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第118回 事例で学ぶ現場改善:『資材メーカーR社のセンター運営外注化』

過去に物流の外注化で手痛い失敗を経験していた。
センターの運営を任せていた協力会社から理不尽な値上げ要求を突き付けられて喧嘩別れになり、現場が大混乱に陥った。それから時を経て、改めて外注化の検討に乗り出した。しかし、当時のトラウマはまだ癒えていないようだ。

物流自営化に踏み切ったが‥‥
R社は東海地区に本社を構える年商約八〇億円の園芸資材メーカーだ。取扱い品目は約四五〇〇。メーカーの品目数としてはやや多いが、このうち約九〇〇アイテムは東南アジアからの仕入れ品で、これらをホームセンターやディスカウントストアと取引する全国の卸売業者に販売している。
以前は東日本と西日本の二カ所に物流拠点を設置していた。しかし、コストダウンのため、現在は本社から一五㎞ほどの距離にある一カ所に集約している。
拠点集約によってリードタイムが伸びてしまう地域では、卸売業者の協力を得て、最終納品先となる小売業者の拠点に卸在庫を置くかたちでサービスレベルの低下を回避した。しかし、これが返品の増加を招き悩みの種となっている。
R社の物流センターは保管機能を備えたDC(ディストリビューションセンター)型で、土地、建物共に自前であった。建物は延床約八〇〇〇坪の四階建て。トラックバースが五つ、コンテナバースが一つ設けられており、各階のフロアは高さ八mを確保していた。
広々としたスペースでの運営が設計時点では期待されていたのだが、荷物用のリフト一基以外に垂直搬送機(バーチレータ)が一カ所にしか設置されていなかったため、荷物の上げ下げで渋滞が発生し、せっかくのスペースを上手く活かせないでいた。
R社のセンター運営については過去に紆余曲折があった。年商約二五億円の頃までは本社工場に隣接した倉庫で、工場作業員が保管・出荷作業に当たっていた。事業の拡大によってそれが手狭になり、現在の物流センターを立ち上げたタイミングで、庫内作業を地場の物流会社に委託した。ところが稼働して半年も経たないうちに協力物流会社から値上げの要請を受けた。
侃侃諤々のやり取りの末、R社としては「今、撤退されては困る」と仕方なしに値上げを呑んだ。この段階で既にR社と協力会社の関係にはヒビが入っていたのだが、さらに半年後、二度目の値上げ要請を受けた。値上げに応じなければ即日撤退するという脅しに近いものであった。
R社の社長をはじめ経営陣もさすがに堪忍袋の緒が切れた。啖呵を切って協力物流会社を追い出したまでは良かったが、今度は現場が回らない。
営業や総務など社員総出でセンター業務に当たるハメに陥った。結局、この時は事態の収拾まで約二カ月間にわたり徹夜状態が続いたという。これを機に、若き二代目社長は物流の自前主義を決断した。
当時は人材も揃っていなかったこともあって、営業部長のY氏を責任者に据え、パート・アルバイトの直接雇用によるセンターの自社運営に乗り出した。その後、一部のフロアを業務請負会社に任せたこともあったが、これもまたシステムトラブルとも重なって大混乱に陥り、再び自社運営に戻すといった失敗を経験していた。
それから二年半余りが経過し、R社は再びセンター運営の外注化の検討を開始した。デフレで単価の下落に拍車がかかり、物流コスト削減が改めて経営の重要課題になってきたことが理由である。
これをサポートすることが今回の我々日本ロジファクトリー(NLF)の役どころであった。R社の現場運営は先述のスペースの有効活用の問題はあるものの、及第点といえるレベルであった。バーコード管理による入出荷と検品、棚番地管理、整理整頓、少数での運営など、うまく機能していた。それでも課題は散見できた。
ロケーションメンテナンスを行っていないことによる長い作業動線、現場リーダー(旗振り役)の不在による不明瞭な役割分担と作業手順の未徹底、レイバーコントロールが出来ていないことによる作業費の固定費化などである。

提案を受ける前に目標値を設定する
センター運営の委託先はコンペ方式で選考することになっていた。
我々NLFがサポートに入った時点で既に、従来から配車業務の一部を委託していた協力物流会社A社のほか、中堅物流会社B社、路線会社C社の三社に声をかけていた。
R社の実情を知る協力会社のA社がコンペでは有利になるかと思われたが、調べてみるとA社はセンター運営の実績に乏しかった。
一方、中堅物流会社のB社は、R社の物流拠点周辺に地の利がないため、パート・アルバイトの募集や他拠点からの応援体制が効かないという点に懸念があった。また路線会社C社は高コストな提案が出てくることが予想された。
他にも候補が欲しいところであったが、既に三社への情報開示を済ませ、協議も進んでいたため、新たな物流会社を推薦できる段階ではなかった。そこで正式に三社への提案依頼を行い、そのフィードバックを待つ一カ月の間にR社側の体制を整えることにした。
R社として物流の外注化のあるべき姿を明確にして、それに向けた対策を協議して事前にコンペの方針を固めておこうという考えだ。それによって三社からの提案内容を単に比較するだけでなく、提案内容とR社の考えに大きなギャップが出た場合などには、二次提案を依頼することも視野に置いた体制を整えようという狙いである。
この事前協議の結果、以下の六点が外注化にあたっての重要ポイントとして整理された。

①コストダウン目標の設定
②スムーズな業務移管
③物流会社との役割分担の明確化
④配送業務の見直し
⑤棚卸し頻度の見直し
⑥WMS(倉庫管理システム)の所有権のあり方

このうち「①コストダウン目標の設定」は、実際に物流会社から提案を受ける前に目標額を決めておくことが肝要である。
コンペに参加した物流会社は七〜十二%の幅でコストダウンを提案してくることが多い。しかし、それが妥当かどうかは分からない。元々の運営に大きなムダがあり、もっと大きな改善効果が期待できるケースもあるし、その逆もある。また立ち上げ期には一時的にコストは上昇することが多く、安定稼働後も提案した通りにコストが下がらないことが珍しくない。そのことをR社のY物流部長もよく理解しており、「今回のコンペでは安かろう悪かろうだけは避けなければならない」とプロジェクトメンバーに念を押していた。
検討の結果、現状のオペレーションにそれほど大きなムダがないことを考慮して、立上げ〜安定運営までの期間は現状のコストを維持できれば合格、安定稼働後のコストダウン目標も五%に抑えることにした。そしてセンター運営の委託料は変動費にすることを条件にした。その料金体系としては、R社の場合、「料率」、「伝票行数当たり料金」、「ピース当たり料金」の三つの選択肢が考えられた。このうち「料率」はセンターを通過した商品の価格に一定のパーセンテージを掛けて委託料を計算する方法だが、やり方に慣れていないR社には戸惑いがあった。
また「伝票行数当たり料金」は現行のシステムでは正確なデータの把握に制約があることから、「ピース当たり料金」を採用することにして、コンペに参加する三社にその旨を伝えた。
ちなみにR社の物流センターは土地・建物が自社所有であるため、外注化は厳密には〝業務委託〟ではなく、「入荷」、「格納」、「ピッキング」、「ライン補充」、「検品」、「梱包」、「出荷」という一連のプロセスの〝作業委託〟であり、「保管」は対象外となる。

既存スタッフの処遇問題が浮上
「②スムーズな業務移管」は六つの重要ポイントのなかでも特に慎重に詰めておかなければならない点であった。
とりわけR社は過去に物流の外注化で手痛い失敗をしているだけに、〝同じ轍を踏まない〟ことが至上命題であった。
新体制の立ち上げから安定稼働までのトライアル期間として、二カ月は必要だろうとR社として判断した。これに対してコンペで各物流会社がそれぞれどんな提案をしてくるか。
トライアル期間の設定の有無、そのスケジューリング、内容を選考のチェックポイントの一つとして位置付けた。
またR社のセンター運営には、社員十二人、直接雇用のパート一八人、派遣スタッフ四一人の計七一人が携わっていて、その扱いも重要であった。スムーズな業務移管のためには、R社の業務と商品を知る熟練者たちをできるだけ多く残しておきたい。
派遣会社の担当者に話を聞いたところ、運営委託先の物流会社が派遣スタッフを継続して利用することに問題はなさそうだった。問題はパートの再雇用である。これも委託先にそのまま引き取ってもらうことが望ましい。しかし、それには時給単価に加え、パートたちの気持ちの問題もある。パートのなかには現社長が学生時代に旧センターでアルバイトをしていた頃からのベテランも含まれている。当然、社長とは顔見知りで名前も覚えられている。R社の直接雇用から物流会社に所属が変わることで、愛社精神の強い四、五人が退職してしまう恐れがあった。正社員十二人の処遇にも不安があった。
外部委託後も引き続き物流管理を担当する三人を除く九人は、営業や購買部署に異動となる方針が出ていた。しかし、Y物流部長は「他部署に行っても使い物にならず、また物流に戻ってくるのではないか。それならむしろ最初から委託物流会社に出向させたほうが本人のためだ」と考えていた。
これらの問題は労務管理を管轄する総務部との調整が必要であったため、ひとまず物流部門の意向を伝え、総務部で検討してもらうことになった。また、総務部での検討や調整が長引き、なし崩しにならないように、取締役会においてもプロジェクトの懸案事項としてY部長から発表が成された。

「③物流会社との役割分担の明確化」では、あくまで「管理」はR社、「運営」は物流会社であることを基本に据えて、過去に一覧表にまとめてあった業務分担表をリニューアルし、これを物流会社と共有して相互認識を深める手はずをとった。
業務分担の詳細を詰めるプロジェクトミーティングでは、イレギュラー対応において責任の所在があいまいになり、トラブルの原因になった実例がメンバーの一人から挙げられた。
そこから口火を切ったように各メンバーから声が上がり「○○の場合はどうするのか」といった意見が多く出された。
繰り返しになるがR社の場合、土地・建物をR社が所有し、それを物流会社が使用する〝作業委託〟となるため、システムやマテハン機器のトラブルに掛かるコストや、入・退出のセキュリティ、駐車場使用枠の確保など、明確なルール作りが不可欠であった。
そこでこれらを「SLA(サービス・レベル・アグリーメント:提供するサービスの内容や範囲、品質水準等を、荷主と物流会社の間で事前に取り決めた合意書)」に反映させて明文化することにした。

「④配送業務の見直し」については、その具体策を三社の物流会社にそれぞれ提案してもらうことになっていた。従ってコンペではセンター運営費と配送費のトータルコストを比較することになる。
しかし、従来から配送は自社運営ではなく既存協力会社のA社に委託してきた。A社には配車業務の一部も任せていた。配車まで含めた配送と、センター運営をまとめて外注することが、重要ポイントの一つである「スムーズな業務移管」の妨げにならないかとの危惧がメンバーから挙がった。協議の末、配送の本格的な見直しは改革の第二ステップとなる来春以降のテーマに先送りし、第一ステップでは現状のA社による配車・配送を委託物流会社のアンダーに使うかたちで、そのまま移管したほうが得策であるという結論に至った。
これは、それまでR社で配車を管理してきた正社員スタッフが、R社の将来の物流を担うことを期待されている有望株で、彼の人事面での調整に時間を稼ぐ必要があったことも一因であった。

「⑤棚卸し頻度の見直し」は、管理会計上も必要な施策だった。
これまで上期末と下期末の年二回しか棚卸しを行っていなかった。そのためR社の月次損益の精度は、お世辞にも高いとは言えないレベルであった。
年二回の棚卸し作業は全社総動員の大イベントで、大きな負担にもなっていた。今回、センター運営を外注化するのに伴い在庫差異が発生した時の責任の所在を明確にする必要があり、場合によっては物流会社の弁済が発生する可能性があることも考慮して、委託先の物流会社には月一回の循環棚卸しを依頼し、この業務については追加料金の発生も念頭に置くことにした。

立ち上げ時の混乱を避ける
「⑥WMSの所有権のあり方」は、既存のWMSを委託先がそのまま運用する場合に検討が必要になるテーマだ。
他社の事例では荷主が協力物流会社に対してWMSの使用料を請求し、それを作業委託料と相殺するケースなどが見受けられる。
しかし、R社の場合はWMSのシステムベンダーとの契約が既に終了し、リース料の支払いが発生していなかったため、物流会社に無償貸与することにした。それによって物流会社がR社のWMSを有効利用し、作業品質や生産性の向上、コストダウンに役立ててもらうことを期待するというスタンスだ。こうして事前の準備を済ませた後、我々は選考に入っていった。
結局、二次提案を各社から提出してもらうことになったが、最終的には配送を委託してきた既存協力会社のA社にセンター運営を任せることに決まった。
現在はトライアル期間に入っているが、今のところ大きな問題は発生していない。計画では後一〇日ほどでトライアル期間を終了し、安定稼働に入る。物量が増える火曜日と金曜日をそれぞれ一回ずつクリアできれば第一ステップは終了する。
センターの立上げに失敗する理由の九割は伝票発行などのシステムの不備に起因している。その点で今回は既存システムをそのまま利用しているためリスクは低かった。しかも、これまで社内でWMSの運用に当たってきたシステム担当者に加え、外部のシステム会社の力も借りて、A社スタッフの教育・トレーニングに万全を期したことが功を奏した。
次の第二ステップでは配送改革がテーマになる。しかし、物流会社三社からの提案内容はいずれも一長一短で、むしろR社が自社で構築した既存の配送ネットワークの方が、コスト・品質とも勝っている。
そのため、第二ステップは省略される公算が大きくなっている。
あとはR社の物流外注化の〝トラウマ〟が解消されたことを確認できれば、我々NLFの任務はひとまず完了である。