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第115回 事例で学ぶ現場改善:『地方中堅食品卸の物流体制刷新』

地方都市を地盤とする中堅食品卸が首都圏に進出し、地元と埼玉にそれぞれ物流センターを構えている。地元のセンターは自社運営で配送も商物一致。首都圏は商物分離で業務はすべて外部委託している。2つの現場は全く性格が違うため、それぞれ改善のスキームを組み立てる必要があった。

首都圏に拠点進出したが‥‥
J社は年商約300億円の中堅食品卸である。
ある地方都市を地盤として総合食品卸事業を営んできたが、近年は首都圏にも進出し、そこでは主に外食チェーンや食品小売チェーン向けの業務用卸として事業を展開している。取扱いアイテム数は約7500。
温度帯別の取扱量はドライ食品が最も多く、次いで冷凍、チルドの順である。これは一般的な食品卸の商品構成比の通りだが、業務用をメーンとする首都圏に限れば、チルドの取扱いが最も多い。地元と首都圏にそれぞれ1つずつ物流センターを置いている。
2つのセンターは、作業フローから運営体制まで大きく異なっている。地元のマザーセンターは土地・建物とも自社所有で庫内作業も自社運営。摘み取り式でピッキングを処理して、得意先別に仕分けた状態で6つある各支店に納品している。
各支店から得意先への配送は、営業担当者が自分で納品する〝商物一致〟で行っている。一方、首都圏は埼玉に物流センターを置き、土地・建物から運営まで外部委託している。DAS(デジタルアソートシステム)を使用した種まき式で商品を仕分けて、センターから直接店舗に納品し、オリコンなどを回収する完全な商物分離体制だ。
J社で我々日本ロジファクトリー(NLF)との窓口となったのは、K副社長であった。〝外部の専門家の力を借りて、さらなるコストダウンを図りたい〟という。しかし、初対面の段階では、当社の他にも複数のコンサルティング会社に声をかけているとのことで、踏み込んだ情報の開示はなかった。その後、コンサルティング会社の選考を兼ねた面談を重ね、様々な角度から質問することで、徐々に改善イメージがわき上がってきた。
地元のマザーセンターに関しては、「①センター運営における作業生産性の向上」、「②作業フローの見直し」、「③商物一致体制の検証」が不可欠であった。
一方、首都圏に対応する埼玉センターでは、「①委託先との業務の線引き」、「②作業の数値化による適正原価の算出」、「③共配による運送費削減を見据えた配送事業者の見直し」が重点テーマになりそうだった。センターごとに改善の進め方や方法論を落とし込む必要があった。
我々NLFへの委託が正式に決まり、プロジェクトを開始するに当たって1つ確認しておきたいことがあった。地元エリアと首都圏のどちらの改善に先に着手するかという点である。
J社にとって地元エリアは売上高の九割を占める主戦場である。その一方、首都圏は競争が激しくテコ入れを必要としていた。J社の回答は地元エリアの改善を先行させたいとのことであった。筆者には妥当な判断に思えた。改善活動の費用対効果は、事業規模が大きいほうが当然ながら有利になる。それに加えてJ社の首都圏事業はかなり旗色が悪かった。
首都圏における外食チェーン向けのベンダー事業は、大手数社による寡占化が顕著になっている。大手による準大手の買収や統合が進み、温度帯によるベンダーの棲み分けも崩れてきた。この市場にJ社が明確な競争優位性を持たないまま深入りすれば、経営全体を疲弊させてしまうことにもなり兼ねないと筆者は危惧していた。
こうして改善の優先順位は決まった。次のステップは何より現場である。「全ての答えは現場にある」と筆者は考えている。データは薬にもなれば、時には毒にもなる。扱い方次第ではプロジェクトを間違った方向に導いてしまうことさえある。しかし、現場は嘘をつかない。現場は生き物であると同時に常にリアルだ。数多くのプロジェクトで幾度も辛酸をなめた経験から、筆者はそう結論付けている。

老朽化したセンターが示すもの
J社の現場は荒れていた。マザーセンターは衛生管理の心配さえ感じるほど施設の老朽化が進んでいた。
約1800坪の保管スペースは商品で溢れ返っており、人の通る通路さえ十分に確保できていなかった。データ検証前ではあったが、回転率の低いBランク品、Cランク品の在庫が過剰になっているのは明らかだった。在庫差異の発生、先入れ先出しの不徹底による賞味期限切れ商品の誘発、元箱(もとばこ)管理の不備による日付の逆転、ピッキングミスによる誤出荷など、多くの課題が散見された。
一方、埼玉センターは委託先のB社に業務を〝丸投げ〟している状態であり、J社側ではノーチェックに近かった。
実際、B社から在庫差異が報告されても何の手も打たずにいた。しかも、マザーセンターと同様に施設の老朽化が進んでいた。実はセンター設備の老朽化はJ社に限らず、中堅食品卸に広く見られる傾向である。コスト優先で委託会社を選び、設備投資に資金を回す余裕もない中堅卸の厳しい現状が如実に表れていると言えるだろう。
さて、現場視察を終え、我々は具体的な施策の実施に取りかかった。まずは「①センター運営における作業生産性の向上」である。
マザーセンターの運営スタッフは半分近くが正社員で残りもほとんどがフルタイムの契約社員であった。その多くはJ社の営業出身者であった。J社のような地域密着型企業によく見られる雇用維持対策かと思いきや、そうではなく、単にパート採用に消極的なだけであった。
J社の場合、営業マンでも比較的給与水準が低いこともあって、人手の必要に応じて営業出身者をセンターに異動させていたのだった。しかし、川下の流通センターの現場作業は、パート化比率90%が1つの目安となっている。
いくら正規社員の給料が安いといってもパートの時給とは比べものにならない。実際、マザーセンター運営費に占める人件費比率は一般的な水準と比較して著しく高かった。高コスト体質は明らかだった。
そこで人員の適正化を含めたレイバーコントロールを実施し、同時にムダ取りとしての「6つのない」(待たせない、持たせない、書かせない、探させない、歩かせない、考えさせない)に着手した(図1)。

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その一貫でもある「②作業フローの見直し」では大きな欠陥が2つ見つかった。
「ダブルピッキング」と入荷検品の形骸化である。このうちダブルピッキングとは、その日に出荷する総量を先ず棚から取り出し、その後で得意先別に仕分けるやり方だ。スペースが手狭なセンターには不向きであり、J社の場合はアイテムもばらついているため効率が悪かった。そこで得意先毎に各アイテムを摘み取り式でピッキングするシングルピッキングに変更することにした。そのメリットは明らかだったが、後にも述べるように、この作業フローの変更はスムーズにはいかなかった。新たな運用が安定するまでには約2カ月を要することになった。
もう一方の入荷検品の形骸化は、明確な検品ルールのないことが原因だった。そして入荷データの精度が低いことが後工程の在庫差異、ピッキングミスに繋がっていた。出荷精度の向上は、正確な入荷・格納が大前提である。〝出るを制する〟には、まず〝入るを押さえる〟必要がある。ところが多くの現場が入荷検品を疎かにしている。
業種・業態によっては、受け入れ作業の負荷を軽減するために、納品に来たドライバーに種まき式に入荷させることで、却って管理精度を落としているケースも見られる。とはいえ、J社の場合、検品精度の向上のために設備投資をする余裕はなく、また作業負荷を大きくしてしまうことも避けたかったため、検品方法をサンプリング(1パレットにつき3ケースなど)による数量だけのチェックにして、そのかわり入荷検品者には自筆サインを徹底させることにした(表1)。

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顧客別にサービスレベルを設定
「③商物一致体制の検証」は、卸であれば必ず一度は試行錯誤するテーマである。
商流と物流を分離してコストを下げるか、あるいは営業力を重視して一体化するか、単純な二者択一で十把一絡げに決めてしまう会社も多い。しかし、筆者は顧客特性に合わせてそれぞれサービスレベルを設定する方法を推奨している。
基本的には、取引量が多く提案や値段交渉を本社(本部)で行うAランクの得意先は「分離」が得策である。
また月に一度しか注文がないようなCランク以下の得意先も「分離」が適している。Aランクに引き上げるか、Cランク以下に落ちるか、見極めが必要となるBランク顧客に、納品と同時に営業活動を行う商物一致が効果を発揮する。ただし、営業マンにスキルや能力がない会社では、これらの分類も意味を成さない。商物一致によって得意先とのコンタクト回数を増やしても何のプラスにもならないからだ。
幸いにしてJ社の営業マンは、若くまじめで成長余力もあった。そこでBランクの得意先だけ商物一致を続けることにした。この改革は後に、営業マン一人当たりの売上金額を約9%アップするという効果に繋がった。
また、商物分離によって商流機能を切り離した配送ルートには、2つのパターンを設定した。1つは自社社員による配送専任スタッフが担当するルートであり、もう一つは外部委託である。
配送に時間を要する遠方の納品先や共同配送が成り立つルートを外部委託の対象とした。同じ納品先向けの荷物を持つ物流会社を探して配送を委託したのである。マザーセンターにおけるこれらの改革・改善に対して、現場の古参組には当初抵抗感が強かった。プロジェクトチームと衝突する場面も少なくはなかった。そのたびにK副社長と我々NLFのメンバーも同席して話し合いの場を設けて意識の共有に努めた。とりわけ、総量ピッキングからオーダーピッキングへの変更に、現場は大きく戸惑った。作業の混乱から約一カ月半にわたって残業が発生してしまった。しかし、それも2カ月を過ぎた頃からようやく落ち着きを見せ始めた。これは意識改革が現場に定着したことが大きかった。
「なぜこのようなことをする必要があるのか」、「何のために今までのやり方を捨てなければならないのか」
──センター運営と輸・配送の両方を管理する若手のリーダーと、古参組のリーダーは何度も話し合いを重ねていた。その話し合いを通して現場の中軸となるリーダー2人に〝納得感〟が芽生え、それが現場に浸透していった。
思えばK副社長は、プロジェクトに着手した当初から「納得しなければ人は動かない」と口癖のように繰り返していた。その意味を筆者は改めて痛感させられたのであった。
地元のマザーセンターにおける改革・改善の実施には結局、約6カ月を要した。その後の3カ月間は、新たな体制の安定軌道化に向けた猶予期間として、K副社長と我々に与えられていた。それを仕上げた後、プロジェクトは埼玉センターの改善に大きく舵を切った。
埼玉センターを管轄する首都圏事業部門のスタッフは、J社の地元エリアではないこともあって、大半が首都圏進出に伴って採用した中途入社組であった。そしてセンター運営業務は先述の通り協力会社に〝丸投げ〟の状態だった。しかも、センター運営をA社、輸・配送をS社と、別の協力会社に委託するかたちをとっており、外注化のコストメリットを十分に享受できていなかった。

まずは「①委託先との業務の線引き」を明確にする必要があった。物流管理機能はJ社自身が持たなければならないことを改めて確認した。
具体的には、在庫差異と配車組み(ルートと台数)について、運営を担うA社とS社から毎日、J社に報告させる。それをJ社側でチェックし、指示をフィードバックする。このサイクルのルーティン化を図った。同時に月1回の定例連絡会議を組織した。現場作業の管理指標として「誤納率」、「商品破損率」の2つを設定。連絡会議でA社とS社がそれぞれ状況を報告し、J社と共に原因の究明と対策を講じる体制だ。

センター運営と配送の委託先を一本化
「②作業の数値化による適正原価の算出」には大きな壁があった。J社には物流データの蓄積がなかった。そのことは今回のプロジェクトの前半戦ともいえるマザーセンターの取り組みで既に判明していた。
J社は販売管理システムに、卸業界ではトップシェアを誇る情報システム会社T社のパッケージを導入していた。しかし、そこに付帯している物流管理機能さえ全く利用できていなかった。そのままでは原価を算出できないため、販売管理データの加工やワークサンプリングの実施などによって応急措置的にデータを集めて、注釈付きの暫定的なものではあるが、原価を弾き出した。その結果、センター運営費の現状の委託料金は相場レベルにあり、J社の物量を考慮すれば、むしろ安価に抑えられていることが確認できた。しかし、運賃はやや割高だった。

これを受けて「③共配による運送費削減を見据えた配送事業者の見直し」に着手した。現在の卸のセンター運営業務を物流会社側から見た場合、「センター運営は赤字。運送で多少利益が出て、全体で収支トントンか若干の黒字」というのが実状である。
つまりセンター運営と配送の両方を受託しなければ物流会社としては収支が合わない。しかし、J社の場合はセンター運営がA社、配送がS社の分離発注となっている。物流会社側から見てJ社の業務に魅力がないことは明らかであった。また、輸配送とセンター運営をローコストで対処できている物流会社は、その大半が足回りを自ら持っている。
ルート配送を他社への傭車に頼っている物流会社はコスト面でコンペに勝てない傾向がある。品質面でもセンター運営と配送は同一会社に任せたほうが、着車時間の融通や指示の徹底などの点で有利になる。
検討の結果、これまでセンター運営だけを委託してきたA社に配送まで一括して委託することにした。
A社はJ社以外に外食チェーンや小売業の輸配送を手掛けていた。そのネットワークを利用することで、共配メリットを受けられると同時に輸送費の変動費化が可能になることが判明したからだ。

こうして埼玉センターの改善に着手してから3カ月後にセンター運営と輸配送業務をA社に一本化した。その結果、七%強のコストダウンが実現した。ただし、新体制はまだ盤石とはいえない。新体制の運用が完全に安定するまでは、コストの上振れ懸念がある。引き続き目が離せない状況である。