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第121回 事例で学ぶ現場改善:『外資系メーカーF社の量販店向けインフラ構築』

専門店から量販店へ販売チャネルが急速にシフトし、既存の物流インフラでは対応が難しくなっていた。しかし量販店ビジネスのノウハウは社内にも協力物流会社にも乏しかった。物流コンサルタントを起用して新たな物流パートナーを選び直し、インフラを刷新することを決意した。

本国が細部までコントロール
精密機械メーカーのF社は年商八〇億円の外資系企業である。製品の九割以上は本社を置く本国で生産している。そのうちの約八割を空輸、二割を海上輸送で日本に輸入している。日本に置いている物流センターは関東の一カ所のみで、そこから全国に製品を供給している。
外資系といっても戦後間もなく日本市場に参入しているため歴史は古く、安定した販売網と固定客を持っている。ニッチ市場ながら、その分野では知る人ぞ知るブランドメーカーであり、主力とする医療機器は約三五%のシェアを誇っている。
その技術力を応用して現在は消費者向け製品も展開している。ただし、消費者向けの販売チャネルは近年、専門店の淘汰が進み、量販店へのシフトが顕著になっている。これに伴いメーカーに求められる物流機能も変化しつつあった。量販店への納品に対応した物流インフラの構築が今回のプロジェクトのテーマであった。
我々日本ロジファクトリー(NLF)に連絡をくれたのは、F社のロジスティクスを統括するS氏であった。長年にわたってF社のロジスティクスに携わってきたS氏は同社のサプライチェーンのキーマンであった。医療機器のロジスティクスについては豊富な知識を持っていた。しかし、量販店に供給する一般消費者向けの経験には乏しく、我々のような第三者のサポートを必要としたのであった。
プロジェクトチームは、そのS氏をリーダーとして、営業、調達、情報システム、そしてロジスティクスの各部門から、それぞれ実務者クラスがメンバーに参画する、いわゆるハイブリット型となっていた。
これには本国の意向が反映されていた。この会社はしっかりとしたロジスティクス管理概念を持っていた。「ロジスティクスとは経営活動の最終工程であり、ロジスティクス単独の部分最適ではなく、他部署と連携を図り、それぞれの部署が機能する全体最適が不可欠である」というものである。それだけに改革を進めていく上での制約もあった。最終決定権はすべて本国にあった。
日本で重要な意思決定やプロセスの変更を行う場合には、その都度、本国に報告し、その指示の下に施策の進行、軌道修正を行う必要があったのである。
我々プロジェクトチームはまず実態の把握に着手した。専門店から量販店にシフトしているという販売チャネルの詳細について営業部門を皮切りにヒアリングしていった。具体的には量販店チャネルの構成比と各社の売上金額、納品条件を始めとする取引条件の確認である。その結果、量販店の売り上げが今や九割近くにも達していることが分かった。専門店への納品を前提に設計された既存の物流インフラで対応できないことは明らかだった。
これまでオペレーションを委託してきた主力の協力物流会社も量販店チャネルにおける実績を持っていなかった。新たな物流パートナーの発掘が必要であった。営業部門へのヒアリングを通じて、プロジェクト開始から約四カ月後に当たる九月一日に大手量販店X社との大口取引が始まることが分かった。それをメドとして新しいインフラを構築することになった。
具体的には以下の項目をファーストステージで実施することに決めた。

①物流パートナー候補のリストアップ
②物流パートナー候補の事前調査、確認
③量販店に納品する製品のマスター整備
④量販店センターの納品時間、納品付帯業務の確認
⑤量販店各社の販売計画の把握と計画精度の確認
⑥RFP(提案依頼書)の作成
⑦物流コンペの開催

このうち「①物流パートナー候補のリストアップ」は我々NLFの役目であった。
NLFは過去のコンサルティング実績をベースに構築した独自の物流会社リストを運用している。これがクライアントの条件に合うパートナー候補を選ぶ上で大きな武器になる。
今回はF社の製品分野の取扱実績があるというだけでなく、対象エリアに量販店向けの既存インフラを所有・運用している会社を候補に選んだ。既存施設の利用によってイニシャルコストが抑えられるだけでなく、共同配送や庫内作業の効率化を期待できるためである。計二〇社がリストアップされた。

「②物流パートナー候補の事前調査、確認」では、リストアップした二〇社とそれぞれコンタクトを取り、F社の業務に本当に対応できるのか、対応できるとすればどのようなセンター運営および配送になるのか、大まかなイメージを確認した。その結果、七社が候補先として残った。

量販店向けに業務プロセスを改革
「③量販店に納品する製品のマスター整備」とは、物流オペレーションに必要となる各製品の「縦×横×高さ」「重量」「段積み制限」「天地無用」などの荷扱い、温度や湿度の基準を製品マスターに登録する作業である。
F社の場合、その基礎となる受発注用の製品マスター自体、メンテナンスが充分ではなかった。そこでシステム部からプロジェクトに参加しているメンバーを中心に、「終売」や「改廃」に伴う修正を同時に行い、さらにはオペレーションの品質向上に寄与するように、より詳細な製品情報をマスターに加えることにした。

これに並行して社内ヒアリングレベルで「④量販店センターの納品時間、納品付帯業務の確認」を行った。その結果、量販店向けの納品先は全て相手方の専用センターで、店舗納品は一社も無いことが分かった。
また各社から要求されているサービスレベルにはかなりのバラツキがあった。
一時間単位の時間指定を要求する大手量販店がある一方で、中堅以下の量販店では「午前中納品」など時間帯に幅を持たせてくれているところもあった。これを調整弁として利用することで車両の稼働率を向上することができそうだった。
問題は納品付帯業務であった。量販店の店舗納品時における「ノー検品」は今や当たり前のように普及しているが、比較的付加価値の高いF社の製品でもそれは同様であった。そのためにセンター納品時点での入荷検品を重視している量販店が多かった。しかも、一部の量販店は入荷検品後に製品を格納前の仮置きスペースに搬送する荷役作業を、納品ドライバーにやらせることを取引条件に加えていた。搬送に使用するハンドリフトなどのマテハン機器は納品先の設備を使用して良いことになっているが、数量不足による待ち時間が発生している可能性があった。各現場を回って見ないと実態は確認できないが、非効率要因として念頭に入れておく必要があった。

「⑤量販店各社の販売計画の把握と計画精度の確認」は、営業部門から参加しているメンバーが担当した。やや時間を要したものの、主要な量販店の大まかな販売計画や、それらしき数値データを収集することができた。
その計画精度は各量販店のバイヤーの能力、資質に依るところが大きいため、蓋を開けてみないとはっきりしたことは分からないが、幸いF社の製品には安売りや特売の対象になるようなものは少ないため、大きな発注のブレや極端な波動は無さそうだと考えて良かった。
そうなると次の作業は、各社の販売傾向の精査である。営業部門を通じて各社の販売実績、納品しているSKU、棚割り、フェイス数などを確認した。情報が入手できない場合は同規模の量販店の売り場を参考にした。
これらの情報をベースに、その量販店は販売計画および発生予定数量に対して上振れする傾向があるのか、下振れする傾向があるのか、あるいは正確な計画(発注予定)値が出てくるのかを整理した。新規に取引が始まる大手量販店のB社については四〜六月の計画と実績からそれを判断した。そこから製品別の必要数量(在庫)の算出ロジックと需要予測の運用ルールを作った。

候補企業八社に個別説明会
一連の調査分析結果をベースに「⑥RFP(提案依頼書)」を作成した。具体的には物流コンペの説明会で使用することになるRFPを始め、候補各社の提案をプレゼンテーターの印象などの感覚や好き嫌いで判断しないようにするための「物流事業者評価表」、そして「SLA(サービス・レベル・アグリーメント)」と「機密保持契約書」をそれぞれ用意した。
このうちSLAと機密保持契約書は、本国からの指示によって、当初のドラフトよりもずっと緻密なものに修正された。また新センターで使用するWMSについても、F社が基幹システムとしてグローバルに導入しているERP(SAPのR/3)との連動のための詳細な要件定義書が用意された。

「⑦物流コンペ」は前述の事前調査で残った七社と既存の物流パートナーT社を合わせた計八社が対象であった。八社に対してそれぞれ個別に説明会を行った。そのうち一社は移行期に当たる時期が他の案件の立ち上げと重なるという理由で辞退してきたが、他は各社とも熱心であった。F社との共同配送を実施すれば既存荷主のコストも下げられる。それによって物流会社側でも採算が上がるという期待があったからだろう。
各社の説明会から一カ月後を提案書と見積書の締め切りに設定した。その資料だけで一次選考を審査した。このプロセスで候補企業の一部から他の候補の質問事項とそれに対する回答を開示してもらいたいとの要請があった。しかし、各社の裸の提案力を見極めるにはかえってノイズになると考え、この要請は却下した。適確な質問はその会社の能力を測る材料の一つであるからだ。
最終選考には、量販店向けの強固なインフラを持つB社と、F社の製品分野に豊富な実績のあるC社の二社が残った。どちらも遜色無かったが、現場視察の結果、B社が落札した。最後の決め手となったのは、現場スタッフの気持ちの良い「挨拶」であった。
些細なことのようでも、これもまたその会社の現場力を示す重要な手掛かりであり、筆者も異論はなかった。
懸念材料の一つだったERPとWMSの連携についても、B社には従来からタイアップしているシステム開発会社があり、そのサポートを受けることでクリアできるとのことであった。

こうしてF社の量販店向けインフラが稼働し、四カ月が経過した。今のところ運営は順調である。システムの連携にも問題は発生していない。
しかも、B社の既存インフラを活かした共同配送が実現し、予想以上のコストダウンを達成した。今回のプロジェクトの目的は必ずしもコストダウンではなかったが大きな収穫である。B社を選んだのは間違いではなかったようだ。