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第152回 事例で学ぶ現場改善:『地域総合卸S社の事業再構築』

地域に根差して幅広い事業を手掛けてきた総合食品卸が、業績不振から事業の再構築を迫られた。その地域としては大規模な3温度帯センターと、同センターに隣接する常温センターの活用がそのカギを握っていた。しかし、再編とリストラを繰り返してきた組織は疲弊していた。

当事者不在が組織に蔓延
S社はグループ年商約500億円の総合地域卸である。水産、食肉、青果、果物、加工食品を扱い、近隣3県に営業所と倉庫を併設した拠点を18カ所展開している。食品の卸売事業以外にも、日用雑貨品卸や食品加工工場を運営するメーカー、物流子会社などをグループ企業として抱えている。
S社は第2次大戦後に、地域の市場流通を担う事実上の国策会社として発足した。その後、流通再編の波に巻き込まれ、近隣の地域卸との統合を2回経験した。ただし、営業エリアの拡大は指向しなかった。同一エリア内で取り扱い分野の異なる卸や、製造・物流に機能を広げることで垂直統合を進めた。
しかし、その結果として商流が次第に複雑化し、9社あるグループ会社の役割分担と結びつきが不明確になっていた。さらには昨今の少子高齢化、人口減少による市場規模の縮小にも直面していた。事業の建て直しが必要であった。
そんなある日、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)のオフィスに、S社の執行役員と物流責任者が訪れた。両名とは1年半ほど前にも別のテーマで話合いを持っている。
その時には某コンビニチェーンの配送に対応できる物流会社をリストアップして欲しいという依頼であった。それに対して今回はS社の生き残りをかけた事業再構築がテーマであった。
そのカギを握るのが物流だった。S社はその地域としては大規模な3温度帯センターと、同センターに隣接して日用雑貨にも対応可能な常温センターを所有・運営していた。その活用に生き残りを賭ける考えだった。幸いS社は大手流通や商社の色が付いてない独立系であるため、経営の自由度は高かった。ただし、そのことと裏腹に資本力は脆弱だ
った。
さらに、われわれNLFとしては組織と人材についての懸念があった。〝当事者不在〟が組織に蔓延していたのである。長年にわたって組織再編とリストラを繰り返してきたことで、創業一族やベテラン幹部のほとんどは既に退陣していた。そのため事業の建て直しに当たるプロジェクトチームも、入社5年に満たない部長や他社の社外取締役を兼務するような、いわゆる〝外人部隊〟として組織するほかなかった。
プロジェクトチームが社内の各部署に実態や課題をヒアリングしても皆、第三者的な意見を言うばかりで、「それは誰が一番わかっているのか」と聞いても具体的な名前は挙がってこない。それならばと、プロジェクトチームが腹を括って自ら改革に着手しようとすると、過去のしがらみに撥ね返されるといったありさまであった。
もちろんそのために、われわれのような外部のコンサルタントに支援を依頼したことは分かっている。しかし、何とも心細い体制であった。もともと筆者は「改革・改善は長期政権の下でなければ成し遂げられない」と考えている。
トップダウンの取り組みであっても肝心のトップが3年毎に変わるような大企業や、キーマンの部長を途中で他部署に異動させてしまうような組織では、改革・改善が一過性のものに終わってしまう。責任者が去るのと同時に元の状態に戻ってしまうのである。
S社にもその心配があった。
このような状況の中でプロジェクトはスタートした。真っ先に向かったのは再構築の鍵とされる2つの物流センターである。最初に訪れた3温度帯センターで、いきなり度肝を抜かれた。
現場にはシールやバンドルゴミが散乱していた。ドッグシェルターは老朽化のため車両とホームの間が密着できない状態であった。上下開閉も下部に隙間が出来ていた。これでは温度管理どころではない。
定温倉庫と出荷スペースを結ぶ「前室」の床には、水産物や解凍によって垂れ出てきた〝水〟が溜まっていた。これも衛生管理上のタブーである。他にもフォークリフトが各通路に無造作に配置されていたり、返品の商品が山積みされているなど、荒れた現場であった。
食品を取り扱うセンターである以上、まずは「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」の徹底が大前提であった。他にもドッグシェルターの改修による温度管理の徹底、過剰なマテハン設備の撤去、保管ロケーションやレイアウト・ゾーニングの見直し、運営に当たっている物流子会社スタッフ(ピッキング、リフトマン)のスキル向上、商品保管方法の適正化(直置き禁止、元箱管理の徹底など)も必要不可欠であった。
次に同センターに隣接する常温センターに踏み入った。こちらは3温度帯センターとはまったく別もので、清潔かつ整ったセンター運営が行われていた。なかでも「DAS(デジタル・アソート・システム)」を利用したピッキングと仕分け機能には目を見張るものがあった。

セントラルキッチン事業に活路
なぜ隣接するセンターの運営レベルが、こんなにも違うのか。理由は2つあった。
1つは運営者である。3温度帯センターは物流子会社の運営だった。一方の常温センターは当該事業部による自前の運営であった。
もう1つは業務内容の違いである。3温度帯センターがマルチクライアントであるのに対し、常温センターは、ある大手流通チェーンの仕事に特化していた。DASの使用、保管方法なども、その大手流通チェーンの作業手順書に基づくものであった。つまりS社自身のノウハウではなかったのである。
2つの物流センターを軸に事業を再構築するには、当然ながら現場の運営能力が必須である。しかし、現実は厳しかった。とても、胸を張って売りに出せるような状況ではなかった。
次にグループの食品メーカーB社に移動した。車で15分ほどの距離だった。B社の工場ではハンバーグや肉だんご、惣菜などの加工食品を生産している。衛生管理認証「HACCP」を取得しており、クリーンルーム、研究室なども備えていた。現場は設備とパートスタッフのバランスが取れていて、オペレーションもスムーズだった。食品メーカーとして一定以上の水準をクリアしていると評価できた。
ところが、視察に同行したプロジェクトチームメンバーの執行役員と部長に確認したところ、B社の業務内容や現場運営の状況は、S社の他のグループ会社にはあまり知られていないという。部長自身、B社に来るのはこれが2回目だった。グループ全体を見渡し、掌握している組織や人物が不在であることを改めて痛感せざるを得なかった。
課題は山積みであったが、一連の現場視察とヒアリングをベースに、われわれは第一弾の施策を以下のように抽出した。

①セントラルキッチン事業の発足
②一般卸から業務用卸への転換
③物流子会社と協力会社M社の統合
④事業部制の廃止と人事異動
⑤人事サービス会社の設立

このうち、①セントラルキッチン事業の発足は食品メーカーB社のノウハウを活かそうという狙いだ。セントラルキッチン機能を設置えた物流サービスには大きなニーズがあることは分かっている。しかも、S社の周辺にはそうした機能を提供できる施設が見当たらなかった。
そこでセントラルキッチン機能と物流センター機能をパッケージにして、中堅食品スーパーや外食チェーンに売り込もうというアイデアだ。そのためには生産ラインへの設備投資が必要になるが、当初は惣菜や製麺など、高額な設備を必要としないアイテムを選んで展開すればいい。
②一般卸から業務用卸への転換は、S社のような中堅・地場卸が今後も一般卸として経営の独立を保っていくことは難しいという判断に基づいている。一般向けは今や大手卸や商社の主戦場となっており、中堅・地域卸がそこに正面からぶつかっていっても勝ち目はない。
そこで矛先を変える。自社物流センターを持つほどではない規模の、中小の飲食チェーンや居酒屋チェーンを対象にする。中小チェーンの発注は今でも電話やファクスが中心でEOS化ができていない。納品にも手間がかかり、売上規模も小さいことから大手が参入しきれていない分野だ。S社にとっては有望な市場といえる。
③物流子会社と協力会社M社の統合による新会社の設立は、物流子会社が現状のままでは役割を果たせないための苦肉の策である。先述のようにセンター運営ノウハウが欠落している。そもそも物流子会社の現状のスタッフはS社からの出向者がメーンで、物流に関する教育を受けていない。
そこでいったんリセットして、長年の協力会社のM社に協力を仰ぐ。M社の2代目社長はまだ若手ながら他社業務でセンター運営と輸・配送のノウハウを身につけていた。そこで物流子会社とM社を統合し、M社の社長のリーダーシップの下に新会社を設立、そこにS社グループの物流を集約していく。
④事業部制の廃止と人事異動は、ブラックボックス領域の解消と適材適所が目的である。従来の商品分野別の事業部の編成はマーケットの変化と噛み合っていなかった。これを得意先の業種・業態別の組織に再編する。
この組織改革によって現状ではブラックボックスとなっているグループ内の業務実態を明らかにして情報・認識を共有すると同時に、得意先に対してワンストップでスピーディに対応できるようにする。

人事サービス会社の設立へ
⑤人事サービス会社の設立は、当事者不在の問題を解消し、労働力不足にも対応しようという狙いである。従来、採用活動は各グループ会社でそれぞれ行なっていた。他部署への異動もないために、仕事や組織に馴染めない場合は退職するほかなかった。定着率は決して良いとは言えない状態だった。また入社教育、役職別・階層別教育プログラムなどは皆無であった。
そこでグループ会社の人事業務を集約するシェアードサービス会社を設立して、採用コストを抑制するとともに、人材ミスマッチなどのロスを失くす。さらには客観的な人事考課(評価)を推進して適材適所を徹底する。そのために新会社には外部から人事の専門家を招く。人手不足はこれからますます深刻化していく。人事サービス会社の設立はその有効な対策になるだろう。
これら5つの施策を、S社の意思決定機関となっている役員会で3回にわたってプレゼンテーションした。役員たちはセントラルキッチン事業には大きな期待を寄せた。また業務用向け卸への転換に対しては、「やっぱり避けて通れないか」という反応であった。
なお、メンバーのうち、もうすぐ任期満了となる取締役2名はほとんど会議では口出しをしない。しかし、それ以外のメンバーに新事業の業容を正しく伝え、意識を共有して方向性を合わせていく調整には、かなりの時間と労力を費やした。その結果、「③物流子会社と協力会社M社の統合」が保留となったのを除き、他の4つの施策については合意を得ることができた。
物流新会社の設立については、役員会のメンバーたちも物流子会社の現状と協力会社M社の実力は理解できるというものの、若手社長の人物像が見えないことが、保留された一番の理由であった。そこでM社社長とS社役員会メンバーとの会談の場を早急に設定した。しかし、まだ結論は出ていない。長期戦を覚悟する必要があるだろう。
こうして前途多難なプロジェクトがスタートしたのであった。