Top > 雑誌寄稿 > 第153回 事例で学ぶ現場改善:『外資系化学品D社の供給網再構築』

第153回 事例で学ぶ現場改善:『外資系化学品D社の供給網再構築』

外資系の化学品メーカーが日本国内のサプライチェーン再構築に乗り出した。
重量勝ちで単価の安い原料を中心に取り扱っているため、売上高物流コスト比率が高く、ローコストオペレーションが必須である。しかし、日本市場に参入してから20年余りが経過した現在まで、本格的な改革や見直しは一度もしてこなかったという。

プロジェクトリーダーは米国人
化学品メーカーD社は英国に本社を置くグローバル企業である。日本では医療、ヘルスケア、化学品の3事業を展開し、約4千億円を売り上げている。そのうち今回は化学品のサプライチェーンを見直したいという。
実は5年前にもD社から副資材のサプライチェーン見直しで声を掛けられたことがあった。その時には結局、コンサルティング契約を結ぶまでには至らなかったのだが、当時の先方担当者が今回のプロジェクトリーダーで米国籍のJ氏にわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)のことを伝えてくれたらしい。
D社の日本における化学品事業の売上高は約1千億円で国内シェアは2位。マーケットはD社を含むメーカー数社で寡占化されている。販売は代理店経由だが、物流はD社が各地のユーザーの工場に直接納品することもある。また一般消費者向け製品も一部扱っている。
国内の生産拠点は自社工場1カ所の他、生産委託先の工場が全国に5カ所ある。それとは別にDC(在庫拠点)を北海道から九州まで全国5カ所に設置している。工場からDCに納品するまでの物流は生産部門、DC以降を販売部門がそれぞれ管轄している。
窓口であるJ氏はこれらを横断的に管理するアウトソーシング管理の専門部署に属していた。ただし、J氏が手を出すことのできる領域には事実上の制約があった。本来であれば、工場とDC併設によるコストダウンや、生産ラインの組み替えによる拠点間輸送(横持ち)の削減に着手すべきであろう。しかしD社はまだその段階になかった。
D社が日本市場に進出してから既に20年余りがたつが、これまで拠点の立地や協力物流会社の見直し、料金体系の見直しなどはほとんどしたことがなかった。その状態でサプライチェーンにいきなりメスを入れようとすれば、部門間、地域間の社内調整に大きなエネルギーと時間を費やすことになるだろう。各部門の〝聖域〟に触れるようなテーマは後回しにしたほうが賢明であった。
D社のような外資系グローバル企業であっても、そのような前時代的な組織割りや旧態依然とした商慣習が残っていることは案外珍しくない。物流会社にはそのことを再認識してもらいたいところだ。今後の営業活用や既存荷主に対する提案領域の余地を見つけ出すときに役立つはずだ。
話を戻そう。そのようにわれわれプロジェクトチームは、当面できること、できないことを見極めた上でスタートラインに立った。しかし、取り組みははなからつまずいてしまった。基礎データを得るため、英国本社が導入している基幹システムから、日本国内のサプライチェーンの実績データを取り出すこと自体に時間を要してしまった。
システム上にデータは存在しているのだが、J氏と本国担当者の双方が、どのデータを 取り出して、それをどう突き合わせればいいのか要領を得ていなかった。2人とも物流に関する知識はやや乏しく、支払いコストばかり注目してしまい、分析に必要な商品マスターや各拠点の物流スペック(規模、契約形態など)などの情報がそろわない。
J氏は日本語が流ちょうであり、われわれへの対応も初回訪問時からずっと友好的かつ親切であった。そのためすぐに親密な関係を築くことができたのだが、データの入手に関しては思うようにいかずストレスになっているのが明らかだった。ここでプロジェクトリーダーのやる気をそぐことになってしまっては元も子もない。そこでデータの不備は担当者へのヒアリングや現場視察などで補って、次の5つに課題を整理した。

①地産地消
②工場からの直送
③協力物流会社の集約
④DCの集約
⑤販売代理店DCの活用

それぞれアクションプランを提示し、社内承認を得て準備に入った。準備とは具体的に、サプライチェーンマップ、各アクションプランにおいてクリアすべき課題の詳細なリポート、コンペの実施に向けた「RFP(提案依頼書)」、コンペに参加してもらう物流企業の候補リストなどのツール作成である。

出荷拠点を定期的に見直す
「①地産地消」は、ユーザーに最も近い拠点から出荷して物流コストを最小化しようという話である。D社のように重量勝ちで単価の安い化学品を取り扱っている場合は、特に徹底する必要がある。本来であれば、各生産拠点の生産品目を各エリアの需要に合わせて最適化したいところだが、前述の通りそれは次のステージの課題として、まずはDCを対象に見直しを行った。
それまでD社の化学品は、代理店の立地、つまり商流に基づいて出荷DCを決定していた。しかし、代理店の商圏や拠点の立地は時代とともに変化する。それに合わせて出荷元も納品先に最も近いDCに変えていく必要があるのだが、実際には納品先の場所が変わったのに出荷DCは従来のままということが多い。他のメーカーでもしばしば見られる物流の無駄である。D社の化学品事業もそうであった。そこで出荷元の振り分けを定期的にチェックして、必要な見直しを掛けるようにプロセスを整えた。
需要予測精度の向上も不可欠であった。予測が外れると最寄りのDCで欠品が生じて、遠くのDCから出荷しなければならなくなる。しかしD社の場合、出荷実績データがあるだけで、化学品の需要や輸送管理に影響する気温の変化などが予測に反映されていなかった。在庫責任を負う部署の業務内容もあいまいであった。そこでまずは需要予測機能と責任の所在を明確にすることにした。
「②工場直送」は、自社工場を含めて生産拠点が全国に6カ所あるD社では、大きな効果を期待できる施策である。それまでは工場で生産した製品を全てDCに送っていた。
DCで品切れや納期が危うい場合でも、工場から直送することは基本的になかった。ただし、独自に納品伝票を発行できる体制を整え、直送化に乗り出そうとしている工場が1つだけあった。その工場をモデルにして、他の工場に横展開を図ることにした。
直送比率の目標値を工場ごとに設定し、その達成に向けた計画書の作成を、プロジェクトに参加している生産部門の担当者に依頼した。
「③協力物流会社の集約」は、端的にはボリュームディスカウントが狙いである。しかし候補企業をリストアップする段階から難航した。
D社の化学品事業の主要製品は一種の原料であるため売上高物流コスト比率が高く、ローコストオペレーションを強いられる製品である。管理費が割高な大手3PLでは対応が難しいと考えられた。コストを重視してパートナーには準大手もしくは中堅以下を選ぶべきだが、その場合にはカバーできるエリアが限られてしまう。エリアを東日本と西日本に分けて、それぞれ1社もしくは2社の3PLに委託することを計画していたが、暗雲が立ち込めてしまった。
そこであらためてNLFの顧客データをチェックして、準大手や広域地場3PLの近年の拠点拡大状況を確認し、化学品に実績のある特積みや一般広域地場会社によるエリアコーディネートなど、対象を広げて調べ上げることで何とか候補企業を5社見つけ出した。
この5社に各地の既存協力会社を加えてコンペを開催した。現在は最終選考の段階で、東日本エリアの2社、西日本の2社、合わせて4社との交渉が大詰めを迎えている。

販売代理店のDCにメーカーが入居
「④DCの集約」は結局、西日本エリアの1カ所を対象とするのにとどまった。製品単価が安価なため拠点集約によるコストダウンよりも、リードタイム厳守や運賃コスト抑制の観点から地産地消を徹底した方が得策と判断した。
iuae.JPG
また納品先の立地と物量を基にサプライチェーンマップ(図)を作成して着地点分析を行った。リードタイム、運賃コストを加味すると既存5カ所のDCは、札幌を除いていずれも100キロメートル程度郊外へシフトさせることが望ましいと分かった。そのためコンペの最終選考に残っている候補には、自社物件か借庫かを問わず、D社が指定したエリアの倉庫物件を提案してもらっている。
「⑤販売代理店DCの活用」は、当初想定していたよりも大きな手応えを感じている。
来年の年明けにも大口の販売代理店2社と、それぞれのDCにD社の在庫を置く形の共同化を実施する計画が決まった。その他の代理店3社とも同様の共同化を協議中である。
これらの代理店はいずれも物流機能を武器にしている卸や商社などの大手で、それぞれ物流拠点を資産として抱えている。しかし空きスペースがあったことから、その有効活用を検討していた。D社からの共同化の提案は渡りに船であった。
こうしてD社の改革プロジェクトはまだ物流の範囲に限られてはいるが、本格的なアウトソーシングの導入に加え、受注センターの設置に向けた準備も始まっており、徐々にロジスティクスへと足を踏み入れようとしている。
続くステージ2では、調達先や代理店などの販売先を巻き込んだ取り組みへと拡大させていきたいところだ。そこでは単なるコストダウンだけでなく、安定供給やBCP(事業継続計画)の視点から、サプライチェーンを再評価することが必要となってくるであろう。