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第129回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社U社の事務・管理体制づくり』

創業以来、順調に事業を拡大してきた物流会社が成長の壁に突き当たった。業界の既成概念にとらわれない経営で顧客をつかむことには成功したが、物流会社に必要な事務・管理体制の整備が遅れていた。その結果、請求書の出し忘れや金額の間違いなどが目立つようになっていた。

らしくない物流会社
U社は近畿地区に本社を置く年商約八億の物流企業である。創業から一八年。輸配送を中心に保管、産業廃棄物回収などの付帯業務にも対応し、毎年一歩ずつ着実に売り上げを伸ばしてきた。
オーナー経営者のS社長はまだ四二歳。二〇代の頃に脱サラで同社を立ち上げた。親の跡を継ぐでもなく、身近に物流業に携わっている人物がいたわけでもない、全くの異業種からの起業であった。そのことが逆に功を奏したのであろう。業界の既成概念や悪しき慣習にとらわれなかったことが、結果としてU社に業容拡大をもたらした。
しかし、それと同時にS社長が物流について誰からも、何の教えも受けなかったことから、U社は物流会社としてのバックオフィス機能、十分な事務・管理体制が整っていないという課題も抱えていた。
初めてU社を訪れ、S社長と面談した時のことである。事務所は倉庫と車庫を併設した、ごく一般的な物流会社の建物であった。事務所玄関に向かう筆者に作業中のリフトマンが「こんにちは」と声を掛けてくれた。教育されているというより自然体の挨拶であった。悪い気はしなかったが、物流会社によくある「いらっしゃいませ」という軍隊調の挨拶に慣れた筆者には少し意外に感じた。
事務所の内部は広々としていて照明は明るく、きれいに整理・整頓されていた。一般の物流会社と比べると贅沢な作りで、事業規模を考えると女性スタッフが多過ぎるようにも感じた。ただし、社長室は設けられていない。無駄と節約が同居しているような印象であった。
パーテーションで仕切られた打ち合わせスペースで待っていると、S社長らしき人物が女性スタッフを伴って現れた。S社長はスーツ姿でも作業服でもなく、今風のカジュアルな服装であった。このあたりも普通の物流会社とは少し違う。それでもオーナー経営者らしく、前置きもなしにすぐに本題に入ってきた。
ここで筆者は同席している女性スタッフを意識した。交換した名刺を見ると「マネジャー」という役職に就いている。初回時から管理職スタッフとして同席した彼女は恐らくU社の運営、実務のキーマンであろう。
U社のような中小規模の物流会社のコンサルティングは、通常ならトップダウン案件である。事前に先方の幹部スタッフたちと我々で根回しをすることはあっても、意思決定はすべてトップ一人に掛かっている。
しかし、U社の場合は打ち合わせに同席した女性マネジャーの意見を最重視して事を進める必要がありそうであった。経営者がやり手の女性幹部に実務を任せている場合には、良い悪いは別にして、その女性幹部が改善手法になじめるかどうか、好きか嫌いかによって、大きくプロジェクトが左右されてしまうことがよくあるためである。
それを踏まえて本題に入っていった。S社長は取り扱い業務の拡大や東・名・阪への展開状況などを熱心に説明し、会社が成長軌道に乗っていることを強調した。実際、売上面では順調な様子であった。
問題はバックヤードであった。事業の成長に社内の管理体制が追い付いていなかった。その具体例として「配車台帳の書き忘れによる請求書の発行漏れが出ている」という。
U社では、電話やFAXで入ってくる車両のオーダーは事務スタッフから三人の配車係に回されて、自社便と傭車に振り分けられる。自社便分は「自社便台帳」、傭車は「傭車台帳」に、配車マンがそれぞれ実績を記入する決まりで、それを元に月末に請求書を発行する。
しかし、自社便分は配車マンがオーダーを手元のメモに書き留めて、すぐにドライバーに指示を出すことがある。台帳記入が後回しにされて、そのまま忘れられがちだった。
U社のような単純な運行管理のやり方でも車両台数が一〇台程度であれば、それほど大きな問題は起きないだろう。しかし、今やU社は五〇台もの車両を保有し、八〇社もの顧客を抱えている。創業当初と同じ仕組みのままでは無理が生じるのも当然と言えた。

原始的な台帳管理が限界に
とはいえ、体制整備に投入できる資金には限りがある。今回のプロジェクトでは我々日本ロジファクトリー(NLF)に支払うコンサルティング費用も発生する。そのため短期決戦で臨む必要があった。
業務の流れと作業方法のチェック、インタビューなどを数日間で済ませ、そこから次の八つの改善テーマを設定した。

①事務所のワンフロア化
②ダブルチェック体制の強化
③台帳レス
④運行管理システムの活用
⑤後決め運賃の解消
⑥請求フローの最適化
⑦請求書発行カルテの作成

S社長と女性マネジャーはこれを承認し、早速、改善に着手することとなった。
「①事務所のワンフロア化」は、必要以上に広い事務所スペースの有効活用と社内の情報連携、いわゆる〝報・連・相〟の改善が狙いであった。その必要性はS社長自身、従来から感じているところだった。そのため今回の改善に先立って、事務作業を行う場所がそれまで同一敷地内の三カ所に分かれていたのを二カ所に集約したという。
それでも事務部門と配車係の仕事場は依然として分かれたままだった。配車マンは声が大きいので女性スタッフたちが業務に集中できないという、理由にもならない理由であった。
普段は雑音にしか聞こえない配車マンのやり取りも必ずしも無駄とは限らない。そうしたインプットがいざという時に役立つ。何が起きたのか、事務所にいる他のスタッフでも想像できるようになるため、結果として職場の生産性が向上する。コンサルティング会社や大手システム会社などでは実証済みのことである。多少の反対はあっても事務所は一カ所に集約すべきであった。

「②ダブルチェック体制の強化」は請求書などのミスをなくそうという狙いだが、従来からダブルチェック自体は実施されていた。ただし、同一人物が自分の仕事を再確認するというやり方だった。これを改め、新たに短時間勤務のパートスタッフを採用して二名でチェックすることにした。

「③台帳レス」はすぐに手を打つ必要があった。U社レベルの規模にもなれば普通は運行管理にパソコンを使う。一度の入力で配車の割り振りから日報の管理、請求書の発行まで処理できるのでミスが減り、作業負担も軽減できる。
それに対してU社の台帳方式は、大型のバインダーに配車の結果を書き込んでいくだけの原始的な仕組みだった。台帳は自社分と傭車分それぞれ一部しか作らない。それを配車マンや経理担当、そして自分の仕事を確認するドライバーたちがそれぞれ利用するため、手待ちが発生していた。

“後決め運賃”にもメス
そこで当面の対策として「台帳方式」を「伝票(個票)方式」に切り替えることにした。配車マンは配車結果をそれぞれカーボン複写式の伝票に書き込み、その写しをドライバーへの出荷指示に、別の写しを請求書の発行等の事務処理に使用することで入力作業の重複と手待ちを解消した。
配車マンや事務スタッフと話し合って、伝票はメモとしても使えるようにA4サイズを採用し、記入欄もできるだけ大きく取った。また各部署の窓口デスクには伝票入れ用のトレイを設けた。
FAXによる車両手配分については伝票に転写する作業が新たに発生したが、そもそもFAXの注文は内容が曖昧で先方に確認を取る必要のあるものが多かったため、起票業務に確認・チェックの意味合いを持たせた。
伝票方式への移行によって、受注から配車、請求の各作業を分散して処理できるようになり、手待ち時間がなくなって生産性は著しく向上した。配車マンの一日当たりの残業時間は一・五時間×三人分減った。別途、事務社員一名の余剰人員も生まれて、来年開設予定のB事業所にスタッフを振り分けることができた。

「④運行管理システムの活用」によるペーパーレス化もいずれは必要であった。実はU社は過去に運行管理用のパッケージソフトを購入していた。事業の立ち上げから間もない初年度の終わりに、わずかな利益の中から次年度につながる投資との思いで、S社長が思い切って購入したソフトであった。
ところが当時は運営規模が小さすぎて導入のメリットが得られなかった。それを物置からほこりを払って持ち出してきたところ、運行管理よりもむしろ請求書の発行に主眼が置かれたソフトで、現在のU社にはうってつけだった。
ただし、配車マン三人に対して端末が一台しかない。月末の締め切り時にも一人で入力作業をするしかない。これを三台に増やせばコストは掛かっても費用対効果は十分であることをS社長に進言して了承を得た。
来年四月にU社は隣県にB事業所を開設して人員増となる。そのタイミングまでにシステムをベースとした新しい業務運営の仕組みを安定化させておきたいところだ。そのために、まずは伝票の定着化を図り、年内の繁忙期を乗り切る必要があるが、ワンフロア化も手伝って大きな混乱は避けられる見込みである。

「⑤後決め運賃の解消」の〝後決め運賃〟とは、実車した後に運賃を決めるという、何とも丼勘定かつ下請けいじめのような行為である。物流業界の悪しき慣習とも言える根深い問題で、この慣習は変えられないとあきらめてしまっている物流会社が実に多い。
しかし、本コーナーでも過去に何度か事例をお伝えしているが、改善は可能である。
例えば、大手倉庫会社や物流会社、物流子会社の下請け仕事をメーンにしている筆者の知人の二代目社長は、まだ配車マンだった頃に元請けとの交渉を根気よく続けて後決め運賃を一〇〇%解消することに成功している。他にも顧客に対する継続的な働き掛けにより、ゼロまではいかなくとも大幅に削減したというケースは少なくない。
そうした他社の成功事例を、U社の営業マン一名と配車マン三名に対して詳しく説明し、交渉の進め方とツールを指導していった。それと同時にS社長には、〝継続した訴え〟によっても変わらない荷主とは取引自体を見直すことも必要であると強く伝えた。後決め運賃の問題は月次損益を出すスピードと精度にも大きく影響を及ぼすからである。

「⑥請求フローの最適化」は、請求書金額の間違いをなくすことが主な目的である。
U社の月次損益のスピードと精度を上げて、トップが素早く正しい経営判断をするためにも必要な改善であった。
そのポイントは傭車先等の協力会社からU社への請求作業を改善することであった。
下請けからの請求がスピーディーかつ正確にU社へ届かなければ、当然ながらU社から荷主への請求に支障を来してしまう。
そのために協力会社を大きく二つに分類した。請求書の締め切り厳守を改めて要請して対応を強化してもらう下請けと、U社側で請求書を作成してしまう下請けとに分けたのである。後者は小規模事業者が対象だ。
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「請求書発行カルテ」を作成
「⑦請求書発行カルテの作成」の「請求書発行カルテ」とは、請求書の発行や入金処理に関する基本情報と注意事項を顧客別にまとめた資料である。初回の打ち合わせに同席した女性マネジャーが従来から自主的に進めていた取り組みであったが、完成に至っていなかったためサポートを行った。
請求書発行に関しては顧客ごとに、「締め日」、「発行日」、「請求書日付」、「到着〆切日」、「宛先担当者」、「振込銀行先」(顧客が財閥系企業等の場合には入金先の銀行を指定されたり、配慮する必要がある)、「入金日」、「その他注意事項」など、多くの条件や取り決めがある。ルールにのっとって対応しないと、処理を翌月に回されたりして入金が遅れることになる。
また、西日本の取引に多いのだが、消費税分を勝手に顧客が値引いて入金してくることがある。そうしたケースがU社でも発生していた。そのために売り上げの集計値と入金実績が合わなくなる。そうした顧客の〝癖〟も「その他注意事項」に記載することにした。
こうしてU社は社内整備を進めていった。
U社は成長の踊り場に差し掛かっていたといえるだろう。しかし、そう恐れることはない。事業が拡大していけば必ず突き当たる問題であり、適切な手を打てば必ず乗り越えられる。
経営はやはり〝勝てば官軍〟である。結局は売り上げが全てを癒してくれると改めて筆者は実感している。