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≪特集解説≫ 事例で学ぶ物流改善:『まずは“フォーナイン”を目指せ』

トップクラスの企業は今や100万分の1(PPM)レベルの納品精度を目指している。しかし、現場の実態を無視して背伸びし過ぎた目標値を掲げても改善は進まない。多くの現場にとっては“フォーナイン(99.99%)”が現実的な目標になる。それを達成できれば十分に物流品質を顧客にアピールできる。

現実的な目標値を定める
日用雑貨品卸最大手のパルタックは納品精度を事業拡大の武器にしてきた。その水準は今や九九・九九九%(ファイブナイン)にも達している。そして現在は一〇〇万分の一(PPM:Parts Per Million)を目指し、さらなるオペレーションの高度化に取り組んでいる。世界にも例のないレベルであろう。
物流品質は当然ながら高いほうがいい。ミスゼロが理想である。しかしながら、パルタックのようにPPMを目指すというのは、多くの企業にとって現実的ではない。
現場の実態を無視してPPMレベルの目標を設定し、実際には三〇〇〜三〇〇〇PPMで右往左往している会社を筆者は何度も目にしてきたが、時期尚早と言わざるを得ない。高い目標値を設定しても、その実現に向けた具体策の落とし込みができなければ、KPI(重要業績評価指標)の数値を算定するだけで終わってしまう。
PPMレベルは通常の改善活動だけでは達成できない。一〇億円規模のマテハン投資がどうしても必要になる。パルタックのように“強い物流”を武器にしようとする会社や、医薬・医療品など、コストパフォーマンスよりも品質を優先しなければならないケースを除けば、投資を回収するのは困難だ。
PPMより一段下の「一〇万分の一〜一〇万分の四」レベルでさえ、バーコード管理システムはもちろんのこと、『DAS(デジタル・アソーティング・システム)』や『PAS(ピース・アソーティング・システム)』などの重装備の自動化機器が不可欠になってくる。
結論から言えば、多くの現場にとっては「フォーナイン(九九・九九%)」すなわち「一万分の一」の納品精度が現実的な目標値になると筆者は考えている。フォーナインは、それを実現できれば十分に物流品質を顧客にアピールできる水準である。投資とのバランスも良く、多くの現場にとって最適な目標値となるはずだ。
納品精度を算出する時のベースとなる管理単位についても、段階的に取り組むのが現実的であろう。センター・倉庫内のオペレーションの品質は本来であれば「注文行数」、輸配送なら「納品件数」が管理の基本単位になるが、センター改善の初期段階では一くくりに「出荷件数」からスタートさせても効果は挙がるものである。
KPIとしては、当初は「誤出荷(率)」をチェックして、フォーナインを達成した段階で「誤出庫(率)」に基づく管理へと移行するのが効果的である。
ちなみに「誤出荷(率)」とは客先での納品や検品段階で発覚した数量間違い、製・商品違いなどで最終的に顧客クレームとなったミスの割合である。
これに対して「誤出庫(率)」は顧客クレームになる前の段階、出荷時点の自社検品で、これらの間違いやミスを発見した割合を指す。
通常、クレームを発生させる原因となるのは、センター・倉庫クレームが四〇%前後、輸・配送品質が六〇%前後というのが筆者の実感である。この中に問題を発生させた原因や責任の所在を突き止められず、「不明」として処理されるクレームがそれぞれの一〇%以上を占める。ただし、そこには納品時の検品の間違いや発注ミスなど、納品先や営業部門もしくは荷主側に責任のあるクレームが多く含まれている。
なお企業規模の大小は物流品質とは無関係である。東証一部の大手メーカーでも物流品質については何のKPIも持たない会社がある一方、中小企業でも「誤出庫」をKPIに採用し、実績のフィードバックと改善を重ねることで、顧客クレームに繋がる「誤出荷」を「誤出庫」の一〇分の一に留めている会
社がある。
ただし、そうした場合でもKPIの達成自体が目的化してしまうことには注意が必要だ。物流サービスの善し悪しを判断するのは、あくまで顧客である。
物流品質が上がると通常は顧客の方から「御社の物流は良くなりましたね」とか「弊社の評価基準で一〇ポイント上がりましたよ」などと敏感に反応してくるものだ。しかし、物流に関する意識が低かったり、ベンダーの品質管理をおろそかにしている顧客はそのこと自体に気付かない。その場合には、こちらからアクションを起こして品質向上の効果をアピールするべきだ。

物流品質の種類とKPI
物流品質は大きく、センター・倉庫内における品質と、輸配送品質の二つに分けられる。このうちセンター・倉庫内の品質を示す最も代表的なKPIが、「在庫差異(率)」である。帳簿上(システム上)の在庫と実際の在庫の差異を、アイテム数と在庫金額の二つの面からチェックする。
センター内の品質はさらに、「①作業品質」、「②保管品質」、「③環境品質」の三つに落とし込める。
「①作業品質」とは、ピッキングやラベル貼り、積み付けといった作業の品質を指す。「数量間違い」「製・商品間違い」「伝票・ラベル間違い」「日付間違い」などがその主な管理項目となる。
さらには、フォークリフトによる製品の突き刺しや、落下による「庫内破損」、ケース・カートン・バラの間違いによる「ロット間違い」、「格納遅れ・忘れ」、欠品による「製・商品不足」、カゴ車・パレットへの「積み付け間違い」、EOSデータの未受信や出荷指示データの未送信による「データ未送受信」など、その会社の業種・業態、現場の運営形態に合わせた管理項目の設定が必要になる。

「②保管品質」はラックやネステナーなどのマテハンを使ったロケーション、レイアウト、先入れ先出し、元箱(バラ商品をピッキングする箱)管理など、製・商品のストックされている状態を示す。保管の在り方は後工程に大きな影響を及ぼすため、「①作業品質」と密接に関係することになる。

そして「③環境品質」とは、庫内の温度・湿度管理、防塵、照明など、保管している在庫の品質維持や作業品質に大きな影響を与えるセンター・倉庫の設備、機能を指す。
一方の輸配送品質もまた、「①作業品質」、「②運行品質」、「③環境品質」の三つに細分化できる。輸配送における「①作業品質」は、積み込み、積み付け、固定、荷卸し、納品、搬入といったドライバーの荷扱い作業によって品質が決まる。

「②運行品質」は、急ブレーキ、急ハンドルなど、ドライバーの運転・運行技術に起因する破損や荷崩れなど。そして「③環境品質」は予期できない道路渋滞や天候の急激な変化、高速道路の閉鎖など“外部環境”によって遅延などを引き起こす要因を指している。

具体的なKPIとしては「破損・濡損・汚損」、「誤配」、「早着・遅配」、「積み込み間違い」などが挙げられる。特別積合便(路線便と宅配便)を使う場合は、これらに加えて「口割れ(まとめて出荷した同じ納品先向けの製・商品が複数回に分けて納品されること)」「未着」「引取り」などもKPIに入ってくる。
ただし、輸配送品質の管理は、センター・倉庫内の管理と比べて、「その他」に分類されるクレームが多いことに注意する必要がある。特に、ドライバーの身だしなみ、あいさつ、声の掛け忘れ、駐停車場所の不具合など、ドライバーのマナーに関するクレーム(マナークレーム)が多い。また卸売業をはじめ中間流通においては「納品率」が最大のKPIになる。

卸に求められる五つの機能、すなわち(1)品揃え機能、(2)ロット調整機能、(3)ファイナンス機能、(4)リテールサポート機能、そして(5)物流機能のすべてが「納品率」に集約される。
納品率の向上は、メーカーとの連携による欠品対策、発注点管理による適正在庫、リードタイムの厳守などに重点が置かれる。現在、競争の激しいカテゴリーでは完納の一〇〇%に限りなく近い九八〜九九%の納品率が条件にされている。
それを割り込むと大きなペナルティーが課せられることから、メーカーが一般的には七日分に設定されている委託在庫量の基準値を超えて、卸のセンターに納品するケースが増えており、保管能力のオーバーフローで作業品質の低下や在庫品の日付期限切れを招くといった弊害も出てきている。

改善活動のポイント
これらのKPIを改善していく上でのポイントを、これまで筆者が携わってきた事例を基に以下に解説する。

定着しないパート・アルバイト
多能工化やローテーション制が機能していない現場では、担当者が変わることで作業レベルが振り出しに戻ってしまう。ドライバーに関しても同じことが言える。これを著者は「スイッチングリスク」と呼んでいる。
この問題を解決するため、ある広域地場物流会社はパート・アルバイトの募集・選考方法の見直しを行った。従来は面接時に履歴書を持参させて、その場で採用可否を決め、三〇分程度の業務説明と見学だけで現場に投入していた。
これを改め、事前に履歴書の書き方、内容、顔写真の貼り方などから、応募者の資質・性格をチェックし、書類審査をパスしたものだけに面接試験を行うようにした。さらに業務説明、見学時間を二倍の六〇分に増やし、楽な作業だけではなく、きつい作業の実態も見せるようにした。採用のハードルを少し上げただけだが、それによって定着率の改善と品質の底上げを実現した。

現場リーダー(旗振り役)の不在
どんな現場にも、リーダーに任命されている人物はいる。しかし、庫内作業費の予算が厳しくなると帳尻を合わせるためにリーダー自らが作業に入ってしまうことが往々にして起きる。その結果、作業指示はおろか、誰がどんな作業を行っているかも分からない状態になってしまう。全体を見渡し、間違った作業をチェックする機能を失えば当然、品質は低下する。生産性を追うことで品質を低下させてしまう典型的なパターンである。
ある物流子会社の現場では、コストと品質のどちらを優先させるべきか、上層部の考えを改めて確認し、品質を優先させるという基本方針を固め、そして現場リーダーの六人に作業禁止令を出した。そのため作業コストは上がったものの、ミスが減ったことでリカバリーのための費用が低減しトータルコストを維持することができた。

製・商品知識の欠如
メーカー物流を受託している3PL会社でミスが多発していた。
調べてみると、業務委託先の作業スタッフが製・商品のロケーションを中途半端に記憶していることが原因だった。バーコード管理を行っていないフロアで、思い込みでピッキングすることでミスを招いていた。
ダンボール(外装)に示されている「天地」や「段積み制限」などの注意事項もお構いなしであった。
製・商品を単なる「荷物」として扱っていれば、品質は良くならないのは当たり前である。作業の基本を教えることなく、すぐにシフトに組み込めば、いつまで経っても素人集団のままである。
そこで現場スタッフに対して一〜三カ月間の研修期間を設定することにした。修得すべき内容をチェックリスト化し、一項目ずつ教育・指導を実施している。現在は一方的な講義の段階だが、簡易テストの実施を準備中である。

業務契約内容の不備
物流会社の現場で荷主や納品先から腑に落ちないクレームが続くことがある。その多くは業務受託の開始時に業務の内容や役割分担を曖昧にしたことが原因である。納品先が「やってもらって当然」と思い込んでいる時間外出荷や棚卸し業務、パレットの回収などを契約時に明記しなかったことでクレームになる。
業務委託に当たって正式に契約書を締結しているケースでも、業務内容の詳細については触れられていないことが多い。ましてや品質に関して明確な数値を設定しているケースは稀だ。そのような場合は、荷主、納品先との「連絡会議」を設け、先方と当方の温度差、ギャップを確認し、次善策を検討する必要がある。業務範囲を明確にして、それぞれの要請に対応するのかしないのかを決定し、対応する場合には有償か無償かの合意を得なければならない。
それでも問題が解決しない場合は、契約書とは別に「サービスレベル・アグリーメント(SLA)」を締結するべきだ。イレギュラー時の対処方法、在庫管理精度の数値目標、システムトラブルを含めたミス・クレーム時の対処方法と数値目標、弁済内容など、受託業務全般に関わる広義の「品質」、「サービスレベル」をSLAに明文化する。
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通常、SLAは委託者(荷主)が受託者(物流会社)に対して提示、締結するものだが、ボタンの掛け違いによるクレームが常態化している場合には、物流会社側から荷主に提示するのが有効である。
筆者の知る限り、物流品質に関しては、驚くほど多くの課題が未着手のまま放置されている。継続的なコストダウン活動が、継続的な品質の低下を招いてしまっているケースも多い。それだけ改善余地は大きい。差別化のチャンスである。