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第132回 事例で学ぶ現場改善:『金属品メーカーのソフトランディングな改革』

金属品メーカーの二代目から改善サポートの依頼が入った。業績は堅調だが納期遅れが慢性化して手を付けられない状態らしい。ただし、取り組みには時間をかけてソフトランディングで進めていきたいという。過去の改善活動で大きな混乱を経験したことがトラウマになっていた。

ベテランパートの反発を危惧
J社は年商一〇〇億円の金属品メーカーだ。自動車部品、精密機器、建設資材、ホームセンターなど、ほぼ全てのチャネルに販路を持ち、小物の部品や部材を中心に約八〇〇アイテムを製造している。製品の品質には定評があり、業績は堅調に推移している。
同社の二代目となるA専務から直接、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に連絡が入った。その数日後に初回の打ち合わせと現場視察のためJ社の本社工場を訪問した。
大都市の隣接県ながら市街地からはかなり離れた山中の工業団地にその本社工場はあった。
受付で訪問を告げると、細身の中年男性が女性事務員の案内を受けて事務所の奥から姿を現した。A専務であった。か細い声であいさつを受けた。事前の電話でのやり取りから、筆者なりにA専務の人物像を描いていたが、予想外に線が細く、気弱に見えた。堅実、好調なJ社の業績とのギャップを感じ、一抹の不安がよぎったのであった。
玄関横のスペースに置かれた簡易的な面談テーブルで初回の打ち合わせを行った。慢性的な納期遅れが生じていて、改善が急務となっていることを、A専務は説明した。そのためにわれわれのような外部の専門家のサポートを受ける必要があると判断したという。
筆者はJ社の改善をどう組み立てるべきかを念頭に置きながら、質問を続けた。J社の製品出荷は全て、本社工場から車で五分ほどの距離にある第二工場で行われていた。地域性の強い土地柄で、人員カットはすぐに噂が広まるためご法度だという。
過去に自動車系会社によるピンポイントの改善を行った際、ベテランパートからの抵抗を受け、大きな混乱を経験した。このため今回は短期間で一気呵成に改革を行うのではなく、時間をかけながら、ソフトランディングの形で納期遅れを改善したいとのことであった。
組織のカルチャーに関するこのような情報は、コンサルティングを進めていく上で、改革手法やノウハウ以上に重要なポイントになる。物流活動は現場スタッフとの対話とコミュニケーションが何と言っても鍵となるからだ。
同時にA専務が気弱に見える理由も察しがついた。自信がないのである。A専務は、学校を卒業してから数年後に後継者としてJ社に入社している。前職でマネジメントや改善活動を経験したことはなく、第二新卒に近い状態だったようだ。
一方、J社の現場にはベテランの社員やパートが多く、彼ら・彼女たちは仕事に誇りと自信を持っている。A専務が物申すにはハードルが高い。先ほどのピンポイント改善で現場の混乱を招いた経験もトラウマになっていた。
その後、われわれはA専務の案内に従って本社工場内および第二工場の出荷エリアなどを視察した。製造ラインは全てオートメーション化されていた。整理・整頓や定物定位置、動線および通路の確保などは、生産改善活動の一環としてしっかりと進められており、オペレーションのレベルは高かった。検査ラインも高度なスキルに裏付けられたスムーズなオペレーションが確立されていた。
しかし、出荷ラインは他とは少し様子が違った。現場に入った瞬間にそのことに気付いた。
動線に無駄があり、手待ちが発生している。作業員に対する指示・命令の基本となる帳票の置かれている場所が適切でないようだ。このエリアは少し時間をかけて観察することにした。
この現場視察とヒアリングをベースに後日、次の項目を改善テーマとしてA専務に提示した。

①出庫〜検査〜梱包〜出荷に至る物流情報の適正化
②生産点の見直しと品目別適正在庫量の設定
③納期コントローラーの投入
④外注先管理の見直し
⑤レイバーコントロールの実施

このリストを見て、A専務は「われわれ自身でやりかけていたものもありますが」との注釈付きながら「全て再徹底しなければならない問題です」とわれわれの提案に応じることを承諾した。既に経営の第一線からは身を引いているオーナー社長にも承認を得て、トップダウンでの本格的な改善活動に入ったのであった。

納期コントロール専任者を投入
それから現在まで約三カ月が経過した。先に述べた通り今回は〝ソフトランディング〟が条件であったため、改善期間は二四カ月という長いスパンで設定している。以下にその進捗状況を紹介する。
「①出庫〜検査〜梱包〜出荷に至る物流情報の適正化」とは、モノと伝票の乖離をなくそうという取り組みだ。同社の出荷作業は、アイテム別にトータルピッキングした後、製品の劣化やさびが出ていないか検査を行い、それを注文伝票別に仕分けて袋に入れ、納品先の指定に合わせて梱包するという手順を取る。納品用の荷姿にはバケット、段ボール、小型オリコンの三種類がある。
その作業を視察したところ、製品を仕分けた後、作業者が注文伝票をいったんトレーにまとめてプールしていることに気付いた。それを梱包時に再び仕分け済みの袋と突き合わせ、納品用コンテナに詰めていた。二度手間であるだけでなく、商品と伝票の入れ違いを招く原因にもなる。
これを改め〝情物一致〟を図った。同社は社内の製造工程でかんばん方式を導入しているため、それにならってB5サイズのクリアファイルを導入し、そこに伝票を入れ込んで仕分け済みの袋に添付するようにした。
「②生産点の見直しと品目別適正在庫量の設定」は、在庫の圧縮が目的である。ここでいう「生産点」とは、そのアイテムの在庫量が一定レベルを割り込んだ時に工場が生産に取りかかる、一種の発注点のことである。
J社では生産と販売の連携が全く取れていなかった。販売実績の共有もできていなかった。
営業の販売計画など当てにならないからと、工場は独自に生産計画を立てていた。一応、生産点は決めているものの運用基準は曖昧で、実際には生産効率を優先し、まとめて作ろうとする傾向が強かった。その結果として在庫水準は優に一カ月を超え、それでいて欠品も少なくないようであった。
需給調整の仕組みは現在構築を進めているWMS(倉庫管理システム)に連動させる形で本格的に見直す計画だが、それが完成するまでの当面の対策として、出荷実績を基に品目別の適正在庫量を決めて、生産点を設定し直した。
さらにはプロダクトアウト型のものづくりを、ロジスティクスの「5W2H(Who=発注者、When=納期、Where=納品場所、What=必要な製品、Why=何のために、How=どのように、How Many=数量)」に基づくマーケットイン型のものづくりに転換して、必要以上の在庫を持たないようにする必要がある。考え方としては受注生産を基本に置き、一部のAランク品だけは欠品、納期遅れを防ぐため見込み生産を行う。そのために工場のスタッフを対象とした勉強会を行った。生産活動に支障を来さないようにスタッフを三つのグループに分け、計三回の講習を行った。それに続いて現在は工場の全体フローと作業手順書の作成に取り掛かっているところだ。
「③納期コントローラーの投入」は、今回のプロジェクトの本丸ともいえる納期の改善が狙いである。J社には物流部が存在せず、以前はピッキングから梱包までを生産部門、出荷以降を営業部門という分担で管理していた。そのため作業が連接する現場では「言った、言わない」レベルの小競り合いがよく発生していた。
また出荷作業は営業が管理していたことから得意先のイレギュラー注文にも最大限対応することが前提になっていた。その結果、緊急出荷を意味する「特急シール」が乱発されていた。
これは慢性的な納期遅れも原因の一つであった。あまりに緊急出荷が増え過ぎたことから、現場で「特急シール」は〝狼少年〟扱いされるようになり、その効力を失っていた。悪循環の末、出荷スタッフは納期を見て仕事をしなくなっていた。「納期などあってないようなもの」と考えるくらいに疲弊していたのである。
読者の中には、納期遅れがそんなに続けば得意先は他のメーカーに切り替え、J社の事業自体が成り立たないのではないかという疑問を持つ方もいるだろう。われわれも同じように疑問にぶち当たった。それでも顧客が離れなかった理由は、待ってでも欲しい製品(部材)、つまり品質面で高い支持を得ていたからであった。強度、耐久性、さびないといった強みがあった。しかし、得意先としてもJ社のために仕事を遅らせるわけにはいかない。
その結果、J社への発注は納期に保険を掛けるようになっていた。
われわれはいったん原点に立ち戻ることにした。「特急シール」は廃止し、出荷も生産部門で行うようにして物流管理を一元化した。そして新たに「納期コントローラー」を投入した。納期遅れを是正し、正常な状態に戻るまでの間、納期管理、製造・営業への指示・伝達、直接得意先との交渉などを主業務とする専任者を一人設けたのである。A専務と協議の上、本社工場の副工場長にその役を命じることになった。

“ぬるま湯”体質をリセット
 一方、「④外注先管理の見直し」とは、下請けの協力工場の納期遅れの改善が主な目的であった。A専務がそれを管理する立場にあったが、あまりにも〝ぬるま湯〟だった。協力工場は古くから付き合いのあるところがほとんどで、人の良いA専務は納期遅れにも強く出ることができずにいた。そこで若手の中間管理職(課長)に権限を委譲して協力工場との人間関係をリセットした。これがすぐに効果を発揮した。〝伝えるべきことは伝える〟ようにしたことで、納期厳守が大きく進んだ。
「⑤レイバーコントロールの実施」も、似たような構図であった。ベテランパートの影響力が強く、若手社員がパートに使われてしまっている状態であった。またパートによって作業が固定化されていて、忙しいパートはいつも忙しく、暇なパートはいつも暇という偏りがあった。業務内容と業務量に合わせて人員を配置する形に、これを改めた。ベテランパートたちの理解を得るために何度もミーティングを行い、テストランを開始したところである。
こうして改善活動の開始からまだ三カ月しかたっていないが、筆者は既に四合目までたどり着いたという手応えを感じている。A専務が懸念していた抵抗勢力も今のところ大きな問題にはなっていない。定着化までの期間は圧縮できそうで、当初設定した二年まではかからない見込みである。
また今回のプロジェクトでは、若手中間管理者への指導にも力を入れている。マネジメントのあるべき姿を彼らに伝え、ソフトランディングのみならず、急激な変化への対応や、状況によってはハードランディングも選択できるようにしたいと考えている。そして、それにはA専務の自信回復が必要である。