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第127回 事例で学ぶ現場改善:『中規模通販会社G社の物流再構築』

中堅の通販会社からコンサルティングの依頼が入った。本社併設の物流センターで自社運営を続けてきたが、この二年で売り上げが倍増し、オペレーションが追い付かなくなりそうだという。現場を見て素人運営であることはすぐに分かった。物流機能の整備に本腰を入れないと通販会社として飛躍するのは難しいだろう。

売り上げ倍増で問題が顕在化
G社は年商約十二億円の通販会社である。貴金属製品とビジネス雑貨を中心に約三万アイテムを取り扱っている。神奈川に本社ビルを所有し、当初はその一部で物流も運営していた。その後、物量の増加に伴い隣接するビルを購入し、物流センターとして使用するようになった。
通販業は物流のローコスト化と高付加価値化が鍵になる。不十分な管理体制は過剰在庫や欠品の多発も引き起こす。しかし、スタートアップ期から物流を設計できている企業は少ない。多くは坪単価の割高なオフィス併設型の物流センターで、見よう見まねの自主運営で業務を開始する。G社もそうであった。
この二年でG社の売り上げは倍増し、物量の拡大に作業が追い付かなくなってきた。本格的に物流体制を整備する必要に迫られ、我々日本ロジファクトリー(NLF)がそのサポート役を務めることになった。
G社の窓口である商品管理部の物流担当責任者と女性アシスタントの二人を相手に打ち合わせを行った。いずれも若い。しかも、彼等は商品の入荷から保管、出荷、配送手配という流れを、商品管理の側面からとらえているため、物流用語が通じない。打ち合わせの最初の三〇分はなかなか話が噛み合わなかった。
それでも何とか実態を聞き出していったところ、彼等は次の二点を問題視していた。
一つは伝票の種類が多過ぎること。もう一つは出荷検品の精度が落ちていることである。ただし、いずれも数値化して把握しているわけではなく、感覚的な判断だった。そしてG社としては以下の対策を考えているという。

●入荷検品と格納に使用しているハンディ端末(HHT)を出荷検品にも活用する。
スキャンしたコードを元にHHTに商品画像を映し出し、実際にピッキングした商品と照合して確認できるようにする。
●出荷伝票および納品書のレイアウト変更。
●伝票番号と運送番号をひも付けて、ユーザーからの問い合わせにスムーズに対応できるようにする。
●在庫管理精度を上げる。

いずれもシステム投資が可能であればクリアできる内容であった。しかし、その投資効果を判断するには、作業品質や生産性、センターコストに占める人件費の比率などのKPI(重要業績評価指標)を把握する必要がある。
また、このヒアリング段階でG社の物流には明確な作業フローや運営ルールがなく、日々、人海戦術による対応を繰り返していることが判明した。これを受けて我々はシステム投資の前に、現場運営の最適化が不可欠であることを強く訴えた。
その後、本社に隣接した物流センターに場所を移し、現場を確認した。四階建てでワンフロア当たり約三〇〇坪の延べ床一二〇〇坪。貨物用エレベータが一基設置されていた。
築三〇年以上で柱が多く、レイアウトの制約になっていることがうかがえた。現状では空きスペースが発生しているが、現在の調子で売り上げが倍々ゲームで増えていけば二年も経たずにキャパオーバーになるだろう。貨物用エレベータも二基は欲しいところだ。一基では作業のボトルネックになってしまう可能性が高い。
現場のオペレーションにも多くの課題があった。一回りして気になった点をランダムに挙げると以下の通りである。

●ロケーション、レイアウトが無作為に設定されている。そのため作業動線が長い。
●何がどこに保管されているのか、一部の熟練したスタッフにしか分からない状況になっている。
●スタッフの多くは正社員でパート比率が低い。
●庫内が暗い(照度が低い)。

他にも整理整頓の不徹底など、商品管理の側面からも問題になるような課題も多かった。在庫の管理精度が低いことは明白であった。実棚卸の頻度を聞いたところ年に二回だという。月一回の循環棚卸しに、すぐに変えるよう稟議を上げたほうがいいとその場で伝えた。

余分なスペースは使用禁止に
先述のシステム開発については、我々NLFを含むプロジェクトメンバーで、システム開発会社に提出する要件書をまとめることになった。その際に我々は、ピッキングリスト、送り状、納品書を一枚にまとめた「一体帳票」の利用を薦めた(写真)。

「一体帳票」サンプル
iuae.bmp

作業プロセスごとに、ミシン目の切り取り線に添ってリストをちぎっていく。シンプルなツールだが、手間を掛けずにミスなく送り状貼りまで処理できる。
これと並行して次の六点をテーマに掲げて改善活動に取り組むことになった。

①作業フローの作成
②現場運営ルールの決定
③ロケーション/レイアウトの見直し
④六つの「ない」の実践
⑤HHTを活用した作業精度の向上
⑥ビジュアル化を含めた誰もが分かる現場化

「①作業フローの作成」はタイムスケジュール管理がポイントであった。現場では仕入先からの入荷が五月雨式に終日続いていた。その都度、庫内スタッフが入荷検品、格納を繰り返していた。これを改め「入荷は午前中」というルールを仕入先に徹底させた。それを前提に、出荷までの一連の庫内作業のタイムチャートを作成してボードに張り出し、進捗を管理する体制に変更した。
この改善を通じて、低いパート化率が浮き彫りになった。現場作業の半分を正社員で処理している。社員には作業ではなく判断を必要とする業務をさせなければもったいない。そこでパート化率を九〇%まで上げるという目標を立てた。パート数を増やして、社員の一部は物流管理に回す。他はカスタマー部門等に異動させる。成長企業であるため人手を欲しがっている部署はいくらでもある。

「②現場運営ルールの決定」については、朝礼の実施、勤務シフトの提出など、報告・連絡・相談に関する基本的なルールづくりが主となった。

「③ロケーション/レイアウトの見直し」は、作業動線の短縮が狙いである。多層階の利用法に問題があった。最も動線が短い一階を輸入品の備蓄保管に使用していた。長期在庫分を上層階に移し、一階は入出荷作業に必要なスペースのほかに、最も回転率が高い「SAランク」の商品を保管することにした。
当面必要としないスペース、具体的には最上階の四階は全面使用禁止にした。そうしないと、ついつい借り置きや保管棚を置いてしまうようになるからである。その結果、動線が長くなる。間延びしたロケーションに慣れてしまうと在庫量やアイテムが増えた時に棚を圧縮することもできなくなる。「これ以上入りません」「そんなには置けない」という思い込みが染みついてしまうのである。これはG社以外の現場でもよく見られる現象である。
フロア内の動線も見直した。それまでは貨物用エレベーターの出し入れの方向に対して垂直に保管棚を設置していた。そのため棚の向こうで作業しているパートの姿が見えず、動線も長くなっていた。保管棚をエレベーターの搬入ラインと平行の向きに並び替え、他の保管棚は壁面に設置することとした。その結果、〝一筆書き〟の動線が完成し、保管効率もアップした。

「④六つの『ない』の実践」とは、「待たせない・持たせない・書かせない・探させない・歩かせない・考えさせない」作業方法の構築である。
G社の現場は、この真逆であった。従来から棚番地こそ設定されていたが、ゾーン、ストリート番号は皆無で、どこまで行けばその番地(棚)があるのか分からない。ピッキング方法はアイテムごとに総量をピッキングして後から仕分けるトータルピッキングだが、作業動線を示す矢印がないため庫内を右回りするのか左回りなのかも分からない。作業や保管の良い例、悪い例の注意喚起もない。ベテランにしか作業できない現場であった。
対策として二台のハンドリフトを購入、ショッピングカードを流用してピッキングカートとして利用し、トータルピッキングを摘み取り式のオーダーピッキングに変更した。

「⑤HHTを活用した作業精度の向上」はシステム開発会社のメンバーを加えて改善に当たった。従来は入荷〜格納までのハンディ活用に止まっていたが、これをピッキング時と出荷検品時にも利用できるようにパッケージソフトのカスタマイズを進めた。

「⑥ビジュアル化を含めた誰もが分かる現場化」は、パート化率を上げるには不可欠の課題であった。一人前のパートができる仕事を一〇〇として、作業初日でも二〇はできるようにすることをまずは目指した。そのための作業のビジュアル化を〝誰もが分かる〟という言葉で表現し、A3版のラミネートに作業方法を明示したツールを作成した。

ミス率一〇万分の一を当面の目標に
こうして、現場運営の最適化に向けてテーマを設定し、段階的に改善を進めていった。当初は六カ月でスケジュールを組んでいたが、システムの修正作業などに時間が掛かり、おおよそ一〇カ月を費やすことになった。
また途中、システム開発費用の稟議が下りず、どうなることかと心配されたが、投資対効果のシミュレーションを改めて精緻に落とし込み、品質向上のメリット等の小項目まで挙げることで何とかOKを取り付けた。
現在、G社の物流は正常かつ順調に機能している。生産性は一人一分当たりのピッキング行数で四行を目標に置いている。現在の実績値は三・二行である。
品質は一〇万分の一(九九・九九九%)の精度を将来的な目標に掲げ、当面は誤出荷率と在庫差異(数量と金額の両面)をそれぞれ一万分の一(九九・九九%)にすることを目指している。実績はいずれも九九・九二%で未達ではあるが、改善の手応えと施策は見えており、三カ月以内には目標を達成できそうだ。
しかし、筆者に言わせれば通販業は物流業だ。オペレーションの改善にとどまらず、拠点の規模や立地、運営体制まで含めたロジスティクスの再検討をG社に進言するつもりである。