Top > 雑誌寄稿 > 第120回 事例で学ぶ現場改善:『食材メーカーM社のBCP向け拠点分散』

第120回 事例で学ぶ現場改善:『食材メーカーM社のBCP向け拠点分散』

主要顧客がリスク分散を目的に関西に第二工場を新設することになった。それに伴いサプライヤーも物流拠点を整備するよう要請された。断ることはできない。しかし、何も手を打たなければ在庫増とコストアップを招いてしまう。ピンチをチャンスに変えるための取り組みが始まった。

主要荷主の要請で拠点を分散
M社は年商約四五億円の食材メーカーである。大手食品メーカー、卸、外食チェーンなどへ食品原料や半製品を納めている。
製品アイテム数は約二三〇。協力工場は持たず、関東に置く自社工場で一〇〇%自社生産している。物流拠点は工場併設の倉庫のほか、外部倉庫一棟という体制であった。
M社はこれまで市場ニーズに合った製品開発に地道に取り組み、堅実な経営を続けてきた。そこに一つの転機が訪れた。主要取引先の大手メーカーL社が「BCP(BusinessContinuity Plan:事業継続計画)」の一環で、既存の関東工場とは別に関西に第二工場を建設することになった。これに伴いM社に対して西日本への供給体制を整えて欲しいとの要請が入った。
新たに物流拠点を設置すれば在庫の分散や固定費負担の増加が避けられないが、M社としては何としてもL社の要請に応える必要があった。また、それ以前から売り上げ全体の約一八%は西日本向けであったため、この機会に西日本の物流インフラを整備して、リードタイム短縮などでサービスレベルを向上することで、L社以外の得意先に対する営業強化も期待したいところであった。
とはいえ、無駄な投資やコストアップは抑えたい。そんなことから我々日本ロジファクトリー(NLF)にお声が掛かり、M社のインフラ整備をサポートすることになった。
一般に原料メーカーや食品関連メーカー、とりわけ商品単価の安い飲料品やパンメーカーなどは消費地の近隣に工場を設けることが多い。
“地産地消〟と鮮度を重視するというだけでなく、そうしなければ運賃コストを吸収できないからだ。
しかし、M社の場合は関東工場一カ所で西日本を始めとする遠隔地にも対応していた。確認のためM社の製品一パレット当たりの売価を聞き出し、荷姿を確認してコスト分析を行ってみた。するとなるほど遠隔地への出荷でも運賃を吸収できている。それだけM社の取り扱っている製品は付加価値が高かった。このことから、新たに関西に拠点を置くコストを、輸送距離の短縮による支払い運賃の削減で相殺するというやり方は期待できそうになかった。
ところが、現場視察を行っていて、おかしなことに気が付いた。在庫の分散である。
外部倉庫を借りているにも関わらず、工場併設の倉庫には空きが多く見受けられる。その物量を確認したところ、現状の工場在庫を一〇%程度削減できれば計算上は外部倉庫から撤収できることが分かった。外部倉庫費用と横持ち費用が不要になる。瓢箪から駒のように、有益なテーマを発見できた。
そこで西日本インフラの整備と並んで、関東の拠点集約もプロジェクトのテーマの中に組み込むことになった。勝算は十分あった。万が一、在庫の一〇%削減ができず、工場倉庫がオーバーフローになった場合には、新設する西日本拠点を利用すればいい。
こうしてプロジェクトが正式にカットオーバーした。本社からは、業務、情報システム、営業のそれぞれ課長クラス、工場からは工場長と資材購買が一人ずつ、計五人がメンバーに選ばれた。このチームで実務を回し、必要に応じて責任者のS専務に意思決定を仰ぐという運営スタイルである。
我々NLFはメンバーと共に以下のテーマをそれぞれ検証し、具体的な施策を打ち出してアクションプランに落とし込むことが求められた。

①西日本拠点の立地と規模の設定
②保管倉庫スペックの決定
③協力物流会社の選定
④工場併設倉庫の改善
⑤適正在庫量の設定
⑥外部倉庫と横持ち運送会社の解約準備

「①西日本拠点の立地と規模の設定」では、まず立地について「着地点分析」を行った。
各納品先の場所、出荷頻度、物量、そして納入金額(取引額)を地図上にマッピングした。そこから機械的に物流上の最適立地を弾き出すことは可能だが、それだけでは不十分だ。今後M社がどの得意先、どのエリアを強化していくのかを考慮しなければならない。
営業部門の方針、戦略を確認する必要があった。しかし、PJメンバーに参加している営業課長にそれを尋ねたところ、具体的な計画やビジョンは未定というより、考えてもいなかったことだったらしく、戸惑った様子であった。そこで話をいったん営業部門に持ち帰って部内で協議し、次回のプロジェクト会議で報告してもらうことにした。
一方、西日本拠点の規模については、後の「適正在庫量の設定」と連動する事項ではあるが、時間的な制約から今回のプロジェクトでは各テーマを同時並行で進める必要があったため、暫定的ながら作業を進めることにした。
西日本拠点で取り扱うアイテム数を確認し、納品リードタイムから西日本の安全在庫を一〇日分に定めた。ただし、関東工場からの補充輸送を一〇トン車満載にできるだけのロットを確保するにはプラス五日分が必要であった。またL社分の在庫に関してはBCP対策のため、さらに五日分を上乗せした。
これらを計算すると西日本拠点にはパレット二四〇枚分の保管スペースが必要であった。保管方法は平積みだと二段積み、重量ラックでは三段積みできるため、重量ラックの有無によって実際の坪数は変わってくることになる。

空いたスペースに在庫が散在
「②保管倉庫スペックの決定」では誤算があった。現状から常温保管と思いきや、よくよく製品特性を調べてみると、品質維持のためには定温倉庫を使用した方が良いことが分かった。
定温設備となると賃借する施設の選択肢がぐっと狭まってしまう。しかも、M社の製品は一部に「匂いが残る」ものがあった。他の製品と保管場所や輸送を分ける必要があるため、取り扱いがやっかいだ。協力物流会社選びのハードルが高くなってしまった。我々は頭を抱えた。事前に社内で手が打てることはないか、プロジェクトチームで検討した。
それまで「匂いモノ」は紙袋の上にビニールラップを巻いていたが、ラップはかなり薄手であった。また製品をラップで完全に覆うのではなく、品質維持と荷崩れ防止のため一部が露出するかたちで工場から出荷していた。
これを改め、若干コストアップとはなったが、一回り厚手のビニールラップを使うことにして、荷物の上部に汗かき防止のための穴を空けただけで他は全てラップを巻きつけるようにした。これによって大幅に匂いを抑えることができた。それでも、長期保管となれば、匂いが他の製品に移る可能性も否定できなかったため、在庫回転率を高めるように適正在庫水準の設定を行った。

「③協力物流会社の選定」では、既存の協力物流会社と、先ほどの着地点分析から導き出した最適地に拠点を持つ、筆者とは旧知の物流会社の二社を候補とした。
敢えてコンペは避けた。物量が少ないことに加え、不特定多数の物流会社に声を掛けてコンペを開催しているほどの時間的余裕が無かったためだ。L社にBCP対策を要請された時点で、実施まで四カ月しかなかった。それまでにM社は新拠点を立ち上げ、トライアルを終えておく必要があった。

「④工場併設倉庫の改善」では、庫内の整理整頓、レイアウト、ロケーションを見直した。関東工場は長年にわたり継ぎ足しの増床を繰り返してきたことから、場内が複雑に入り組んでいた。
生産ラインこそ区切られているが、それ以外は空いたスペースに在庫が散在している状態だった。手狭になっていることも理由の一つではあったが、出来上がった製品を空いているところに取りあえず置くというやり方が常態化していた。どこに何を置くという決まりがない。
そこでまず、生産計画、出荷スケジュールと連動するように「先入れ・先出し」の動線を確保し、そこから出荷頻度を考慮したゾーニング(枠取り)、レイアウト(ネステナーとラックの配置)、そしてロケーション(棚番地)を整えていった。
動線となる通路を確保した分、保管面積は縮小したが、実行段階で不要になった金型や古くなったパレット、死蔵在庫など多くの廃棄物が出てきた。さらに整理整頓を行ったため、結果的に保管面積はプラスマイナスゼロに収まった。
このスペースに外部倉庫分の在庫を取り込めるかが問題であった。結論から言えば、上手くいった。三パレット分だけはみ出したが、想定内のオーバーフローであり、その後に予定している在庫削減と西日本拠点の活用によって十分吸収できる量だった。

生産ロットを修正して在庫を削減
「⑤適正在庫量の設定」では、改善の対象が生産管理にまで及ぶことになった。工場には計七つの生産ラインがあり、それらは大きく少量生産品と大量生産品の二つに区分できた。
各ラインはそれぞれ生産効率に基づいたロットで生産していたが、そのために回転率の低いCランク製品では三カ月以上も在庫を抱えているものがあった。
そこでB、Cランク商品についてアイテム別の適正在庫量を改めて設定し直した。生産ラインの段取り替えには、二度の洗浄と乾燥、殺菌が必要で平均十二時間を要する。それを前提条件として、生産効率と在庫コストのトレードオフをアイテム毎にチェックした。
その結果、約一八〇アイテムについて、現状よりも生産ロットを小さくした方がコストメリットのあることが分かった。しかし、最終的に生産ロットを小さくしたのは六五アイテムに限られた。これは工場側の品質保証部から、異物や他成分の混入リスクについて訴えがあったためである。
それでも六五アイテムについて少ロット生産を実現できたのは大きなメリットであった。これによって全体では四〇日を超えていた在庫が二七日まで大幅に削減されたのである。

「⑥外部倉庫と横持ち運送会社の解約準備」は、大きな問題もなく約定通りの解約を実施できた。既存の外部倉庫会社には西日本拠点の提案を要請したが、足回り(配送)が確保できないという理由から辞退してきた。これによって必然的にもう一つの候補会社がパートナーに決まった。

こうしてM社は顧客の要請によって、つまり〝外圧〟によって拠点分散を強いられたわけだが、そのことが在庫削減のきっかけとなり、物流力のアップに繋がった。しかも、西日本エリアにおける納品リードタイムの短縮によって、M社の売上高は約十二%も増加したのである。
顧客からの無理難題とも思えるような〝外圧〟も、必ずしもマイナスに出るとは限らない。それどころか改革、改善の起爆剤になる得ることを筆者は実感したのであった。