバーたちは全く検討がつかず、手も足も出ない状態であった。これはB社に限った話ではない。
「現状認識」は物流改革・改善において最も重要なステージといえる。取り組みの成否は「現状認識」の段階でほぼ決まってしまうと言っても過言ではない。
筆者の個人的な経験を振り返っても、「現状認識」の水準が高いほど、当然ながら成功の可能性とその効果は大きくなる。逆に現状認識に不備があった場合には、「思うような成果が出なかった」とか
「プロジェクトが頓挫してしまった」などの失敗を招くことが多い。
現状把握の方法としては、中小・中堅企業であれば、トップ自らが情報収集に工数をかけることで把握レベルを上げることができる。しかしB社ほどの規模ともなると、プロジェクトチームの構成メンバーがカギになる。
営業、購買、システムなどの各関係部署からそれぞれメンバーを集めることである。そうしないと、各部署にどのようなデータがあるのか、それがどう使われているのか、把握が難しくなってしまう。データの持つ意味や重要性は、頭では理解したつもりでも、実際にそれを運用したものでないと、本当のところはなかなか掴めないものである。
何とかデータを整理できても、その後の部門間の調整に大変な手間がかかってしまう。通常の物流改革よりもスコープの広いサプライチェーン改革ともなれば、さらにその傾向が顕著である。各部署から必要な理解と承認を得るには、プロジェクトメンバーと各部署の責任者との日頃の人間関係がモノを言う。そして各部署の抵抗は、その会社の規模とほぼ比例する。大手になるほど、業務プロセスやルールの変更を嫌がる。ところが、それを乗り越えるために必要なキャスティングを行っていない大手が実際には多い。そのために改革が進まない。その意味で大手においても、やはりトップダウンは不可欠である。
特定の部署のみで行う部分最適は限界に来ていることは周知の事実である。全体最適を目指すのであれば、トップを説得し、調整の手間を惜しまないことである。

代理店へのヒアリングを実施
さて、B社のプロジェクトメンバーたちには、
我々NLFから現状認識に必要な情報とその収集先を明示したフォーマットを提供した。
当初は戸惑いを隠せなかったメンバーたちも、一つずつそのフォーマットを埋めていく作業を通じて理解力を深めていった。しかし、その後、一つの壁にぶつかった。競合他社がどのような物流体制を敷いているのか、どこに向かおうとしているのかが分からなかった。
B社の物流の現状が、業界内でどのようなポジションにあるのか客観的に理解するには必要な情報である。さらには物流のコスト、品質、サービスレベルを競合相手と比較したうえで、真っ正面からガチンコ勝負を挑むのか、それとも競争の軸をずらした差別化戦略に立って物流体制を構築するのか、その方向性を中長期物流計画に盛り込む必要があった。
そこで、これに関しては、自社取扱比率の高い代理店に情報提供を依頼することにした。それに加えて、〝ダメで元々〟精神で、ライバル企業の取扱比率の高い代理店にも、プロジェクトメンバーがヒアリングをかけた。
次に我々は物流管理項目の抽出と、そのうちのどの項目から着手すべきか、優先順位を決めるプロセスに歩を進めた。管理項目としてはランダムに以下が挙げられた。

●受発注業務
●配車管理および車輌運行状況管理
●在庫管理
●外部賃借倉庫の管理
●外部賃借倉庫の管理を含む外注先管理
●物流指標の決定とその執行管理
●物流コストの管理と改善策の決定
●オペレーションマニュアル・運営ルールの策定
●情報システム設計およびメンテナンス
●営業支援
●製・販・物連絡会議(製造・販売情報の共有化)
●ロケーションの設計指示
●今後の物流システム設計(受注センター、在庫センター設置など)

このうちB社の実状を踏まえてまず、「外部賃借倉庫の管理を含む外注先管理」に着手することになった。それ以外の管理項目については人員・データ収集などの体制がまだできておらず、手が付けられるようになるまでには数カ月は必要であったからだ。外注先管理の基本方針は、「SLA」の締結であった。
SLAとは物流会社から提供されるサービスを、数値によって可視化し、それに目標値を設定することでサービスレベルの向上を目指すものである。通常、SLAで設定された目標値は必ずしも強制力を持つものではないが、荷主と物流会社間で定期的な連絡会議や評議会を開催し、目標の達成に向けた運営を行っていくことになる。最近では荷主と物流会社との間で業務委託契約書、機密保持契約書に付加してSLAを交わすケースが増えてきている。
B社では、「①在庫差異率(アイテムと金額)」、「②誤出荷率」、「③製品破損率」、「④緊急報告、定期報告のタイミングと頻度」の4項目をSLAの指標に設定した。

2012年04月号■実施項目の落とし込み

 

「SLA」の導入で管理を強化
その目標数値は、本来であれば現状に対して何%の改善を目指すというかたちをとる。しかし、既述の通り、B社は過去の実績値を持っていなかったため、C社との協議の末、あるべき目標値を設定することにした。
当初、C社にはSLAの導入に戸惑いも見られた。しかし、その詳細を十分に説明することで最終的には承諾してもらうことができた。
SLAは一見すると、物流会社に不利な制度のようだが、実際はそうではない。SLAの目標達成は、荷主側にも多種多様な改善を強いることになる。通常であれば物流会社側から指摘しても、なかなか改善の難しい課題の解決が期待できる。
例えば、製品の改廃時には、荷主側でマスターの整備をすみやかに行わないと正しいピッキングリストに基づいた作業ができない。荷主がマスターの整備を徹底することで、実棚卸し時の品違いミスが抑制されると同時に、物流会社側ではミスに伴うムダな作業を解消できるという具合だ。
こうしてB社は長年続けてきた物流の丸投げを反省し、管理機能の強化を進めている。今日では物流子会社やグループ物流会社といえども、物流パートナーとの関係は永遠ではない。
運営は外部に委託しても管理の手綱は放さないという外注化の鉄則を改めて確認する必要がある。