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第136回 事例で学ぶ現場改善:『人手以前に工夫が足りていない』

「人が集まらない」と嘆いている会社ほど、実際には何の工夫もしていない。必要な対策を怠っている。この問題の解決には、即効性のある短期的な改善策だけでなく、人手に頼らない業務の仕組みづくりを目指す長期的アプローチの二段構えで取り組む必要がある。

「人事」が生き残りの条件に
人手不足の影響はわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)がサポートしている物流現場でも明確に現れている。ドライバーやパート・アルバイトの新規採用はもちろん、既存勢力の維持さえ難しくなってきた。
しかし、筆者がクライアントから人手不足の問題で相談を受けたときには、相手の説明をうのみにせずに、まずその現場周辺のコンビニをのぞいてみることにしている。コンビニ店員のほとんどが外国人労働者であった場合には、「なるほど、このエリアの人手不足は相当深刻なレベルに達している」と判断する。
しかし、コンビニ店員が日本人ばかりのエリアなのに人手不足を嘆いている場合は、その会社の努力と工夫が足りていないのだろうと考える。実際には、後者のパターンの方が圧倒的に多い。つまり人手不足を環境のせいにするのは間違いなのだ。やり方次第で人は集められる。まずは具体的な事例を紹介しよう。

●中堅運送会社A社
──ドライバーが集まらない
A社は関西に本社を置き、東京、名古屋にも営業所を設けている年商18億円の運送会社だ。
これまでドライバー不足を傭車でしのいできたが、主要荷主から自社便を条件とする新規業務の依頼があった。そのため新たに大阪で正社員ドライバーの募集広告を打った。ところが全く応募がない。仕方なく募集期間を1カ月延長したが、それでも採用できる人物はいなかった。
こうしたことはA社に限らない。世間に名の知れた超大手ならともかく、中堅以下の運送会社ともなると、最近はわずか数人のドライバーの補充さえままならない。そこでA社は発想を変えた。地方で採用活動を行うことにしたのだ。いわゆる出稼ぎ型のドライバーを狙ったわけである。本社の近くに借り上げ社宅を用意して、南九州で募集と面接を行った。その結果、6人の候補者から2人を採用することができた。

●センター運営会社B社
──パート・アルバイトの退職が続き、定着しない
B社は大阪近郊でスーパー向けの低温物流センターを運営している。主婦人口が多い地域であるため、募集広告を打てば応募はある。定員を満たすこと自体は難しくなかった。
しかし、定着しない。そのために常に募集広告を出し続けている状態だった。しかもパートが作業に習熟しないうちに辞めてしまうので、作業品質が悪かった。
原因を調べたところ、採用のやり方に問題のあることが分かった。早期に補充しようと焦るあまり採用基準を下げてしまっていた。書類選考さえ手間が掛かるという理由で省略していた。その結果として、忙しく、ハードな作業日があると、その翌日から連絡もせずに辞めてしまうパートが続出するような状況になっていた。そのことで他の作業員の負荷が上がり、無断退職が連鎖するという負のサイクルに陥っていた。
そこで社内の関係者を集めて「人が足りないときほど踏ん張る。採用のハードルは下げない」ことをあらためて確認した。そして書類選考を採用の1次審査と位置付け、評価ポイントを明確にした。その結果、採用する人材のレベルが格段に違ってきた。定着率も改善し、作業品質や生産性も上がっていったのであった。

●建設資材メーカーC社
──パートの労働環境を改善
年商約150億円の建設資材メーカーC社は、約50人のパートを使って物流センターを自社運営している。猛暑となった昨年の夏、同センターで立て続けに4人のパートが退職した。いずれも「仕事がきつい」という理由であった。
C社の物流部長はこの事態を重く見た。4人の退職が他のスタッフに連鎖する恐れがあった。
手始めに約2千万円かけて庫内の空調機器を整備。「重い荷物のピッキング作業がつらい」という現場の声に応えて、ピッキングカートと一般台車をそれぞれ5台ずつ購入した。
その後も作業環境の改善は続いている。それだけの費用と手間を掛けても、パートに長く働いてもらうことができればお釣りが来るという考えだ。

《短期的アプローチ》
採用力を上げる
時代は大きく変わった。これまで通りのやり方では人手は確保できなくなった。これは避けようのない事実である。物流業経営者、あるいは採用担当者は考え方を切り替えなければならない。「人」に強くなることがこれからの生き残りの条件といえよう。
「総務」の片手間で採用活動を行うのではなく、365日24時間、“人の事”だけを考える人事専任者の設置が急務である。これは会社の規模とは関係ない。長期的に事業を継続していくには、どんな会社にとっても不可欠なことである。
まず、人手不足を環境のせいにするのはタブーとする。そして具体的に何人が必要なのかを明らかにする。同時に働き手の性別や年齢の幅を広げる。女性はもちろんシニア層や異業種からの採用を視野に入れる。一般に他の仕事との掛け持ちや、1日2〜3時間の短時間勤務を希望する層には労働意識の高い人が多い。そうした多様な人材と多様な働き方を受け入れ、なおかつ採用のハードルを下げないことである。具体的には次に紹介するような対策を一つ一つ進めていく。

●募集媒体の見直し
人材募集広告の媒体として①ハローワーク②有料求人誌と携帯サイト③フリーペーパーまでは、どの会社も使っているはずだ。ポイントは④口コミ⑤紹介⑥学校周り(高校・大学の体育会)⑦新聞折り込みチラシ⑧新聞中広告(スポーツ新聞のタテ求人欄はドライバーの採用には効果的)⑨ポスティングチラシ⑩自社看板──など、他の媒体と①〜③を組み合わせることである。また、拠点や部署単位で募集広告を打つのではなく、全社の採用活動を集約して専任者が当たることで、費用対効果の向上を図る。
ホームページの充実も必須テーマだ。今や応募者のほとんどが事前にホームページをチェックして、この会社は何をやっているのか、どういう商品を扱っているのか、社長はどういう人かを確認している。さらにホームページを家族や友人にも見せて相談している。彼らの意見が待遇面、仕事内容、勤務地、労働条件、時間、福利厚生などの条件と並ぶ応募の決め手になっている。

●選考方法の見直し
パート・アルバイトであっても、採用試験(筆記と実務)や適正判断テストは実施すべきだ。
簡単な読み書きや計算に支障があったり、一般常識を欠いたりした人ではさすがに使い物にならない。
履歴書は「ワープロ不可・手書きのみ」とする。そうしないと他人にワープロで作成してもらう応募者が多く、入社後に文字、読み書きの不出来を発見することになる。
そして履歴書を評価する。その内容だけでなく、切手や写真の貼り方、はんこの押し方、封の仕方なども一つの目安になる。会社名を間違っていたり、履歴書が汚れている(使い回しの可能性あり)、応募封筒の裏面に自分の名前を書いていない、大事な書類の切手やはんこが曲がっていても平気という人は、物流の現場作業という仕事柄いただけない。
世間常識のある人なら履歴書の他、送付状として「選考よろしくお願いします」といったあいさつを便せんに書いてくるものだ。そうした人は志望動機や特技・長所欄もきっちり埋めてくる。
書類審査を経て採用面接を行うときには、面接日時を決めるために携帯もしくは自宅に電話で連絡をする。その対応も重要な評価項目となる。お客さまから電話を受けたときの応対レベルを測ることができる。留守番電話のメッセージを聞いてすぐに連絡をしてくるか、ぶっきらぼうな話し方ではないかをチェックする。「何か持っていく物はありませんか?」「必要な物はございますか?」と尋ねてくるようなら有望だ。
なお一般論だが、派遣やパートの経歴が多い人、4〜5カ所の現場を渡り歩いてきた人には、パート・アルバイトの仕事はここまでと勝手に割り切ってしまう傾向が見られる。
一方で「やっと子育てが終わり、ようやく働きに出られるようになりました」といったタイプの中年女性には、責任感のある優秀な人が多い。

●受け入れ体制の整備
通常の作業マニュアルとは別に「入社スターターキット(レイアウト、製・商品名リスト、社内用語集、名前と写真の入った組織図など)」を用意する。中でも「社内用語集」は重要だ。
ある会社の現場視察で先方の担当者の説明を受けていたところ、「ピッパ」という言葉が出てきた。筆者には何のことか分からず尋ねてみると「ピッキング・パッキング」の略だという。
そうした現場独自の「方言」がコミュニケーションの大きな妨げになり得る。
新人教育には上司とは別に、先輩格のパート・アルバイトをインフォーマルな世話係として任命する。正社員のドライバー職では従来から広く普及しているやり方だが、庫内作業のパート・アルバイトにも効果的だ。気軽に質問できる上、職場になじむまでの時間を短縮できる。
また現場の空調設備や照明(250ルクス以上)の整備、送迎バスの運行はもちろんとして、最近では中堅以下の物流会社でも、三大都市圏や待機児童が多いエリアの物流拠点に託児所を併設するケースが目立ってきた。若い母親層の確保に効果を発揮している。

●定着管理
定着率を数値で管理する。これができていない現場が多い。パートの在職期間などを指標に取って、職場別、業務別、階層別などの切り口で数値の推移を見ていけば、問題がどこにあるのかが明確になる。
退職者が出た場合には、退職の理由を2つ以上聞き出す。筆者はこれまで200人以上の物流マンに転職のカウンセリングを行ってきたが、表面上は円満退社であっても退職には必ず理由となる不満がある。しかも1つの理由だけで退職を決意するケースはほとんどない。
いわゆる“一身上の都合”の他、待遇や労働条件、人間関係など2つ目以降の理由が必ずあるはずだ。それが退職の真の引き金となっている。本人から直接聞くことはできなくても、本人の退職した後に元同僚たちから間接的に聞く形でもよいので、複数の退職理由を把握して改善点を見つけることも重要だ。

《長期的アプローチ》
荷主と共に仕組みを変える
右に挙げた施策を、現状のパイ(就労可能人口)から、どうやって人手を確保するかという短期的なアプローチだとすれば、それと並行して、今後はパイ自体が減少するという前提に立ち、業務の構造を改革していく長期的な対策も必要になる。そのポイントを解説する。

●仕事を選ぶ
作業負荷のある仕事は受けない。もしくは作業負荷に見合った料金を収受する。当たり前のことだが、従来はできていなかった。しかし、現場スタッフが働くに値する時給・給与を捻出できない仕事を続けていくことはもう不可能だ。

●マテハンの導入
コスト効率や作業品質、スピードだけでなく、労働環境の改善という視点からマテハンの導入を検討する。手積み・手降し、走りながらの作業を強要すれば今の時代、“ブラック企業”の汚名を着せられることになる。

●既存リソースの活用
販売物流の帰り便を使ってミルクランで調達する。あるいは販売先に対して引き取りを提案するといった形で既存の輸配送インフラを活用する。トラック輸送から船舶や鉄道へのモーダルシフトを検討するのもいい。

これらの長期的な施策はいずれも荷主と物流会社の協力がなければ実現しない。
採用の募集広告一つ取っても荷主が有名企業の場合は「○○社の仕分け作業です」と広告やチラシに明記することで応募者は安心し反応が上がる。すなわち、荷主と物流会社の協力関係こそが、人手不足を生き抜く最大の鍵なのだ。