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第113回 事例で学ぶ現場改善:『外食チェーンM社のセンター機能強化』

物流センターが老朽化し移転の必要に迫られていた。物流子会社二社の扱いも懸案となっていた。長期にわたるプロジェクトを覚悟して物流改革に乗り出した。物流子会社二社のうち外販の進んでいる一社は出資を引き上げ完全に独立させた。しかし、残る一社が問題だった。

 

2つの物流子会社
M社は東京、大阪を中心に約150店舗を展開している中堅外食チェーンである。
チェーンオペレーション理論に基づく規格化された店舗展開にはこだわらず、個店主義による地域密着型のきめ細かな顧客ニーズへの対応と、店長教育の徹底によって大手と棲み分けてきた。
出店エリアは国内全域を対象としているが、地方はフランチャイズ店をメーンにする考えで、各地でオーナーを募っている。かつては地方のロードサイドに直営店を展開した時期もあったが、少子高齢化や飲酒運転の規制強化などを受けて、繁華街へのドミナント出店に大きく舵を切った。
ちなみに、このような出店戦略の変更は必ずしもM社に限ったことではなく、最近の外食業界にはよく見られる傾向である。
我々日本ロジファクトリー(NLF)に最初にコンタクトをとってきたのは、M社の物流課長で物流センター長を兼務するL氏であった。その肩書きから担当者レベルの相談かと思いきや、センターの老朽化対策を含めたコストダウン、そして物流子会社の再編がテーマだという。
M社は、麺やカット野菜、豆腐、惣菜などのメーンとなる食材については、それぞれ別会社化したグループ工場で処理していた。
物流インフラとしては全国に二つのDC(保管型物流センター)と、4つのTC(通過型物流センター)を構えていた。物流のオペレーションは2つの物流子会社に委託していた。そのうちのA社はM社の100%子会社で各地の自社工場からセンター納品までを担当している。
もう一つの物流子会社B社はセンター運営と店舗配送の担当で、これも当初は100%出資だったが、その後の外販拡大に伴い出資比率を段階的に引き下げてきた。B社の現在の外販比率は90%近くに達しており、M社に依存しない体制が既にできあがっている。その結果として、B社にとってM社は一般荷主と変わらない存在となり、またM社としてもB社にグループ企業としての役割を期待することはできなくなっているという。
これらの物流子会社の再編まで含めて改革を行うとなれば、多大な工数と時間が必要になる。経営全体に影響を及ぼす大手術になることを、我々はL氏に伝えた。それでもL氏は「我々も三年はかかると考えている。今回、私が相談に伺ったのもトップからの直接の指示だ」という。覚悟はできているようだった。
こうしてM社の大がかりなプロジェクトがカットオーバーした。通常、我々NLFのコンサルティングは物流現場の視察からスタートする。しかし、今回は物流現場ではなく、店舗の視察から始めることにした。
筆者が一人の客として店を訪れ、実際に食事をとることで、食材の鮮度や味、サービスレベル、コストパフォーマンスを知ろうと考えた。物の流れを最下流から遡って課題を見出そうというアプローチである。
M社のように、それが容易な業態であれば、余計なロジックや先入観は棄て、素直に顧客満足から入り、それをローコストオペレーションへ繋げていくというやり方のほうが、間違いは少ない。店舗タイプ、エリアが異なる五店舗を回ってみた。そのうち同業他社よりも平均客単価が200円ほど高いハイグレード店で気になることがあった。
顧客ターゲットに合わせてメニューや内装を工夫しているのは分かるのだが、肝心の料理の質がどうもしっくりこない。
生野菜などの生鮮品は規格がバラバラ、チルドものの惣菜も決しておいしいとは言えなかった。後日、物流センターを視察して、その謎が解けた。
チルド庫や前室(ドッグシェルターと荷捌き場の間)が老朽化し、冷却が十分に効いていない。温度計を持ち込んで調べたところ、5℃〜7℃を維持しなければならないチルドの総菜が、牛乳・豆腐レベルの八・七℃で扱われていた。また野菜に関してはセンターを通過させず、グループ工場や各地元の業者から直接店舗に納品させているとのことであった。さらに、入荷・格納・ピッキング・シール貼り・検品・店別仕分け・積込みの一連のセンター内作業と店舗配送の横乗り調査を実施した。これと並行して関係者へのヒアリング、データ収集、資料チェックなどを行い、仮説の検証と問題点の整理に注力した。

新DCの物件探しに苦労
こうして抽出された改善課題は200近くにも上った。優先順位の設定に難儀するほどで、L氏そしてM社のプロジェクト担当役員のT氏と協議の末、システムの見直しや他部門との連携などは2年目以降のテーマに先送りし、まずは以下の項目を初年度に実施することになった。

(1)物流拠点のプロフィットセンター化に向けたセンター機能の見直し
(2)食材の品質を維持できる新センターへの移転
(3)物流パートナーの選定
(4)物流子会社の再編
(5)新センターにおける運営の安定化

このうち(1)物流拠点のプロフィットセンター化に向けたセンター機能の見直しは、「①物流センター収支の見直しと改善」、「②アウトパック化の検討」の2つを柱としている。
当初我々NLFは、物流子会社が運営する物流センターのコストは割高だろうと予想していた。しかし、その業務範囲と請求額・契約料率をチェックしたところ、決して割高とは言えず、店舗からの売れ残り品や不要品の回収業務やカゴ車の追加投入にかかるイニシャルコストまで考慮すれば、一般の物流会社よりもむしろ安く収まっていることが分かった。それでも、M社の物流コスト負担は、同業他社に比べて大きかった。
その理由はベンダーからセンターフィーをほとんど徴収できていないことにあった。センターフィーを払う習慣がない地方の名産品や小規模な食材店との取引が多いという事情もあるが、大手ベンダーとの取引でもセンターフィーが相場よりも低く抑えられていた。現在、M社のセンター通過金額はトータルで、約240億円に上っている。しかし、通過額が100億円以下だった時代からベンダーとのセンターフィー交渉を行っていなかった。改善の余地があるのは明らかだった。

もう一方の「②アウトパック化の検討」の「アウトパック」とは、外食チェーンのほか食品スーパー業界などでもよく用いられている言葉で、店舗外、いわゆるセントラルキッチンやプロセスセンターなどで最終商品化することをいう。これに対して「インパック」は店舗内での最終商品化を指す。
M社における「アウトパック化の検討」とは、従来はグループ工場および店舗で行っていた食品の加工処理を、新設する物流センターに移管することで、コストも含めてどのような効果・影響が出るのか、そのメリットとデメリットを見極めようということであった。カット野菜と総菜がその対象だった。
それぞれグループ会社の工場で加工していたが、最終商品化前の中間処理に留まっていたうえ、コストは他社よりも割高で、かつ工場としての採算もとれていなかった。
この2つのグループ工場の扱いについては、物流と並ぶM社の悩みの種でもあった。そこで新設するDCにカット野菜と総菜の加工機能を取り込み、プロセスセンターとして機能させるというプランを立案した。実現すれば不採算の二工場が不要になり、輸送費も削減することができる。ただし、それには設備投資が必要で、またDCで取り扱っている他の食材に臭いが付いてしまう恐れもあった。
検討の結果、後に述べるように、DCの加工設備については長期契約を条件に、新DCの運営委託先が投資してくれることになった。臭いの問題も、それぞれ別室を設けることで対応可能であった。加えてL氏の提案により、従来は専門業者に委託していた専用オリコンと盤重(食品用の運搬容器)の洗浄処理もDCで行うことにした。
初年度のテーマの2つ目に挙げた「(2)食材の品質を維持できる新センターへの移転」とは、この新DCを探す作業のことであった。M社の出店計画と、カット野菜・総菜以外のグループ工場の立地から
最適エリアを分析したところ、旧センターの近隣が適当であるという結論に至った。しかし、条件を満たす既存物件は見つからなかった。そこで新DCの運営を委託する3PLにセンターを新設してもらう前提で、「RFP(提案依頼書)」を作成し、物流コンペを開催することにした。これが「(3)物流パートナーの選定」である。
土地探しも、センター運営を手掛ける当事者に決めてもらうことにした。高速道路へのアクセス、隣接道路の幅などの使い勝手を運営者の目で吟味してもらう方が得策であると考えた。外食業界での実績、そして新センターの建設条件をクリアできることを条件に候補を絞り込み、最終選考に2社が残った。
そのうち新センターを他社荷主との汎用センターとして運営する案を提示した一社が、コスト面で優り、内定となった。
新DCの建設はすんなりとはいかなかった。結局、理想とするエリアには適当な土地は見つからず、
旧センターから直線距離で一五㎞ほど離れた場所に建設することになった。センターの2階部分に入庫・出庫するためのスロープの建設許可、惣菜加工室の消防許可等の取得にも時間を要した。繁忙期を避ける必要もあって、稼働開始は計画より3カ月延びてしまった。

3PLに物流子会社を売却
「(4)物流子会社の再編」では、既に自立し外販がメーンとなっているB社については、双方の合意のうえ、出資を全額引き上げることになった。
今回のコンペでもB社は、落選はしたものの、一般の物流会社として参加した。問題は100%子会社のA社であった。A社の存在が物流コスト削減の足かせとなっているのは明白だった。担当役員のT氏は物流会社への売却を提案した。しかし、我々NLFには、A社に買収価値があるとは思えなかった。
A社は売り上げのほとんどをM社に依存し、なおかつ年商の3割以上の借入金を抱えていた。それほど期待はせずに、新DCの運営を委託することになった3PLにA社の売却を打診した。既存スタッフと車両ごと譲渡できないかという相談である。すると、意外にも早期に快諾を得ることができた。
筆者の思っている以上に、3PLによる物流子会社のM&Aが活発化していることを痛感させられた。
「(5)新センターにおける運営の安定化」は本稿を作成している時点では、まだ着手したばかりである。しかし、本号が読者のお手元に届く頃には安定稼働を実現していなければならない。新センターの安定運営は〝30日〟が業界の暗黙の了解である。
こうして振り返ると、M社のプロジェクト初年度はかなりハードな1年であった。それでも山登りに例えると現状はまだ三合目付近である。これから初年度の実績を精査・反省して、次年度以降の実施事項およびスケジュールを修正する必要がある。
次年度に向け欲を言えば、M社から改革のコアになるメンバーが、もう一人出てきて欲しいところである。