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第149回 事例で学ぶ現場改善:『アパレルU社の成果配分方式』

アパレル会社の経営トップが、自らプロジェクトリーダーとなって物流コストの削減に乗り出した。しかし、長年付き合いのある協力物流会社を切りたくはない。コンペは避けたいという。そこで改革効果を荷主と物流会社でシェアする成果配分方式を導入し、コスト削減を一緒に進めていくことにした。

物流コンペは避けたい
U社は年商約120億円のアパレルメーカーだ。都内に本社を構え、物流センターを北関東に設置している。特徴的な素材を強みに卸や専門店、百貨店へ製品を販売している。
取扱アイテム数は約4千。同じデザインでもサイズ違い、色違いがあるアパレルメーカーとしては常識的な数であろう。
生産拠点は国内1カ所のほか、中国とベトナムにそれぞれ1工場を置いている。販売先から求められる製品の品質レベルによって工場を使い分けている。ただし、中国工場は賃金の上昇でコストメリットがなくなってきたため、生産比率を年々下げてきている。
われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に物流コンサルティングを依頼してきたのは、U社のT社長本人であった。その数日後にU社を訪れた。取り巻きの役員か物流担当者が同席するだろうと想定していたが、社長1人での対応だった。後で分かったのだが、U社には物流の専門家が不在で、改善を任せられるような幹部もいなかった。そのためT社長が自分でNLFに連絡を入れ、プロジェクトリーダーも自分で務めるとのことであった。物流改革・改善は、物流の重要性に対するトップの理解とトップダウンの通達、迅速な意思決定が成功要因である。われわれにとっては願ってもない受け入れ体制であ
った。
T社長は物流コストが記載された簡単な資料を基に、U社の物流の流れや実態、課題などを丁寧に説明してくれた。非常に実務的な経営者との印象であった。説明の中には〝こうありたい〟という社長の思いも多分に含まれていたが、具体的なゴールは物流コストの削減であることは明らかだった。こうしてトップがけん引するU社の物流プロジェクトがスタートした。
北関東にある物流センターは大手物流会社N社の所有で、運営も同社に委託していた。
N社との取引は既に20年近くになるとのことであった。その概要を聞いて2つのことが気になった。1つ目はN社が部品や機械類の取り扱いをメーンとする物流会社であり、アパレル品にはほとんど実績がないことだった。
そして2つ目は物流センターの立地である。U社の本社から離れ過ぎていた。日ごろ、われわれはアパレル会社のクライアントに対して、本社から物流センターまでの距離は車で1時間程度が望ましいとアドバイスしている。U社の場合は1時間30分ほどかかった。そこまで遠いと営業マンの腰が重くなる。物流センターに出向いて行う商品の実物確認を怠ってしまうのだ。商品の質感が問われるアパレル業界ではご法度である。
そのことをT社長に伝えると大きくうなずいた。センターの立地は商流への影響を考えると、決して最適とはいえなかった。営業マンがセンターに出向く交通費も年間700万円程度掛かっていた。とはいえ、本社のそばにセンターを移せば保管料が上がってしまう。トータルで判断する必要があることを、ミーティングで念入りに確認した。
また、T社長は安直にコンペを開催して協力物流会社を他社に切り替えることは避けたい考えだった。U社の国内工場はかつてN社と同じ工業団地内にあり、長年の付き合いを大切にしたいとのことであった。そこでトップの方針に配慮する一方、〝あるべき姿〟を追求するため、U社からN社に現状の課題と問題点を提示。共に改善を進めていき、そのコスト削減効果を50:50で分け合うゲインシェアリング(成果配分方式)を導入することにした。

倉庫は面積ではなく体積で管理
物流センターはワンフロア1500坪の2層式であった。センターに入ってまず目立つのは空きスペースの多さであった。パレットへの平積みが多く、保管棚やラックを一部にしか使用していないため保管効率が著しく低かった。
現場視察とヒアリングから、われわれは主な改善テーマを次のように抽出した。

①保管棚・ラックの投入
②センター在庫の圧縮
③返品処理のスピードアップ
④庫内レイアウト・保管ロケーションの見直し
⑤作業手順の変更
⑥配送ルートの見直しと積載率向上

詳細には50以上の改善項目が挙がったが、センター運営コストのおよそ85%は人件費と保管料が占めている。コストダウンに直結するのは主に前述の6テーマであった。
このうち①「保管棚・ラックの投入」は、高さを使うことで保管効率を向上するのが目的である。センターや倉庫の大きさを表す指標として、一般的には坪数や平方メートルなどの面積が使われているが、実際に重要なのは体積(立方メートル)である。そのことを当事者もしばしば忘れてしまう。その結果として、U社のように〝空気を保管している〟ことになってしまう。
センターのスペースを有効利用するには、製品の荷姿と荷動き、在庫量を踏まえて適切な保管機器を選択する必要がある。しかし、今回の現場にはそのノウハウがなかった。
平積みを多用しているため、庫内の上部はすき間だらけで〝見通しの良いセンター〟になっていた。
パレット積み製品や輸入品在庫を高く保管できていないのは明らかに無駄であった。
そこでパレット貨物を段積みする「ネステナー」をN社の他の営業所から調達してもらい、3段積みを実現した。
ピース(ばら)保管用には高さ1800ミリメートル×奥行き450ミリメートルの中量ラックが適していた。また袋入りの薄手の製品には、横面が開閉式になっているオリコンが望ましかった。これらのマテハン、備品は新たに購入して、そのコストをU社とN社で折半することで協議に入った。
難航したのは、かばんの保管場所であった。畳んで保管するとしわになってしまう。
しかし、緩衝材などを使って使用サイズに膨らませるとかさばる。そこで特殊なハンガーラックを利用して、作業生産性と保管効率をベストとまではいかないもののベターな状態にした。
②「センター在庫の圧縮」は、輸入品の生産ロット、輸送ロットの見直しがポイントだった。中国とベトナムの工場には小ロット生産のノウハウがないため、ラインの段取り替えをできる限り避けて同じ製品を一気に生産しないと、工場の損益分岐点を割ってしまう状況であった。輸送ロットも40フィートコンテナ単位にまとめていた。その結果、物流センターに必要以上の在庫を保管しなければならなかった。
これを改善するため、工場作業員の多能工化を中心に、ライン替え機能の強化と改善によって工場の損益分岐点を下げて小ロット生産を進めた。また中国で生産している製品のうち約15%は売価が5千円を上回る高額品であったため、輸送手段を空輸に変更した。
これによって、海上輸送を20フィートコンテナ単位に小ロット化した。その結果、物流センターではネステナー20基分に相当するスペースが生まれた。
③「返品処理のスピードアップ」もスペースの有効利用が目的だ。物流センターの1階フロア奥には、返品された商品や売れ残り品、ダメージ品や不良品などが山積みされていた。委託販売で買い取りをしない百貨店を主要な販売チャネルの一つとしているため、返品が多いのはやむを得ないとしても、その処理が滞って必要以上にスペースを使っていた。
庫内作業の業務フローには返品処理も組み込まれていた。つまりルール上は毎日のルーティンワークとして返品に対応するはずだった。しかし、実際には人手が足りないなどの理由で後回しにされてきた。倉庫を運営するN社の怠慢ではあるが、U社としてもそれを特に問題視せずに放置してきた。そこで期末の実棚卸し時と同様にN社の他の営業所から応援要員を派遣してもらい、延べ3日かけて滞留品を一掃した。
④「庫内レイアウト・保管ロケーションの見直し」は、物流管理の定石ともいえる施策だが実施されていなかった。よく出る商品、出ない商品を、N社の現場担当者も感覚的にはつかんでいるのだが、出荷頻度に基づくABC分析は行っていなかった。その理由を尋ねると、U社の商品は毎年3カ月ごとに商品が入れ替わり、定番の概念がないため分析しても無駄とのことであった。
しかし、シーズンに合わせて年に4回のデータ分析を実施して、その結果を庫内レイアウトと保管ロケーションに反映すれば確実に効果は出るはずだ。それが正しい管理方法であることをN社の現場スタッフとのミーティングで伝えて、実施に向けた懸案事項の解決を進めた。結局、N社の説得と準備には約2カ月を要したが、生産性の向上とピッキングミス防止で効果を発揮している。
⑤「作業手順の変更」ではピッキング方法にメスを入れた。それまでは在庫差異の抑制とピッキングミスの早期発見を重視して、アイテム別トータルピッキング→店舗別オーダーピッキングという手順を踏んでいた。
しかし、トータルピッキングを行うスペース確保と、同じ在庫を2回ピッキングするダブルタッチは効率が良くないと判断。店舗別のオーダーを保管棚から直接ピックするオーダーピッキング1回に変更した。その結果、作業の終了時間が平均50分前倒しになり、パートタイマーの残業を抑制することができた。トータルピッキングの工程を省くことで懸念された在庫差異、ピッキングミスの増加は今のところ起きていない。作業方法の変更に併せて棚番地を表示する文字サイズをひと回り拡大した。その結果、視認性が向上し、品質維持につながったとみている。

荷主と物流会社の温度差を痛感
⑥「配送ルートの見直しと積載率向上」は、N社が傭車している配送会社の協力を取り付ける必要があった。しかし、運行日報の提出を求めたが、配送会社はかたくなに拒んだ。N社は他のセンターでは自社便を投入しているものの、U社の業界は不得意分野ということもあり全て傭車対応となっていた。各納品先の軒下条件などの情報は全て配送会社が握っていた。そのためU社も強く出ることができず、取引上の立場よりも配送会社の「反発」が勝っていた。
配送ルートの見直しと積載効率の向上は、フェーズ2に延期せざるを得なかった。その代わりN社の自社車両2台を投入することとした。その結果、イレギュラー出荷への対応による下払い運賃を抑えることが可能になり、けん制効果で配送会社の対応にも変化が出てきた。
この他、フォークリフト(リーチ)作業の一部をハンドリフト、台車を使った搬送に代えることで、パートタイマーやアルバイトでも作業が行えるようにした。さらにセンター開始時間を前倒しして、午前中入荷の徹底と返品処理業務のルーティン化などを推し進めた。
改善効果が数値に反映されるようになった3カ月後、N社との料金交渉を行った。U社はT社長、N社は約20年前の取引開始時の営業窓口担当者で現在は執行役員に出世したM氏が話し合いに臨んだ。U社は7%の料金値下げを要請した。しかし、M執行役員はそれではとても本社に持って帰れないという。そこでU社側がマテハン機器の購入負担割合を増やすなどの譲歩案を示し、最終的に5%の値下げで折り合いが付いた。
こうしてU社は既存の物流パートナーと協力して改善に臨む形でコストダウンを実現した。昨今のドライバーをはじめとする人手不足を考えると、コンペで次々に協力会社を切り替えるよりも安全であり、今後はこのスタイルが増えてくるだろう。
しかし、N社側はまだ警戒している。アパレルは苦手分野ということが影響しているのかもしれないが、筆者から見てN社が当センターの運営、改善に力を入れているとは思えない。時には撤退をにおわせるようなやり取りもあるほどだ。荷主と物流会社の埋めきれない温度差を感じざるを得ない。