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第119回 事例で学ぶ現場改善:『日雑メーカーT社の正社員センター長育成』

全国七カ所に物流センターを展開、それぞれ正社員のセンター長を置いていた。しかし、各人のスキルにはバラツキがあった。現場オペレーションを委託している各地の協力会社による作業レベルの違いも大きかった。その結果、センターによって物流コストに大きな差が出ていた。

センター長のスキルにばらつき
T社は年商約一〇〇〇億円の日用雑貨品製造卸だ。取扱品目数は約六万五〇〇〇。
自社製品のほか、中国・タイを中心とした現地法人からの輸入商材と他社からの仕入れ品の卸売も行っている。
北海道、東北、関東、近畿、中部、中・四国、九州の全国計七カ所に物流センターを設置している。一〇年前までは一五カ所にセンターを構えていたが、合理化のため集約を進めてきた。国内の自社工場および協力工場の分布、海外からの調達物流、そして納品先となる各地の卸やホームセンター(HC)の物流センターに納品する運賃をシミュレーションした結果、現在の七拠点が最適との判断に至った。
その後は物流担当役員であるS氏の強いリーダーシップの下、改善活動に取り組み、継続的に物流コストを下げてきた。我々日本ロジファクトリー(NLF)は、その第一ステージの「ムダ取り」の段階から改善のサポートに入っている。
続く第二ステージでは「センター長を軸とした社員業務の見直しとレベルアップによるコストダウン」をテーマに掲げ、センター運営の「質」の問題にメスを入れた。第一ステージのムダ取りは本社が主導したが、第二ステージは現場が取り組みの主体となる。具体的には以下の三つに取り組んだ。

①センター長の業務内容の精査
②委託物流会社との業務改善
③センター作業における基本動作の徹底による出荷精度および生産性の向上

「①センター長の業務内容の精査」は、各センターの管理レベルの底上げが目的である。
センターによってトータル物流コスト(経費率)に大きな違いがあった。これにはT社が各拠点に一人ずつ配置している正社員センター長個々人のスキルが影響していた。この格差を是正しようという狙いである。
もっとも、各センターの取扱品目や物量は必ずしも同じではない。納品先までの配送距離や時間帯、拠点エリアにおいて対応可能な協力物流会社の数や質など、地域性の違いもある。その点を考慮して、北海道と中・四国はひとまず対象から外し、残る東北、関東、近畿、中部、九州の五拠点を当面のターゲットに据えた。
上記五拠点を順次訪問し、各センター長の運営に対する考え方や改善実績、業務範囲とその内容を確認しながら、センター長のスキルチェックを行った。そこから大きな課題が見つかった。センター長によって個人差はあるものの、いずれも現場の責任者という立場にありながら、センター運営の実態を把握しきれていないことが分かったのである。
センター長の日常業務を確認したところ、一日の大半は本社とのやり取り、収支報告、そして現場におけるクレーム処理に費やされていた。勤務時間の九割近くは事務仕事で占められており、センター長は事務所に「引きこもり」状態であった。
物流上のクレームを一覧表にまとめて、その内容を確認したところ、要因別の欄に「不明」と記されている項目があまりにも多かった。通常のセンターであれば「不明」は二〇%未満に収まる。それがT社の場合、三五%以上あった。
クレームの備考欄を見ると「見つからず」「不明のまま」といったコメントが目立った。原因の究明を途中で諦めているということである。必要なオペレーション情報を入手する手順が確立されておらず、実態把握が欠如していた。
具体的な対策として、センター長の日々の基本業務を見直した。現場のオペレーションを委託している協力会社の朝礼・昼礼には必ず参加し、一日二回の現場の巡回(ラウンド)をルーティンワークとして組み込むことを義務付けた。
センター長によって徹底のレベルに差はあったものの、基本業務の見直しから一カ月も経たないうちに、現場の実態を示す報告が上がってくるようになった。
「協力会社B社はパートの出入りが激しく、ヒトが定着していない」、「マニュアル通りの作業手順を守っているスタッフがほとんど見当たらない」、「天地無用が徹底されていない」などである。
ここからピースピッキングで商品を取り出す「元箱」の管理が各拠点に共通する課題であることも判明した。「保管棚に開梱されたケースが二つある」、「少量になると裸の状態で保管することになっている」などの報告があった。ロット間違い、日付の逆転(先入れ先出しの不備)につながる大きな問題である。
こうしてセンター長たちは、現場をラウンドすることの重要性を肌で感じ取っていった。センター長の基本業務を定めるに当たって筆者は、「現場はウソをつかない」ことを各人に強く伝えてきた。その意味を理解してもらえたようであった。

取り組みテーマを固める
「②委託物流会社との業務改善」は、本来であれば「受注締切時間の徹底」や「イレギュラー処理の削減」などがテーマになるところだ。
しかし、それには物流部門が主導して営業部門を始めとする他部門に改善を働きかけていく必要がある。緊急輸送等のイレギュラーを可視化し、それによるコストアップ金額を提示し、関係部署に改善を促す。一定の範囲を超えるイレギュラーの要請には物流部門として対応しないといったルールを定めるなど、〝物申す物流部〟として活動しなければならない。T社の場合は時期尚早であった。そこで他部門との調整を必要とする改善は、中長期の課題として位置付け、まずは現場レベルで解決できるテーマから着手することにした。その具体策をセンター長たち自身に検討させたところ、以下の三つが上がってきた。

a.入荷時間を制限することによる荷受け作業人員の削減
b.商品調達のために手配している「引き取り便」の受け入れ先の配送業務をT社の配送ルートに組み込むことによる運賃削減
c.ロケーション・レイアウトの見直し

いずれも協力物流会社にメリットのある施策であり、交渉で揉めることのないやり易いテーマである。センター長たちが出し惜しみをしているのは明らかだった。「在庫削減」が抜けている。そのことを担当役員S氏が仕切るプロジェクト会議の場で指摘したところ、五人のセンター長たちは「きたか!」とばかりに表情を硬くした。構わず筆者は続けた。
需要予測によって補充発注量をコントロールし、欠品を出さずに在庫を削減することを、センター長の主力業務とすべきだと訴えた。それによってセンター長に正社員を投入している意味も出てくる。
それによって、センター長は新たな責任を担うことになる。しかも、在庫を削減した分については、協力会社に保管料の引き下げを要求しなければならない。協力会社は空いたスペースを埋めるために他に荷主を探すことを強いられる。歓迎される折衝にはならない。
一瞬、席が静まりかえった後、プロジェクトリーダーのS氏が口を開いた。「ウチの在庫はここ数年やや高めに推移している。我々も本丸のテーマに着手しなければならない」と筆者の提案を後押しする指示を出した。そして、在庫削減の具体的な手順については我々NLFの指導を受けるようにと補足したのであった。
その後、各センターで在庫削減が実施に移された。うち関東は今のところ現状維持にとどまっているが、それ以外は、近畿と中部で一〇〇坪強のスペースを削減、九州、東北では中量ラックの導入による保管効率の向上と併せてそれぞれ二〇〇坪弱を削減している。

誰でも一目で分かる物流作業品質
「③センター作業における基本動作の徹底による出荷精度および生産性の向上」は、我々NLFが従来から持論としている「現場のショールーム化」を視野に入れた改善である。
この取り組みでは、現場オペレーションを委託している各地の協力会社によって、徹底レベル、徹底までの期間に大きな差が出た。具体的な「基本動作」としてT社では次の七点を再定義した。

●あいさつ、2Sの徹底
●入荷検品の方法
●格納手順の確認
●先入れ先出しの徹底
●保管状態の顔合わせ(面合わせ)
●元箱管理の統一
●棚卸し方法の見直し

「あいさつ、2Sの徹底」では、各地の協力会社の企業体質やカラーが如実に表れた。
T社だけでなく、他の荷主まで含めて、日頃から物流会社としてどのような基礎教育を行っているか、また協力会社側の現場責任者の熱意と継続力が試された。
五拠点のうち最初に合格点を与えることができたのは中部センターだった。他のエリアの協力会社の責任者を中部センターに呼んで現場を見学してもらい、各社の目線を合わせることに時間を割いた。その結果、関東センターと九州センターは早い段階で中部レベルに追いついた。それに少し遅れて、近畿センターでも手応えが感じられるようになっていった。しかし東北センターだけは全く変化の兆しが見られない。責任者を変えない限り、東北センターは改善の見込みがないと我々は判断するほかなかった。
「入荷検品の方法」は、それまで拠点によってバラバラだった。なかには全く入荷検品を行っていないというセンターさえあった。そのことをセンター長自身が気付いていなかった。これを改め、「検品は数量検品を基本とする」、「T社が作成する重点検品先リストの対象先は入荷量の三%にあたるケース数を開梱し、入り数までをチェックする」、「『入荷検品表』を作成する」という三つを統一ルールとして義務付けた。
「格納手順の確認」と「先入れ先出しの徹底」は連動するテーマである。格納にあたっては「入荷日」を表示する紙のサイズを拡大すると同時に、午前中格納分と業務終了後の格納分をアイテムによって区分した。そしてケース出荷商品のピッキングでは、棚の右側のケースから使用していくことをルール化した。
「保管状態の顔合わせ(面合わせ)」とは、棚に並んだケースの四隅(よすみ)を揃えて、きれいに整列させることである。顔合わせが出来ていると、保管棚が一枚の壁のような状態になる。それによって作業効率や管理精度が直接アップするわけではなくても、このことは「現場のショールーム化」の大前提であり、筆者としては外せない事項であった。S氏も同じ気持ちであった。
単なる精神論ではない。顔合わせは、物流に詳しくない人でも「きれいに整っている」と一目で理解できる「品質」の証である。取引予定の営業担当者や経営幹部が来訪しても胸を張って現場を案内できる。その結果、商談成立につながった事例を筆者は数え切れないほど知っている。T社だけではなく、現場を任されている協力会社にも大きなメリットがある。

大規模拠点の落とし穴
「元箱管理の統一」とは前述した通り、バラ出荷時のケース開梱に関するルール化である。
ケース出荷商品のピッキングと同様に、元箱も右端に揃えることにして、写真入りB4版の「作業指示レシピ」を作成し、全国の拠点に配布した。
それまでは各現場の作業者が勝手に判断して開梱していた。元箱を管理するという概念自体が希薄だった。実際、同じセンター内であっても、元箱管理ができているフロアとできていないフロアがあった。T社のセンター長だけではなく、協力会社側の責任者も現場を掌握できていなかったのである。
最後の「棚卸し方法の見直し」は在庫差異の抑制が目的である。従来は三カ月で全アイテムを網羅するように月一回の循環棚卸しを行っていた。しかし毎月の棚卸し作業は大きな負担でコストアップ要因になっていた。
そこで毎週の月曜と水曜の閑散日を利用して、一週間のルーティンに棚卸し作業を組み込んだ。同時に前年に導入したWMSを活用して、月八回の循環棚卸しで全アイテムをカバーするように設計し、在庫管理精度の向上を図った。

こうしてT社の改革は第二ステージを終えた。これまでの活動から以下の二点を筆者は痛感している。一つは、拠点の規模が大きくなるにつれ、センター長は事務に追われるようになり、現場が見えなくなってしまうということである。
そして二つ目も、拠点の規模と比例する問題である。規模が大きくなると、センター長だけでなく、フロアリーダーの目も細部にまで行き届かなくなる。その結果、現場のパート・アルバイトの基本動作が疎かになって、ミスが多発する。いずれもT社だけでなく、一般に見られる傾向である。