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第155回 事例で学ぶ現場改善:『繊維メーカーV社の付加価値物流構築』

老舗の繊維素材メーカーが物流を軸とした事業構造改革に乗り出した。これまで3カ所に分散していた物流拠点を1カ所に集約し、そこに生産工程の一部も移管することで、付加価値の高い物流サービスを構築する計画だ。しかし、そのためには長年自社運営してきた物流拠点を閉鎖しなければならなかった。

自社倉庫を閉鎖して拠点集約
V社は年商約80億円の繊維メーカーだ。売り上げは年々減少する傾向にある。繊維製造といえば、今では東南アジアが主戦場となっている。国内では斜陽産業となって久しく、大手メーカーの大半が素材開発を経て新たな分野を切り開いているのは周知の事実だ。
しかし、V社は伝統ある繊維素材の製造へかたくなに特化してきた。
V社の販売先は全体の約50%を卸が占めている。残る約40%が大手チェーンストアを含めた小売り直販、そしてBtoCのインターネット通販が約10%だ。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)とコンタクトを取った時点では、国内に2つの工場を構えていた。物流拠点は、ばら・小物専用倉庫、ケース専用倉庫、そして〝センター前センター〟あるいは〝門前倉庫〟とも呼ばれるチェーンストア向けのベンダー倉庫の3つ。100キロメートル程度離れた東海エリアにそれぞれ配置していた。
同社の番頭役で物流担当責任者のA取締役からNLFに連絡が入った。「取りあえず一度、現場を見てほしい」と言う。V社の3つの物流拠点のうち、自社で運営しているばら・小物専用倉庫に足を運ぶことになった。A取締役が丁重にわれわれを出迎えてくれた。その傍らにはS社長が立っていた。あまり表情を顔に出さないタイプのようだ。
一行に案内されるまま倉庫内を一通り見学して回った。見学終了後、センター内の事務所でA取締役から今回の依頼事項の説明を受けた。「物流の在り方をゼロベースで見直し、戦略的かつ付加価値を創出する機能にしたい。さらには強化した物流機能をてこに事業全体を見直したい」と言う。
卸や商社などの中間流通業であれば、もともと物流そのものが核となるサービスであるため、このような話にもしばしば出会うのだが、中小メーカーが物流をてこに事業全体を見直したいと考えるのは珍しい。あったとしても、物流をよく研究し、物流が他部署に与えている影響を熟知している先進的なメーカーや外資系企業に多いと著者は理解している。
V社の場合、依頼の内容は物流生産性の向上あるいは誤出荷削減などの品質改善だろうと事前に予想していたので、当てが外れた格好であった。またA取締役が説明する間、S社長は沈黙を貫いていた。その光景から2人の意見には相違があるのかもしれないと感じた。
実際、後になって分かったことだが、S社長は物流を軸にした事業再構築とは別に、製品輸出やM&Aなども考えていたのであった。
とはいえ、まずはV社の物流のあるべき姿、V社の〝強み〟を生かしながら、どのような物流スペックが望ましいかを詰める必要があった。V社から提出された関連情報と現場視察の分析に基づき、われわれは改革の第1フェーズとして、次の5つのアクションプランを提示した。

①最適な物流ネットワークの見極め
②最適な物流パートナーの選定
③物流の高付加価値化
④取引ロットの見直し
⑤その他の現場改善(11項目)

これらの提案は一部条件付きの項目もあったが、大枠としては承認され、プロジェクトをスタートすることになった。
まずは①「最適な物流ネットワークの見極め」である。実はわれわれNLFとしては当初から、 ばら・小物倉庫、ケース専用倉庫、ベンダー倉庫の3つに分散している物流拠点を、ベンダー倉庫1カ所に集約して、運営は3PL事業者にアウトソーシングすべきだと考えていた。
しかし、それはV社のこれまでのやり方を否定することを意味していた。自社運営している ばら・小物センターを廃止すれば、既存スタッフの雇用問題も発生する。それでなくてもV社には過去の成功体験に固執している古参の役員やスタッフが少なくないようであった。頭ごなしに方針を決めてしまえば、強い反発が起きるだろう。

生産工程の一部を物流拠点に移管
そこでV社の納品先(着地点)の分布と工場立地を基に、ゼロベースで最適な物流体制を分析するというプロセスを踏んだ。データの裏付けとビジュアルを用いた説明によって、古参社員たちに改革の必要性を理解させ、拠点集約を納得してもらおうという狙いだ。
着地点分析の結果、場所的には現状の3つの物流拠点のうち、どこに集約してもリードタイムの問題は発生しないことが分かった。従って、最も集約しやすい条件がそろっているエリアの拠点を選ぶのが得策であった。
協力物流会社の施設を使用しているケース倉庫は、人手の確保には好都合な立地であったが、既に満庫状態で拡張の余地がなかった。ばら・小物倉庫は自社物件であったが老朽化が進んでいた。一方、ベンダー倉庫はV社が施設を賃貸し、運営を協力物流会社に委託していた。スペースに拡張性があるため、ベンダー倉庫への集約がベストという結論になった。
この集約に合わせて物流コンペを開催し、②「最適な物流パートナーの選定」も行う計画であった。しかし、最終的にコンペの開催は見送った。既存の協力会社C社とは既に40年もの取引があり、過去に何度となくピンチを救ってくれたとのことで、C社との取引継続で全役員の意見が一致していた。
しかし、われわれNLFから見ると、C社との関係には慣れ合いとなっている部分がかなりあり、報告や指示のルールもあいまいであった。そこでC社と新たに「SLA(サービス・レベル・アグリーメント=荷主と協力物流会社間で締結するサービスレベルに関する合意書)」を締結し、KPIを導入して再スタートを切ることになった。
一方、拠点集約に伴うばら・小物倉庫の廃止は厄介であった。V社が長年、物流ノウハウを積み上げてきた自社倉庫であり、社員たちには思い入れがある。そこで働く正社員はもちろんパートタイム従業員の雇用も守りたいという意識が強かった。
しかし、集約先となるベンダー倉庫はパートが通勤するには難しい距離にある。そのため役員の一部から拠点集約とアウトソーシングに反対する声が上がった。そこでS社長の判断で、ばら・小物倉庫に配属されていた社員3人は配置換えによって雇用を維持し、既存パートも全員を通勤可能なエリアにある協力物流会社の別の拠点で採用してもらうことになった。
この拠点集約によって、これまで同じ注文でもケースとばら・小物で納品が分かれていたのを一本化することができるようになった。拠点間の横持ち輸送や保管料も削減されて、支払物流費を約12%削減した。懸念されたリードタイムにも全く支障は出なかった。
さらに③「物流の高付加価値化」を図った。V社の取り扱っている繊維素材の製造には大きく6つの工程がある。そのうち2つの工程で設備を集約先の倉庫内に移設し、生産機能の一部を備えた「PDC(プロセス・ディストリビューション・センター)」と位置付けた。
最大の狙いは在庫削減である。V社の取り扱っている繊維素材は、原料を調達してから製品化まで3カ月以上を要する製品もあり、見込み生産が避けられない。また、同じ製品でも納品先によってパッキングの指定が違うため、納品先ごとに完成品を保管しておく必要があった。しかし、生産工程の一部をPDCに移したことで、出荷指示を受けてからパッキングすることが可能になった。
その結果、金額ベースで約15%の在庫削減を実現した。

6つの「ない」を実践
④「取引ロットの見直し」はV社や繊維業界に限らず、今日のメーカー物流に共通するテーマである。しかし、V社の納品先卸は中堅以下クラスが中心で、一定量の在庫を所有するだけの資金力がある会社はほとんど見当たらなかった。またV社のアイテム数は1万を超えているため、SKU単位のロットではなく、注文当たりの金額にインセンティブを設定した。
⑤「その他の現場改善(11項目)」は具体的には次の内容であった。

●6つの「ない」(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の実践
●出荷頻度ABC分析におけるロケーション、レイアウトの作成と動線の短縮
●通路幅の適正化(基本=相互通行1500ミリメートル、一方通行760ミリメートル)
●保管ラック、ネステナーの導入による保管効率向上
●棚番地管理によるロケーション管理の実施
●トータルピッキングからオーダーピッキングへの変更
●Z字型ピッキングの導入(ピッキング担当者の動線を上から見た際に「Z」の字を描くよう作業する方法。動線がUの字になる一般的なピッキングよりも通路幅を狭くして、左右両面の棚からピックする。空走距離が短くなるので作業スピードが上がる。ただし、作業者にはワンランク上のスキルが求められる)
●ハンドリフトの活用による作業生産性の向上
●発注点管理を含む在庫適正化
●適正在庫量に合わせた棚間口の圧縮
●棚卸し頻度の向上

新拠点「V社PDC」でこれらの改善に取り組んでいる。次のフェーズでは同拠点に受注センターを設置することを予定している。
こうして拠点集約は無事に終わり、運営も安定してきたが、現状ではまだ本来の目的である物流を軸にした事業構造改革というレベルには達していない。それにはまずV社のトップをはじめとする社員たち自身が、物流の威力と魅力を実感する必要がある。つまり意識改革が当面の課題だと筆者は考えている。