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第135回 事例で学ぶ現場改善:『イベント資材レンタル業K社の拠点集約』

事業部門別の自社倉庫2カ所と、それぞれ借庫を1カ所ずつ、計4カ所の倉庫を東京に構えていた。その集約がテーマだった。しかし、現場の実態を調査したところ、拠点集約以上に大きな問題が見えてきた。物流の管理体制はもちろん、指示命令系統から人事に至るまで会社が組織としての体を成していなかった。

東京の4拠点を1カ所に集約
K社はイベント関連資材のレンタル、開発、販売業務を営んでいる。年商は約90億円。
業績はここ数年順調に来ている。社員数は約400人。取扱いアイテムは約千。東京、名古屋、大阪にそれぞれ営業と物流の拠点を構えている。うち東京は物流拠点が4カ所に分散していた。その集約が今回のコンサルティングの依頼内容であった。
われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がサポートに入った段階で、同社のS社長と周囲の主だったメンバーたちは既に、東京の4つの拠点を1カ所に集約するという、答えに近い仮説を持っていた。しかし、それを裏付けるための検証が必要であった。
K社は長年にわたり幹部たちの合議制で物事を決めてきた。社長といえども、独断による即断即決は許されなかった。そのためにわれわれのような外部の第三者に、客観的な立場から仮説を診断することを求めたのであった。
「レンタル」「開発」「販売」の3つの事業部門のうち、「販売」事業は仕入先からの直送を行っているため物流拠点は不要であった。一方、「レンタル」と「開発」は、それぞれ自前の倉庫1カ所と外部倉庫1カ所を構えていた。外部倉庫はいずれも自前倉庫がキャパオーバーとなったことで借庫したものであった。
現場視察を行ったところ、両事業の自前倉庫はいずれも小規模で、おまけに住宅街の中にあるため、近隣対策に悩まされていた。加えて、前面道路の道幅と倉庫敷地の手狭さから輸入品のコンテナも直付けができず、外部倉庫を使ってデバンニング(開梱)を行い、それを自前倉庫に横持ちするという状態であった。
そして何より問題ありと判断したのは、明らかに滞留品もしくは不要品と分かる在庫が数多く保管されていたことであった。聞けば1日当たりの出荷件数は40件にも満たないという。迷う必要はなかった。幸い住宅、社員寮などの転用が利く土地でもあるため、倉庫としては撤収することを決めた。
またレンタル事業の100坪強の借庫も撤退の対象として、開発事業で借庫している外部倉庫に全てを集約することにした。その理由としては、本社から最も近く、他のフロアにも空きがあり、拡張性があること。そして、坪単価は決して安価とは言えないが、前に入居していた荷主からの空調設備を安価で譲り受けることができるため、引っ越しのトータルコストとしては安価に収まることであった。
これまで開発事業は、この外部倉庫の4階フロアの一部を使用していた。当初はそれを拡張して約900坪のフロア全体を使用するという計画であった(A案)。それに対して家主の倉庫会社A社は2階のフロア貸し(B案)を提案してきた。条件は悪くなかった。フロアスペースは同じだが、約260坪のメザニンを安価に借り受けられる。
ただし、フロアの構造とコストを検証する必要があった。
まずフロア構造であるが、4階はゾーニング、レイアウトが整備されておらず、フロアラインも引かれていないため、現場スタッフがその場しのぎの使い方をしていた。その結果、無駄なスペースが多く発生していた。通路幅も約4千ミリで必要以上に広く取っていた。
一方、2階は昇降リフト前のメインスペースに中2階のメザニンのための柱がたくさん立っていた。そのために手狭な通路使用を余儀なくされていた。ただし、補修工事を行って〝張り〟を補強すれば柱を取り払うこともできそうであった。
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上表はA案とB案のコスト比較だ。他拠点からの商品の移動(引っ越し)運賃が約350万円、4階から2階への引っ越し作業料が同じく200万円、ラックのばらし、再組み立て作業が同じく300万円など、一つ一つを潰していった。
この他にB案の場合は余計な柱を撤去するための補強工事に約200万円必要であった。それでも2階に移れば年間250万円弱のメリットが出るため初年度で吸収できてしまう。
2階への移転が決まった。時期は繁忙期を避けた1月の引っ越しとなり、それまでにゾーニング、レイアウト、ロケーションの作成と適正在庫の設定を最低限、実施する必要があった。
また後にも触れるが、K社は在庫過多となっており、早急に在庫を減らさなければならなかった。しかし、その圧縮レベルによっては、一時的に倉庫がオーバーフローしてしまう可能性があった。このことを倉庫会社A社に伝えたところ、A社が周辺の他社倉庫を手配する形で3カ月間、バッファースペースを手配できるとの確認を取った。

驚くべき経営実態が明らかに
こうしてハード面の手配は大きな問題なく進んだ。ただし、K社の最大の課題は別にあった。
これらの準備を進める過程で行った現場調査やヒアリング、データ分析、資料チェックから以下のような、とんでもないK社の経営実態が明らかになったのであった。

●K社では社長をはじめ、部下に指示、指導したり、部下をとがめるようなことがなく、全て自主性に任されている。
●同業他社に比べ、社員1人当たりの売り上げが小さい。
●在庫回転率が低く、著しい在庫過多となっている。
●仕入れ発注権者が決められていない。足りないと思えば社員誰もが発注することができる。
●倉庫における営業担当者の商品の持ち出しが多く、またその履歴が残されていない。
●年2回の棚卸しに多大な労力が掛かっており、かつ在庫が合わない。
●各人が自己完結型で仕事をしているためゼネラリストしかいない。スペシャリストが不在である。
●指示命令系統がない(組織図が形骸化している)。
●社員、管理職、経営陣の日々の所在が不明である。
●倉庫における安全管理がない。いつ重大事故が起こっても不思議ではない。
●事業部別に物流を行ってきたため、積み合せなどの工夫がない。
●トップが即断即決を避けるため、物事がなかなか前へ進まない。

ずらずらとネガティブな項目を並べてしまったが、これでも問題のまだ一部にすぎない。
正直なところ、よく今まで大きな問題なく会社が回っていたものだと驚かされた。なぜ、このような状態で会社が成り立っているのだろうか。筆者には、成長市場で事業を展開しているからという以外に、納得のいく理由が考えられなかった。
では、なぜこのようになったのか。それは今までに危機的状況に陥ったことがないためにコスト意識、問題意識が育たなかったこと、そして〝事なかれ主義〟が蔓延してしまったからだと言えるであろう。しかし、これまでは何とかなってきたからといって、2、3年後にはどうなっているか分からない。
今回の拠点集約は、K社の経営の〝パンドラの箱〟を開けてしまったようなものであった。
実は後になって分かったことだが、今回のプロジェクトの窓口を務めたM経営室長は当初からそれを狙っていたのであった。M室長と、そしてS社長の2人だけが、「これではいけない」と認識しており、どこから手を付けるべきかを悩み苦しんでいたのであった。

全社的な改革に発展
これらの問題に着手すべく、あらためてプロジェクトチームを発足させた。S社長をリーダーとして、今回の仕掛けを作ったM室長、営業責任者(部長)、購買・物流責任者(部長)、物流実務者(係長)、システム担当者(室長)という顔ぶれであった。そして以下の改善策を矢継ぎ早に実施に移していった。

●経営感覚を持ち、K社のあるべき姿を描くことができ、かつ実態を把握しているM室長の取締役への昇格と権限の委譲
●倉庫運営に必要なコンプライアンスをあらためて整理し、安全衛生管理項目については最優先で改善を行う
●発注点の設定
●発注稟議(書)制度の導入
●在庫回転率(日数)、稼働率(%)の管理
●営業担当者の倉庫内への立ち入り禁止(倉庫メンバーに依頼して商品を出してもらう)
●棚卸し頻度の見直し。先ずは年2回→年4回に。2年後には月1回にまで持っていく。
●2年後をめどとするシステムの全面改良。WMSを導入して、高いスキルがなくとも物流を管理できる体制を整備する
●ロジスティクス部の新設。「レンタル」「開発」「販売」事務の各業務部を独立部門として格上げ。責任の所在を明確化する。全事業の物流の一元管理を行い、機能集約、共同化の推進、無駄の削減を押し進める。

一連の改革により、年間5800万円のコストダウンが実現した。ここから引っ越しに伴う経費など約1900万円を差し引いても約4000万円の効果が得られた。物流実務者の係長に積極性のある人材を見つけられたことも収穫であった。
人事が全く機能していないというウイークポイントにもメスを入れた。新たにキャリアパスを策定した。K社は平均年齢が若いため30歳でキャリアを線引きした。それまではさまざまな部署を戦略的に異動させて、業務を経験させる。そして30歳を機に特定分野への深堀りに挑戦する。専門分野の軌道修正が可能な予備期間を3年間と設定し、40歳前には執行役員となり、ボードメンバーを目指すというものである。
「物流は経営のリトマス紙」とも言われる。物流にはその組織の良い点、悪い点が赤裸々に現れる。今回のプロジェクトもそうであった。行き過ぎたワンマン経営もそれはそれで問題であるが、K社のような合議制では全てに〝擦り合わせ〟が発生して物事がなかなか前に進まない。スピード経営とはいかないものである。
その最も大きな問題は、経営者自身が大きなストレスを抱えて、結果的に正しい判断を最適なタイミングでできなくなってしまうことである。これにより経営にぶれが生じて、組織は活力を失ってしまう。そのことを念頭に置いてK社の行く末を見守っていくつもりである。