Top > 雑誌寄稿 > 《特集解説》 事例で学ぶ物流改善:『事例で学ぶ運送業の人手不足対策』

《特集解説》 事例で学ぶ物流改善:『事例で学ぶ運送業の人手不足対策』

仕事の依頼は増えてきた。車両も余っている。
ところがドライバーがいない。そのために休車を抱えながら傭車を使わざるを得ないという異常事態が起きている。新規の受託をストップする運送会社も出始めた。しかし、人手不足を嘆いてばかりはいられない。

“一人親方”のグループに協力を要請
筆者の周囲を見る限り、昨年の秋口から全国のドライバー不足に拍車が掛かってきたようだ。募集広告を打っても反応がない。応募があっても人材のレベルが低い。
挨拶もろくにできない者、未経験の高齢者、定職に就いたことのないフリーターなど、まともに通用しそうにない人材ばかりとの声を耳にする。
それでも背に腹は代えられず基準を落として採用するが、すぐに辞めてしまう。仕方なくまた募集広告を打つ。しかし、応募状況は前回よりさらに悪くなる。完全に負のサイクルに入っている。その結果、中小の運送会社で新規の受注をストップするところが相次いでいる。
中堅以上も事情はそう変わらない。筆者が経営指導を行っている中堅物流会社A社が関東圏進出に当たってドライバーを新規採用することになった。しかし、どうにも人が集まらない。それでも稼働日は近付いてくる。結局、ドライバーの直接雇用をあきらめ、傭車に頼るほかなかった。
それまでA社は自社便七割、傭車三割という構成比を維持してきた。これを筆者は一昔前のトラック運送会社の“黄金比率”だと考えている。現在は運賃相場の下落や人手不足によって、これが五〇対五〇まで落ちてきたという認識だが、それでも実運送をメーンとする以上、半分は自社で運行したいところだ。
一九九〇年代のバブル崩壊と規制緩和によって、運送市場は供給過多に陥り、長期間にわたって値下がり傾向が続いてきた。そのため運送事業は取扱に特化したノンアセット型が有利で、実運送は地場の零細に任せてしまったほうがいいと考えている人が多い。
確かに社長自身がハンドルを握っているような車両台数二〇台以下の零細運送会社は間接費負担が少ないために運賃競争力がある。しかし、自社所有車両台数が三〇〇台以上、売り上げにして三〇億円以上にもなると、運送会社にも規模のメリットが出てくる。
車両の購入価格はまとめて買うことで大幅に下がる。車両のメンテナンスも自社化できる。特装工場まで自社化してトラックの車体だけ購入しているところもある。インタンク(自家用給油設備)を導入すれば燃料費も下げられる。しかも、運行管理や安全管理に専任の担当者を置くことができるので品質も上がる。
A社は従来そうやって商売を拡大してきた。ところが関東圏では自社便がわずか一割、残り九割が傭車という構成になってしまった。あらかじめ発注しておいた新車を、ドライバーが確保できないために八台も遊ばせている。自社車両が休車状態で傭車先への下払いが発生しているのだから尋常なことではなかった。
年末にかけて事態はさらに深刻化した。傭車先でドライバーが確保できなくなったのだ。とりあえずは傭車先の社数を増やすことで凌いだ。ところが、新たな傭車先でも人手が足りなくなり、「今回依頼されたルートは対応できない」とのこと。人手不足だけが理由ではないのかもしれないが、まんざら嘘でもなさそうであった。
こうして我々は次の一手を打つことになった。休車状態にある自社車両の活用である。
まずはドライバー派遣会社にも相談したが、条件が折り合わない。そこで個人事業主、いわゆる“一人親方”の軽トラックドライバーに声を掛けた。すると一日六時間ぐらいのアルバイトなら対応できるという一人親方、M社が見つかった。
さらに妙案が出てきた。個人タクシーで年収七〇〇万以上を稼ぐドライバーともなると、同業者数台でグループを作って固定客の依頼に対応しているという話を聞いたことがある。同じようなつながりが軽トラの一人親方たちにもあるはずだと考えてM社に打診してみた。
するとM社自身はグループには入ってはいないが、知り合いが同様の仕組みで仕事を融通し合っているという。そのグループに連絡を取って協力を依頼した。その結果、三人の一人親方がカーシェアリングのようにA社の車両を交替で使用するかたちで、休車を八台から二台にまで減らすことができたのだった。
こうしたドライバー不足の状況は地域によっても事情が異なっている。採用難は東京を中心とした一都三県、特に西東京や神奈川周辺エリアで顕著で、埼玉周辺の東関東ではやや和らぐ。
地方では佐賀県の鳥栖や愛知県の小牧など、産業用地の開発が集中的に行われた地域でドライバー不足が深刻化している。これらの場所には数多くの工場も進出している。
それが新たな物流ニーズを生んでいるわけだが、生産と比べて物流の拠点進出は計画性を欠いていると言わざるを得ない。
新たな生産拠点を立ち上げる場合には、用地取得を検討する段階で近隣対策や周辺人口のシミュレーションを行い、研修生として外国人労働者を受け入れることまで視野に入れて、必要な人手を確保できるか検証する。
それに対して物流拠点進出は、許認可も含めて参入障壁が低いため、十分な検証を経ないまま用地を確保し拠点を建設してしまうケースが跡を絶たない。そのために人手の取り合いになってしまう。
工員や庫内作業のパート社員であれば、拠点と近隣の駅を結ぶ送迎バスを走らせて人を集めることもできるが、終業時間が安定しないドライバー向けにはそれも難しい。
出稼ぎ対応型の寝食を完備したドライバー寮の設置まで検討しなければならなくなっている。
一方、大阪を中心とした二府四県では、今のところ募集広告を打てば何とか応募は集まる。しかし、やはり応募者のレベルは低く、定着率は低下している。
筆者のクライアントで関西を地盤とする物流会社B社は、これまでA社と同様、自社便七割、傭車三割という比率で運送事業を回してきた。それが現在は自社便の比率が五割まで落ちている。納得できる採用ができないためだ。その結果、休車が発生していたが、新たに人材を確保できる見込みもないため、車両を売却して減車するしかロスを抑制することができなかった。

コンビニ店員の外国人比率をヒントに
このようなドライバー不足の原因として最も大きいのは、やはり安過ぎる給与だろう。
筆者は二〇代の頃に、トラックドライバーを経験している。当時トラックドライバーと言えば、身体はきつくても稼げる仕事の一つだった。
それが現在は都道府県ごとに定められている最低時給を見据えた水準まで給与が下がっている。孫請け、ひ孫請け仕事がメーンの零細会社ともなると規定スレスレの低給与である。しかも、必ずしも給与の全額を手にできるわけではない。商品破損や納品トラブルなどで会社が支払った弁済金の一部をペナルティとしてドライバーの給与から天引きしている会社がかなりある。
仕事の負荷自体も上がっている。積み込み先や納品先における自主荷役、棚陳列、再検品、回収、帰社後の伝票処理など、ドライバーのやることが増えている。労働基準法の運用が厳しくなっていることから、さすがに労働時間の順守には以前より神経を配るようになったが、タクシーのように一日の走行距離制限があるわけではなく、休日の確保もままならないのが実状だ。
新たにドライバーになろうという人が少なくなるのは当然で、経験者さえドライバーの仕事を敬遠するようになっている。かつてはドライバーを辞めても、別の運送会社でまたドライバー職に就いたものだが、それが今では退職後はドライバー以外の仕事を選ぶか、あるいはフリーター化している。
こうした要因のいくつかは社会的な問題であって、運送会社にすべての責任を押しつけるのは酷だろう。しかし、当の運送会社自身、十分な対策を取っていないこともまた事実である。ハローワークに求人表を出しただけで、応募がないと嘆いているだけでは、事態が好転するはずもない。
著者は物流拠点の立地調査の一環として該当拠点周辺のコンビニの時給と労働者の国籍をチェックすることがある。このうち時給を調べるのは、コンビニがそのエリアの時給相場を決めるプライスリーダーとなっていることが多いからである。そこからドライバーや庫内作業員などの時給相場を推し量れる。
そしてコンビニ労働者の国籍は、そのエリアにおける作業労働の需給バランスをつかむヒントになる。今や首都圏のコンビニで外国人店員のいない店を探すのは難しくなっている。深夜ともなれば外国人ばかりという店もある。
翻って、夜間でも日本人店員だけでコンビニを回しているエリアは、潜在的に労働力の供給力があると判断できる。そのエリアで人手が集められないとすれば、それはその会社の採用力が不足しているためである。

ドライバー採用力を強化する
一つは口コミを利用してみることだ。それも既存の自社ドライバーに誰かいないかと尋ねるだけでなく、庫内作業に従事する主婦パートにも声を掛けてみる。すると求職中の夫やその友達を連れてきてくれることがある。
ハローワークのほか、有料の採用広告の利用も検討すべきだ。コストは掛かっても採用ハードルを下げることなく、人材を確保できれば結局は安くつく。広告料金の支払いを渋って、“採用しては退職する”を繰り返すよりずっといい。
その募集広告も一番安い広告枠(大きさ)に掲載が集中するため、あえて一回り大きなサイズの募集広告を打って、他社と差別化することを筆者はクライアントに勧めている。小さな枠を何回も掲載するより、掲載回数を減らして大きな枠で募集したほうが費用対効果は高い。
以上のような状況から運送業における人手不足対策の心得を次のようにまとめてみる。

①募集方法の工夫
無償で容易な求人活動だけではなく、紹介、口コミ、出入り業者へのアナウンス、有料広告媒体の活用など、可能な限りの手段を使って募集を告知する。

②採用コストの考え方
新規採用ドライバーの「質」を維持するには、応募の「量」を確保することである。そのためには目先の募集広告費をケチってはいけない。トータルコストで判断し、必要な経費は惜しまず予算化する。せっかくドライバーを採用しても人材の質が低く、すぐに辞めてしまったり、いつまでも仕事を覚えなかったり、破損や事故を多発させたりすれば、そのダメージは広告費用よりもはるかに大きくなる。

③採用を焦らない
採用を焦るあまりに面接や処遇面の確認もほどほどに、早々と内定を出してしまう会社が多く見受けられる。しかし、焦りは禁物。“安物買いの銭失い”になってしまう。
採用プロセスと採用基準を事前に明確にして、決めた通りに運用する。履歴書・職歴書に基づく書類選考、役職者による面接、仕事内容の十分な説明は不可欠である。特に仕事のハードな面も正直に知らせておくことが重要である。

④採用後のフォロー
ルート配送などでは「エルダー」等と呼ばれるドライバー出身の専任指導員を同乗させて、新規採用者を教育している会社もあり、効果を発揮している。
専任者を置くコストが捻出できない会社や指導者がいない場合には、既存ドライバーの中から班長を選ぶといい。他のドライバーが分からないことや困ったことが起きた時には、携帯電話で班長に連絡してヘルプデスクの役割を果たしてもらう。出発と帰社の電話連絡や仕事に関する相談など、身近な“世話役”を作っておくことで、“退職危機ライン”となる入社後の三カ月間を乗り越えるのである。

当面、ドライバー不足は解消される気配はない。それどころか少子高齢化で今後ますます深刻化していくことが予想される。そのため大手宅配会社などは女性ドライバーやシルバードライバーの受け入れを積極化すると同時に、トラックを使わない集配方法へのシフトを進めている。
それが難しい貸切輸送や路線便は、いよいよ値上げに動くべきである。輸送品質が高く、運賃負担力のある荷物を取り扱っている場合は既にそれが可能な状況になっている。料金交渉をためらっているうちに、現場の疲弊は進み、品質は低下していく。トラック運送業が置かれている現状を荷主に理解させる必要がある。