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第151回 事例で学ぶ現場改善:『通信機器販売会社のコスト削減PJ』

ホールディングス傘下のグループ会社がそれぞれ物流を管理していた。無駄が多いこと
は経営者にも分かっていた。しかし、グループを見渡しても物流管理に詳しいスタッフ
はいない。専任部署さえない。経営企画部にプロジェクトを託すほかなかった。
まずは実態の把握から取り掛かった。

グループ12社で計20カ所の倉庫
G社は東京に本社を置く通信機器販売会社である。年商は約800億円。携帯電話ショ
ップを展開するほか、法人向けの通信機器販売、設置サービスなどを手掛けている。
取扱品目はスマートフォン、ガラケー、タブレットなどの端末とその付属品、取扱説明
書など約3800アイテム。いずれも大手通信機器メーカーから仕入れている。
ある日、G社の経営企画部から、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に連絡が入
った。3PLを探しているとのことであった。NLFを3PL会社と間違えたらしい。
われわれはコンサルティング会社であることなどを説明したが、「せっかくなので物流
についていろいろと教えてほしい」と言う。
その数日後にG社で打ち合わせを行った。トップダウンでコスト削減の指示が出て、数
ある経費の中でも無駄が多いと思われる物流コストに、まずメスを入れることになった
という。グループ横断組織である経営企画部がそのプロジェクトオーナーを務めること
になった。
G社は自らを事業持ち株会社とするホールディングス制を取っており、顧客ターゲット
および提供するサービスごとに計12のグループ会社を展開している。物流業務はグルー
プ各社の業務部がそれぞれ管理していた。
業務部は物流管理専門ではなく、庶務や施設管理などのさまざまな業務を担当するセク
ションであった。物流専任者は不在で経営企画部にも物流に詳しい人間はいなかった。
その組織概要を聞いただけでも、部分最適に陥っている可能性が高いと察しが付いた。
プロジェクトのスタートに当たり、経営企画部はトップから物流コストの20%削減とい
う目標を与えられていた。改善期間は6カ月、物流業務の内製化、および物流子会社の
設立も検討せよとの指示であった。これを受けて経営企画部では若手スタッフ5名が物
流関連書籍などを読みあさっている最中だという。道のりの険しさを感じざるを得なか
った。
一通りの話を聞いて、われわれから次のようにアドバイスした。すなわち、出荷量の目
安として1日500ケース以上なら外注化はコストメリットが大きいこと。逆にそれ未
満であればパートやアルバイトの従業員を直接雇用して、受注処理、資材発注などの他
の業務も兼務する形で運営することでコストセーブできること。
また、倉庫の建物、運営を外注する場合には、専用センターではなく、汎用センターを
選び、波動への対応力がある3PLを選ぶこと。物流子会社を設立してペイさせるには、
年間支払物流費が最低でも10億円は必要であることなどである。
しかし、G社の場合、何よりもまずグループ各社の物流費の支払い明細と、委託業務内
容を整理して、実態を把握するところからスタートする必要がある。NLFではそれを
『診断』と呼んでいると伝えた。
このような事前の打ち合わせを経て、経営企画部のメンバーとNLFが一緒に〝診断〟
を進めるところからコンサルティングが始まった。予想していた通り、入・出庫料、作
業料、保管料などの単価はグループ各社でばらばらであった。委託業務の内容も曖昧で、
返品処理、棚卸しなどはイレギュラー業務として扱われている倉庫が多く、契約書さえ
締結していないところもあった。
各社ともセンターおよび倉庫は、オフィスから最も近い施設を選んでいた。コストを度
外視して、問題があればすぐに対応できることを重視したのだろう。全ての拠点が都内
に立地しており、当然ながら賃料は高かった。12社合計で約20カ所、延べ5千坪の倉庫
スペースを賃貸していた。拠点1カ所当たりの規模は平均300坪弱で、小粒な施設が
多かった。
続いて現場の視察に回った。同一アイテムが複数の拠点に分散し、過剰在庫が目立った。
グループ内の他社に在庫を持っていかれないように、各社がそれぞれ必要以上の発注を
掛けて在庫を確保している形跡が見られた。
拠点集約のメリットが大きいことは明らかであった。しかし、その前に手を打つべき喫
緊の課題がセキュリティーであった。SIMカードなどの貴重品や返品された携帯電話
の管理には必須である。ところがグループの倉庫の大半は、受付で名前を記入するだけ
で出入り可能であった。防犯カメラなどの設備を持つ施設も数えるほどしかなかった。

3PL導入で物流を集約
現場視察で判明した課題・問題点はおおよそ想定内ではあったが、業務委託先の運営状
況や委託内容のばらつき、丸投げの状況には、メンバー一同、驚きを隠せなかった。
その一部を紹介すると以下の通りである。

●保管料の設定に3期制(1カ月を10日×3期に分けて計算)と月額制がある
●支払サイトが各社で違う(30〜90日)
●在庫差異が発生した場合の弁済方法が契約書に明記されていない。もしくは弁済をし
ていない
●「追加作業料」「特殊作業料」の名目で請求が上がっているが、各社の業務部に確認
してもその内容は不明である
●有償と無償の作業、通常作業とイレギュラー作業の線引きが明確でない
●保管料相場に比べ割高な倉庫もあれば割安な倉庫もある
●輸配送の手配、配車、業者選定まで倉庫会社に丸投げしている

「その会社の経営の良し悪しは物流を見れば分かる」という。物流には、営業、仕入れ、
システム、人事(組織)などの問題点が全て表れる。G社も例外ではなかった。一連の
物流診断を通して、営業力の強化、需要予測精度の向上、支払サイトの統一をはじめと
する管理体制の強化といった課題が浮かび上がった。
これを受けてわれわれは向こう6カ月間の第1ステップで取り組むべき改善策として以
下を提示し、G社の役員会の承認を受けた。
①拠点集約に向けた在庫圧縮
②3PLの選定
③物流管理部門の発足
④WMSの導入
このうち①の在庫は、保管に必要なスペースを現状の約5千坪から最終的には2800
坪まで圧縮する計画だ。そのために、在庫の適正化、不動在庫の処分、保管効率の向上
を実施する。ただし、段階的にスペースを圧縮していくため、集約当初は3千〜350
0坪が必要になる。また、将来の売上増加や取り扱いアイテム数の増加にも対応できる
ように、拡張性のある施設を確保したい。
それを前提に、②のために3PL会社のリストアップ、RFP(提案見積依頼書)の作
成、選考ポイントを精査した「物流事業者評価表」の作成(表参照)、個別説明会〜選
考・契約締結〜システムチェック・トライアル〜稼動までのスケジュール作成などを進
める。
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物流子会社の設立は時期尚早だが、G社の事業規模であれば③の物流管理部門は必要だ。
現状の業務部における片手間の物流管理では継続性とスキル向上(ノウハウの蓄積)に
支障を来す。よって事業持ち株会社のG社本体に、グループ横断組織として物流管理部
を設置する。
④のWMSも必要だ。これまで在庫管理はグループ各社が販売管理システムをベースに
それぞれ行っていた。共通のWMS導入により、アイテム別の発注点管理による在庫の
適正化を図ることができる。発注作業自体も集約される。ただし、WMSを自社で所有
するか、3PLのWMSを使用するかは、3PLの選定と併せて検討することにした。
今回のG社のように傘下にグループ会社を多く抱える会社や事業部制を取る会社は、資
材調達や物流などのバックヤードに無駄が生じやすい。しかも物流軽視の会社が多いと
筆者は感じている。全体最適化のためには横断型の物流管理組織、事業規模によっては
物流子会社の設置を検討すべきだろう。改善の余地が大きいだけに効果も期待できる。