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第114回 事例で学ぶ現場改善:『超高収益運送会社のさらなる挑戦』

経常利益率が30%にも達しているオーナー経営の地場物流会社を筆者はいくつか知っている。その一つを紹介する。地方の下請け運送をメーンにしながら、付加価値のあるサービスを武器に堅実な経営を行っている。なぜ、そんなことが可能なのか。詳しく見ていくことにしよう。

経常利益率30%の無名物流企業
先頃発表された全日本トラック協会の調査「経営分析報告書 平成22年度決算版」によるとトラック運送会社の約6割は赤字経営に陥っているとのことである。赤字企業が八割を超えている地方もあるようだ。現在のトラック運送業の実態であろう。しかし、儲かっている会社だって当然ながら存在する。今回紹介するT社は、その1つである。
年商は約18億円と中堅規模ながら、約5・5億円の経常利益をたたき出している。T社だけではない。T社と同様に30%近い経常利益率を誇る物流会社を筆者は他に2社知っている。いずれも我々日本ロジファクトリー(NLF)の過去の研修先、クライアント先であるが、共通しているのはマスコミや物流業界紙にも登場することのない無名の会社ながら、付加価値の創出に注力している点である。
そのうちの1社は二代目社長の異業種経験を活かし、それを物流業に応用することで飛躍を遂げた。
センター運営の少人化や傭車比率の適正化を進め、提案営業に圧倒的な強みを持ち、M&Aにも積極的である。
もう一社は温度管理による差別化を図り、資本力を活かした積極的なセンター開発で他を圧倒し、コンペで高い勝率を誇っている。T社もこの2社に引けを取らない高付加価値サービスを荷主に提供している。
そして現在、さらなる成長に向けた改革に挑んでいる。我々NLFはコンサルタントとしてそれを支援する立場にあるわけだが、今回はその取り組みを紹介すると同時に、今どき30%もの経営利益を上げるトラック運送会社の経営とは果たしてどのようなものなのか、その秘密を探っていくことにしよう。
T社は本社を名古屋に置き、商圏もこれまでは東海地区に限定してきた。元請け業務は意外にも数社しかなく、大半の顧客は路線会社、倉庫会社、フォワーダー、物流子会社といった大手物流会社からの委託である。〝黒子〟に徹しているわけである。
主な積み荷は、精密機械、電機、医薬など、単価が高く、コストよりも品質を重視する製・商品が多い。また、単純輸送のほかに情報端末の廃棄物輸送や個人情報に関する媒体の輸配送と保管、リサイクル品の回収、仕分け、リユース品の在庫管理、出荷、産業廃棄物の最終処分場までの輸送などを手掛けている。つまり動脈物流から静脈物流に至る全領域を、それぞれ徹底して深堀りしている。
経営陣は創業者夫婦を中心とする、いわゆる「親族会社」である。この点は高収益物流企業として先ほど挙げた他の2社とも共通している。必ずしも偶然ではないのかも知れない。初面談の日、我々NLFのメンバーが紹介者を伴ってT社を訪れると社長夫婦が出迎えてくれた。
敷地内にはきれいに洗車された4t車と増トン車が5、6台停車していた。本社事務所は三棟所有するセンター(倉庫)の一棟に隣接して設けられていた。我々のことは紹介者から既に話が入っており、
NLFのホームページもチェック済みとのことだったので、すぐさま本題に入った。
社長は「東海地区での展開については、時間はかかったが、ある程度の果実を収穫したと思っている。さらなる発展に向けた改革・改善に力を貸して欲しい」という。T社であれば大半のことは成し遂げられるであろうが、具体的に何をやりたいのかが分からない。社長夫婦からじっくり話を聞くことにした。
やりたいこと、やれること、やってはいけないことを整理することが目的であった。最初に出されたお茶からコーヒー、そして紅茶へとT社流のおもてなしを受けるうち、あっという間に時間が過ぎていた。
社長夫婦は物流の専門知識やノウハウを持ち合わせているわけではなかった。しかし、ビジネスに関する嗅覚は並外れていることは話を聞いていて感じられた。T社が元請けを避ける理由は、荷主との交渉や提案、要請、クレームなどの管理コストをリスクととらえているためだった。そのために、物量があり、運賃が比較的高くても荷主からの支持を得られる大手物流会社の仕事にターゲットを定めていた。
荷物は市場規模の大きな業種、分野しか扱わない方針であった。的を絞って深掘りすることで他社にない付加価値を見つけ出すことを徹底していた。
この夫婦ほど明確に事業コンセプトとドメインを説明できる物流会社の経営者に出会ったのは筆者にとっても久しぶりのことだった。このインタビューを皮切りに、センターや現場の視察、幹部ヒアリングなどの簡易的な調査を実施し、T社のあるべき姿としての拡大戦略を取りまとめ、後日、社長夫婦に提案した。その骨子は以下の通りである。

①関東地区への進出
②東海地区における新サービスの開発
③輸・配送品質の更なる向上
④既存荷主に対するコミュニケーションの強化
⑤提案営業スキルの習得とツールの整備
売り上げ目標は現状の三倍を提案した。売上倍増は既に時間の問題で、外部に頼らなくとも自力で達成できるレベルにあると判断したからだ。この提案を社長夫婦は了承した。

既存業務の前工程と後工程に着目
「①関東地区への進出」については、実施の時期と、責任者に誰を据えるかの問題だけであった。
かねてから既存荷主に関東進出を要請されていたのである。大手物流会社をはじめ、首を長くして待っている人が少なくなかった。某大手倉庫会社のM所長もその一人だった。名古屋支店時代にT社に助けられ、メーカーやサービス業などのコンペで大きな実績を残した経験がある。北関東支店へ異動になってからはT社のような協力会社が見つからないと嘆いていた。T社のように痒いところに手が届く対応と、ワンストップで納品、回収、リサイクル、廃棄まで請け負ってくれる会社はなかなかないという。
あっても割高であり、それを避けるには動脈・静脈物流を細分化して、別々の会社に委託しなければならないため管理負荷が大きいとのことであった。
T社は関東進出に当たり初年度からの黒字化を目指していた。そのためには、現地で新規営業をかけるだけでなく、既存荷主からの売り上げも担保しておきたいところだ。そこで名古屋から関東へ転勤した先の倉庫会社所長や大手物流会社の名古屋支店から関東のキーマンを紹介してもらって事前セールスをかけた。さらにはT社の関東支社の事務所も、現状で売上構成比が最も高い大手物流会社の自社ビルにテナントとして入居することにした。

「②東海地区における新サービスの開発」は他地域の同業他社の取り組みを参考にすることができた。
1つはリユースである。静脈物流では回収からリサイクル仕分けの従来工程で廃棄に回る商材と、中古品として輸出される商材がある。このうち後者の中古品に関してT社はノータッチであった。そこで、中古品の個人情報を抹消し簡単な修理を施すことでリユース品に復活させるサービスと、輸出業者向けのコンテナバンニングサービスを開始した。また精密機械は納品後に据え付け・設置作業が発生する。これが荷主のエンジニアにとっては大きな負担となっていた。
据え付け・設置作業をアウトソーシングできれば、荷主はエンジニアを本来の業務であるソフトのセッティングに集中させることができる。調べたところ、据え付け・設置はそれほど難易度の高い作業ではなかった。作業員の習熟度によって作業品質に大きな差が生じることもないと分かった。そこで研修を実施してT社のドライバーを教育し、納品だけでなく、据え付け・設置作業まで、荷主のエンジニアに代わって請け負うことにした。
新サービスの開発では、トップのアイデアやトレンドを重視するあまり、その会社にとって必然性のないサービスに手を出してしまうケースをよく見かけるが、上手くいくことは少ない。
T社のように既存業務の〝前工程〟と〝後工程〟に着目して課金できるサービスを追求するスタイルのほうが成功の確率は高い。

徹底してサービス品質にこだわる
「③輸・配送品質の更なる向上」は、100万分の1レベル(PPMレベル)の事故率を目標に据えた。
製品事故、車両事故とも、従来からT社は少なかったが、高価かつ人の命にも関わる医療関連や精密機械などを積み荷として取り扱うことが多いことから、社長夫婦にとっては妥協できないテーマであった。
実態を調べてみたところ自社便での製品事故・車両事故はここ数年間1件も発生していなかった。すべての事故は傭車先で発生していた。通常、高付加価値製品の荷主は再委託を原則禁止しているが、繁忙期や災害時など突発的な事象によって運行が困難と判断した場合には申請ベースで傭車を承認することがあった。そのことがT社のサービス品質の足を引っ張っていた。

2012年07月■図1●分析表
我々は3カ月に1回の頻度で定期的に輸送品質会議を行うことした。実は過去にもT社は同様の会議を開催したことがあった。しかし、協力会社に対する抑止力およびガバナンスは働かず、成果を見ないまま中止になっていた。そこで今回は主催者として荷主であるメーカーL社の名前を借り、元請けの大手物流会社とT社が会議を共同運営するかたちをとった。
傭車先へのアナウンスや案内文でも出席の重要性を強調し、過去に行った会議とは意味合いが大きく異なることを訴えた。実際、会議の議題も、開催目的、作業工程別事故発生状況、原因と対策、製品知識再確認のためのT社センター視察、〝良い例・悪い例〟を画像で表した作業手順の紹介、ルールの再確認、協力会社各社からのコメント、メーカーL社からの要望事項、質疑応答と盛りだくさんである。
第一回会議は対象となった傭車先6社中、依頼頻度が最も少ない1社だけが欠席したが、残りの各社は真剣にメモを取り、質問を行っていた。もっとも、問題はこの会議の内容を各社がいかに末端のドライバーに伝え、徹底できるかである。
そこで2回目以降の会議では会社別の事故率を開示し、ランキング付けを行うことを伝え、下位企業については見直しの可能性が出てくることを示唆した。
この第1回会議を開催した1カ月後の事故件数には残念ながら大きな変化は見られなかった。しかし、2カ月目から、数値は大幅に減少したのであった。
T社と同様に多くの荷主、物流会社が輸送品質会議を開催しているが、具体的な成果には結びついていないケースが少なくない。
T社の場合は会議終了後も事故事例を定期的に送付するなどして情報を各社と共有し、事故を未然に防ぐように訴え続けたことが奏功した。場当たり的に品質を問題にするのではなく、常に〝うるさい会社〟として認知されるようになったのである。

2012年07月■図2●物流事故報告書

「納品カルテ」を活用
「④既存荷主に対するコミュニケーションの強化」では、T社が営業責任者を設置していないこともあり、T社の配車担当者と元請けの配車担当者との〝面通し〟を実施した。
日頃から仕事の依頼を受けているといっても、電話かFAXによるものであるため、相手の声を聞いたことはあるが名刺交換はしたこともない、顔さえ知らないという状態であった。ただし、配車担当者は現場を離れることのできる時間が限られているため、土曜日と閑散日を活用するしかない。そこで向こう3カ月のスケジュール表を作成し、それに基づいて訪問1カ月前までに先方のアポイントメントを取ることをルールにして、訪問先を埋めていった。

「⑤提案営業スキルの習得とツールの整備」では、直荷主とやり取りを行うことが少ないため、営業管理ツールに重点を置いた。
「納品カルテ」の作成、「荷主別物流フロー」の作成などである。このうち「納品カルテ」とは、ドライバー変更時にも対応レベルを低下させないために、納品条件要項をまとめたものである。回収や据え付けなどの付帯サービスを武器にするT社にとっては、とりわけ重要なツールになる。
また「荷主別物流フロー」とは、図の中心に荷主を置き、その前後の調達物流や拠点間輸送(横持ち)などのフローを整理したものである。これを荷主別に作成することで、T社が現在請け負っている仕事以外に、どれだけの物流が発生しているのかが浮き彫りになる。そこからT社が対応できる業務を見つけ出し、元請け会社の背中を押すかたちで荷主に共同提案するのである。
こうしてT社の売り上げを、18億円から40億円弱まで引き上げる道筋がついた。残りの10数億円は走りながら考えていくことになる。それを牽引する社長夫妻の経営能力には不安はない。課題は現状の3倍ものビジネスを運営できるだけの組織作りである。
人材の育成と中途採用の強化はもちろんのこと、サービス品質の維持・向上を継続可能なプログラムに落とし込まなければならない。
元々実力のある会社であり、それに見合った高い目標を掲げているだけに、コンサルタントとして支援も長丁場になると著者は肝に銘じている。