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第137回 事例で学ぶ現場改善:『化学品メーカーV社の運送費削減』

軽量でかさ高の製品を多く扱っているため、運送費の支払いが売り上げの10%以上も掛かっていた。拠点によって管理レベルはばらばらで、業務プロセスの標準化もできていなかった。優秀な拠点のモデル化と、全体の底上げを並行して進める必要があった。プロジェクトのスケジューリングが鍵だった。

売上高の10%を超える支払運賃
V社は年商約200億円の化学品メーカーだ。創業の地の山陽地方に本社を置きながら、経営機能の大半は東京に集中させている。アイテム数は約1千。主力製品は2つあり、そのうちの1つは約50%の国内シェアを誇っている。国内7カ所に自社生産拠点を配置し、全国のユーザーに製品を届けている。
同社の製品には、軽量で体積の大きい、いわゆるかさ高な荷物が多い。しかも、時間外受注や小ロット対応など、顧客の要望には最大限応じる営業方針を取っていることから、売上高に占める支払運賃の比率が10%をはるかに超えていた。そのコストダウンが今回のプロジェクトのテーマである。
V社の2代目に当たるA社長は、常に真摯かつポジティブに経営に当たり、日々ハードスケジュールをこなしている精力的な人物だ。それは真面目な人柄の現れといえるが、同時に権限を委譲できる人材が社内に育っていないことも意味していた。実際、幹部と呼べるのは管理部門の役員1人だけで、それ以外の事案は全てA社長の独断で物事を進めていた。
また生産拠点の管理や運営体制は、東日本と西日本で全く異なっていた。整理整頓の出来不出来、配車業務の内製化と外注化、課題解決アプローチのボトムアップ型とトップダウン型などは真逆といってよかった。それぞれのエリアの統括責任者による采配の違いが原因であり、いわば「人に仕事が付いている」状態であった。
プロジェクトの進め方としてはまず、東日本、西日本の主要かつ象徴的な工場をそれぞれモデルとして1カ所ずつ選び、そこで調査、診断、解決方法の提示までを行い、それを他工場に横展開するという方法を採った。
これはV社からの強い要望であった。本来は工場ごとに抱える課題や問題点は異なるのだが、そこは個別の実務指導によってカバーすることで、プロジェクトのスピードアップと費用対効果を上げたいという考えである。
以上を念頭に置いてアクションを起こした。東日本のA工場、西日本のB工場をモデル拠点として、それぞれの現場視察を行い、そこから次のような課題・問題点を抽出した。

東日本・A工場──高い管理レベル
A工場では原料および副資材の在庫管理に「発注点方式」を採り入れており、在庫の無駄はほとんど発生していない。コスト意識が高く、以前から独自に運賃の見直し等の改善に着手している。社内の配車担当者のスキルも高い。
そのためA工場では、協力物流会社に対する運賃交渉(歩合→日建て、月極→日建て)と並行して、新たな仕組みづくりに軸足を置いた抜本的なコストダウンに取り組むことが得策と考えられた。
納品はチャーター便をメーンに遠方やロットのまとまらないものは路線便を使用していた。運送費の削減方法としては、まず東日本全体で路線会社を2社に集約。一括交渉・契約によって値下げを引き出す。路線便貨物を集荷店ではなく基幹店に持ち込み、コストダウンとともに締め時間の対応力を強化する等が考えられた。
チャーター便では協力会社の専属ドライバーが客先で受注に対応していた。これをさらに進めて自動補充にまで持っていきたいところであった。専属ドライバーが客先の保管場所を管理して、一定の在庫水準を切ったタイミングで定数を納入するというやり方だ。
受発注がなくなり、計画的な納品によって輸送費を最小に抑えることができる。
他には工場裏などに管理されていないスペースが見られたことから「5S」の徹底などブラッシュアップが必要なところもあったが、総じて管理レベルは高いため、将来は物流子会社を設立し、外販によって物量を確保してトータルコストを削減するという方法も検討に値すると考えられた。

西日本・B工場──協力会社に丸投げ
一方、西日本の中核拠点であるB工場は、現場運営の基本から着手する必要があった。
まずは拠点内における「6つのない(持たせない、待たせない、歩かせない、考えさせない、探させない、書かせない)」の実践と、誰にでも分かる現場づくりをしなければならない。
またB工場はA工場とは違って配車業務を協力運送会社T社に外注していた。それも使用台数、積載率、実車率などの把握ができていない丸投げ状態であった。貸切輸送と共同配送の使い分けもT社任せで、請求された運賃をそのまま支払っているだけだった。
協力会社のT社はV社のかさ高な製品を、重量勝ちの他の荷主の荷物と積み合わせることで効率化を図っていた。しかし、その恩恵を受けているのはV社ではなく、T社自身と他の荷主であった。
V社の製品を輸送するのであれば、車両はロング・背高の、いわゆる「オバケ車」を使うべきであるのに一般車両が投入されていた。チャーターと共配の使い分けもT社や他の荷主の都合が優先されていた。つまりV社の荷物をベースカーゴとしながらも、V社の物流特性に合わせた運用になっていなかった。
しかし、B工場では生産の遅れが常態化し、日ごろからT社にはかなり無理をさせていた。そのために、荷主という立場ではあってもT社にはあまり強く出られないところがあった。またB工場では緊急出荷のため1日当たり12台もの赤帽を利用していた。全体の1〜2割を割高なスポット輸送が占めていたのである。
全社的な問題としては横持ち輸送の多さが目立っていた。とりわけ超かさ高の製品Xと製品Yは、路線会社に取り扱いを拒否されてしまうことから、工場の近くに納品先がある場合でも基幹工場を経由して、他の製品と積み合わせて専用便で納品していた。各工場が生産する製品の分担を、輸送コストを加えたトータルコストで見直す必要があった。

スケジューリングの工夫
以上のような調査内容を受け、われわれはテーマを整理し、それに優先順位を付けて具体的なアクションプランを設定していった。
ここで熟考しなければならないのが、プロジェクト期間の時間軸である。その会社のスピード感やプロジェクトの全社的な優先度を鑑みて適切なスケジュールを組み立てないと、消化不良を起こしたり、活動が間延びしてせっかくの改革機運を損なってしまうことになる。
V社の場合は短期スパンとして平均的な改善スピードである6カ月を設定した。そして最初の6カ月、つまり第1フェーズにおける具体的な短期実施項目として以下を挙げた。

東日本・A工場──新たな仕組みづくり
●専属ドライバーが納品先の在庫を管理して、需要予測に基づき定数を自動補充する仕組みづくりに着手する。
●取引先に対して工場への引き取りを推奨する。そのためのコストインセンティブ(値引き)を設ける。

西日本・B工場──運営の正常化
●調達物流(原料)の内製化による協力会社T社への業務拡大と、それに伴うコストダウン交渉。
●T社におけるオバケ車の投入。
●スポット便(赤帽)の削減。
●先入れ・先出しによる原料・副原料品質の維持。
●定物定位置の徹底。

全社共通テーマ
●営業、生産から独立した中立的なスタッフ部門として物流課を設置して、全体最適化を図る。路線会社の対応の他、現在は丸投げ状態となっているB工場の配車業務を見える化し、配車の見直しと車両サイズの適正化を進める。
●工場から路線便を出荷する際の荷物の振り分けを、それまでの県別から市(区)別に細分化することで路線便運賃を削減する。
●重量勝ち製品、あるいは高付加価値製品との積合せができる新たな運送会社を発掘する。
●手形での運賃の支払いをやめる。
●「6つのない」の実践。
●帳票類の定期的な改廃。
●ラック活用による保管効率の向上とスペースの確保。
●製品容積を圧縮する専門部隊を新設。
 第2フェーズとなる次の6カ月はいずれも全国共通で以下が主なテーマである。
●各工場の物流実務担当者を対象とした物流研修、管理者研修の実施。
●整理整頓とあいさつの徹底による「現場のショールーム化」。
●各工場で生産する製品の割り当てを見直し、「地産地消」を図る。超かさ高の製品X、製品Yについて、地場物流会社による直送化を推進する。
●製品容積の圧縮を進める。

3回の会議より1回の現場入り
さらに次年度以降の長期実施項目としては以下を挙げた。
●横持ちの解消に向けた地産地消の徹底。既存の生産拠点を、フルラインを生産するマザー工場とAランク品限定のサブ工場に色分け。さらに北近畿、甲信越などのストックポイントで一部の製品を生産し、ミニ工場化する。
●システム利用による在庫の可視化と全社在庫コントローラーの設置による在庫の適正化。
●外販を前提とした物流子会社設立。
●電子受注比率(EOS、ウェブ、メール)の向上。
●コールセンターの設置。納品に関する問い合わせを処理することで顧客サービスを向上すると同時に、営業の負担を軽減する。
●運賃計算ソフトの作成による運賃請求書の自社作成とチェックレス化。
●V社の敷地内に協力工場を移管することを検討する。
●アイテム数の削減。アイテムの絞り込みと別注品の線引きを明確化する。

当初、V社の本社は、プロジェクトを横展開するための各工場に対する実務指導を、テレビ会議システムを使って進めたいという意向を持っていた。プロジェクトメンバーおよびわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)の時間と手間を抑えるためである。
しかし、これは迷わずお断りした。「3回の会議より1回の現場視察」が筆者の持論である。現場は訪れるたびに新しい発見がある。スタッフの士気も分かる。五感で得た情報は他の何物にも替え難い。そのため筆者らNLFのメンバーは各現場に出向き、そこからテレビ会議で東京のプロジェクトメンバーにつなぐという形にした。
この方法を採用したことで、本社やわれわれが予想していた以上に、疲弊している現場の多いことが分かってきた。各工場から提出される課題解決に向けた〝宿題〟の出来も芳しくない。当初のスケジュールのままでは消化不良を起こす現場が出てくるだろう。活動計画を軌道修正する必要がある。そこで現在、スケジュールの再調整に取り組んでいるところである。