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第154回 事例で学ぶ現場改善:『中堅資材メーカーM社の物流事業化』

老舗の中堅資材メーカーが物流事業への参入を決めた。同社としては大規模な投資を行って開発したWMSを武器にして3PL事業を展開したいという。概略を聞いた限りでは難しそうな話だった。しかし、詳細を調べて具体策を検討していくうちに、懸念は期待へと変わっていった。

大金を投じてWMS開発
M社は年商約100億円の中堅環境資材メーカーである。国内に製造工場を2カ所、営業所を北海道、仙台、東京、大阪、福岡の5カ所に展開している。主力製品は建設・建築部品とそれに伴う環境資材で、同業界としては珍しく代理店ルートを使わずに直接販売を行っている。そのため現場納品には簡易な工事や設置、据え付け作業が伴う。
取扱アイテム数は約1500。売れない製品はすぐさま製造を中止する見切りの早さで、アイテム数を絞り込んでいる。
創業100年をはるかに超える老舗企業ながら、コア事業を継続させることより、時流に合った新規事業を次々と立ち上げる方に注力してきた。また新規事業の規模が拡大しても別会社にはせず、事業部として社内に温存することを常としてきた。別会社化する上で必要となる経営人材が社内に不足していることが理由であった。そのため特定の経営陣に権限と業務が集中する傾向があった。
今回のプロジェクトリーダーであるS取締役も、そうしたキーパーソンの一人だった。
われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にS取締役から連絡が入った。「当社としては相当な金額を掛けて独自のWMS(倉庫管理システム)を開発した。これを武器に保管業務を中心とした3PL事業を立ち上げて投資を回収したい」と言う。
しかし、3PL事業にしてもWMSの販売にしても、既に専門特化したプレーヤーがたくさんいる。異業種から参入して、そう簡単に事業化できるとは筆者には思えなかった。
ところが、プロジェクトがカットオーバーして調査を進めていくうちに、規模を追うことさえしなければ、十分事業として成り立つと確信するようになった。
理由は余剰スペースである。製造工場の1カ所は関東にあり、物流センターを併設している。自社製品の出荷、在庫保管、資材置き場、仕分けスペースを除いても千坪以上の空きがあった。筆者から見れば物流センターへの過剰投資であったが、立地は悪くない。
それどころか都外ではあるものの、昨今は物流専門会社がこぞって物件を探しているエリアであり、首都圏への納品には申し分のない場所だった。
まずは事業 化に当たって、M社がどこまで自力で運営できるのか、①「ヒト」②「モノ」③「カネ」④「情報」⑤「ノウハウ」にリソースを大別して次のように整理した。

①ヒト:既存スタッフおよびパートタイム・アルバイト従業員の直接雇用
②モノ:車両は傭車、倉庫は自前。必要があれば借庫
③カネ:事業資金として予算計上
④情報:WMSは自前
⑤ノウハウ:社外から導入もしくは物流事業経験者を採用

ここには重要な要素が漏れている。どうやって外部荷主を見つけてくるかである。その点は営業畑の長いS取締役が既に数社へ声を掛けていた。うち2社からは正式なオファーが来ていた。それも「早く預けたい」と先方から催促されるほどの意欲であった。そうであれば、営業倉庫に必要な許認可の取得と受け入れ開始を急いだ方がいい。早期に実績を挙げてしまえば、後は辣腕のS取締役が会社の理解を取り付け、事業に必要な資金を予算化してしまうところまで一気に進めてくれるだろう。
早速、リソースの手当てに入った。
まず①「ヒト」であるが、少なくとも2人の専任者が必要であった。1人は現場管理責任者、もう1人は営業である。そのうち現場管理者は現在、自社製品の現場管理を行っているT氏をNLFが指導して、KPIの導入やレイバーコントロールスキルなどを習得してもらい、外部にも管理方法を説明できるレベルに押し上げることになった。
また後者の営業は当面S取締役が兼務し、事業が黒字化した段階で新規採用を検討することになった。実のところ社内を見渡しても、パンフレットなどの営業ツールを作成し、物流の提案書が書けるような人材は見当たらなかった。そうであるなら、営業力のあるS取締役が兼務する方が得策であった。
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②「モノ」のうち、車両の傭車先はNLFが物流会社をリストアップしてM社に紹介するサポートを行った。特積み(路線便)で対応する小ロット貨物はM社の既存協力会社を中心に組み立て、手薄だった北海道、九州エリアにそれぞれ当該エリアに強い特積みを追加した。
中距離・中ロットの輸送には、荷主数社の混載や共同配送を得意とする新たなパートナーを見つける必要があった。しかし、センターが首都圏に位置していることからリストアップはそれほど難しくなかった。
このうち、もう一方の倉庫は前述の通り、当面は自社センターである。ただし、既存施設を営業倉庫として利用するには事業登録の他、消防法や建築基準法などの関連法をクリアする必要がある。S取締役が最も頭を痛めていたテーマであった。
倉庫業への参入は現在、許可制から登録制に緩和されているが、実際の手続きは案外やっかいだ。申請書類の作成は行政書士に依頼したが、各種の条件・規制などの確認のため担当官庁とやり取りを繰り返す必要があった。
また、自社施設がキャパオーバーした場合には、近隣に外部倉庫の借庫が不可欠になるため、事前に手を打っておく必要があった。これも傭車先と同様にNLFのネットワーク先を紹介した。具体的にはM社のセンターから半径20キロメートル圏内を対象に、臨機応変に対応してもらえるオーナー系の中小倉庫会社を数社リストアップしてM社と引き合せた。借庫するエリアを半径20キロメートル圏に絞り込んだのは、横持ち輸送で発生する運賃を最小限に抑え、繁忙期は庫内作業員の応援態勢が取れるようにしたかった
からだ。
M社は工場隣接型の既存倉庫とは別に、埼玉県中央部に土地を所有していた。物流事業が順調に拡大していけば、その土地に新たな倉庫を建設するという選択肢もあった。
しかし③「カネ」については、当面は大きな投資を避ける方針だ。まずはパレット、ハンドリフトなどのマテハンを予算計上するレベルにとどめた。〝小さく生んで大きく育てる〟を合言葉に、現場スタッフの増員でかさむランニングコストと事業収入のバランスを見ながら早期の黒字化を目指す。

異業種のノウハウが物流業界を活性化
④「情報」では、M社が物流事業に参入するきっかけとなったWMSのスペックをチェックして、必要な改修点・追加機能を検討した。特に荷主側の販売管理システムとのインターフェース、輸出・輸入管理機能、物流KPIに連動したデータ集計ファイル、ハンディーターミナル画面の表示などに重点を置いた。
⑤「ノウハウ」は前述の通り、社内スタッフを現場管理者として育成することになったため、われわれNLFに掛かる期待が大きかった。まずは自社センターをモデルにして物流現場の見方、2S(整理・整頓)、作業生産性・品質レベルの評価、チェックリスト作成、管理項目確認、その運用方法などの基本実務を指導した。
次にセンターの汎用化に伴って必要となるレイバーコントロールの進め方、共同配送における配送ルートの作成方法などを指導した。荷主の物流担当者はセンター運営と比較して、運行管理や配車管理のスキルが不足する傾向にあるため、M社でもかなりの時間を傭車管理の教育に費やした。
一方で保管業務の付加価値を高めるため、製造業のノウハウを生かし、包装、検品、廃棄物回収、処分への対応を進めた。営業的には環境対応、エコロジーに優れた専門倉庫として打ち出した。実際、M社のセンターはLED照明やリサイクル緩衝剤の使用など、工場と同レベルの設備が整っている。
M社のような異業種参入組は、物流業界を既存の物流会社とは違った視点で見ることができる。既成概念にとらわれない発想と異業種のノウハウが結び付いて、時代にマッチした新しい物流サービスが生まれることも珍しくない。その結果、物流業界の活性化が進んでいくことを期待している。