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第139回 事例で学ぶ現場改善:『部品メーカーH社の現場再生プロジェクト』

オーナー系企業を買収した親会社から新たなトップが赴任した。しかし、現場はひどく荒廃していた。庫内の至るところに在庫や備品が無造作に放置され、来客があっても現場スタッフはあいさつさえしない。社内に改善活動をリードできるような人材も見当たらなかった。

新任社長が直面した現場の荒廃
金属部品メーカーのH社は北関東に2つの工場を有している。年商は約100億円。
長年、オーナー企業として同族経営を続けてきたが、リーマンショック後、自動車部品メーカーG社の傘下に入った。これを機にオーナー一族は経営から退き、G社から新社長を招聘した。
これまでH社は建設機械や自動車関連メーカーに部品を供給してきたが、近年は独自の製品開発が功を奏し、精密機械メーカーにも取引が広がっていた。その結果、主要取引先の5社のほかに約200社の販売先を全国に持っていた。全て受注生産であるため完成品の在庫負担はないものの、調達部品の在庫アイテムは約3万点に及んだ。
H社の現場はひどく荒廃していた。親会社のG社から赴任したJ社長はすぐにそのことに気付いた。情報システム畑の出身だが現場経験も長かったため、どうすれば改善できるのか見当がつく。しかし、それを実行に移せる人材が社内にいない。そこでわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)に白羽の矢が立ったというわけである。
初回の打ち合わせでJ社長の考えをじっくりと聞いた。机上の空論は皆無であり、実にしっかりとした改善イメージを頭に描いていた。われわれは大いに感銘を受けたが、現状ではまだ現場を完全に掌握しているとは言えないようであり、その点はJ社長も自覚しているところであった。
まずはA工場のチェックからスタートした。事前にJ社長から聞いた通り、確かに現場は荒れていた。構内の安全路側帯に出荷品が置かれていたり、仮置き品がてんでばらばらに散在していた。現場スタッフにこちらからあいさつをしても知らぬふり。5S以前のレベルであった。
構内の案内は当方の要望により、調達から出荷までのフロー順に行われた。A工場は主要顧客の4つの工場に対応する形で生産ラインを持っていたが、そのレイアウトは非常に複雑であった。多品種小ロット生産であることに加え、納品先の要請に応じて継ぎ足し拡張を行ってきたことが主な理由であった。
現場視察を進めていて、あっと驚かされる場面があった。部品がさびている。さらに足を進めると屋根のない野積みのスペースに金型や部品在庫が雨ざらしになっている。
過去にも筆者は同様の光景に出くわしたことがある。百歩譲って、二度と使わない金型も中にはあるのだろう。しかし、そこには材料として調達したフレーム板なども含まれていた。お金をドブに捨てているのと同じである。
場内を案内してくれたA工場の担当者はシステム部に属し、J社長が目を掛けている人物のようであった。彼に部品がさびていることを指摘すると「さびを取ればまた使えるんですよ」と返してきた。そうであってもさびを取るという工程が増える。余計なコストが発生する。製品・部品の取り扱いに関する常識が全社的に欠けているようであった。
次にA工場から30キロメートルほど離れたB工場に向かった。B工場の現場の様子はA工場とはかなり違った。あいさつや5Sに大きな問題は見られない。主な納品先が特定の自動車部品工場に限られているため、作業フローもシンプルであった。さらにはバーコードによる個体管理を実施していた。リアルタイムの進捗管理ができているということであろう。
B工場を案内してくれた担当者は社長の右腕であり、プロジェクトのキーマンであった。A工場の担当者と同様、やはりシステム部に属している。このあたりの人選からJ社長の発想の一端をうかがうことができた。その担当者に「A工場とB工場はまるで別々の会社のようだ」と告げると、事実、G社の傘下に入るまでは2つの工場はそれぞれ別会社であったという。親会社のG社が子会社の2社を統合したのであった。なるほど、それなら合点がいく。
このようにH社の現場は問題が山積していた。それを改善するには、もつれた糸を一つ一つひも解いていくしかない。われわれはまず、取り組みの大枠を整理して、以下の課題を短期実施テーマに掲げて、プロジェクトに着手した。

①『在庫=お金』という意識の徹底
②物流KPIの設定
③物流管理専門組織の設立
④野積み保管の禁止
⑤実棚卸し頻度の向上
⑥A工場のレイアウト見直し
⑦B工場の通路幅の圧縮
⑧完成品デポの設置
⑨部品倉庫棚番地の設定
⑩出荷頻度ABC分析によるロケーションの見直し
⑪定物定位置の徹底
⑫多能工化の推進
⑬B工場の生産管理システムのA工場への展開

毎日の朝礼で在庫意識を叩き込む
今回の改善は長丁場になるとJ社長は当初から覚悟していた。しかし、改善のプロを自認するわれわれNLFとしては、その考えに同意することはできなかった。少しでも活動期間を圧縮できるように改善方法、進め方を工夫しなければならない。改善に2年も3年もかけていれば、時代も変わってしまうからである。そこで12カ月、1年間をプロジェクト期間に定めた。
こうして〝ひも解き作業〟が始まった。このうち「①『在庫=お金』という意識の徹底」では、在庫に関する考え方、在庫の見方を変えるために全社講習を実施した。在庫とは、お金そのものであることを説明し、優れた会社は在庫をどう扱っているのか、それに対してH社の現状はどうなのか、どのように変える必要があるのかを解説した。
スタッフの多くは現場一筋のベテラン職人が多く、他社がどのようなことをやっているかなど、教えられたことがなかった。そのため初回の講習では従来の自分たちのやり方を変えることに多くの参加者が抵抗感をあらわにした。
ほとんど同じ内容の講習を2週間後にも行った。さらに3回目からは全体朝礼に場を移し、毎日の始業前のラジオ体操の後に、各工場長から「在庫はお金である、整理整頓を心掛け、安全な現場づくりに1人1人が参加する」ことを、スタッフ全員に確認させることにした。
継続は力なり。当初は形ばかりであっても繰り返すことで想いは伝わっていくものだ。事実、活動の開始から1カ月を過ぎたころから、両工場の構内は少しずつきれいになっていった。
「②物流KPIの設定」では、生産性、作業品質、在庫管理の3つについて、それぞれ管理指標を設定した。それぞれの目標値の設定は第2ステップで行うことにして、まずは可視化を図った。
うち生産性は「人時生産性(M/H)」を作業ポジションごとに算出して、工程別の生産性を一目で分かるようにした。作業品質のKPIは、納期遅れと誤出荷のクレームに対象を絞り込んだ。PPM(100万分の1)単位で出荷行数に対するクレームの発生件数を捕捉する。在庫管理は以前からアナログ管理していた「回転率(日数)」に加え、「デッドストック率」を加えることにした。
「③物流管理専門組織の設立」はJ社長の悩みの種であった。その必要性は痛感していながら当てはまる人材がいないのである。社外から中途採用する案も出たが、ひとまずはB工場の現場視察でわれわれ案内してくれたシステム部門所属の社長の右腕を全社物流課長に任命し、生産管理部門から1人を異動させる形でスタートを切った。
「④野積み保管の禁止」は、J社長をはじめ経営幹部たちが気付いていながらも先送りにしてきた問題をあらためて指摘した格好であった。そのまま放置してはいられないことを確認し、早急にテントドームの設置もしくは屋根設備工事を行うために、予算取りと見積りに動いた。

ベテランの縄張り意識にメス
「⑤実棚卸し頻度の向上」は、現状で年2回の実棚卸しを月1回まで段階的に増やしていき、在庫管理の精度を上げようというものだ。これまでシステム上の在庫に基づいて調達発注を行ってきたが、実在庫と合わないために欠品や過剰在庫が発生していた。
「⑥A工場のレイアウト見直し」は、前述の通り、A工場は建物の継ぎ足しを繰り返しており、結果的に複雑なレイアウトになっていたため、著しく動線が長くなっていた。そこで構内の搬入口から搬出口を可能な限り一筆書きの動線となるようにレイアウトして、ロケーションをゼロベースで見直した。
「⑦B工場の通路幅の圧縮」もレイアウトの問題だった。B工場の通路には主通路と副通路という区別がなく、通路幅は基本的に2200ミリで統一されていた。これはフォークリフトの通路としては狭く、台車用としては広過ぎるという中途半端な幅であった。
また、製造エリアのプレスラインでは、通常のカウンター式フォークリフトでラインへの部品供給を行っていることから通路幅を4500ミリも取っていた。これをリーチ式フォークリフト主体の作業に変えれば3000ミリまで圧縮できる。ただし、フォークリフトを全て入れ替えるのには時間がかかるため、当面は700ミリを圧縮して3800ミリとした。
「⑧完成品デポの設置」も対象はB工場である。自動車業界では組み立てメーカーの工場のそばに、部品メーカーがJIT納品用のデポを置くケースが多い。あるいは複数の部品メーカーをミルクラン方式で集荷して回って、まとめてラインに納品している。
ところが、H社の場合はその対象から外れていた。そのため完成品の在庫で構内が手狭になっていた。そこで納品先とのアクセスの良い場所に、約500坪の倉庫をデポとして借地して、そこで完成品を在庫することにした。構内のスペース確保に加え、顧客サービスを向上することができる。
「⑨部品倉庫棚番地の設定」では、現場を調べたところ過去に棚番地を振った形跡はあるのだが、ほとんど全ての棚の文字が消え失せていた。そこで改めて保管ロケーションに番地を振り、表記し直した。
その棚番地を使って「⑩出荷頻度ABC分析によるロケーションの見直し」を行った。ロケーションづくりの定番とも言えるアプローチだ。部品在庫のアイテム別の出荷頻度を洗い直したところ、過去1年間にわたり1度も使用することのなかったアイテムが全体の4分の1を占めていた。今期は好決算が見込まれることから、これらのデッドストックを期末に廃棄処分することになった。要らないものを捨て、5Sの「整理」を実践するわけだ。
「⑪定物定位置の徹底」は、A工場が特にひどく、フロアの線引きも皆無に近かった。
各スタッフが自分の好き勝手に製品や部品、リフト、パレットを置いていた。全てのロケーションは各スタッフの頭の中にあり、暗黙の了解がまかり通っていた。高齢化した現場やパートスタッフを管理できていない現場によく見られる〝人に仕事が就いている〟状態であった。それを改め、フロアラインを引いて全てのロケーションを明示した。
「⑫多能工化の推進」はH社の生産性向上には欠かせない施策であった。あるラインで手待ちが発生している一方で、山積みされた塗装品に埋れてしまっているラインがあっても応援することはなく、自分の持ち場への縄張り意識が強く根付いていた。
まずは縄張り意識の薄い若手スタッフから育成に着手した。これまでのところA工場で2人、B工場で3人のマルチプレーヤーが育ち、前工程、後工程に対処するようになっている。

活動6カ月で在庫を3割削減
「⑬B工場の生産管理システムのA工場への展開」も、それまで先送りされてきたテーマであった。リアルタイムの進行管理が可能なB工場のシステムをA工場も必要としていることは誰の目にも明らかだった。情報システムを導入するに当たって、フィット&ギャップというアプローチで、属人的なA工場の作業手順をB工場に合わせることもできる。
もともとH社はシステム開発力に強みがあり、J社長自身およびその右腕となっている担当者も情報システムは得意分野である。ところが、他の業務に時間を取られてシステムのことまで手が回っていなかった。
しかも、A工場とB工場は、それぞれ基幹システムが異なっていた。通常、企業の合併・統合では給与体系を含めた人事制度、システム、物流にメスが入るが、H社の場合は2つの工場の対象としている顧客、生産している製品がかなり違うため、システム統合を見送ってきたのであろう。今になってはそれが頭痛の種になっている。フェーズ2で対応すべき課題である。
こうしてプロジェクトの開始から約6カ月が過ぎた。生産性は現在、改善目標の140%に対して125%、在庫水準は40%削減という目標に対して30%という状況である。12カ月を待たずに目標は達成できそうだ。
しかし、やるべきことはまだまだ山積している。それも社員の意識改革や人材など〝深さ〟を求められる課題から、システムをはじめ〝広さ〟のある課題までバラエティーに富んでいる。筆者としてはJ社長が〝長丁場〟とコメントしたタイムスケジュールを少しでも短縮させたいところだが、人材の「質」と「量」の双方の面から、昨今の人手不足がH社にも大きな影を落としている。