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第124回 事例で学ぶ物流改善:『何が物流会社の明暗を分けるのか』

物流業はサービス業である。我々はサービスを売っているということを組織の誰もが理解している会社と、単にモノを運べばいいと考えている会社では、小さなクレーム一つの扱い方も大きく違ってくる。どちらを顧客が選ぶのかは明らかだ。

顧客の期待を超える
ドイツの大手スーパーマーケット、アルディ(Aldi)の創業者カール・アルブレヒトは、その著書『逆さまのピラミッド』(日本能率協会)の中で、顧客第一主義における組織の在り方を図1のように示した。これはそのまま物流業にも当てはまる。身近な事例で見ていこう。
A社は関東に基盤を置く、年商約一〇〇億の中堅倉庫会社である。自社で十数カ所の汎用拠点を所有・運営し、小売りと外食チェーンを除く、あらゆる業種の荷主に対応している。
同社の主要拠点の一つ、Tセンターで出荷漏れのミスが発生した。すぐに気付いて発荷主のM社に報告したが、大いに憤慨し、A社に早急な対応を求めた。納品予定時間の明日の午後一番に何としても間に合わせろと言う。
それまでA社とM社は非常に良好な関係にあった。A社にとってM社は取引額としては中位の荷主にすぎなかった。それでもA社は、M社の新体制の立ち上げから安定軌道化まで、多大な人員を投入してフルサポートを行った。その貢献にM社は感謝していた。しかし、今回の出荷漏れはM社にとって看過できない事態であった。
納品の得意先はM社にとって最重要顧客であり、信用失墜はどうしても避けなければならなかった。
このクレームはすぐさまA社のトップにまで伝わった。創業者一族の三代目社長である。
社長就任以来、顧客第一主義を経営理念に掲げ、それを実行してきた。今回のクレーム対応でも三代目は自ら陣頭指揮を取り、すぐに行動に出た。
しかし、即座に緊急輸送に対応できる傭車、路線会社は見つからず、間に合うか分からないと渋る軽貨物業者に頼み込んで出荷漏れの商品を届けるしか方法がなかった。
その手配を指示した後、三代目はM社の本社に出向き、物流責任者、さらには以前から懇意にしていたM社の社長に対し、深々と頭を下げて謝罪した。
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M社を後にした三代目は、その足で納品先であるM社の最重要得意先に向かった。その道すがら軽トラの配送状況を電話で頻繁に確認しつつ車を走らせた。緊急輸送の軽トラックとほぼ同時に納品先に到着した。
結局、納品には間に合った。しかし、そのまま黙って引き返すのではなく、何かできることはないかと三代目は考えた。そして納品先に事情を話し、幸い被害は出なかったものの今後このようなことで心配を掛けることのないよう最善の注意を払う旨の説明を行った。
後日、今回の出荷漏れに対する改善書をM社に提出した。各納品先への到着履歴と報告をルーティン業務の中に組み込んだことを報告した。それを見ていたM社の社長からは「A社さん、もういいよ。そこまでやらなくても」と好意的なコメントをもらうことができた。
それでも三代目は満足しなかった。その後も何度もM社の本社に自ら足を運び、物流面、自社運営面での課題と要望を念入りにヒアリングして、その都度、提案書や改善書を提出し続けたのであった。
この一件をきっかけに、M社はA社に委託する物流業務の割合を増やしていった。その結果、A社にとってM社は売上ランクの上位に入る上得意先へと成長したのである。
A社のクレーム対応は決して洗練されたものとは言えないだろう。特別なテクニックを駆使したわけでも、効果的なマニュアルを整備していたわけでもなかった。しかし経営トップが誠意を持って、これでもかというほど徹底して行動した。それが結果としてクレームをビジネスチャンスに変えたのである。
筆者のこれまでの経験を振り返っても、深刻なクレームはその多くが良好な関係を構築できている取引先で発注することが多い。自社のファンとなってくれている顧客である。
ファンでない顧客の仕事で発生したトラブルはクレームにもならない。そのまま黙って契約を切られるだけである。
ファンは自社に対する期待が大きいだけに、その期待を満足させることができなかった時の憤りや落胆も大きくなる。それを覆すには、直球で真っ向勝負が一番だと筆者は考えている。時にはコストなど度外視して、相手の期待を超える対応を見せることが、長い目で見れば結局はプラスになる。
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「顧客第一主義」の損得勘定
A社のように全てのクレームに社長が先頭に立って対応するというのは現実的ではないだろう。しかし、現場レベルでクレームに対応する時も基本は同じである。顧客の期待を超えることで、ロイヤルティの高いファンを作ることができる。
僭越ながら筆者のドライバー時代の経験を一つご紹介しよう。筆者は学校を卒業してしばらくの間、大手宅配会社でセールスドライバーとして勤務していた。その勤務先であった関西地区のN営業所で問題は起こった。
段ボールケースの一つを着店であるN営業所で破損させてしまった。中身は東京ディズニーランド(以下、TDL)の関連グッズやお菓子などの土産物で、その中のティーカップ皿が二枚とも割れている。
荷物は発送人が自宅へ送ったものだった。すぐに連絡を入れておわびを申し上げた。
荷主は二〇代の女性で、そのティーカップはTDL内のショップでしか手に入らないものだという。通常、宅配便の商品破損は金銭弁済か代品での対応になるが、その女性は金銭弁済では納得せず、そうかといっても代品が手に入るはずもなく、宅配便で送ったこと自体をひどく後悔していた。
たまたまN営業所はその翌週に慰安旅行を控えていた。一泊二日の温泉旅行であったが、営業所の事務担当のS氏と筆者の二人は急遽予定を変更して、男二人でTDLに行くことにした。我々の意を汲んで所長もそれを黙認してくれた。
壊してしまったティーカップと同じものが手に入るという保証はなかった。TDL内にはたくさんのショップがある。そのうちどの店で売っていたのかも分からず、手掛かりは割れてしまったティーカップ皿の欠片だけだった。
苦戦を強いられると予想していたが幸いにも入場してから三軒目に入ったギフトショップで、それらしきティーカップを見つけた。皿を引っくり返し、皿底に印字された緑色の図柄と文字を突き合わせてみると、ピタリと一致する。念のため店員にも確認してもらったところ、「同じものです」という。それを聞いて事務のS氏と筆者は、ほっと胸をなで下ろした。
我々二人はそのまま宿泊もせず、一路、N営業所へとんぼ帰りした。一刻も早く、ティーカップを女性に渡したかったのである。筆者は残念ながらその場に居合わせることができなかったが、S氏によると、その女性はまさか我々が現地まで行ってティーカップを調達してくるとは想像もしていなかったようで、商品を手渡すと大変に感激していたという。
とても割に合わないクレーム対応ではあったが、お金で償えない失敗を“足”で挽回できたことに、我々は達成感を得ることができた。今振り返ると、そうした小さな自信を現場で積み上げていくことが、後の成長に大きく役立ったことがよく分かる。
その宅配会社もまた、従来から「顧客第一主義」を社是に掲げていた。言葉だけでなく「我々は給料を誰からもらっているのか。それは会社ではなくお客様である」という考え方が組織に根付いていた。そのため筆者たちの“やり過ぎ”を受け入れる土壌があったのである。

急成長3PLのつまづき
逆の事例もある。
B社は、特定業種に対象を絞った特化型3PLとして年々業績を拡大していた。当時の年商は約一八〇億円で全国に約二〇カ所の事業所およびセンターを所有していた。B社の急成長に競合他社たちは戦々恐々であり、またB社に対する荷主の期待は売り上げが伸びていくのに伴ってぐんぐんと高まっていた。
そんなある日、B社の関東のある拠点でトラブルが発生した。納品先Aと納品先Bの商品を間違える、いわゆる「テレコ」が起きたのである。納品先から発荷主のN社にクレームが入り、N社からB社に連絡が回った。
それ以前から同拠点ではテレコ納品こそ、それほど多くはなかったものの、商品の間違いや数量間違いなどの誤納品、商品破損をしばしば起こしていた。その度にN社から改善要請を受けていた。しかし、B社の対応は一時的かつ表面的であり、ミスを発生させた原因の究明や抜本対策はおろそかになっていた。その結果、ミスやクレームが一向に減らなかった。
B社のサービス品質がなかなか改善されないことに業を煮やしたN社は、現場レベルではなく会社同士の問題として上層部と話し合いを持ちたいとB社に申し入れた。そしてB社の担当役員がN社の本社に呼び出されることになった。
その担当役員は話し合いの前に該当拠点の所長からレクチャーを受け、N社向けの仕事で発生したミスやクレームの内容とその対応などを確認し、準備は済ませていた。ところが、本社を訪問してあいさつもそこそこに、大きく出鼻をくじかれてしまった。
「昨日の誤納品はなぜ、あのようなことになったのですか」とN社から説明を求められた。担当役員の耳には入っていない話であった。この日に担当役員がN社を訪問することはB社の所長レベルは承知していた。ところが、その所長レベルにミスの報告が上がっていなかったのである。
ご想像の通り、担当役員の訪問は火に油を注ぐ結果となってしまった。担当役員はただ平謝りするしかなかった。その日の帰り際には、「来年の契約更新はないものと思っておいて下さい」という厳しいコメントが投げ付けられた。
このトラブルはB社が抱える問題点を象徴した出来事であった。
現場⇔所長、所長⇔担当役員、それぞれの段階で、いわゆる「報・連・相(報告・連絡・相談)」が全く機能していなかった。事業の急成長に組織体制の整備が追い付いていなかったのである。
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クレーム管理の五か条
物流業はサービス業であると同時に、通信や電気、水道などのインフラ産業と同様に「できて当たり前」、「対応して当たり前」とされる商売である。確実な納品、追加注文の対応、物量増への対応など、物流会社が必死の思いで対処していても、それにはお構いなく、発荷主や着荷主は当然のこととして受けとめている。
そんな「当たり前」がなされなかった時には、また当たり前のようにクレームが発生する。従って物流クレームはゼロにはならない。クレームは常に発生するものと見なして、それに対応する仕組みを整えておく必要がある。

図4は基本的なクレーム対応マニュアルである。この手のツールは二〇〇〇年の雪印集団食中毒事件をきっかけに各社が急ぎ整備に乗り出したものと筆者は記憶している。それ以前から体系的にノウハウを整理していた企業など例外的で、クレームに対しては属人的な対応を取っているところがほとんどであった。
クレームの多くは些細なことからスタートする。最前線の現場スタッフのちょっとした判断ミスが後々、契約の打ち切りや思いも寄らぬ悪評を世間に振りまく元になってしまう。
クレームの発生による被害、損害をいたずらに大きくさせないためには、その初動について対応方法をきっちり固めておくべきである。
しかし、それはクレームマネジメントの入口にすぎない。立派なマニュアルを備えても、全ての情報が上に報告されている現場など筆者の知る限り皆無である。上司から叱られたり、自分の評価が下がってしまうことを恐れ、当事者同士で完結させているクレームがどんな現場にも必ずある。それを前提にクレームマネジメントに当たることが不可欠である。
クレーム管理に当たるマネジャーは以下の五か条を心に刻んでほしい。

①常に聞く耳を持つ
管理者が口にしてはいけない台詞がある。「そんな話は、どんな会社でもある」「初めての仕事なのにできるわけない」「そんなことを言う客の方が悪い」などである。
それを聞いた現場のスタッフたちは、次回以降その管理者にクレーム対応を相談したり、頼もうとはしなくなってしまう。
②小さなクレームを大事にする
些細なクレームが取り返しの付かないほど大きな問題になってしまうのは、おしなべて管理者の受け止め方にあると心得る。
③クレーム客はファンである
クレームは期待の裏返し。いつもはきちんとできていたのに‥‥というファンの残念な気持ちが言葉になったものがクレームだと理解する。
④クレームは増殖する
顕在化したクレーム一つにつき、その二〇倍もの潜在的クレームが発生していると理解する。しかも、クレームは増殖する。米国の調査によると、サービスに対する不満を感じた人は周囲の一七人にそれを言いふらすという。
⑤本質的な解決策は行動しかない
間違いに対して誠意を持って謝ることは大事だが、それだけで問題は解決しない。金銭的な保証も妥協の産物にすぎない。本質的な解決策とは、クレームの原因を究明し、それを解決するという行動を通し、良い仕事をすることだ。
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