Top > 雑誌寄稿 > 第131回 事例で学ぶ現場改善:『建築資材卸R社のセンター拡張プロジェクト』

第131回 事例で学ぶ現場改善:『建築資材卸R社のセンター拡張プロジェクト』

長年、自家物流を続けてきた建築資材卸の在庫型物流センターが手狭になり、同じ敷地内に移転・拡張することになった。これを機にセンター運営の〝健康診断〟を行った。
現場のオペレーションは一定レベルには達していると評価することができた。それでも山のような改善課題が見つかった。

自家物流の伝統に疑問
R社は年商約八〇億円の建築資材卸だ。営業所は全国五カ所。物流は北関東の在庫型センター一カ所から全国のホームセンターやエンドユーザーに、主に特別積み合わせ便(路線便)で商品を届けている。取り扱いアイテム数は約四五〇〇。特定の商品カテゴリーで幅広い品揃えを行うことで差別化を図っている。
センター運営は代々トップの考えで自前主義を貫いてきた。改善活動ではさまざまな試行錯誤を重ね、また同業他社や先進企業の物流センター見学なども行い、最適な物流センターの在り方を追求してきたという。
われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がR社のコンサルティングに入ったのは、同センターが拡張工事に入ったタイミングであった。売り上げの拡大によって手狭になったことに加え、空調など労働環境面での整備が必要になったことから、同一敷地内に新拠点を建て、そこに移転することになった。
これを機に、センター運営業務と新規事業部門長を兼務する形でF取締役が新たな担当役員に就任した。F取締役は着任後間もなく、「当社は長年、自前主義であれこれ進めてきたが、今回の拡張はこれで果たして良いのだろうか」と、センター運営の在り方と拡張後の運用方法について疑問を持った。
さらには将来、建築需要が減少した場合に備えて、この機会に物流コストと在庫の削減を実施しておくべきだと判断し、われわれにコンタクトを取ってきたのであった。
これを受けてNLFはまず現場調査を行った。そこから以下のような仮説が浮かび上がった。

①スペースが広がっても必要な分だけ使用する(それ以外は使用禁止とする)
②Z字ピッキングの導入
③在庫日数区分に基づく保管場所のすみ分け
④出荷頻度ABC分析による保管ロケーション、庫内レイアウトの見直し
⑤作業動線の整流化
⑥適正在庫日数の設定によるB、Cランク品の棚入れ作業の一括化
⑦保管棚サイズ・通路幅の最適化
⑧協力運送会社の見直し
⑨拡張工事に伴う引っ越しスケジュールおよびプロジェクト管理の最適化
⑩スキャン検品の導入検討
⑪一体帳票の導入検討による貼り間違いミスの削減と生産性の向上

他にも細かなものまで含めると四四項目にも上る改善テーマが見つかったが、上記以外は移転後の第二ステージで改善すべきだと判断した。
「①スペースが広がっても必要な分だけ使用する(それ以外は使用禁止とする)」という改善項目は、R社に限らず、保管スペースを拡張した際に、よく陥りがちな無駄の発生を避ける狙いである。
保管スペースに余裕ができると、往々にして在庫が増えてしまう。しかも作業動線が長くなるため生産性まで低下する。これを予防するには在庫量から積み上げ式に算出したスペースに使用を限定し、当面必要のないスペースは事業が拡張した場合の備えとして何も置かないようにすることが望ましい。
「②Z字ピッキング」とは、ピッキング担当者の動線を上から見たときに「Z」の字を描くように作業する方法である(図)。
iuae.JPG
動線がUの字になる一般的なピッキングよりも通路幅を狭くして、左右両面の棚からピックする。空走距離が短くなるので作業スピードが上がる。ただし、作業者にはワンランク上のスキルが求められる。そのため筆者の経験ではZ字ピッキングを導入できる現場は一〇のうち一つ程度にすぎない。その点で長年自社運営を続けてきたR社の庫内スタッフは作業スキルが一定レベル以上にあり、また資材の荷姿も小物がほとんどであるため、条件が揃っていた。
「③在庫日数区分に基づく保管場所のすみ分け」とは、各アイテムとも七日分の在庫をピッキングエリアの保管棚に置き、残りをR社が「ストックヤード」と呼んでいるバックスペースに保管するというものである。
R社は豊富な品揃えを強みの一つにしていることもあって、在庫過多が常態化していた。それもあって入荷した在庫の大半はいわゆる〝リザーブ在庫〟として「ストックヤード」にいったん格納し、そこから必要な分だけ保管棚に移動するという二度手間を掛けていた。これらのスペース区分も曖昧であった。
そこでこれを改め、在庫日数を七日分で区切って保管場所を明確にすみ分けることにした。それによって先入れ先出しを徹底する狙いもある。

“疑似ABC分析”の落とし穴
「④出荷頻度ABC分析による保管ロケーション、庫内レイアウトの見直し」はわれわれのコンサルティングではおなじみのテーマである。R社では従来から出荷頻度によるABCランク別に各アイテムの保管ロケーションを設定していたのだが、分析のベースとなるデータに注文の「数量」を採っていた。
これをNLFでは〝疑似ABC〟と呼んでいる。アイテム別の受注数量はピッキング作業の回数(スタッフのタッチ数)を必ずしも示していない。そこには注文一回当たりのロットが反映されていないからである。正確な作業頻度を得るには、「数量」ではなく注文の「行数」をベースに分析する必要がある。
実際には、数量ベースの分析でも、Aランク品とCランク品については大きなずれは発生しないことが多い。しかし、Bランク品は同レベルの注文数量でもアイテムによって出荷頻度にかなりの違いが出てくる。商品のライフサイクル上、成長期にあるアイテムと衰退期にあるアイテムが明確になる。また、Cランク以下のアイテムの出荷頻度がいかに少ないか、どれだけ滞留しているのかを思い知らされることになる。
「⑤作業動線の整流化」は、「③在庫日数区分に基づく保管場所のすみ分け」および「④出荷頻度ABC分析による保管ロケーション」と連動するテーマである。保管ロケーション、庫内レイアウトは本来、水が高いところから低いところに自然と流れるように、作業動線をデザインするのが理想である。作業動線がL字型や右折れになるのを避けて、ピッカーの方向転換を極力少なくさせる。ピッカーがあっちへ行ったり、こっちに戻ってきたりしないようにすることが重要である。
「⑥適正在庫日数の設定によるB、Cランク品の棚入れ作業の一括化」も他の項目と連動している。動きの鈍いB、Cランク品は、保管棚の在庫が不足するたびにストックヤードから補充していては効率が悪い。本来は需要予測と発注点管理の改善によってアイテム別の在庫量を適正化すべきだが、まずは応急処置としてセンターに保管する在庫日数を一律で決めて、棚入れ作業を集約していく必要があった。
「⑦保管棚サイズ、通路幅」は明確かつ厳密に基準を決める必要がある。R社ではその基準が曖昧であった。保管効率よりも作業効率および生産性が重要なセンターでは、軽量ラックは高さ一八〇〇㎜が基本である。それ以上高いと、ピッカーは台に乗って最上段の商品を取ることになるため作業スピードが落ちてしまう。ところがR社のセンターには一八〇〇㎜、二一〇〇㎜、二二〇〇㎜が混在していた。そこで新規購入分を全て一八〇〇㎜に統一し、既存のラックも一八〇〇㎜に天板を合わせて修正することにした。
通路幅についてNLFではリフト通路で三〇〇〇㎜、ピッカー通路で一五〇〇㎜を目安とし、リフトの種類、ピッキング台車の大きさ、一方通行など、各現場の特徴に合わせてカスタマイズすることにしている。R社のセンターはリフト通路で二八五〇㎜、ピッカー通路で一四五〇㎜で通常よりやや狭く設定されていた。その幅で適正かどうか、各エリアの作業状況を現在チェックしているところである。

割高な運賃を放置
「⑧協力運送会社の見直し」も必要であった。R社では全ての輸配送を長年にわたり大手路線会社一社に任せていた。大手ブランドの安心感と、専属の積み込みスタッフを現場に一人張り付けてもらっていることもあって、見直しを行ったことがなかった。われわれの見たところ相場と比べて関東以外向けの運賃は割高であった。定期的にコンペを行い、出荷方面別に協力運送会社を使い分ければ、かなりのコストダウンが可能である。増税前の駆け込み需要で現場の逼迫が予想される今年度を待って、今年四月以降に見直しをかける
予定である。
「⑨拡張工事に伴う引っ越しスケジュールおよびプロジェクト管理の最適化」は、取り組み全体の進捗管理と役割分担、効果測定に重きを置いた。トップ直結のプロジェクトチームを組織して、意思決定スピードを早くした。それまでR社は組織横断型のプロジェクトを行った経験がなかったため、大きな効果が出ている。
「⑩スキャン検品の導入検討」は、R社の場合、大きな投資が必要になるわけではないため、取り組みやすいテーマであった。というのもR社はわれわれがサポートに入る前から自社バーコードの発行とハンド・ヘルド・ターミナル(HHT)によるスキャン作業を実施していたからだ。ただし、その対象プロセスが入荷から格納までに限られていた。われわれから見れば、もったいない話である。
肝心の誤出荷の比率は、F取締役に尋ねたところ詳細なデータを取っていないとのことであったが、感覚的には月に一〇件程度ペースで発生しているという。なお物流管理の指標化はR社の弱いところであり、今のところ未着手である。第二ステップではKPIの設定とその運用まで落とし込む必要があるだろう。
HHTを使った検品の導入効果を厳密に検討するには、システムのカスタマイズコスト、スキャン作業によって人工数(人時)がどれだけ増えるのか、それがどれだけの品質向上につながるのかを見積もる必要がある。しかし、納品率の向上はホームセンターをはじめとする大手取引先から強く求められるところであり、効果検証を待たずに必要な施策だという判断が下った。
「⑪『一体帳票』の導入検討による貼り間違いミスの削減と生産性の向上」は、二〇一三年十二月号の本連載でも紹介したテクニックである。「一体帳票」とは、納品伝票、送り状シール、ピッキングリストを一枚に集約した帳票である。これを使用することで単純ミスの発生を防げる。現在はサンプルの作成が終わり、システム会社のデモ待ちの状態である。
R社のセンター運営は同業他社や物流専業者と比較して必ずしも劣っているわけではない。一定レベルの水準は維持していると評価できる。それでも今回のプロジェクトのように節目においては外部からの「健康診断」も無駄にはならない。むしろ進化のためには必要なプロセスと言えるだろう。