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第144回 事例で学ぶ現場改善:『業務用雑貨卸K社の物流改善』

基幹システムの刷新に併せて、WMSの構築を前提にセンター業務を見直し、卸としての機能強化を図りたいという。しかし、プロジェクトの推進役を託されたのは、幹部の肩書きを持たない入社2年目のスタッフで、物流実務に詳しいわけでもなかった。コンサルタントの脳裏を一抹の不安がよぎった。

WMS構築に向け〝在るべき物流〟探る
業務用雑貨卸のK社はある地方都市に本社を置き、支店を3カ所設置している。年商は約40億円。取り扱いアイテム数は約8千で、同規模の同業他社と比較すると3割程度は多い。
その地域の特性として顧客には小規模事業者が多く、〝よろず屋〟的な対応が求められていることを象徴していた。
ホームページでわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)の存在を知り、コンタクトを取ってきた。K社側の窓口であるH氏との顔合わせと現場見学のために同社に赴いた。H氏は入社してからまだ2年余りで高い役職を与えられていなかった。同社の二代目でナンバー2の常務直轄の立場にあるとのことであったが、果たしてうまく切り盛りできるのか、プロジェクトの行く末に一抹の不安を感じたことは否定できない。
それでも、現場を一通り見学した限り、K社の物流の運営レベルは決して悪くはなかった。それどころか筆者の知る同規模の同業他社よりもずっと優秀だった。在庫の不一致、誤出荷、労働時間の長時間化などの課題に直面しているとのことであったが、ハンディーヘルドターミナル(HHT)を導入してバーコード管理を行い、小ロット品の保管棚にブックエンドを利用するなど、ロケーションやレイアウトに工夫が見られた。
会議室に戻ってH氏との打ち合わせを再開した。K社は近く基幹システムの刷新を控えている。それに伴い、卸の重要な機能である物流においても、WMSの導入を前提として、さらなる高度化を図りたいという。われわれNLFの役どころは物流の〝在るべき姿〟を設定し、システム開発における要件定義書の内容を固めること、そして改善活動の実務支援であった。
それからしばらくしてH氏からあらためて連絡が入った。WMSのシステムベンダーも決定し、正式にプロジェクトをキックオフするとのことであった。その後の諸手続きやシステムベンダーとのやり取りから、筆者が当初H氏に抱いていた不安は払拭されていった。むしろその手腕に感心するようになっていった。
H氏は社歴が浅く、部下も持たない立場にありながら、百戦錬磨のベテランがそろう営業や購買、物流など、それぞれの部門間の調整を付け、上長である常務、そして創業者でありオーナーである社長からスムーズに社内稟議を取り付けた。
H氏は物静かな人物で、頭脳明晰ではあっても、調整業務や物流実務に長けているようには見えなかった。しかし、これは後で分かったことだが、その分、彼は社内からの信頼を得るために努力していた。
物流現場で遅くまで作業が行われていると聞けば必ず応援に入った。外線電話は率先して取るようにして、K社の事業がどのような環境にあるのか理解するように努めていた。社内の企画会議や社外への提案にも積極的に参加して、レジュメの作成やデータ解析などの役を自ら買って出た。そうやって徐々に周囲から認められるようになっていったのである。
プロジェクトの開始に当たり、常務との会談がセッティングされた。NLFから見たK社の現状とこれからの物流の在り方を説明し、常務の考えや思いを聞いた。その結果、大いに意気投合することができた。
実は常務も長年にわたり外の会社で働いており、家業であるK社に移ってからそれほど日がたっていないことが分かった。こうして良い意味でK社の昔からの習わしやしがらみなどに縛られずに現状を客観的に評価できるメンバーが集まり、取り組みが本格的にスタートした。

新しい棚卸し方法を検証
われわれは着々と情報収集を進めていった。そして、ある月末最終日、棚卸し業務のトライアルを実施した。われわれNLFのメンバーとH氏、そして今回のトライアルの主役ともいえる、センター長のY氏、庫内のパート従業員のほか、受注・発注、管理、総務などの内勤スタッフも応援に集まった。
それまでメーカー順に行っていた棚卸し作業をロケーション別に行うことで業務を効率化しようという狙いだった。ロケーションに合わせた在庫表を出力、在庫数を読み上げる人と数字記入者がペアになって、それぞれ割り当てられたロケーションで商品の実数を確認していく。
現場に集合したのは朝8時。昨日分の受注入力と返品処理伝票の入力待ちでスタート時間は予定より大幅に遅れてしまったが、いざ始まると順調に作業は進んでいった。棚卸しのメンバーにはH氏も加わっていた。手慣れた内勤スタッフやパート従業員と比べると、ぎこちなさがあったが黙々と在庫表に数字を記入していた。
この棚卸し作業を通して、いくつかの発見があった。一つはパート従業員スタッフ、内勤スタッフの優秀さである。大半が現場をよく知っており、自分の担当エリアが終わると〝手待ち〟を良しとせず、「次はどこに行けばよいですか」と必ずYセンター長に尋ねてくる。
Yセンター長による日頃の意識付けのたまものだろう。また棚番地には商品コードが添付されており、システム化に向けた環境が既に整っていた。
今回のプロジェクトのゴールは決して遠くはないことを筆者は予感することができた。その一方、一連の調査とトライアルから以下のような改善課題も見つかった。

①〝手待ち〟の解消
庫内作業チームと受注処理チームを統合し、同じフロアで業務を行うようにして、出勤したパート従業員がすぐに作業に取り掛かれるようにする。そのために出荷頻度ABC分析によるロケーションの見直しを行い、センターの2階フロアに保管型商品を集約、受注処理とピッキングを1階のワンフロアで完結できるようにする。

②ピッキング方法の見直し
ピッキングは各通路の入口に台車を止めて、作業員が棚から摘み取った商品を運んできている。全通路を台車で通過できるよう、庫内レイアウトを改めて動線を短縮する。

③HHTの徹底活用
検品時だけでなく、格納時、ピッキング時のHHTスキャンを徹底する。

④作業生産性の可視化
HHTのデータを利用して人時生産性を算出し、適正人員の見直しを行う。

⑤商品マスターメンテナンス
バーコードの付いていない商品については、センターでオリジナルバーコードを発行しているが、それをマスター登録した「バーコードブック」の精度に問題がある。そこで定期的なメンテナンスをルール化する。ただし、商品の改廃スピードはそれほど速くはないため、定期メンテナンスの回数は年4回とする。

⑥棚番地サイズの拡大
視認性を高めて、〝考えさせない〟〝探させない〟現場を実現する。

⑦センター長の役割の高度化
センター長のY氏の〝暗黙知〟をマニュアル化し、他のスタッフやパート従業員と共有化する。それによってYセンター長を実務から解放し、マネジメントと改善活動に集中させてセンターの運営レベルを向上する。

パート従業員が改革を後押し
これらの課題を一つ一つ地道に落とし込んでいった。もともと自主性が高く、スキルも高いパート従業員たちであるため、彼女たちの自信を傷つけることのないよう、つまりモチベーションを下げないように、現場の意見を吸い上げることに細心の注意を払った。
しかし、最大のポイントはパート従業員よりも、センター長のY氏であった。常に現場を優先し、プレイングマネジャーとして黙々と作業に当たってきたY氏は、改革に後ろ向きというわけではないもの、自らが管理業務に徹することを望んでいるわけではなさそうであった。
こうしてプロジェクトの開始から約3カ月が経過して、当初のスケジュールを少々修正する必要が出てきた。想定していたよりも早く新たな作業が定着していた。優秀なパート従業員たちが改善内容を納得し、自分たちで取り組みを推し進めたことが大きかった。これを受けて新たに「物流品質の可視化」と「パート従業員やアルバイトへの評価制度、表彰制度」を改善項目に加えることにした。
システム会社との打ち合わせは峠を越えた。現在は発注点と適正在庫量の検証を間もなく終えるところで、後は開発業務に入ることになる。
先日、H氏から在庫差異に関する報告データが届いた。金額ベースでは0・03%の差異に収まっている。アイテムベースの差異数の算出を待つ必要があるが、システム導入前の段階としては合格といえるであろう。
センター長の役割の高度化もいよいよ始まった。Yセンター長が自ら進んでレベルアップを図ろうとしているとはいいがたいのだが、現場に配備されている2名の社員とパート従業員スタッフたちが、Y氏から作業レベルの業務をどんどん奪っている。その結果、Y氏は否応なく管理業務と改善活動に取り組まざるを得なくなっている。これもY氏の人徳といえるだろう。
そしてH氏は、めでたく部長に就任した。K社にとっては新参者ではあるが、今回のプロジェクトの成功と、これまでの周囲への配慮、そして組織に溶け込もうとする地道な努力が認められた。しかし、H氏が安心するのはまだ早い。今回のプロジェクトは当初の12カ月を「ステージ1」と位置付けているが、次のステージ2では足回りの輸配送の改善、そして3支社への横展開が待っている。