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第141回 事例で学ぶ現場改善:『食品メーカーZ社の物流発・経営改革』

日配品を扱う中堅食品メーカーが全体最適化に着手した。製造と販売が別会社に分かれていて、部門間、地域間の連携もない。重度の個別最適に陥っている現状を、物流を切り口に改革しようというアプローチだ。若き3代目社長の大いなる挑戦をサポートすることになった。

部分最適にメスを入れる
Z社は年商約300億円の食品メーカーだ。工場は本社に隣接した1カ所、営業所は全国7カ所、物流センターを8カ所展開している。取扱アイテム数は約250。売上高の約半分が日配品、残り半分が食品原料という構成である。日配品は当然ながら冷蔵対応だが、原料には常温対応でよいものも含まれている。
Z社は工場と販売を別会社に分けている。販売会社が中心になってこれまで、関東エリアの販売物流のコスト改善を自力で進めてきた。しかし、〝部分最適〟によるコストダウンは限界に達したとの判断で、「販売と製造との連携」「関東以外のエリアでのコストダウン」「サプライチェーン改革」という3つのアプローチから全体最適に取り組むことになり、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がそのサポートに入ることになった。
Z社は部門間、エリア間のコミュニケーションに顕著な問題を抱えていた。共有化されている情報は月次損益くらいで、会議体などの全社的な機能や組織はなく、全て部門内完結、現地完結となっていた。
また、NLF側でも、これまでわれわれが蓄積してきた食品メーカー向けの物流改善・改革ノウハウをZ社に適用するに当たり、カスタマイズしなければならない点がいくつかあった。主には次の通りである。

●通常の製品だけでなく原料を販売している
●製品売上高は約150億円でボリュームに欠ける
●必要な情報、データがない(データの所在が分散していて、関連部署にそれぞれ問い合わせなければ入手できない。フォーマットや費用区分も不統一などの問題あり)
●Z社製品の市場におけるポジショニングが不透明
●工場を分散して地産地消型に移るというプランは当面は封印する

このような前提条件を念頭に置いて、現場視察、ヒアリング、インタビュー、売場調査などの仮説検証作業を進めていった。そこから次のように改革のフレームワークをまとめた。

①工場からの幹線物流における共同化と直送化の推進
②関東地区における物流会社および拠点の集約とパートナーの再構築
③中・四国、九州エリアを中心とした地方での共同配送パートナーの見直し
④OEM生産受託も視野に入れた工場稼働率の向上と生産量の拡大
⑤ブランド力の活用
⑥製造会社と販売会社の統合
⑦物流本部の設置とスタッフの専任化
⑧物流子会社の機能の明確化、もしくは清算、売却

これらのテーマを実務レベルに落とし込み、短期(3カ月)、中期(6カ月)、長期(12カ月)に分類して、それぞれ優先順位を決めた。その結果、100を優に超える改善項目が並ぶことになった。それだけ多くの課題を抱えていたわけである。「物流は経営のリトマス紙」と筆者は考えている。Z社の課題は単に物流だけの問題ではないことは明らかであった。

ライバルとの共同化を模索
「①工場からの幹線物流における共同化と直送化の推進」では、2つのアプローチからパートナー候補となる物流会社をリストアップした。1つは「帰り便の活用」である。
他社の幹線輸送の東・名・阪からの下りを使おうというアイデアだ。そしてもう1つは工場を置いているエリア内でのメーカー共配であった。
このうち前者は、めぼしい物流会社にヒアリングしてみたものの、〝下り〟が既に使われているトラックが多く、条件の合うものがあっても不定期のため、安定確保には至らなかった。
一方、後者のエリア共配には数多くのメーカーがリストアップされた。その中に直接の競合先があった。しかし、その物流子会社が外販に積極的で、Z社の思惑とも一致したため、早々に共同化に向けたプロジェクトを発足させた。現在はセンター入れ時間の調整などを進めているところである。
それと並行して、市場で競合しない冷蔵品メーカーの一工場とも話し合いを行っている。これも運賃面で折り合いが付けば契約を結べる段階まできている。
これらの共同化が実現すれば、大きな効果を期待できる。これまでZ社の工場では車両積載率を重視して配車業務を行っていた。それが積載率を気にすることなくコストダウンできるようになる。自社の各センターを回って納品する循環輸送からも解放され、ドライバーの労働時間を短縮できそうだ。
「②関東地区における物流会社および拠点の集約とパートナーの再構築」は、〝少量分散〟の解消が狙いであった。製品と原料を別々の会社に保管したり、特定の販売ルート向けに専用センターを設けたりして、必要以上に拠点が分散していた。しかも、それぞれの拠点の委託先が業界大手と呼ばれる物流会社3社に分かれていた。
Z社の物量および売上規模を考えれば拠点の数を減らし、小回りの利く中堅以下の3温度帯物流会社に委託するのが望ましい。ここではコンペ方式を導入した。この原稿が読者の方々の目に触れるころには、その1次選考を終えている予定である。
「③中・四国、九州エリアを中心とした地方での共同配送パートナーの見直し」は、最重要テーマの一つであった。市場規模の大きな関東エリアは、もともと物量がまとまっている上、それまでに部分最適とはいえコスト削減を進めてきていたこともあり、売上高に占める支払運賃の比率は過去6年間にわたって着実に下がっていた。
ところが中・四国エリアの支払運賃比率は共同配送を利用しながらも、関東地区の3倍、九州地区は4倍というレベルにあった。割高なのは明らかで、ここでのパートナーの見直しはコストダウンに大きく寄与するはずである。
ただし、新たなベースカーゴとなってもらえる相手を探す必要がある。2つのアプローチを検討した。1つは同業他社の大手メーカーのインフラ活用であり、もう一方は地場メーカーである。しかし、今のところコスト効果の問題に加えて得意先センターへの納品時間の調整で難航している。
同じ日配品同士の共配であれば納品時間の問題はないが、それではわずかなコスト削減効果しかないことが分かった。共同化の対象をチルド便まで広げるとベースカーゴのボリュームが大きくなり、コストを下げられる。しかし、その便ではセンター納品の時間が合わなくなるというジレンマに直面している。当初は短期テーマの一つに挙げていたが中期テーマに変更せざるを得ない。
「④OEM生産受託も視野に入れた工場稼働率の向上と生産量の拡大」とは、生産能力に余裕があることから発生している在庫ロスの解消を狙ったものだ。Z社の生産計画は次のような負のサイクルに陥っていた。
販売量が少ない→工場の稼働率が上がらない→見込み生産を行って少しでも稼働率を上げようとする→見込み生産品が実需とずれた分の在庫が残る→許容日期限オーバーとなる→ロスおよびB品となる、といった具合である。
そこで小売りのPBや他社ブランドのOEM生産を請け負うことで、このサイクルを断ち切ろうというアイデアである。同分野はOEMのニーズが高く、Z社が手を挙げれば仕事はすぐに見つかるはずであった。
この案を生産部門にぶつけてみたところ、実は従来からZ社はOEM生産の打診を受けていたが、全て断ってきたという。品質に自信のあるZ社が他社ブランドで生産すれば自分で自分の首を絞めてしまうことになるとの考えだった。しかし、現実にはZ社が断った仕事を同業他社が受けている。その損得をあらためて検証した結果、OEMの商談を再開することになった。

生産・販売の課題に踏み込む
「⑤ブランド力の活用」は、④のOEM生産と同様、物流の範疇を超えたテーマである。
Z社は日本人なら誰もが知っているであろう、ロングセラー商品を持っている。ところが、その知名度が全くと言っていいほど他の商品に生かされていなかった。肝心のそのロングセラー商品も売場のゴールデンゾーンに陳列されながら、他社のブランドの方が目立ってしまっている。パッケージのデザインやPRで負けてしまっているのである。
Z社はライバルメーカーたちが喉から手が出るほどうらやむブランドを持ちながら、〝灯台下暗し〟で自分たちではそれほどの魅力を感じていなかった。そこで今回われわれNLFから直営アンテナショップの開店を含めたマーケティング強化の提案を行った。
次回の取締役会で承認される見通しである。
「⑥製造会社と販売会社の統合」は、製販分離が時期尚早であったことを意味している。
同業界では大手メーカーが同様の分社化を他社に先行して実施していた。それに倣ってZ社も分社化に踏み切った。しかし、Z社の規模では分社化は、そのメリットよりもデメリットの方が大きかった。「製造が見えない」「販売が見えない」「トータルコストが見えない」という部門最適を招き、物流面でも管理・運営業務が重複するなどの弊害が出ていた。
Z社の3代目社長に対し、筆者は思いきって「いったん統合しましょう! そして条件が整った段階であらためて分社化を検討しましょう」と提案し、快諾をもらった。もちろんすぐにとはいかないため、これを中期テーマに位置付け、現在、人事を含めた準備に入っている。
「⑦物流本部の設置とスタッフの専任化」については、われわれがサポートに入った段階で既に物流部は設置されていた。しかし、1名のみの部隊で他業務との兼務となっており、名ばかりの部門であった。業務内容と範囲も不明確で実際には機能していなかった。そこでスタッフを増強して専任化した。
新設した物流本部は物流管理上の重複業務を一本化すること、そして「⑧物流子会社の機能明確化、もしくは清算、売却」が当面の役割となる。Z社は物流子会社H社を持っている。ただしH社の守備範囲は工場内の物流業務にとどまり、全社的な物流管理機能はもちろん、コストダウン提案や改善の実行なども期待できる状況ではなかった。このままでは〝負の遺産〟と言わざるを得ない。それを回避する方法としては、物流子会社の役割を定義し直して活性化するか、あるいは営業権を付けて3PLに売却するといった選択肢が考えられる。この問題についてはまだ結論は出ていない。
この他に、われわれNLFとしては生産拠点の新設による〝地産地消〟も検討すべきだと考えている。それが食品メーカーにとっての正攻法と考えるからだ。工場と消費地の物理的距離を短縮することで輸送コストの削減だけでなく、商品の鮮度向上を実現できる。しかし、これらの施策は言うまでもなく経営の大改革となる。若き3代目社長の背中には大きな重圧がのし掛かかる。そのプレッシャーを少しでも軽減することが、筆者の役目だと自覚している。