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第122回 事例で学ぶ現場改善:『センター運営会社Z社の3PL参入断念』

競合他社の嫌がる荷物に的を絞る逆転の発想で一〇年近くにわたり順調に事業を拡大させてきた。それでも経営者は将来に不安を感じていた。そして3PL事業への参入に今後の成長を託そうと考えた。しかし、同社の現状を客観的に評価すれば、経営者の考えは楽観的過ぎるように感じた。

波動の大きな物流に特化して成長
関西を本拠地とするZ社は年商約三五億円の物流会社だ。対象エリアを絞ったドミナント展開で、八カ所のセンターを運営している。そのうち六カ所は賃貸施設、残り二カ所は荷主が所有する施設で庫内作業だけを請け負っている。
物流会社といっても実質的にはノンアセットのセンター業務請負会社である。
この一〇年近くにわたりZ社は年間二億円のペースで売り上げを伸ばしてきた。成長のポイントは逆転の発想である。ギフト商品やキャンペーン品、販促品など、同業他社やアセット型物流会社が敬遠しがちな年間波動の大きな仕事を積極的に受託してきた。
波動が大きい物流は普通であれば採算が取りにくい。物量が跳ね上がるピークに合わせて人員や施設を手当てすれば平時に余力を生んでしまう。逆に平時に合わせるとピーク時には処理が追いつかなくなる。あるいは臨時で人手や施設を手当しなければならなくなり、割高になってしまう。
しかしZ社は、繁忙期の異なる荷主を組み合わせて、一年中ほぼコンスタントにピークを迎えている状態を作ることで波動を解消するという独自のアプローチを取ってきた。
そのためにZ社の上層部は業種・業界を問わずに、季節毎の催事はもちろん、一月から十二月までの各月単位のイベントや慶弔行事をすべて調べ上げ、荷主だけでなく物流会社まで回って、波動が大きく困っている業務を次々に受託していったのである。
中には一回限りの仕事もあったが、多くは毎年決まった時期に同様の波動が発生しており、受託した顧客の七割がリピート客になっていった。地元には波動の大きな物流を得意とする物流会社はZ社のほかには珍しく、相見積りはあってもコンペするまでには至らないだけの差別化が図れていた。
しかし、Z社のA社長とK常務は売り上げ三〇億円の達成を目の前にして「この快進撃はいつまで続くのか」と将来に対する疑問を抱くようになった。そして波動対応をビジネスの中核に置きながらも、その周辺業務に事業領域を広げていこうと考えた。すなわちセンター運営型ノンアセット3PLである。それを目標に輸配送などの足回り、WMSをはじめとする情報システム、そして提案営業のノウハウの構築に乗り出したのであった。
それからしばらくして、Z社の執行役員L氏から我々日本ロジファクトリー(NLF)に連絡が入った。3PL営業の実践と運営体制ノウハウの構築に外部の力が必要とのことであった。
それ以前から筆者はZ社のことは知っていた。それだけに「なぜZ社が3PLなのか」と首を傾げずにはいられなかった。聞けば、3PL営業を実際に展開しながら、それと並行して内部体制を固めていきたいという。楽観的過ぎるように感じた。依頼された内容に対応できるのか即答するのは避けることにした。
Z社の現状を考えると、3PL体制を構築するのに多くの時間と手間を要することは明らかであった。社内に3PL事業を構築し、案件を立ち上げ、安定稼働させることのできるキーマンがいるとも思えなかった。結局、Z社が3PLを展開する絵は、筆者にはどうしても描けなかったのである。
そこで今回は我々がZ社の3PL事業化プロジェクトのメンバーに加わってその実現を手助けするのではなく、アドバイザーという立場から、Z社が自分自身で新たな体制を構築していくことを支援するというかたちでコンサルティングに入ることにした。
Z社が3PL事業に本格的に参入するために解決すべき課題は大まかには以下の六つであった。3PL事業に必要な要件のすべてが課題といって良かった。

①特定業種・業界における実績の蓄積
②センター運営ノウハウの向上
③足回りの強化
④全国案件対応
⑤WMS構築
⑥3PL人材の育成・確保

「①特定業種・業界における実績の蓄積」と、それを〝強み〟としてPRすることは、3PL事業の定石である。大手3PLであれば知名度や規模などから放っておいてもコンペ参加の打診は舞い込む。しかし中小かつノンアセットとなれば、その会社の〝強み〟が認知されていないと勝負の土俵にも上がれない。しかし、Z社はこれまでジャンルを問わず波動への対応力で事業を展開してきたことから、荷主の業種、業界を選ぶという感覚がなかった。

理想と現実の大きな乖離
「②センター運営ノウハウの向上」は、Z社の本業とも言える業務であるが、その生産性や品質は、筆者が見た限り合格レベルにあるとは言えなかった。
物量に応じた人員設定(レイバーコントロール)は、過去には高いスキルを有していたはずだが、波動期が異なる顧客が増えて年間を通して作業の平準化が進んだことで、そのスキルが陳腐化していた。実際、現場では直接雇用のパート・アルバイトに比べて割高な派遣の利用が増えて、コストアップ要因となっていた。
作業者の熟練度が低いため品質面にも課題を抱えていた。その解決に向けてマニュアルの整備や掲示物のビジュアル化を行ってはいたが、Z社の荷主の多くは毎年のように製・商品の企画や包装、シール貼りの方法を変更するため、イタチごっこになっていた。

「③足回りの強化」もまた3PL事業のポイントである。足回りの弱い3PL会社が荷主との取引を長期にわたって継続させるのは困難である。センターの「運営力」と「配送力」は3PL事業の両輪と言える。
Z社の場合は路線便(特別積合せ輸送)への過度な依存を解消する必要があった。実際、Z社は近隣エリアの中ロット(一・五tレベル)以上の荷物まで含めて、足回りのほとんどを路線便に頼っていた。これでは運賃は下がらない。
とはいえ、出荷方面が時期によって大きく変化するため、自社便や傭車対応では改善は期待できそうになかった。地場運送会社のネットワーク化による中距離・中ロット貨物の積み合わせの強化、もしくは共同配送のインフラ作りが必要であった。

「④全国案件対応」も検討課題であった。冒頭に述べたようにZ社はドミナント型で拠点を展開している。他に関東エリアにはアライアンス先があるとのことであったが、それ以外には足下の関西エリアも含め、ほとんどコネクションがなかった。そのため地元以外の拠点ニーズに対応できていなかった。各地に提携パートナーを作ってネットワーク化を図りたいところであった。

「⑤WMS構築」は、3PLの重要なポイントである。例えパッケージをカスタマイズしたものであっても3PLが自前のWMSを提供することができれば、システム連携によって荷主を固定客化しやすくなる。
しかしパッケージのカスタマイズには通常、数千万円規模の投資が伴う。これまで順調に成長してきたZ社もそこまでの投資余力はなかった。システムの重要性を理解している人物が社内に不在だったこともあり、自前構築は断念するほかなかった。

「⑥3PL人材の育成・確保」は、Z社が我々NLFにコンサルティングを依頼しようと考えた、そもそものテーマであった。
しかし、既存の二名の営業スタッフには御用聞きスタイルが染みついており、また高齢者ということもあって、提案営業や3PL営業を修得させようとすれば、かなりの時間を要することは明らかだった。知識を学ぶことはできても、それを実践レベルで活かすことができるようになるのか疑問であった。
また3PL営業経験者を新規に採用しようとすれば、当然ながらそれに見合った給料を支払う必要がある。既存の営業スタッフとのバランスが取れなくなって、社内に軋轢の生じる恐れがあった。通常このような場合、既存メンバーも温存するのであれば、新たに3PL会社を作るところであるが、Z社にとっては高いハードルであった。

3PL参入を断念
人材不足はZ社が3PLに参入するに当たっての最も大きな課題であった。営業マンのみならず、現場人材のレベルも十分ではなかった。
先の「②センター運営ノウハウの向上」のため、我々NLFは現場スタッフの実力と改善ポテンシャルをまずは確認しようと、Z社の各センターを見学して回った。
すると、どの現場にも共通している点があった。経営陣と各センター長の現場認識が大きく食い違っていたのである。しかも、各センター長と、そのセンター長があずかっている現場の実態にも大きな乖離があった。
「朝礼は毎日行っている」とセンター長は言う。しかし、現場リーダーに同じ質問をすると「やれていない日が多い」と返ってくる。同様に、センター長は「あいさつについては口うるさく指導している」と言うが、実際には現場スタッフの半分くらいしか、まともにあいさつができないという具合である。
これは我々NLFが現場運営の「三悪」と呼んでいる問題が原因である。「三悪」とはすなわち、「決めっ放し」、「言いっ放し」、「やりっ放し」である。Z社に限らず多くの会社がこの「三悪」を抱えて、現場が放置され、やがてほかの問題へと拡散していくのである。
「三悪」を解消するには、「やり切る力」が必要である。まず経営者、管理者がどこまでやるのか到達点を決め、その経過を常に観測し、目標を完遂するまで手綱を緩めないようにしなければならない。
これらの内容を整理して、執行役員L氏にフィードバックした。3PL事業に本格的に参入するにはZ社の経営陣が予想している以上にハードルの高い必要条件をクリアしなければならないこと。必要な機能はそう簡単に手に入るものではないことを伝えた。L氏は自信を失くしたようであったが、A社長、K常務と良く話し合ってみると答えた。
それから約一カ月後、L氏から筆者にメールが入った。3PL参入は「保留」になったとのことであった。その文面を読んで、ほっとしたというのが筆者の正直な感想であった。
無理に3PLに参入するより、既存の波動対応力に磨きを掛けることのほうが、Z社にとっては有効な成長戦略になるだろう。

これまで多くの物流会社が流行病のように3PLを意識し、参入を試みようとしてきたが、そのほとんどは失敗に終わっている。ブームも今や一段落した感が出てきた。
改めて物流会社は自社の立ち位置、すなわち業界におけるポジショニングと、強み・弱みを把握した上で、身の丈に合った成長戦略を組み立てることが求められている。