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第143回 事例で学ぶ現場改善:『中堅特積み会社K社の憂鬱』

中堅特積み会社の苦境が続いている。全国規模の大手と現場業務に特化した零細への二極化が進む市場の狭間に立たされ、明確な展望を描けないままコストの上昇やドライバー不足に翻弄されている。長年にわたり物流業界の盟主として位置付けられてきただけに改革のハードルは高い。

300億円超と10億円未満に二極化
物流業界ではこれから企業間格差がさらに広がっていくと筆者はみている。昨年の消費増税前の駆け込み需要時が一つの転換点だった。トラックを確保できない物流会社が続出し、それを契機に荷主との値上げ交渉が本格化した。実はこれがその後の明暗を分けることになった。
荷主から見て、値上げを受け入れてでも取引を継続する必要のある物流会社が明らかになったのと同時に、「値上げされるくらいなら、これを機に値上げを言ってこない別の会社に切り替えよう」と、突き放されてしまう物流会社が少なからずあった。取引する価値のないことを荷主から明確に示されてしまったのである。
その結果、日本通運をはじめとする特積み大手と宅配便のヤマト運輸や佐川急便は値上げにほぼ成功した。しかし、中堅以下の特積み会社では一時的に値上げを行ったものの昨年の夏場ごろからの荷動きの悪化を受けて、慌てて運賃タリフを値上げ前の水準に戻し、荷物の獲得に転じたところが出てきている。
今後は二極化がさらに進んでいく。1つは提案営業やコンペを通して直接荷主から受注し、定期的にセンターなどへの設備投資を行い、コンプライアンスも重視する会社群だ。売上規模で300億円以上が目安となる。もう1つは売上規模で10億円未満のオペレーション会社だ。売上高300億円以上クラスの下請けや傭車先として現場を運営する。ローコスト経営が重要であり、福利厚生の完備やコンプライアンスの徹底には手が回らないことが多い。
今回ご紹介するK社は、その狭間で苦境に立たされながら次の一手を打った中堅特積み会社である。年商は約220億円。特定エリアの特積み事業をメーンにしている。
売上規模はリーマンショック後もわずかながら伸びている。しかし、営業利益率は1%に満たず、税引き後利益は出たり出なかったり。大きな事故が発生しなければ何とか黒字になるといった状況であった。
全国をカバーするため、他の特積み会社とネットワークを組んでいる。パートナー各社の売り上げを合計すれば年間の取扱高は2500億円を超える。しかし、収益は各社とも厳しい。ネットワークの物量に頼らず、独自の営業強化とサービス開発を急がなければ、いずれ共倒れにもなりかねないとK社は危機感を募らせていた。
われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がそのサポート役を務めることになった。K社側の窓口は営業全般を見ているS専務と経営企画を推進している執行役員のA氏であった。
S専務は金融機関からの出向組で現場経験はないものの、営業のあるべき姿については明確な考えと実績を持っていた。一方、A執行役員は生え抜きで、社内の実情に明るかった。
両氏とも「われわれには特積み以外の物流についての知見が足りない」と漏らしていた。この2人にわれわれNLFを加えた小規模チームでプロジェクトを開始した。NLFからまず、K社が生き残っていくための戦略(方向性)、戦術(方法・手段)、必要な戦闘ツール(武器)を以下のように提示した。

①拠点設置の強化
②地元エリアの深耕
③特積み・直送サービスの商品化
④他の特積み会社との差別化
⑤トータル物流サービスの構築
⑥巨大市場への進出

それぞれについて説明する。
まずは①について、K社は地盤とする隣県3県に合わせて30以上の営業所を置いている。しかし、東名阪の3大都市圏の拠点展開は十分ではなかった。中でも東京および関東エリアが手薄で、群馬、栃木などの北関東には拠点がなかった。それでは大手メーカーの需要は取り込めない。また地元エリアも、現状で見れば大きな問題のない拠点配置であったが、近く開通予定の高速道路網を活用した商圏の拡大に関して何の準備もしていなかった。
K社にとって②は〝灯台下暗し〟ともいえる課題で、地元発の荷物の開発にはかなりの改善余地があった。地元の商工会議所や工業会、各種団体の名簿をベースに荷主を回るといった、地の利を生かした営業活動をこれまでやったことがないという。営業専任者の不在とドライバー不足が理由として挙げられた。しかし、当該エリアの人手不足は緩やかであり、筆者に言わせれば理由になっていなかった。
また地元には大手組み立てメーカーの工場が2つあった。いずれも部品納品にJIT体制を敷いていたが、その運営は盤石とはいえない状態であった。1次サプライヤーと組立工場を結ぶJIT対応の物流会社となると既に顔ぶれも決まってきた感があるが、2次サプライヤー以降の部品メーカーまでさかのぼれば入り込む余地は十分にある。そうした部品メーカーに対してJIT納品センターを提案することにした。

単体サービスでは生き残れない
③は、特積みとして出荷された荷物でも同一方面が多い場合には、それだけ抜き出して車両を仕立て集荷店、基幹店を経由せず、着店側に直送するものである。リードタイムが大幅に短縮されてコストも下がる。K社に限らず特積み各社の現場レベルでは以前から行われているサービスだが、商品として告知、PRしていないことが多い。これを積極的に荷主に提案していくことにした。
④は、〝言うは易く行うは難し〟のテーマである。一般に特積み会社のサービスは、エリア対応の強弱を除けば横並びとされている。しかし、各社が全く同じであるはずはない。
われわれは議論を重ねた。その中でA専務から、「比較的」という前置きはあったものの、K社は口割れや破損が少ないという話が出た。そこで商品事故件数の実績データを調べたところ、確かに同業他社よりも少なかった。
これなら〝品質の可視化〟によって差別化できる。まずは物流品質のKPIを精査して既存の発荷主にPRする。次いでISO39001(道路交通安全マネジメントシステム)の取得。さらには上記の直送サービスの商品化という3つの方法を具体化することになった。
もっとも後者の2つ、ISO39001の取得と直送サービスは他社よりも先行することでアピールはできても、いずれ追随されてしまうため、差別化の有効期間は限られている。
中堅規模のK社が持続的な競争力を獲得するには、輸送サービスを単体で販売するだけでなく、センター運営まで含めた⑤が必要であった。特積みサービスだけでは、お客さまから預かる荷物の時間的占有率が低く、そのために付加価値をつくり出せない。ただ運ぶだけでは淘汰されてしまう。
過去を振り返っても、特積みの準大手や特定地域を地盤とする中堅は採算の合わない宅配事業から早々に撤退し、特積みと一般(区域)の両方に対応することで生き残りを図ってきた。倉庫事業でもメーカー向けセンターはもちろん、量販店やチェーンストアのセンター運営にまで手を伸ばしている特積みもある。
K社にも同様の展開が不可欠であった。一部では特積み以外の事業も以前から手掛けてはいたが、片手間レベルであり、組織的な対応はできていなかった。大きく経営のかじを切るためにS専務と入念な擦り合わせを行った。

荷主ターゲットを絞り込む
⑥はビジネスの基本ともいえるテーマだ。大きなマーケット、たくさんの魚が泳いでいる池に釣り糸を垂らさなければ、苦労や努力は実を結ばない。具体的には関東を中心として近畿と東海を商圏に取り込む。そして首都圏では自動車、電機といったGDPシェアの高い製品に特化した営業展開を行い、首都圏以外の地方は〝よろず屋〟対応とした。
マーケットサイズが大きく荷動きのある「業界」と「荷姿」でターゲットとなる荷主を絞り込んだ。「業界」は自動車、電機、精密機械、機械。「荷姿」は、かさ高品、重量品、割れ物、精密品など、他の物流会社が敬遠しがちな荷物に一歩踏み込んで需要をつかみ差別化を図ろうという戦略である。
このターゲッティングに基づき荷主候補企業のリストを作成した。営業方法にはあえて飛び込み営業を取り入れた。1回目の飛び込みで物流部署や責任者(キーマン)を聞き出し、その情報を基に2回目の訪問のテレアポを取る。相手の企業からは「間に合っている」と断られることも当然多いだろうが、その場合でもK社の地元エリアに向かう荷物で困り事はないかを必ず確認してPRする。
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営業ツールは2つ。1つ目は機密保持の〝誓約書〟で、初回訪問時の商談開始直後に提示する。これに対して反応が鈍い荷主はコンプライアンスに力が入っていないと判断する。
2つ目のツールは〝決め打ち提案書〟だ。荷主のホームページや各種資料から得た公開情報をベースに勝手に課題を推測し、その解決策を提案する。
こうして中堅特積み会社K社の生き残り戦略を急ぎ落し込んだ。しかし、残念ながら今のところはK社の血肉にはなっていない。やらされ感が強い状態である。
K社と同様の課題を抱えている特積み会社は他にも多く見受けられる。物流業界において特積み会社は長らく盟主として位置付けられてきた。しかし、荷主から見れば特積みは輸送サービスの一つにすぎない。物流全体を見ず、〝井の中の蛙〟のままで特積み会社が今後も生き残れるとは思えない。