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第116回 事例で学ぶ現場改善:『食品メーカーX社の在庫横流し疑惑』

金融機関から相談が入った。出資先の冷凍食品メーカーの物流を見て欲しいという。蓋を開けて驚いた。管理レベルが低いだけでなく、在庫差異が極端に大きい。どうやら不正が行われているようだ。
しかも、そのことが社内では公然の秘密となっていた。

場当たり的な管理で拠点が分散
今回、取り上げるのは冷凍食品メーカーの現場である。
取扱いアイテム数は約七〇〇。中堅規模だが全国に商品を供給している。大手食品卸および外食チェーンの物流センターが主な納品先である。ここでは仮に社名をX社としておくが、後に述べる理由によって会社を特定できてしまうような情報は出せない。
このX社の筆頭株主である金融機関のS社から我々日本ロジファクトリー(NLF)にコンサルティングの依頼が入った。目的はコストダウンである。
「現場ではそれなりに分析も行い、データを取ったりしながら改善を行っている。しかし我々や経営陣からチェックが入ると腰を上げるという受身の姿勢で、取り組みのレベルも知れている。専門家の力を借りれば、もっと違う切り口から改善できると思っている」とのことであった。
実際にX社に出向く前に、金融機関の担当者にいくつか事前情報として質問を投げかけた。営業に関する質問には詳細過ぎるほどの回答が返ってきた。ところが、こと物流については、「わからない」あるいは「確認する」といった不明瞭な返答しかない。大量のデータも受け取ったが、どれも整理されていない。粗データをそのまま送ってきたようであった。
我々は一抹の不安をぬぐえなかった。後日、X社の物流責任者を務めるM部長の案内で本社工場隣接型のセンターと近隣にある外部倉庫を視察した。金融機関S社のL執行役員もこれに同行した。その移動途中にM部長を相手にヒアリングを行った。
それによるとX社はこれまで、会社の成長に合わせて継ぎ足し的に保管スペースをはじめとする物流機能を手当てしてきたようであった。その結果として物流拠点は、小規模な借庫を除いても五カ所に分散していた。本社センターのほか、そこから車で約二〇分圏内にある近隣に外部倉庫を三カ所、そして本社から約一時間の距離にある第二工場の出荷センターの計五カ所である。
拠点間で複雑な横持ち輸送が発生し、物流の整流化にはほど遠い状況であった。最初に視察したのは、大口顧客向けの外部倉庫で、通過量および支払い物流費ともX社最大の拠点であった。庫内を一見して、大きな問題が二つ目に付いた。一つは天井高である。二m強しかない。荷物の高積みは不可能だった。
もう一つはロケーション管理だ。得意先別に分けて保管してはいるが、棚番地の表示がない。ロケーションが頭に入っている熟練者でないと作業できないだろう。続いて本社センター、そして二つ目の外部倉庫と回ったが、先の二つの問題は共通していた。
現状の施設では倉庫の天井高を利用して在庫を集約することはできそうになかった。次の課題に出くわしたのは、第二工場の出荷センターであった。
本社センターと同様に製造ラインの出荷口に、大型の「前室(定温の荷捌き場)」が設けられていた。
かなりの空きがあるにも関わらず、別に借庫もしているという。現場のスタッフによると、ピークの時間帯にはスペースが足りなくなってしまうとのことだった。
これは生産と物流のタイムスケジュールが上手く噛み合っていないことが原因だった。生産の遅れが頻繁に起きて、物流業務とかち合ってしまう。現行のタイムスケジュールは売り上げが現在の約半分しかなかった時に作ったもので、それ以降、見直しがされていなかった。
こうして五カ所のうち四カ所の現場を視察した段階で、既に大小合わせて五〇を超える改善項目が見つかった。コストダウンに取り組む前に、必要なデータの整備や「整理・整頓」レベルの基本から
着手することが避けられない状況であった。この後、最後の視察先となる外部倉庫を訪問する前に、受注、営業、製造、本社などの担当者にヒアリングを行った。
上級管理職ではなく、各部門の中間職を対象にして、業務上の要望や困っていることなどを尋ねた。
その多くは改善項目に採り上げるまでもない内容だが、当初は取るに足らないように思えた情報が、後から重要な意味を持ってくることが案外多いのである。

「在庫が合わない」
X社の場合もそうであった。ヒアリング対象者の多くが「在庫が合わない」という。
調べて見ると、全五拠点のうち三拠点では不定期ながら棚卸しを行っていたが、本社センターと外部倉庫のうちの一つの二カ所では棚卸しをしていない。その理由をM部長に尋ねると、在庫差異がないために棚卸しの必要がないからだという。
現場からは在庫が合わないという声が上がっているのに、理解しがたい話であった。ヒアリングした担当者に改めて話を聞いたところ、「倉庫にあったはずの在庫が無くなることがある」という。さらに追求すると「そちらでお察しください」と、暗にM部長に原因があることを示しているようだった。トータルでの在庫差異が発生した場合、その修正作業はM部長が行っていた。つまり、M部長は誰からのチェックも受けずに、在庫を動かせる立場にあった。もっとはっきりいえば、在庫の横流しが可能な立場にあった。
実は金融機関やX社の経営陣も、M部長に対しては以前から疑惑を持っていた。それを事前に我々に伝えなかったのは、先入観のない状態で客観的に事態を判断することを求めたために相違なかった。
最後に訪問した外部倉庫は、在庫が合わない拠点の一つであった。協力倉庫会社の社長が我々とM部長を出迎えてくれた。驚いたことに庫内には在庫がほとんどなかった。説明によると、一部は得意先B社のセンターに寄託在庫として置いていて、その他にも借庫があるという。M部長の顔つきは次第に厳しいものになっていた。その姿を見ていて、M部長は限りなく〝クロ〟に近いと感じた。しかし、筆者の仕事は犯人探しではない。そして、誰が犯人であったとしても、物流管理業務をブラックボックス化させたまま放置していた経営陣は責任を免れない。不正の発生を未然に防ぐ仕組みを作ることが筆者の任務であり、それ以上の深入りは避けることにした。
以上の事情を踏まえながら、X社の物流の〝あるべき姿〟とコストダウンの方法を検討した。そして現場視察とヒアリングから抽出した計六〇以上の改革・改善テーマを、以下の五つの最重要事項に絞り込んだ。
①X社の現状と将来も見据えた物流スペックに対応できる物流パートナーの  発掘と在庫拠点の集約化
②協力会社に支払う物流費を変動費化することによるコストダウン
③在庫の可視化、管理ルールの見直し、および情報の共有化
④横持ち輸送を行う自社便の減車
⑤在庫削減による保管料の削減

「①物流パートナーの発掘と在庫拠点の集約化」は、過去の延長線上で物流機能の継ぎ足しを繰り返してきた現在の体制をいったんリセットし、全体最適を図るための手段である。当然ながらコスト削減も期待できる。
X社の支払い物流費は総額では年間数億円規模に上っている。しかし拠点別に協力会社が異なるために支払いは分散され、一社当たりでは数千万円程度になってしまう。コンペを開催して協力会社を集約することで、ボリュームディスカウントを引き出すことは可能であった。

「②協力会社に支払う物流費を変動費化することによるコストダウン」も、物流パートナーの発掘を通して実現できる課題であった。
現状の協力会社との契約書や見積書を確認したところ、保管における契約坪数の固定化、車建て料金、最低運賃の設定など、荷主側に不利益な契約が多く見られた。改めて物流パートナーを選ぶに当たり、
「RFP(見積り依頼書)」に変動費型の料金体系の導入を盛り込めばいい。

「③在庫の可視化、管理ルールの見直し、および情報の共有化」は、段階を踏んで改善を進めることにした。
最初のステップでは、表計算ソフト(エクセル)を使って「在庫管理表」を作成し、それを全社の部課長クラスが日々共有化することを義務化した。このルールの定着を見て、第二段階で本格的な在庫管理システムの導入を図る計画だ。既存の販売管理システムをカスタマイズして、バーコード管理を導入する。システムベンダー各社に見積もりを依頼し、それをベースに投資の予算化を図るという段取りだ。

「④横持ち輸送を行う自社便の減車」は、繁忙時には協力物流会社を使うことにして、従来の三台を二台に減らした。これに伴い正社員ドライバー一人を生産部門に異動した。

「⑤在庫削減による保管料の削減」は、終売品や売れ残り品の在庫が主な対象である。外部倉庫の一つがそのための専用拠点となっていた。
営業、物流、生産で情報を共有化することによって、需要予測の精度を上げていくことから着手した。
それと並行して終売品や売れ残り品を捌くディスカウントルートの開拓も検討した。しかしブランド価値を毀損する恐れがあるという判断から見送りとなり、現在は賞味期限、味覚、コンプライアンスに配慮した再加工の検討に動き出している。

体質改善は経営陣から
こうしてプロジェクトの着手から約三カ月が経過し、道半ばであるが、これまでに支払い物流費の一四・五%の削減までは道筋が見えてきた。
在庫問題に関しても、在庫管理表の共有化が進み、過去はどうあれ現在は健全化に向かっている。ただし、一つ気になることがある。
改善活動の期間中にX社のトップと昼食を共にする機会があった。以前はオーナー兼社長という立場だったが、持ち株を金融機関に売却した現在は雇われ社長の身である。さすがに「座り心地が悪い」と筆者に愚痴っていた。既に経営意欲を失っているように筆者の目には見えた。

在庫疑惑を招いた管理不在のやりっ放し体質の改善は、X社にとって長期的に取り組まなければならない問題であり、それにはトップの気力が不可欠だ。新たなオーナーとなった金融機関は早い時期に、次の経営陣を送り込むべきかも知れない。