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第146回 事例で学ぶ現場改善:『機械部品メーカーE社の物流見直し』

物流センターは関東圏に2カ所あり、製造部門が管轄している。一方で営業部門も全国の営業所ごとにデポを設けて在庫を持っている。在庫は過剰で欠品も多い。しかし、責任の所在が不明確で、物流管理の専任部署もない。誰もが問題観していながらも、これまで放置されてきた。そこに初めて本格的にメスを入れた。

100件もの改善項目が並ぶ
E社は年商120億円の機械部品メーカーだ。国内工場1カ所の他、タイと中国に自社工場を置き、日本への輸出だけにとどまらず、現地企業への販売や欧米への輸出も行っている。
日本では全国7カ所に営業所を展開している。取扱アイテム数は約3千。うち自社製品は海外工場からの輸入分も含めて9割、他社からの仕入品が1割という構成だ。大部分は各地の販売代理店経由で全国の工場やホームセンターに納品される。
物流センターは工場隣接型センターと、グループ会社の工場跡地に建設した専用拠点の2カ所。いずれも関東圏にある。そのため関東圏以外の営業所では、それぞれ独自の判断でデポを構えて必要な在庫を確保している。
E社の親会社はホールディングス制を敷いており、E社はその中核企業という位置付けだ。持ち株会社レベルでもE社の物流改革については以前から幾度となく改革テーマの一つに挙げられてきた。しかし、他のテーマが優先されて、これまで後回しになってきたという。
そこにようやくメスが入ることになった。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がそのサポートに入ることになった。E社の物流体制は、その概要を聞いた限りでも、次のような構造的な問題を抱えていることが分かった。

●前年の実績をベースにした見込み生産で、過剰在庫と欠品の発生が常態化している。
●物流センター機能が東日本に集中している。しかも、2つのセンターはそれぞれ違う  アイテムを在庫しているため、注文の大半で荷合せのための〝横持ち輸送〟が発生している。
●物流センターからの出荷と、各営業所で在庫を持ち、営業担当者が直接納品するやり方を併用している。つまり商物一致と分離の混合である。

物流の領域だけでなく、営業や製造まで踏み込んだ改革が不可欠であるのは明らかだった。
プロジェクトチームの発足に先立ち、まずはNLFがE社の物流の現状を診断することになった。必要な資料、データを入手し、ヒアリングを実施した。2つの物流センターの視察に加え、北は北海道から南は福岡まで、全国の営業所を回った。どの拠点も過剰在庫、不動在庫の多さが際立っていた。
また入出荷作業に携わっているスタッフの多くは物流の基礎を教わったことがなく、棚番もない庫内で、日々ひたすら目の前の仕事を処理しているという状態であった。庫内ロケーションやレイアウトなど、全てはベテラン社員の暗黙知に委ねられていた。大掛かりで長期的な改善が必要であった。
この調査をベースにNLFで100近くにも上る改革・改善事項を抽出していった。それを短期・中期・長期のテーマとして整理し、優先順位付けを行った。そのうち短期で取り組む主要テーマは次の通りである。

①拠点の統廃合・新設
②物流専門部署の設置
③見込み生産の精度向上
④協力輸送会社の見直し
⑤在庫金額の30%削減

このうち①「拠点の統廃合・新設」については、持ち株会社でも既存施設の活用などの仮説を持っていた。それに対して、われわれはE社の物流の〝在るべき姿〟から出発し、同社の〝強み〟と実情を加味したプランを提出し、持ち株会社の意向との妥協点を探っていくことになった。
その結果、関東圏に2つあった物流センターは、工場隣接型センターの1カ所に集約することになった。幸い工場隣接型センターは敷地に余裕があった。そこで千坪を増床し、「整理・整頓」によって既存スペースからも200坪の空きを生み出し、計1200坪を確保した。そこにタイ、中国からの輸入も含め、フルラインで在庫を保管して、工場倉庫をマザーセンター化した。
これによって、それまで2つのセンター間で発生していた横持ち輸送が不要になり、輸送費の削減と出荷リードタイムの短縮が実現した。また従来は、1回のオーダーの納品が複数に分かれてしまう「分納」も一部で発生していたが、その問題も解消された。
一方、北海道、東北、名古屋、大阪、福岡の各営業所のデポは、スペースを2分の1から3分の1に縮小し、出荷頻度の高いAランク品だけを保管することにした。また中国・四国エリアに対応するデポとして、新たに岡山で外部倉庫を賃借した。
本来であれば、営業所から在庫を引き上げて、商物を完全に分離すべきだろう。しかし営業体制、すなわち商流の整備ができない状態で無理に商物分離を進めれば、短納期を求める顧客に対応できず、命取りにもなりかねない。
そこで商物分離と拠点集約は時期尚早と判断し、中長期のテーマに位置付けた。輸配送インフラの見直しと在庫の持ち方の変更、生産および輸入品の調達フローの整備を済ませたタイミングで実施する計画だ。

長期にわたる改善活動を覚悟
②「物流専門部署の設置」も不可欠だった。これまで2つの物流センターは製造部門、各営業所のデポは営業部門がそれぞれ管轄していた。いずれもメーンの職務の片手間で物流を管理している状態であった。在庫差異が発生しても責任の所在は不明確であり、原因を解明して改善するという習慣自体がなかった。
今回のプロジェクトを機に物流専門部署の新設を社内稟議に上げ、承認を得た。総勢3人にパートスタッフ1人という小所帯ではあるが、営業、製造にも属さない中立的な組織として物流本部が設置され、初代本部長には前副工場長が任命された。
物流部門の一般的な役割を下記の表にまとめた。E社の場合はそこに挙がっている項目のほとんどが手付かずの状態であり、課題は山積していた。それでも現在、同本部の設立から約1年がたつが、物流品質の可視化まで何とかこぎ着けている。
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③「見込み生産の精度向上」は段階を踏んで進めている。E社の場合、受注生産は現実的ではなかったが、前年実績ベースの需要予測を、できる限り実需に近づけていく必要があった。その一環として中期テーマには、生産単位の小ロット化、発注点管理に基づく在庫の適正化、さらには製造部門に受注データ処理機能を設けることなどの施策が挙がっている。
その準備段階となる短期的な施策として、テレビ会議システムを使って製造部門と営業部門が定期的に需給調整会議を行い、前年実績ベースの予測値に修正を加えることをルール化した。これによって、B、Cランク品の必要以上のまとめ生産と、Aランク品の生産の後回しが大きく修正された。

④「協力輸送会社の見直し」も実施した。配送はこれまで大手特積み会社2社に任せていた。しかし、納品先はほとんどが物流センターであるため、共同配送便や中堅以下の特積み会社でも問題はなかった。
そこでNLFが候補をリストアップして、方面、輸送ロット、リードタイム、料金を基に輸送会社を使い分けるようにした。その結果、支払運賃を13%削減することができた。
ただし、輸送会社の使い分けには管理の手間が発生するため、E社の物量が現状よりも2割増えて年商150億円になった段階で、元請けとなる配送会社2社を設定することを予定している。

⑤「在庫金額の30%削減」は、通常であればハードルの高い目標であるが、E社の場合は短期テーマに位置付けた。改善に着手する前の在庫回転日数は2カ月近くに達しており、在庫の過剰が誰の目にも明らかだったからだ。
そこで前述の拠点の統廃合と見込み生産の精度向上を進める一方で、不動在庫の処分・終売を実施した。また物流センターと営業所のデポでは、それぞれ適正在庫を算出し、その結果を所長会議で共有、専務からトップダウンで在庫削減の指令を下した。営業成績が良い営業所ほど在庫削減のスピードも速かったのが印象的であった。中長期では在庫日数10日を目標とした削減に取り組む計画だ。

こうしてE社の改善活動は、未着手のテーマがまだ数多く残されているものの、これまで物流が放置されていただけに、楽しくなるほどの成果が挙がっている。もちろんプロジェクトチームのメンバーたちの頑張りもその一因となっている。いずれのメンバーも課題を消化する能力が高く、行動力がある。
中長期的には、優良代理店の物流機能の活用や、物流本部のスキルアップ、物流情報システムの高度化が課題になる。年商が180億円規模にまで拡大した場合には物流センターの東西2拠点化も必要になるだろう。
持ち株会社のトップからは「どんどんやってくれ! 小ロット化や受注生産化にしても、今まで手を付けようにも付けられなかったところだ。良いチャンスだ」と激励の言葉をもらっている。
今回のプロジェクトが、コンサルタントをはじめとする社外の力を活用するきっかけにもなっているようだ。これまで同グループは物流に限らず自前主義を原則としてきた。
中途採用にも積極的ではなかった。しかし、それではスペシャリストが育たず、適任者不在のまま課題が放置されてしまう。トップはそう痛感し、今後のプロジェクトの動向と成果を見極めた上で、社員をコア業務に集中させる形で自前主義からの脱却にかじを切ることを念頭に置いている。筆者としても長期戦を覚悟している。