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第138回 事例で学ぶ現場改善:『地方食品卸K社の業態改革プロジェクト』

地方都市で酒類・食品卸を続けてきたが年々環境は厳しくなっている。思い切って小売り向けから飲食店向けの業務用卸にかじを切ることにした。しかし、飲食店への納品にはさまざまな付帯作業が発生する。納品先ごとに条件も違う。既存の協力物流会社では対応できなかった。そこで新たに物流会社を設立することにした。

協力会社と共同出資で物流会社設立
K社は、ある地方の3県を商圏とする酒類・食品卸だ。1990年代後半以降、食品卸業界では再編が進み、地方卸が全国規模の大手卸や流通企業に次々と吸収されている。独立系の中小卸の経営環境は厳しくなる一方だ。K社もその例外ではなかった。
今から十数年前に筆者が初めてK社の物流コンサルティングに入った当時、同社の売上高は140億円強あった。それが現在は約120億円に目減りしている。
卸事業だけでは立ち行かないため、K社は同業他社の物流業務を担うことでこれまで会社を存続させてきた。しかし、それだけでは不十分と判断し、従来の一般小売店向けから飲食店向けの業務用卸に大きく軸足を移すことにした。業態改革に乗り出したのである。
飲食店向けの納品には、棚入れや空き瓶の回収、鍵の預かりなどの付帯業務が発生する。
手間が掛かる上、取引先ごとに納品条件は異なる。しかも中小飲食店への掛け売りには債権回収のノウハウが不可欠になるため、大手資本はあまり参入したがらない。地方卸の特徴を生かせる仕事でいったん入り込むことができれば安定した取引が期待できる。
しかし、そこには大きな問題があった。K社がこれまで小売店向けの納品を委託してきた協力物流会社では、飲食店への納品に対応できなかったのである。エリアを絞ってトライアルを実施してみたが、納品の生産性、品質とも悪く、クレームが多発してしまった。
これを受けてK社のT社長は飲食店への納品業務に特化した新たな物流会社を、既存の協力物流会社との共同出資で設立することを決意した。そのサポートが今回のわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)の役回りである。われわれが相談を受けた時点で、新会社設立予定日は2カ月半後に迫っていた。それまでに新会社のスキームとスペックを決めて事業化しなければならない。
新会社設立に当たり、T社長から2つ指示された。1つはK社が物流現場に導入している携帯端末(ハンディー・ヘルド・ターミナル:HHT)によるバーコード管理を新会社でも有効活用すること。そしてもう1つは新人ドライバーでもすぐに戦力化できるように地理情報システム(GIS)を利用したナビゲーションシステムを導入することであった。
この2点さえクリアできれば後はわれわれに任せるという。
T社長はK社の3代目で、理系大学を卒業後、大手日用雑貨卸での修業を経て、K社を継いだ。T社長のシステム好きは昔からで、社内外のメンバーはこの点においてこれまでかなり振り回されてきた。今回のナビゲーションシステムも既に開発が進行中とのことであった。しかし、今回のプロジェクトにはK社の社運が懸かっている。多額のシステム投資の妥当性を慎重に検証する必要があった。
また業態改革を成功させるために、新会社の設立と並行して行わなければならないことが大きく3つあった。
1つ目は「在庫の集約」、2つ目は「ドライバーピッキングの禁止」、3つ目は「仮伝票発行の禁止」であった。
1つ目の「在庫の集約」は、在庫削減とセンター運営の黒字化が目的であった。それまではエリア内の4カ所に配置した物流拠点(支店)に、それぞれ在庫を保管していた。
しかし、そのうち最も規模の大きなS支店でも年間の取扱量は金額にして70億円に満たなかった。効率化を図るには規模が小さ過ぎた。そこでS支店に全ての在庫を集約して、残りの3支店をTC化することにした。
2つ目の「ドライバーピッキングの禁止」は酒類卸業界の古い商慣習にメスを入れようというものである。同業界ではドライバーによる庫内作業の兼務が伝統的に行われてきた。
ドライバーの手が空いた時間に庫内業務をやらせることで人件費を抑えようという発想だが、環境が変わった現在ではデメリットの方が大きい。
そうでなくてもドライバーの確保が難しくなっている現状で、庫内業務も兼務させるということになれば人集めに支障が出る。一方、配送と庫内作業を分ければ責任の所在が明確になり、また積み込み時の検品を強化することができる。
3つ目の「仮伝票発行の禁止」も、やはり酒類卸業界の商慣習に関わる問題である。
酒類卸は街の飲食店に対して長らく仮伝票の発行、いわゆる「ツケ払い」を容認してきた。
前述した通りその債権回収を卸は大事なノウハウとしてきたわけだが、その商慣習を今後も続けていくべきなのかは甚だ疑問である。
ツケ払いが許されるために、飲食店の経営者は脇が甘くなってしまう。銭勘定の感覚がまひしてしまっているところがある。実際、居酒屋やスナック、ラウンジなどの業種は新規参入が他業種と比べて容易なこともあり、つぶれる店も多い。そこで仮伝票を禁止し、その代わりに卸値を下げるという形で商慣習を改革する。別の地方でそれに成功した酒類卸を筆者は知っている。同じことがK社でも可能なはずであった。

過去の失敗を教訓に
新しい業務向け納品会社をつくるに当たり、T社長はその主要メンバーを既に用意していた。
K社からの出向のほかに、T社長が経営する別会社の幹部や地元人脈などから5人が参加する手はずであった。そのうちの誰に何を担当させるべきか、キャスティングがわれわれに委ねられた。
しかし、初顔合わせとなるキックオフミーティングに集まったメンバーたちの風貌を見て、筆者はいささかたじろいだ。新規参加の5人はいずれも筆者が子供のころにテレビで見た「アパッチ野球軍」をほうふつとさせる個性豊かな一匹狼たちで、K社からの出向組も皆一癖ありそうだった。
キックオフミーティングの後、一人ずつ面接して、各人のスキルをチェックした。
皆、ドライバー経験はあるものの、センター運営の経験やスキルはない。在庫の集約先となるS支店の運用責任者が務まりそうな人材は見当たらなかった。
当初、当てにしていた人物の1人は致命的に数字に弱いことが判明した。そこでT社の他地域のスタッフを引っ張ってくることを検討したが、持病の治療で現在の勤務地を当面離れられないという。最終的には消去法になった。既存協力物流会社のセンター責任者を新会社に出向させて、そのままセンター管理者に任命し、当面乗り切ることになったのである。
K社は過去の在庫集約で大きな失敗を経験している。最大の原因は繁忙期の12月に移転を実施したことであったが、それに加えて十分な応援人員を投入したものの、全体を見渡して指示を出す旗振り役が不在であったことが大きかった。今回はこれらの教訓を生かすとともに、センターの引っ越し・立ち上げや在庫移転が失敗する理由の約9割は伝票が発行できないなどのシステムトラブルにあることを伝え、システム検証、進捗管理、テストランの重要性を確認した。
また新センターの運営イメージの目線合わせには多くの時間を費やした。メンバーたちを連れて関東にある同業他社のセンターを見学したほか、K社の現場を繰り返しラウンドして現状のオペレーションの改善点を共有することに努めた。
そしてプロジェクトの工程表をつぶしていくに当たっては、主に次の事項に重点を置いた。

①現行システムの検証
②在庫集約の準備
③在庫量の見直し
④商品マスターの整備
⑤新会社の料金設定
⑥庫内レイアウト・保管ロケーションの見直し
⑦新会社と既存協力会社の業務の線引き
⑧納品カルテの作成

このうち「①現行システムの検証」は、基幹システムとWMSの機能および処理能力を確認して運営体制の変更によって改修が必要になるのか否かを判断することが目的である。
これについては親会社の担当役員が一手に引き受け、「大丈夫」を連呼していた。
しかし、いざふたを開けてみると運営の変更内容が担当役員にほとんど伝わっていなかった。
テストランを行うことも聞いていないという。結果的にはわずかな改修で納まったが、危うく過去の失敗の二の轍を踏むところであった。
「②在庫集約の準備」は、NLFが以前に手掛けた案件の引っ越しスケジュールを叩き台にK社用にカスタマイズした。実施項目のチェックリストも作成、漏れがないように留意した。
また移管当日の応援人員には人材派遣などは使わず、親会社の営業メンバーと既存物流会社の他拠点からの応援で間に合わせることにした。
「③在庫量の見直し」では、集約後の全体の在庫量を従来よりも約25%圧縮することになった。
それをアイテム別の在庫量に落とし込み、必要な棚、ラック数を算出した。しかし、結果的には48パレット分の棚が不足することになってしまった。そこでセンターの通路を圧縮し、棚1列を増設できるスペースを何とか確保した。
「④商品マスターの整備」は、HHTを利用するには不可欠の課題であった。マスターのメンテナンスが不十分であったため、HTTで商品のバーコードをスキャンしてもエラー表示になってしまうアイテムが約1千もあった。それを整理した結果、登録アイテム数は約8千から約4千に半減した。

新会社の料金設定
「⑤新会社の料金」は通過金額に対する料率で設定することが前提であった。それをセンター運営費と配送費に分解するために2つのアプローチを採った。1つは他社の事例からの概算である。センター運営費対配送費の比率を45対55として、それを原価に落とし込んだ。
もう1つのアプローチは原価積み上げ方式であり、この2つを擦り合わせた。その結果、新会社にとっては、やや厳しい料率がK社から提示されることになったが、安定軌道化後の改善によっては何とか利益が出るレベルだと判断した。
「⑥庫内レイアウト・保管ロケーションの見直し」は、当面は在庫移管を優先して前述の棚の増加を先行し、安定稼働後にあらためてアイテム別出荷頻度のABC分析を行い、再設定することになった。
「⑦新会社と既存協力会社の業務の線引き」は難航必至かと想像していたが、トップ会談によって意外にもすんなりと決まった。一般小売店向けの配送だけを従来通り既存協力会社が担い、センター運営、飲食店配送は全て新会社という振り分けである。
また一般小売店ルートと飲食店向けのルートの共配を推進した。K社の営業エリアは地方都市で1ルート当たりの物量は多くない。そのため従来の使用車両は特定荷主の専属車扱いの軽車両と、遠方・共配用の4トン車以上に二極化していたが、その中間に当たる1・5トン車2台を新規に購入して共配の対象を増やした。
「⑧納品カルテ」とは、顧客別の納品条件等を明記した表である。K社の既存フォーマットとNLFのテンプレートを結合する形で新たなカルテを作成した。ポイントは作業手順を明記したことであった。
また納品カルテを新システムのGISナビゲーションシステムに連動させるために打ち合せを重ねた。しかし、開発コストがかさむことに加え、システムが重くなって処理スピードが遅くなることから導入を断念した。
以上がK社のこれまでの取り組みである。この記事が読者の方々の目に触れるころには改革第1弾となる在庫の集約が終わっているはずである。それに向けて現在われわれは準備が万全か、見落としはないかと日々神経を尖らしている。