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第145回 事例で学ぶ現場改善:『化学品メーカーR社の物流子会社活性化』

本業は順調だが、物流子会社の運営を課題としていた。外販に打って出て活性化を図りたいところだが、それだけの実力があるのか、親会社には判断が付かなかった。物流コンサルタントを招いてプロジェクトチームを組織した。現場の実態を調査したところ、予想以上に問題が山積していることが判明した。

子会社2社×4工場に管理が分散
R社は年商約280億円の化学品メーカーだ。中堅規模ながら業績は好調で収益性も高い。
国内に4つの工場と12の支社(営業所)を展開し、海外にも東南アジアを中心に3工場を置いている。取り扱いアイテム数は約350。各地の支社もしくは代理店経由で、ユーザーの工場に製品を供給している。
今回のコンサルティングのテーマは、R社の2つの物流子会社のてこ入れであった。
輸配送をメーンとするA社と、庫内作業のB社である。その業容拡大を図るため、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にサポート役を務めてほしいとの依頼であった。
昨今、メーカーの物流子会社は外販力がなかったり、親会社にコスト貢献していないと判断された場合には、売却されてしまうことが珍しくない。R社はそうした流れに逆行し、物流子会社を活性化したいと考えていた。ただし、物流子会社の実力を、社内で客観的に評価することが難しいことから、その点でもわれわれに助言を期待していた。
社長室、管理部、経営推進室のメンバーが中心となってプロジェクトチームが組織された。
チームの中には、A社とB社がどのような業務を行っているかさえ把握していない、というメンバーも含まれていたが、われわれNLFに同行する形で、そうしたメンバーも現状を把握していくことになった。
物流子会社の概略を聞いた限り、外販の拡大は容易ではなさそうだった。2社はいずれも親会社への売り上げ依存度が95%を超えており、事業規模は2社を足し合わせても20億円程度だという。しかも、法人格が分かれていては一貫したサービス対応は難しく、管理業務の重複でコストも割高になっているはずだ。
そこで3段階のステップを踏んで改善を進めることにした。「ステップ1」はコスト削減だ。
まずは、現場の〝無駄取り〟と効率化を徹底する。年間1億円のコスト削減を目標に置いた。
次の「ステップ2」で事業化を図る。物流子会社2社を統合し、外販拡大に打って出ることで自立を目指す。そして「ステップ3」で、グローバルネットワークの最適化に取り組む。このシナリオをプロジェクトチームから役員会に提出して承認を取り付けた。
R社の工場は東北、関東、関西、九州に分散しており、われわれと一部のプロジェクトメンバーは実態調査のため、文字通り東奔西走することになった。
4工場がそれぞれフルラインで生産を行い、担当エリアのユーザーへ直送する〝地産地消〟が原則であった。生産遅れなどの異常が発生したとき以外は、工場間の横持ちや荷合わせの必要はないため、物流は各工場に付随する形で独立して運営されていた。
A社とB社がそれぞれ4工場に2人の幹部社員を出向させて、残りのスタッフを現地採用して運営体制を組んでいた。4工場は作業基準や規則がばらばらで、情報の共有化や一元管理は行われていなかった。
A社とB社の業務内容は、輸配送と倉庫ですみ分けていると聞いていたが、実際には明確な線引きがされていなかった。入出荷作業は2社のスタッフが一緒に仕事をしているため、在庫差異の責任所在が不明確であった。その一方、A社とB社間のコミュニケーションは不十分で、情報伝達のスピードと精度に問題があった。そのために、〝手待ち〟や〝配車の組み直し〟などの無駄が発生していた。
またA社、B社とも、各地の工場が主戦場であるため、本社・本部機能が働いていなかった。4工場の現場がそれぞれ別会社のようになっており、2社の事務所も別の場所にあった。そのため実態としては物流子会社2社というより、4工場×2社で8社の現地作業子会社があるようなものだった。
このようなサプライズを目の当たりにしながら、プロジェクトチームは改革・改善の方向性を決めていくプロセスに入った。ステップ1のコスト削減、無駄取りと効率化のターゲットとしては、次の項目に着手することとなった。

①在庫削減と場内保管スペースの確保による外部倉庫の撤廃
②傭車比率の向上による自社車両の売却
③傭車運賃体系の見直し
④適正人員の算出に基づく人員の再配置
⑤給与体系の見直し
⑥物流KPIの導入

また、ステップ2で実施する予定の物流子会社2社の統合と外販拡大に向けた整備の一環として、新たに外部の物流会社を協力会社に加えて競争原理を導入し、A社とB社の企業体質を強化することが不可欠であるとの判断に至った。

在庫の半減を目指す
このうちのステップ1における①「在庫削減と場内保管スペースの確保による外部倉庫の撤廃」は大きなコスト効果を期待できる施策であった。東北工場を除く3工場では、工場施設内に収まらない在庫を保管するため外部倉庫を利用していた。中でも関東工場は外部倉庫が10カ所にも分散していた。
しかし、保管業務を担うB社は親会社に対して1坪当たり1500円の保管料を一律で収受しており、外部倉庫では逆ざやが発生していた。従って在庫を削減できれば、B社の損益は向上する。
在庫の過剰は明らかであった。営業部門から提出される売り上げ見込み、つまり需要予測が甘いことに加えて、工場も作りだめする傾向があった。資材の発注点管理も精度が低かった。そのため完成品だけでなく、海外から輸入する原料在庫も適正水準を大きく超えていた。船便のリードタイム、海外での生産遅れを加味して安全在庫を持つ必要があるのは分かるが、それが行き過ぎていた。
工場長と協議を行い、原料在庫と製品在庫をいずれも現状の約半分にするという目標を立て、その実現に向け動き出した。幸い工場内には余剰スペースおよび遊休地があるため、外部倉庫はすぐに解約し、在庫が半分になるまでの間は敷地内にテントドームを設置し、そこに原料在庫を保管することにした。

 ②「傭車比率の向上による自社車両の売却」は、自前主義の見直しを意味している。
東北工場と関東工場ではこれまで、一部の遠方かつ小ロットの納品に特積みを使う以外は、A社の正社員ドライバーによる自社便で輸配送を行っていた。
R社の製品には危険物もあることから、製品特性を理解した専門ドライバーが、安全・確実に運ばなければならないという意識が強かった。しかし、ピーク時に合わせてリソースを用意しているので、閑散時には車両とドライバーを遊ばせていた。
確かに危険物を取り扱うことのできる物流会社は限られている。しかし、これまでは対応可能な物流会社を探すことさえしていなかった。そこでNLFが共同配送の利用を前提に協力運送会社候補をリストアップして、積載率・稼働率・配送効率の悪い車両の分から傭車化に取り組んだ。
そのツールとするために顧客ごとに詳細な納品条件を明文化した「カスタマーカード」と「作業手順書」を刷新した。それを傭車先に伝達して、運用開始後は月1回のペースで安全会議を実施するという方針を立てた。
初年度は傭車比率10%を目標にした。2年目は20%、3年目は30%と毎年10ポイントずつ比率を高めていき、50%まで持っていく計画だ。
この取り組みによって早くもリースを解約する形で自社車両を減らすことができた。閑散期の空車の解消に向けて大きく動き出した。

一方、③「傭車運賃体系の見直し」は関西工場と九州工場が舞台である。両工場は従来から傭車比率が12%〜15%で自前主義は脱していたが、運賃の契約方法が月額チャーター制で、車両が不要な日や欠車時にも課金されていた。自社製品の特殊性とイレギュラー出荷への対応を重視するあまり、車両を抱え込んでいる格好だった。そこでこれを1日当たり運賃に改めることにした。

物流子会社の労務管理にもメス
④「適正人員の算出に基づく人員の再配置」では、構内物流と庫内荷役を担うB社の就業規則を変更して、中間管理職の転勤を解禁した。そして人員不足に陥っていた関東工場、関西工場へ、それぞれ東北工場、九州工場から係長クラスを異動させた。
就業規則の変更は労働組合との交渉が必要になる。しかし、今回はB社の就業規則を親会社に合わせる形だったので大きな反発は起きなかった。そもそも「雇用は絶対に守る」という親会社の方針がなければ、東北工場と九州工場は人員削減を迫られていたところだろう。

⑤「給与体系の見直し」は、A社とB社を将来統合する上でも必要な施策だった。両社ともに手当の種類が多く、給与計算も複雑であった。そこで皆勤手当を廃止し、残りの手当については能力手当に一本化した。実質的に月額給与はダウンするが、勤務評価による賞与(一時金)でカバーする一般的な給与体系である。またA社に所属する長距離ドライバーは完全固定給であったため、一部歩合制を適用した。

⑥「物流KPIの導入」は、R社には特に必要な項目であった。1人1日当たり、もしくは1時間当たり、どれだけの作業量を処理するのか、その目安さえ存在していなかった。
工場の生産計画に合わせてスタッフを出勤させているものの、閑散時には手待ちが多く発生していた。いわゆるレイバーコントロールが機能していなかった。
まずは作業・業務を数値で〝見える化〟する必要があった。その上で余剰人員は稼働率の高い関東工場や関西工場に振り分ける必要がある。また閑散時には他の業務を取り込む。
さらにステップ2に入った段階では、工場の受注業務を取り込んで、物流子会社の事業領域の拡大を図る計画だ。
こうして改善に着手してから約3カ月が経過した。間もなく外部倉庫の撤収に伴うコスト削減効果の集計が出るところだが、ステップ1で目標とする年間1億円の削減はかなりハードルが高いと言わざるを得ない。事業規模が大きくないため、各施策の削減効果も限られてしまう。コスト削減目標を絶対とするなら、R社が聖域としてきた領域にメスを入れることも、これから必要になってくるかもしれない。
このR社のように物流子会社をどうするべきかという問題に、あらためて頭を悩ませている会社が非常に増えている。少子高齢化による労働力不足、国内マーケットの縮小、販売チャネルの多様化など、物流をめぐる環境が大きく変化したことで、これまで後回しにしてきた課題が牙をむき始めた。
その子会社の物流市場におけるポジショニングが明確で、競争力のある〝強み〟を持っている場合は、売却という選択肢を取ることも可能だろう。しかし、筆者の目から見れば、物流子会社の多くは中途半端であり、必要条件を満たしていない。それを安直に統合しても問題は解決しない。売却や買収などのマネーゲームが先行すれば危険でさえある。
親会社はまず自分のコア事業は何なのか、そこに物流はどう関わっているのか、どれだけのリソースを物流に配分すべきなのかを、整理しなければならない。その上で物流インフラを強化したい、あるいは物流労働力を確保する必要がある、というコミットメントができるのであれば、コストは上がっても子会社を本体に吸収することまで検討すべきだろう。