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第147回 事例で学ぶ現場改善:『原料メーカーJ社の供給網再構築』

工場1カ所から全国のユーザーに製品を供給してきた。必要に応じて借庫を重ねた結果、工場周辺に11カ所もの外部倉庫を賃借する状況に陥っていた。現場では輸送効率を重視し、協力運送会社のドライバーに手積み・手降ろしを強いていた。物流コストに利益を圧迫されるのも当然だった。

物流担当者が仕向地を把握できず
J社は年商約900億円の原料メーカーだ。日本全国に顧客を抱え、営業所を北海道、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の7カ所に構えている。取扱アイテム数は約220。東海エリアにある生産工場1カ所から、外部倉庫を利用して各地の得意先工場に製品を出荷していた。
同社の社長秘書T氏から連絡が入った。社長の指示で動いているという。外部倉庫の集約を視野に入れて、物流を最適化したいという内容であった。J社は国内シェア35%を誇るトップメーカーでありながら、営業(商流)と物流がかみ合っておらず、物流コストに利益を圧迫されていた。また過去に何度か経営コンサルティング会社を利用したこともあるが、物流に特化したコンサルタントの起用は今回が初めてで、以前よりも深く物流にメスを入れたいとのことであった。
われわれ日本ロジファクトリー(NLF)からの初期提案およびコンサルティング費用の見積もり、契約、必要資料の確認など、もろもろの手順を経て、プロジェクトに取り掛かった。ただし、われわれが着手した時点では社内のプロジェクトメンバーは選定中であり、NLFが実態の検証を終えて、J社に改善プランを提出する際の報告会から参加させるとのことであった。
また社内には物流のプロが不在であることも同時に告げられた。その場合にプロジェクトチームはどのようなメンバー構成が望ましいかとの打診もあった。それに対しては、経営企画部門のスタッフを中心に、営業部門、生産部門からもそれぞれ担当者を出すハイブリット型のチーム編成をアドバイスした。
われわれはまずJ社の生産工場に出向いた。J社は比較的単価の低い原料を扱っており、それを900億円も売り上げているとなると、物量としては相当な規模になる。
しかし、事前に確認した資料によると、工場の敷地面積は5千坪足らずで、かなり狭隘化していることが予想された。
案の定、現場は製品や副資材でごった返していた。構内のあちこちに、フレコンバックやパレット積みされた製品が散在する中、車両の入・出庫が途切れることなく行われていた。待機車両も常時最低3台は発生していた。主に周辺の外部倉庫へ完成品をピストン輸送するための車両であった。また製品の荷姿はバルク、フレコンバック、ドラム缶、紙袋と多岐にわたっていた。
このように生産施設はキャパオーバーで、なおかつ老朽化も進んでおり、在庫保管と物流作業は外部倉庫頼みになっていた。工場近隣に実に11カ所もの外部倉庫を借りていた。そのうち9カ所は小スペースの間借りで、最も小さな倉庫は30パレットも収納できない規模だった。継ぎ足しを繰り返して保管スペースを増やしてきた結果であった。当然ながら多くの問題が発生していた。在庫が細かく分散していることから、同じ納品先に出荷する荷物を取りそろえる、いわゆる〝荷合わせ〟のために、外部倉庫
間の横持ち輸送が頻繁に発生していた。しかも、11カ所の外部倉庫は計4社の協力物流会社で構成されているため、荷合わせに当たって伝達ミスをはじめ、コミュニケーション不足によるトラブルが発生していた。
そもそも工場で物流管理を担当する業務課の担当者自身が、どの製品をどの倉庫へ仕向ければよいのか、十分に理解できていなかった。品違い、数量違い、納品先違いが起きるのは当然であり、得意先からの物流クレームが既に社内でも問題になっていた。
このことを受けて次の基本方針をJ社に提案した。

●大型倉庫への集約(11カ所→3カ所)
●生産パレットのバーコード管理による出荷仕分け精度の向上
●保管場所の振り分け方法の変更(生産量によって保管倉庫を決める従来のやり方を改め、出荷エリア別に保管場所を決定する。さらには生産計画にも保管場所を反映させる)
●工場にプレハブ事務所を設けて配車担当者を置く

いずれも社内の課題認識と合致した施策であり、改善のハードルも高くないことから、J社の専務から、すぐに着手するようにと、早々にゴーサインが出された。
それと並行してパレットサイズの統一に動いた。工場の生産ラインでは1200ミリメートル×900ミリメートルのパレットを使用していた。一方、外部倉庫では標準型のT11型(1100ミリメートル×1100ミリメートル)を使い、輸送時には積載効率を重視して、パレットを用いていなかった。
そのため、生産ラインでパレタイズした製品を、外部倉庫でT11型に積み替え、さらに出荷の際にドライバーに手積みさせるという運用を長年続けていた。ドライバーの負担が大きいだけでなく、荷役作業による出荷時間の遅れが頻発していた。さらに近年は運賃の値上げも繰り返されていた。
これを改め、生産パレット(1200ミリメートル×900ミリメートル)にサイズを統一して、フォークリフトで積み降ろしを行い、空きパレットを回収するプロセスに変更した。その結果、車両の積載率は低下したが、トータルコストを従来よりも抑えることができた。

生産拠点の分散に踏み切る
一方、営業サイドからは納品リードタイムの短縮を求められていた。東海地区の工場1カ所から全国のユーザーに供給しているのだから無理もない。運賃コストを考えても〝地産地消〟の原則に基づいた、分散型の供給体制が必要であるのは明らかで、むしろなぜこれまで、この問題を放置してきたのか、疑問に感じるところであった。
聞けば理由はJ社の取り扱っている製品特性にあった。ユーザーの多くはJ社の製品を副材料として利用しており、主原料と比べて絶対量が少ないため、在庫量が多少膨らんでも、それほど問題視されることがなかった。そのためJ社の納品が発注から翌々日〜3日後であっても大きな支障はなかった。
しかし、昨今は主要ユーザーが副原料に対しても在庫の適正化を目的に発注点管理を強化するようになっている。その結果、通常はJ社から調達しているユーザーが、在庫切れなどの緊急時には他社から購入するケースが増えていた。ただし、他社は海外からの仕入れ品を供給することもあり、J社には品質面での優位性があった。そのため営業サイドでは、J社がリードタイム短縮を実現すれば、売り上げ、シェアを伸ばせると考えていた。
そこで、われわれプロジェクトチームは生産拠点の分散を提案した。協力工場に生産委託する形で、中・四国エリアと、南東北もしくは北関東に生産拠点を置き、東海地区の自社工場と合わせて3工場体制に移行する。これによって北海道、沖縄を除くエリアで、当日出荷、翌日納品を実現するというプランである。
営業サイドから提出された、リードタイム短縮による売り上げ増効果を加味して、各拠点の需要を予測し、役員会でプレゼンテーションを実施した。役員の一部からは「今のままでもよいではないか」という反対意見も出たが、最終的に提案は承認された。来期中に委託先の2工場における生産を開始することになった。
この決定を受けて、われわれプロジェクトチームは新たなアクションプランに移った。
まずはリードタイム短縮による効果の検証である。営業部門の試算を信じていないわけではなかったが、拠点増設という大きな意思決定に踏み切るには、裏付けが必要であった。営業本部長を通じて主要エンドユーザーの声を聞くことになった。
当初、営業本部長は「そこまでやる必要があるのか」と、やや及び腰であったが、経営企画部門を中心とするプロジェクトメンバーとの打ち合わせを経て、理解と協力を得ることができた。また、ヒアリングの必要性を納得してからは、ユーザーを回るときに使用する資料の内容について、営業本部長が自らプロジェクトメンバーに細かく指示を出すなど積極的に関与してくれた。
ヒアリングの結果、納期短縮への要望は営業部門の想定通りであり、主要ユーザーの多くは、リードタイムの問題がなければ、他社品や輸入品よりもJ社製原料の調達を望んでいることを確認できた。
またリードタイム短縮の提案に大きく反応したのが大手商社であった。これまでJ社は大手商社との取引にはあまり積極的ではなかった。過去の商談で極端に安い価格を求められたことが原因であった。しかし、今回は好条件の提示に加えて、事前に出荷量のコミットメットラインを設定することにも同意するという。これを機に大手商社と新たな取引口座を開くことになった。

物流改善からSCMへ
一方で生産拠点の分散によるデメリットも精査しておく必要があった。最大の懸念は、在庫管理と生産の振り分けであった。このうち在庫については、協力物流会社が所有するWMS(倉庫管理システム)を利用して一元管理を図ることになった。
一方、生産の振り分けは、J社製品の生産工程が比較的シンプルであり、委託先工場でもフルラインのアイテムを生産することが理論上は可能であったため、ブロック内で需給を完結させる地産地消を目指した。
生産委託先のキャパシティーと品質を検証する必要があった。2工場のうち中・四国エリアの委託先は遊休工場を再稼働させる形で、メンテナンス、改修工事に2千万円程度を掛けるだけで必要な生産能力を確保できることが分かった。一方の南東北もしくは北関東で探していた委託先も茨城に協力工場を見つけることができた。こちらも生産能力は十分に備えていた。
問題は品質であった。J社製品に対する高評価は、2次検査である異物混入検査の精度が高いことが理由であった。実際、J社は他社がろ過だけで済ませている工程に独自の電子装置を導入し、充填から梱包までのプロセスを通じて厳格に異物の混入を防いでいた。そこで委託先の両工場にも、それぞれ数千万円掛けて自社工場と同じ装置を導入することになった。
こうしてプロジェクトの発足から8カ月が経過し、当面の山場は越えた感があるものの、外部倉庫の集約先となる協力物流会社の選定をはじめ、消化しきれていない項目もまだまだ残っている。とりわけ各工場でキャパオーバーが発生した際の〝応援生産〟における生産計画の調整と、その結果として生じる横持ち輸送を、いかにゼロ化するかは大きな課題である。生産開始まで残された時間は限られており、対応を急ぐ必要がある。
一連の取り組みを通じてプロジェクトメンバーたちは、生産と物流がいかに深く結び付いているのかを、再認識させられることになった。J社のように物流の課題解決が、物流だけでなく、生産体制まで含めたロジスティクスやサプライチェーン改革へと展開されるケースは決して珍しくはない。その取り組みをリードすることのできる人材の育成が、社会的な急務となっていると感じている。