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第126回 事例で学ぶ現場改善:『巨大企業グループの物流子会社問題』

親会社は物流子会社のパフォーマンスと将来に懸念を抱いていた。本格的にテコ入れして競争力を養い自立を促すか、グループへの貢献に特化させて機能を見直すか、あるいは売却してしまうか、関係者の意見は割れていた。社内の意思統一を図るためにも、外部の第三者に評価と意見を求めることにした。

親会社が子会社の診断を依頼
Aグループは日本有数の事業規模を誇る企業集団である。多くの上場企業を輩出し、物流子会社だけでも一〇社近くをグループ内に抱えている。
我々日本ロジファクトリー(NLF)は数年前にも同グループのコンサルティングを行っている。その内容は日本の高度経済成長期に同グループの成長を支えてきた伝統ある事業部門(会社)の物流改革をサポートすることであった。
それに対して今回は別の事業会社からの要請だった。ここでは仮にB社とする。B社はグループの次の五〇年を支える柱と位置付けられ、グループを挙げて資金と人材が投入されている有力部門であり、また強い国際競争力を有するグローバル企業であった。そして今回のコンサルティングのテーマはB社の物流子会社C社のテコ入れであ
った。
これまでB社は工場内の調達(入荷)から構内配送・荷役、格納、保管、梱包、出荷、輸配送管理までの一連の生産物流をC社に任せてきた。一方のC社は親会社向けの物流業務に集中する傾向が強く、一定の事業規模と安定した収益を維持してきたが、親会社をはじめグループ会社との取引に収入を依存していた。
C社のパフォーマンスに対して、B社内で問題が提起された。現状のC社は果たして、B社あるいはAグループに貢献していると言えるのか。他社の物流を知らないC社は、〝井の中の蛙〟になってはいないか。さらにはグローバル化が進む中、C社は今後も生き残り、成長していくことができるのか。懸念の声が上がったのである。
それをきっかけに、我々のような外部の専門家を招き、中立的な第三者によってC社の現状を客観的に評価し、さらには物流子会社の今後の方向性についてアドバイスを受けようという流れになった。
B社で我々を出迎えてくれたのは、今回のプロジェクトリーダーを務める経営企画部長のD氏、そして物流本部長のH氏の二人であった。いずれも本社で物流子会社を管理する立場にある。打ち合わせの途中から両部門の部下や上司が次々と部屋に入ってきて、最終的には六名のメンバーが我々との初顔合わせに参加することとなった。
この段階において早くも大きな課題が見つかった。メンバー各人のC社に対する現状認識と方向性についての思惑がそれぞれ違っていたのである。コンサルタントを起用したのも社内の意思統一が狙いの一つであることが見え隠れしていた。実際のその後のプロジェクトは各メンバーの同床異夢の中で進められていくことになった。
この日から二週間後、ようやくコンサルティング契約の稟議が下り、現場調査を開始することになった。調査対象となる四カ所の工場は全て半径三〇㎞圏内に集中して立地していた。
それを取り囲むように数十カ所に上る外部倉庫を賃借していた。そのうちおよそ半分は物流子会社C社が使用していた。残りはC社を経由せずに親会社が直接、外部の物流会社と契約して使用している倉庫であった。そのことからも分かるように、B社とC社の関係、役割分担には一貫したルールや線引きがなかった。
この現場調査と担当者へのヒアリング、物流関連の実績データ、そして我々がコンサルティングに入る前に実施された、サプライヤーを対象に行われたアンケート調査の資料を持ち帰り、分析を行った結果、以下のような課題が浮かび上がってきた。

①低い生産性
②コストダウン意識の欠如、改善活動の不在
③現場スタッフの高齢化
④親会社のスペック、ルールに基づいたオペレーション
⑤WMS不在
⑥低い外販比率
⑦営業力および活動量の不足
⑧外販に向かない社名

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このうち「①低い生産性」は一人一時間当たりの売上金額を見るだけでも察しはついた。実際、保管機能を中心とした工場併設拠点一カ所を除き、どの現場も人で溢れていた。ほとんどの作業工程がツーマン対応で、我々の視察中にも私語を話しているものがいた。明らかに人員過剰である。
庫内には本日の仕上がり個数がデジタル表示されるボードがあった。生産性目標も設けられていた。しかし、運用は形骸化していた。
庫内レイアウトは入り組んでいた。保管棚を継ぎ足しで増設してきたためだろう。それにより作業動線が長くなっていた。
また入荷検品とピッキング後の出荷検品はいずれもトリプルチェックが基本となっており、品質に関しても過剰と言わざるを得なかった。

現場の「②コストダウン意識は欠如し、改善活動は不在」だった。親会社への見積り金額は基本的に了承されることになっており、料金交渉はタブーとされていた。そのためC社から見れば生産性を上げる必要がなかった。
結果として、親会社の物流コストは下がらず、物流子会社としても外販に耐えるコスト競争力を養うことができないという厳しい状況であった。

外販営業のお粗末な実態
「③現場スタッフの高齢化」も目立っていた。ベテラン正社員が現場労働力の中核でその平均年齢は五〇歳を超えていた。しかも技術修得の目的から、外国人労働者を登用していたが、高齢化した日本人スタッフ達は彼らを戦力化するだけのスキルを持ち得ていなかった。

「④親会社のスペック、ルールに基づいたオペレーション」がその一つの理由であった。親会社から言われたことだけをミスなく遂行していれば十分であったため、〝自ら考え、工夫する〟という風土や習慣が根付いていなかった。そこに長く安住してきた職人的なベテラン社員と外国人労働者という組み合わせは、我々から見れば最悪の運営体制であった。
作業ノウハウがあったとしても属人的で、人に伝えられるものではなかった。従って会社のノウハウになっていなかった。親会社の生産管理システムをベースにセンターを運営し、「⑤WMS不在」であることも、その現れだった。物流ノウハウの多くはシステムによって下支えされる。とりわけ外販を強化するにはWMSをベースにした物流のシステム化が不可欠になるが、C社はそれを欠いていた。

「⑥低い外販比率」は当然であった。数字の上では二〇%弱を親会社以外から売り上げていた。しかし、その中身は全てグループ内の、いわば身内の仕事であり、純粋な外販は皆無に等しかった。外販用の営業拠点として東京と大阪にスタッフを常駐させているが、機能していなかった。

「⑦営業力および活動量」が圧倒的に不足していた。営業専門組織は五年以上も前に設けられていた。しかし、東西の営業拠点をそれぞれ訪れて驚いた。同業他社の物流センターに一〇坪ほどの事務所を間借りしており、デスクが一人分だけポツンと置かれていた。まるでレンタルオフィスである。
営業担当者からヒアリングを行ったところ、一日のうちのほとんどをその事務所で過ごし、営業先候補のホームページをチェックすることに費やしているという。直近一年間で提出した提案書数はゼロ、見積書は二件でいずれも逸注という活動実態であった。
親会社やC社による営業活動の後押しもなかった。明確な営業方針や計画、戦略が経営層から示されることはなく、営業ノルマもなかった。つまり、事実上、放置されていた。今回のプロジェクトメンバーでさえ、C社のホームページを見たこともないという有り様であった。

そもそもC社は「⑧外販に向かない社名」であった。ここで実名を挙げることはできないが、特定の分野、取扱品を象徴する名称であるため、外販ターゲットを限定させてしまっているところがあった。たかが社名とはいえ、やはりマイナスである。社名を決定した当事者たちが、外販のことなど全く考えていなかったことは明らかだった。
このようにC社が物流会社として自立し、生き残っていくために越えなければならないハードルは高く、抱えている課題はいずれも難問であった。どうしてもC社の〝強み〟を見出すことができず、筆者は頭を抱えていた。そんな中、最後に訪れた工場の物流業務で、ようやく一筋の明かりが見えた。梱包設計である。

物流子会社の売却へ
製品マスターの情報を用いて、あらかじめ設定されている基準値に対して、使用する梱材資材の種類、サイズ、強度、梱包画像を表示し、その内容に問題がなければ、発行ラベル、送り状、納品伝票まで対応する梱包・出荷自動化連動システムを構築していた。いわゆる〝3D版梱包シミュレーションシステム〟である。
前工場長の時代に親会社主導でシステムベンダーとともに開発したものとのことだった。当時としては画期的なシステムで見学依頼まであったという。しかし、それから時間が経っている。今となってはどうであろうか。我々は調べてみることにした。すると同様のシステムを既に数社が開発して一般に販売されていることが分かった。
それでも、まだ希望はあった。競合の物流会社がその機能を持っていなければ、C社の売りの一つにはなる。しかし我々はそれ以上の調査をあきらめた。仮にそれが多少のアピールポイントになったとしても、総合的に判断すれば、C社に競争力があるとは言い難かった。物流子会社としてグループの〝お荷物〟になっている事実は変わらなかったからだ。
現在、C社は売却の方向で話が進んでいる。C社を買収すれば一定期間の親会社向け業務の営業権が担保されるはずであり、物流専業者にとっては魅力的だ。現状のオペレーションが効率的とは言えない分だけ、現場の生産性を上げて、収益性を改善する余地は大きいことから、売却先は間もなく見つかるであろう。我々としては、何とかC社が再生・自立の道を選び、改善を進めていきたかったところであるが致し方あるまい。
これから親会社はC社を長年甘やかしてきた代償を支払うことになる。それでも物流子会社の売却は必ずしも後退ではない。売却後の新体制の下でC社が生まれ変わることができれば親会社はコストダウンを享受できる。
こうしてプロジェクトはいったん終了となり、C社の売却先が決まるまでの間、我々は待機することになったのである。