Top > 雑誌寄稿 > 第140回 事例で学ぶ現場改善:『地域DSチェーンのセンターレス化』

第140回 事例で学ぶ現場改善:『地域DSチェーンのセンターレス化』

卸が物流会社と合弁で〝物流別会社〟を設立した。売り上げは急拡大している。しかし、利益が出ない。トップが採算性を省みずに仕事を取ってきてしまう。今回の案件も苦戦が必至であった。10店舗足らずのディスカウントチェーンで料金の負担力に乏しい。通常の運用では赤字になるのが明らかだった。

赤字必至の案件を組み立てる
〝物流別会社〟のV社は一般卸から業務用卸にシフトした親会社のA社と、A社が一般卸だった時に物流業務を請負っていた物流会社C社が合併で設立した会社である。
A社のトップがV社の社長を兼務している。A社の業態改革プロジェクトについては本連載で過去に紹介しているが、V社を合弁で設立した目的は業務用卸としての配送機能とセンター運営ノウハウをスピーディーに蓄積することであった。
ちなみに冒頭の〝物流別会社〟という聞き慣れない言葉は、筆者が親会社向けの業務だけを行っている物流子会社とあえて区別するために使っている表現である。外販拡大に積極的に取り組み、親会社の物流コスト削減に貢献するとともに、親会社に頼らず、自立することを目指す会社を指している。
V社はそれを目指していた。その売上高は今やA社やC社を追い越し、年商約160億円まで拡大している。営業エリアもA社が地盤とする地方都市だけでなく、東京、大阪、名古屋の3大都市に展開、次には九州にも進出しようという鼻息の荒さである。
V社は親会社向けの機能を生かして、単なる配送だけではなく、納品時の棚入れや回収、集金、時には注文代行まで対応する、きめ細かなサービスに活路を見いだしていた。
一般用と業務用の両方に対応している外部の卸売業者が、こぞってV社に業務用の納品業務を持ち込んできていた。
ただし、課題も山積していた。何より利益が出ていない。V社に持ち込まれる案件の多くはA社と相手方のトップ同士で合意したもので、開始時期や受託条件などの詳細な内容はもちろん、料金すら決まっていないことがしばしばであった。中には業務用だけでセンターを運用するは規模が足りないケースもあり、利益化に苦労していた。
そんなところにトップ経由でまた新たな案件がV社に持ち込まれた。A社の得意先である地域ディスカウントストア(DS)T社の物流業務委託である。従来から物流を課題としており、調達先のA社が物流別会社を設立したと聞いて頼ってきたわけである。
しかし、物流費の負担力は乏しく、店舗数は10店舗にも満たないという。汎用センターで運営するにも赤字は必至であった。
この案件の組み立てをわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)が支援することになった。V社の主要メンバーとプロジェクトチームを結成した。まずは誰もが考えるであろう、共同配送の可能性を検討した。しかし、T社の輸送ロットは予想以上にボリュームがあり、共同化のメリットは小さいことが判明した。納品時間の制約もあり、一緒に積み合わせるサブカーゴを見つけることも困難であった。
そこで次に「業務範囲」に目を向けた。配送とセンター運営だけでなく、店舗からの受注の取りまとめと受注入力、発注代行、A社がT社をリテールサポートする形のマーチャンダイジング提案(コンサルティング)までを業務範囲に組み込み、これらをセットで受託することを条件とした。
それでもセンターへの入・出荷、格納などのハンドリングコストを捻出することは期待できなかったため、原則としてセンターを使用しないで済む方法を検討した。T社の全9店舗のバックヤードの広さと店舗間の輸送距離、輸送時間をマップと一覧表に整理し、その中から2店舗を店舗兼SP(ストックポイント)拠点と位置付けた。通常は無駄とされる店舗間の横持ちを逆手に取って、店舗在庫ではなくエリア在庫として全体を管理しようという発想である。

欠品問題に直面
それと並行してメーカーからの直送比率の拡大を図った。V社にはサプライヤーからセンターフィーを撤収できるほどのバイイングパワーがない。そうであるなら、メーカー物流をフルに活用すべきと交渉を重ねた。購入ロットが少ないためにメーカーから直送を拒まれた店舗の分だけ、店舗兼SP拠点にまとめて入荷すればいい。
これで大きな枠組みは出来たが、まだ足りない。さらにV社とT社の業務分担を組み替えることによる共存共栄を模索した。そこから店頭の陳列作業と、購入者が自家用車に荷物を積み込むサポートサービスなどの店舗内物流までV社で対応することになった。
それまでT社が業務用の配送に導入していた7台の自家用トラックの使用もやめた。
先述の通り、発注業務も当初からV社で行うことになっている。その結果、T社側では1店舗につき1名のスタッフで運営できるようになった。つまり、T社はチェーンストアのコア業務となる最適立地への出店、値決め、販促に集中し、その他のバックオフィス機能の大半をV社が担うことになったわけである。
しかし、ここで問題にぶち当たった。欠品の発生である。本部で管理しているデータ上では数は足りているにもかかわらず、店頭に並んでいるはずの在庫が店舗兼SP拠点のバックヤードに残っていたり、横持ちの輸送途上にあったりした。DSという業態であるために〝売り切れ御免〟が通用する面もあるものの、定番品の欠品は致命的であった。
これを受けて次の3点の検証が必要となった。すなわち、①在庫の持ち方②横持ち輸送から循環輸送への切り替え③バーコードスキャンの導入──である。
「①在庫の持ち方」について、そもそもT社はDSとしては取り扱いアイテムが多かった。そこで粗利率×商品回転率の交差比率分析に基づき、上位80%のアイテムを残し、下位20%のアイテムをカットすることをT社に提案し、承認を得た。
その上で特売情報と1カ月先までの販促スケジュールを必ず開示してもらうようにして、ビールなどの特売対象品で安全在庫を上回っているバッファー在庫分を、V社のセンターで保管することにした。
また2カ所ある店舗兼SPでは対象店舗の7日分を賄えることを基本として、売り上げが特に増える繁忙期には、年間に数日というレベルだが、トラックを倉庫代わりに使うことにした。
「②横持ち輸送から循環輸送への切り替え」では、エリア内の在庫の偏在を極力減らすために、3トンワイド車2台を横持ち輸送から店舗を循環するルートに組み直し、商品の納品と回収(余分な在庫の引き取り)を行うことにした。ここでの在庫の偏在はV社の担当スタッフによる適正在庫表に基づいて判断する。
「③バーコードスキャンの導入」は、精度を求めるには必要であったが、投資コストを吸収できないという理由で見送りとした。ちなみにV社の他のセンターはどこもバーコードを導入しており、スキャンを徹底している。

管理会計の高いハードル
こうしてT社の案件は何とか軌道に乗った。しかし、これをきっかけにV社の社内では赤字運営となる可能性が大きな業務の受託にはブレーキをかけるべきだとの意見が幹部会の席であらためて提起された。筆者から見ても、トップセールスでダボハゼのようにどんな仕事でも取ってくるというやり方には無理があった。
これを受けてトップをはじめ、営業に関わる人物に、適正な利益を見込める「希望料金/料率」と収支トントンの「絶対料金/料率」を提示し、それに基づいて営業活動を行うというルールを作った。
それと同時に荷主別センター損益、荷主別運送損益を算出する作業に入った。実は肝心の採算自体が従来は明確に把握できていなかった。丼勘定だったのである。
しかし、管理会計が必要であることは誰もが認めるところではあるが、実際にそれを中堅・中小物流会社がやるのは容易なことではない。やり切ることができない会社が多いのが実状である。しかも、V社がメーンとする事業は共同配送と汎用センターの運営であり、ハードルは高かった。
ポイントは経費按分であった。女性の若手経理担当者とシステム担当者を新たにプロジェクトメンバーに加えて、その作業に入った。運送事業の損益は車番別・ルート別の売り上げと原価を、さらに重量当たりの売り上げと経費に分解した。一方、センターの損益は通過金額の料率を重量当たりの売り上げに分解、経費は作業に投入する人時を、タイムスケジュールと実態の差を確認しながら按分していった。
一般に流通業の物流における運送費とセンター運営費の比率は6対4とされる。仮に通過金額の3%の料率で物流を受託しているとすれば、3%×0・6=1・8%が運送収入、3%×0・4=1・2%がセンター運営収入ということになる。管理費はその比率で配賦することにした。
現状でV社はまだ赤字である。しかし、配送ルートの定期的な見直しと営業による納品時間の交渉、イレギュラー業務の削減、センター運営全般での生産性向上などに着手していけば黒字は見込めるだろう。ただし、今回のT社の案件のような無茶振りをされたら元も子もない。筆者にとってしばらく気を抜けない会社である。