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第112回 事例で学ぶ現場改善:『建材卸W社のドライバー不足と在庫管理』

建築資材卸のW社は、当日納品と豊富な品揃えを武器に安定経営を続けてきた。しかし、同社の課題もそこにあった。売り上げの増加によってドライバー不足が深刻化、増加する一方のアイテム数を管理するノウハウも欠いていた。先代の後を継いだ若き二代目社長は頭を抱えていた。

ドライバー人材の枯渇
建築資材卸のW社は関東に本社を置く年商約20億円の二次卸である。
東京、神奈川、千葉、埼玉を商圏とし、商物一致の営業体制を敷いている。100年近い社歴を持つ老舗であり、安定した経営を続けてきた。とりわけ近年は通販事業の立ち上げが奏功し、年率10%近いペースで売り上げが伸びている。それもあって、配送ドライバーが不足していた。
募集はかけているのだが、思うように人が集まらない。人手不足から約二万アイテムにも及ぶ在庫の管理も疎かになっていた。現場の整理・整頓さえ十分とは言えない状態だった。
W社の二代目経営者であるN社長からホームページ経由で問い合わせを受け、後日、同社を訪問することになった。
W社の本社事務所は、木造の一軒家が多く残る下町にあった。大手のゼネコンやハウスメーカーよりも地場の建設会社や工務店が好まれる土地柄である。W社の社屋に近づいていくと、ショップ型のファザード(入り口)が先ず目に入った。周辺の職人達が現場への行き帰りに道具類を調達していくのであろう。地域と共にW社が歩んできたことを推察できた。
出迎えてくれたN社長は我々が想像していたよりもずっと若く、フレッシュな人物であった。
学校を卒業して数年ほどサラリーマン生活を送った後、先代の創業社長の娘婿として養子に入り、W社を継ぐことになった。それまでN社長は企業経営に関わった経験はなく、先代から経営の手ほどきを受けたこともなかったという。様々な試行錯誤を繰り返しながら現在に至っていることは、N社長の経歴だけでなく、事務所の様子からも窺い知ることができた。
残骸となってしまった新旧のパンフレットとカタログの山、万屋のような様々なセールスフレーズがペイントされた看板、そしてショップ型の本社事務所などが、卸売りへの特化と小売りへの参入の間で、
W社が揺れ動いてきたことを物語っていた。
N社長は筆者に対して「売り上げが増加していくなかでドライバー不足が深刻になっている。色々な物流会社にも相談しているが、これと言った具体策が見つからない」という。そこで何か打つ手がないかを聞きかったとのことであった。相談内容自体はすぐに理解できた。しかし、なぜW社が売り上げを増加させているのか、N社長とのやり取りからは、納得のいく要因を見つけることができなかった。ショップ型の本社脇には資材や部品、道具類が無作為に置かれていた。小売りへの展開が上手くいっているようには見えなかった。
後から分かったのだが、W社の増収要因の一つは残存者利益であった。バブル崩壊以降、建設需要の低迷が長く続き、周辺の建材卸が1つひとつ姿を消していったことで、自然と老舗のW社に注文が集まった。
もう一つは物流サービスであった。地場の建設会社や工務店にカタログを配布し、電話で注文を受けて、当日に現場に届ける。業態としては通販でも、同業界では伝統的に行われてきたサービスなのだが、古くからの同業者が消えていくなかで、これがいつしか武器になっていったのである。
それだけに配送ドライバーの確保は、W社にとって重要な課題であった。しかし、求人チラシやサイトを使って、地元で経験者を募集しても問い合わせすらないことは明らかであった。
現在の一人前の仕事ができる平車両のドライバーは全国的に枯渇している。とりわけW社周辺のエリアではその傾向が顕著である。地元の運送会社に継続契約で増車を要請しても相当な運賃を支払わない限り断られるのがオチであった。
そこで我々日本ロジファクトリー(NLF)のネットワークを使って、軽貨物会社に車両を持ち込んで営業した経験のある個人事業主、いわゆる一人親方のOBの採用を狙うことにした。それが決まるまでの間は応急措置として、既存の物流会社にスポットでの増車をかけるほか、また以前にW社が横持ち輸送に使用していた自社車両、平ボディ2t13尺(荷台約四メートル)が空いていたため、そこに派遣ドライバーを調達することで1台を成立させた。W社としても、これまで全く手を打っていなかったわけではなかった。
過去に同様のドライバー不足に陥った時には、営業、事務、仕入れの担当の垣根を取り払い、繁忙期は誰もがトラックに乗るように仕向けていた。また車両サイズも物量と発注品の荷姿にあわせて平ボディ一辺倒ではなく、1tのバン車やワゴン車、軽車両など車種を増やしていた。
こうした対策をフル活用すれば、持ち込み軽貨物OBの採用が決まるまでの期間を凌ぐことは可能であることを伝えた。

滞留在庫の皮肉な効用
続いて在庫問題に移った。我々が現場を視察したところ、本社倉庫、本社近くの物流センター、外部の賃貸倉庫とも、基本的な整理・整頓さえできていなかった。ルールのない状態で在庫が分散し、しかも埃をかぶった滞留在庫が多かった。そのために出荷品の埃の〝拭き係〟が成り立っていたほどである。
さらに確認を進めると、在庫量は概算で、Aランク品が30日分、B・Cランクが約60日、Dランク以下になると180日分以上という状態であった。聞けば商品の改廃は長らく行っていないという。また実地棚卸しは決算時の年1回だけとのことだった。相当な在庫差異が発生していることが予想できた。しかも、その状態では月次(損益)決算さえできないことをN社長に伝えた。このように、W社は在庫管理が全くと言ってよいほどできていなかった。ところが、このアバウトかつムダだらけの在庫管理が、時には効力を発揮することがあった。とりわけ昨年の震災後には全国的な評判を呼ぶことになったのである。
「他の卸にはない資材がW社にはある」「品がないとあきらめていたモノが、ダメもとでW社に電話をかけたところ、何と10個も手に入った」「メーカーから廃番になったと知らされていた部品がW社にはあった」という噂が口コミで業界に広がり、日本全国から多くの引き合いが入った。もちろん引き合いのあった商品を全て供給できたわけではない。欠品によって断る場合も多かった。それでも、本来ならないはずの商品をW社が在庫していることは少なくなかった。その大半は仕入れを行って時間が経過したもの、要するに古い製品で、通常ならDランク以下に分類されてメーカー返品(メーカー側でも受け付ける期限を設けている)か、廃棄処分となるシロモノである。これもまた、物流サービスと並ぶW社の武器であった。
卸、しかも二次卸で、当日納品を強みに生業を立ててきたW社にとって「在庫は悪」ではなかった。一般の在庫管理ルールよりも多い在庫を持たなければ即納ができないし、欠品を防げない。それはW社の〝負け〟を意味する。大手や同業者との差別化が図れなくなるからだ。W社が通常よりも多い在庫を持つことを、我々NLFも否定するつもりはなかった。だからといって、W社のそれまでの在庫管理が正当化されるわけでもない。
①在庫差異の解消、②各アイテムのランク付け、③保管方法の改善、④マスター管理の徹底などは、当然ながら改善しなければならない。

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実地棚卸しができない
①の在庫差異問題については、実地棚卸しを年一回ではなく月1回、循環棚卸方式で三カ月で全アイテムを一巡(全品)するよう提案した。しかし、N社長は、「今まで商品を数えたこともない素人の社員達では難しい」と難色を示した。そこで、外注費の予算化を条件に、棚卸し専門会社への委託によって第1回目の棚卸しを実行した。しかし、この試みは誰にとってもプラスにならない結果に終わった。事前に概算で見積りはとっていたものの、予想外の在庫の多さから、実際には当初予算の1.5倍もの経費がかかってしまったのである。しかも、業務を委託された側の棚卸し会社は、在庫の保管状態が悪いために正しく商品をカウントできていないという。
手間がかかり終了の時間が遅くなっただけではなく、棚卸し精度にも問題が残った。結局、2回目からは手順を覚えながら、自社で行うことになった。

②各アイテムのランク付けは、既述の通り、W社では売れ筋商品が品薄状態にあり、あまり売れない、
もしくはほとんど売れない商品の在庫が莫大に残っていた。それが全体の在庫増を押し上げていた。W社に限らず、多くの会社に見られる傾向だが、W社の場合はとくに顕著であった。在庫量を適正化するためには、まず出荷頻度でアイテムを分類する必要があった。
W社の取り扱いの大半は、物理的にバーコードシールを貼ることのできない商品であった。システム上の出荷情報は伝票からの手入力であり、入力精度には不安があったが、このデータを使う以外に現実的な方法はなかった。通常、出荷頻度分析では、AランクとCランク以下のアイテムについては、担当者の〝勘ピューター〟が働く。日頃の処理経験から大まかな区分けはできる。データ分析はそれを裏付けるだけである。問題はBランクである。昔は良く売れていたが今ではほとんど売れていない、あるいは新商品で取扱期間が短く、出荷動向がまだはっきりしていないといった商品が多い。ここは数字を詳しく見る必要がある。
実際、担当者の思い込みと実際の売れ方に驚くほどのギャップの出ることが多い。また、メーカーや小売業におけるABC分析には一般に、パレートの法則と言われる20:80の構成比ルールが適用される。上位20%の商品が売上全体の80%を占めるため、そのラインをAランクと設定するのである。
ところが卸売業には、この法則が必ずしも当てはまらない。取扱アイテム数が多いことに加え、中間流通としてバッファー機能を果たす必要があるからだ。そのため卸におけるABC分析では、売上構成比で上位50%のラインをAランクとして仮決めすることが多い。

③保管方法の改善は、棚卸し作業の改善のためにも必須であった。まずはAランク商品とBランク商品を物流センターに集約、Cランク以下の在庫を本社倉庫に集約して、外部倉庫を解約することとした。
そしてケース単位の大ロット品の保管は、パレット用ラック「ネステナー」の二段積み。小ロットのケース品とバラ(ピース)には中量ラックと軽量ラックを使用した。長尺物はオリジナルのラックで枠組みし、立てかける状態で保管することで、棚卸時にも数量をカウントしやすいように収納した。

社長が在庫管理の担当者に
在庫の移動と共に、キャッシュ・アンド・キャリー方式の店頭販売は、場所を本社倉庫から物流センターに移管することになった。
はじめは不便さを訴える常連の職人もいた。しかし、物流センターは本社から近く、駐車エリアも備えている。本社倉庫には駐車スペースがなく、商品の引き渡しのために客の多くが路上駐車を余儀なくされていた。それが物流センターに移ったことで、駐車違反を心配せず、ゆっくりと商品を選べるようになったため、次第に受け入れられるようになっていった。

④マスター管理の徹底については、精度の高い商品情報の蓄積に向けて抜本的に手を入れることにした。そのために仕入先の各メーカーに商品マスターのデータ提供を求めた。ところが、これが覚束ない。管理精度の疑わしいメーカーが多く、データ自体が存在しないというメーカーもあった。
このテーマに関しては長期戦覚悟で挑むほかなかった。こうして、我々は一連の取り組みをひとまず完了した。結局、W社においては1年以上にわたってまったく動いていないアイテムが全体の約25%を占めていた。豊富な在庫がW社の武器であることは事実だが、「戦略的に在庫を多く持つ」ことと「成り行きで在庫を多く抱えている」ことには大きな違いがある。そのことを我々はN社長に強く訴え、
アイテムごとに適正在庫と発注点を設定するよう、一連の取り組みを通じて繰り返しアドバイスした。
しかしながら、W社のスタッフには、それを実施するスキルを持った人材は見当たらなかった。結果的にN社長自身が在庫管理の当事者とならざるを得なかった。これが思わぬ副産物を生んだ。在庫管理を通じて、通販事業の商品を選択するN社長の目利きが磨かれたのだ。3カ月に一度の在庫のメンテナンスもルール化され、欠品を発生させない体制も整った。

こうして、改善に向けた流れができあがったことを確認し、我々はW社の任務を終えたのであった。