Top > 雑誌寄稿 > 第156回 事例で学ぶ現場改善:『当たり前をやれば差別化できる』

第156回 事例で学ぶ現場改善:『当たり前をやれば差別化できる』

人がいないので車両が余る。もうからない。給料を上げられない。さらに人がいなくなる ──中小運送会社の多くが、そんな負のスパイラルに陥っている。採用と定着のどちらかに問題があるからだ。その一方、人手不足を追い風にして成長している、より強くなっている会社もある。彼らは何をしているのか。

採用力の二極化が進んでいる
著者は本誌2014年7月の人手不足特集でも「人手以前に工夫が足りていない」というタイトルでドライバー不足対策について提言させていただいた。それから1年半余りを経て、状況は当時のレベルをはるかに超えて深刻化している。
人手が足りないのは今やドライバーだけにとどまらない。筆者が同テーマで物流会社向けにセミナーを行うと、サービス業や介護、建設など、異業種からの参加者が多いことに驚かされる。少子高齢化、人口減少による労働力不足が社会構造としてあり、小さなパイをめぐって企業間だけでなく産業間でも人手の争奪戦が繰り広げられている。
そのことを理解した上で、さらにトラックドライバーに関しては確認しておかなければならない前提が二つある。一つは「きつい、汚い、危険」の「3K」である。運送業が人の嫌う「3K職場」であることは、高度成長時代からずっと言われ続けてきた。マイナスイメージが広く定着してしまっている。
もう一つはサービス業など他の業種と異なり、ドライバーは事実上、日本人(国籍)に限られている点である。フォークリフトの運転は外国人労働者でも可能となっているが、トラックの場合、外国籍では運転免許を取得することはできても就労ビザがまず取れない。
また物流業界全体を見ると、路線会社(特積み会社)を中心とする知名度のある会社は比較的ドライバーを確保できている。しかし知名度のない中規模以下の運送会社では、営業所に電話をかけても誰も出ないほど人が足りていない。採用力の二極化が進んでいる。
採用力のない会社群は、人がいないために仕事を請けられない→車両を遊ばせてしまって、利益が出ない→もうかっていないので給料を上げられない→さらに採用が難しくなる──という“貧すれば鈍する”の負の連鎖に陥っている。このような筆者の現状認識の基に、ドライバー不足対策の事例を順次報告する。

広域3温度帯物流会社A社
──待遇を改善し荷主を選別
A社は年商400億円の食品物流会社である。東日本の42カ所に物流センターを展開し、車両950台を所有して3温度帯物流を行っている。ご多分に漏れず同社もまたドライバーが足りないため、新たな案件(業務)の依頼があっても断らなければならない状況に陥っていた。
A社が打った対策は「当たり前のことをやる」であった。まずは地域水準と同等の給与を支給するようにして、福利厚生を整えた。それと並行して地方からの採用を目的とした“求人キャラバン隊”を各地に派遣した。それでも必要な人数を確保することはできなかった。そこであらためて原点に戻り、対策を打った。福利厚生をさらに拡充したのだ。
その結果、応募が殺到するようになった。同業他社にはアルバイトのドライバーや「日給月給で福利厚生なし」という待遇が非常に多いことから、世間並みの福利厚生を用意することがそのまま差別化につながった。
しかし、ドライバーの給与を上げて福利厚生を拡充すれば当然ながらコストアップとなる。そこで次にドライバーの人件費に見合った運賃単価を荷主から収受する行動に出た。単なる値上げでは説得が難しいため、輸送品質の改善を図り、それを数値化して荷主に示し、果敢に交渉を仕掛けた。
値上げ要請に良い顔をする荷主はいない。その荷主にとってA社は本当に必要な存在なのか、自ら問うた格好だった。容易に承諾は得られなかった。交渉を機に取引を失った荷主もゼロではなかった。それでも一連の交渉は“勝ち越し”であった。その後に稼働させた新センターのドライバー募集も、後背地の人口の多さにも助けられて、無事に定員を満たすことができた。
この経験を通じてA社の幹部たちは荷主を“選別”する必要性を痛感したという。営業と運営(品質向上)、そして採用力は一つにつながっていることを思い知らされたのであった。

東名阪幹線輸送B社
──単純傭車から「取り扱い」にシフト
B社は東名阪に拠点を置く年商12億円、保有車両90台の物流会社である。運送会社の下請け仕事はやらない方針で、荷主もしくは物流子会社、足回りを持たない倉庫会社に対象を絞って営業を掛けている。売り上げの約9割は輸配送が占めていて、保管やセンター運営にはそれほど力を入れていない。そのためドライバーが同社の最大のリソースだが、定着率が悪かった。
売り上げノルマに追われる営業担当者が、安かろう悪かろう、そしてきつかろうの筋が悪い仕事を取ってくる。しかも「給料は安く、雇用は長く」が社長の方針で、ドライバーの給与水準を周辺相場よりも低く抑えていた。質の良い人材が集まるはずもない。
そこで先のA社と同様に地方に目を向け、何とか2人のドライバーを採用した。しかし、そのうち1人は手積み・手降ろしのハードワークや待機時間の多い仕事に耐えられず、入社1カ月余りで退社してしまうありさまだった。
以前からB社では営業担当者だけでなく、2人の配車担当者にもノルマを課してきた。配車担当者はそれぞれ個人で傭車先のネットワークを持ち、自社車両を割り当てられない分を傭車に振り分けていた。しかし、慢性的なドライバー不足で傭車比率は時を追うごとに上がり、昨年夏にはついに50%まで達した。
今では傭車の確保自体が難しくなっている。仕事はある。しかし、車両がなければ売り上げが立たない。ノルマを達成できない。そこで配車担当者たちは、スポットで傭車を打診できる運送会社の開拓を進めて、レギュラーの協力会社を使った単純傭車から多数の運送会社と荷物をマッチングする求貨求車事業、業界用語でいう「取り扱い」へ徐々にシフトしていった。
大手企業などが運営する既存の求貨求車システムには頼らず、自前のネットワークでマッチングすることで利益率を確保し、なおかつ多少の融通を利かせ、詳細な納品条件などの情報伝達、トラブル発生時の素早い対応など、小規模ネットワークの利点を生かした柔軟な運用を売りにした。
この動きに合わせて会社側でも従来の売り上げと利益額のノルマに加えて、トラックと荷物のアンマッチによる「ロス率」を新たに配車担当者のKPI(重要業績評価指標)に設定した。こうしてB社は現在、実運送はドライバーの欠員を補充するのがやっとという状況だが、「取り扱い」を駆使することで荷主の依頼に何とか対応している。
一方、B社の営業も、仕事はあっても車両がない状況では、協力会社を見つけることがそのまま売り上げになるため、営業担当者4人のうち2人は活動時間のほとんどを荷主ではなく、協力会社回りに割いているのが現状である。
B社のように「取り扱い」を始める運送会社が筆者の周りで増えている。短期的には有効であり、車両積載スペースの無駄を活用しているという点で環境に貢献しているともいえる。ただし、車両の確保は不安定であり、抜本的な対策にはなり得ないことは頭に入れておく必要がある。
iuae.JPG

準大手食品メーカーC社
──新KPIでドライバーの負担軽減
最近は荷主自身もドライバー不足に危機感を抱くようになっている。実際、ドライバー不足を協力会社任せにしていると、繁忙期やいざという時に同業他社へトラックを回されて納品できなくなってしまう、つまり売り上げが立たなくなる恐れがある。
年商約800億円の準大手食品メーカー、C社はその点で一歩先を行っている。同社と協力会社は既に長い付き合いがあり、コミュニケーションは至って親密である。協力会社いわく「うちのドライバーは他社の仕事だと文句の一つも出ることがありますが、C社の仕事はみんな喜んでやります」「昔に比べ負担がなくなりましたので女性ドライバーの採用も予定しています」と人気になっている。
委託先への丸投げではなく、C社の物流管理部門スタッフが頻繁に現場に出向いて、業務実態を理解し、地道に改善を進めてきた。その一環で輸送管理のKPIを「積載率」から「作業生産性」に設定し直している。積載率だけを考えれば「手積み・手降ろし」はパレットを使用しない分だけスペース効率が良い。しかし、作業には手間と時間を要する。負担が大きいためドライバーには嫌われる。トータルで評価すれば得策とはいえない。
そこで作業の所要時間を短縮することで生産性を向上するというアプローチに切り換えた。トラックがセンターに到着してから、荷物の積み降ろしを行い、出発するまでにかかった時間に着目し、手積み・手降ろしをやめて「パレット積み」を採用、待機車両を解消していった。
さらには生産ラインのパレットを従来の1・4メートル×0・9メートルサイズから標準型の「T11型(1・1メートル×1・1メートル)」に変更した。生産本部との調整もあり実現には約2年を要したが、これによってドライバーがパレットの積み換えをする必要がなくなり、車両スペースも有効に使えるようになった。
iuae2.JPG

地場運送D社
──街の若者を会長が直接スカウト
D社は年商7億円の地場運送会社である。同社の業務は手積み・手降ろしの重量物の納品が中心であるため、腕力のある若手でないと務まらない。センター運営では外国人スタッフも投入しているが、ドライバーに関しては若者が集まる街やたまり場に会長が自ら出入りし、直接声を掛けてリクルート活動を続けている。
何ともシンプルな力業であり、下請けの工事会社などで作業員を集める際に親方たちがよく用いる手法だ。それでも定着率は極めて高い。会長に声を掛けられて入社した社員たちは、会長を皆“おやじ”と呼んで慕っている。その様子を見ていると、筆者などは採用媒体や広告会社、リクルーティング会社による仲介は“相互理解”をかえって複雑にしてしまっているのかもしれないと感じるのであった。

西日本総合物流E社
──OBの再就職先を用意
E社は西日本を中心とした年商100億円の総合物流会社である。創業社長が人集めに苦労したことがきっかけで、会社の魅力づくりに力を入れてきた。といっても物流は人気商売とはいえない。そこで社長が考えたのはOBの再就職先を用意することであった。タクシー会社を所有して、E社を退職後にはタクシードライバーとして雇用するようにしたのである。E社の地元では高齢者の職が限られている。“安心してずっと働ける職場”であることで、高い定着率を維持している。

「採用」と「定着」のどちらが問題か
以上のように正攻法を徹底する会社や奇策を打つ会社など、ドライバー不足対策の手法は各社各様であるが、どの会社にも共通する重要ポイントがある。それは「採用」と「定着」のどちらに問題があるのかを把握することである。
「採用」段階に問題がある会社では、人材募集の広告を打っても全く応募がないということさえ珍しくない。その場合には最低限、次の施策を実施すべきだ。
①募集媒体の見直し
②募集内容の見直し
③募集要項に示した差別化ポイントをその通り実施する(募集要項には「年間休日105日」  と書いてあったのに実際は入社したら年間100日未満だったなどの虚偽記載が多い)
④口コミや紹介などを利用して、チラシとハローワーク頼みから脱却する

一方、「定着」に問題がある場合は次のような施策が効果的だ。

①採用担当者は応募者数が少ないときには獲得の焦りから採用ハードルを下げる傾向がある。  事前に設定した基準に満たないドライバーを採用するのは禁じ手とする。人材の質低下は 負の連鎖を招き、退職が増える。必要な人材が確保できない場合には仕事を断ることも一 考である
②入社研修を実施し、その後もしばらくは先輩ドライバーが「世話係」を務めるようにする
③会社の魅力、本人がやりがいに感じることを粘り強く創意工夫する
④定期的にレクリエーションを実施し、仲間意識を育む
⑤職務経歴から判断して、すぐに辞めてしまう可能性が高い人物は、事前の書類選考段階で 対象から除外する(大半の物流会社はドライバーの採用に当たり面接当日に履歴書を持参させている)
⑥出戻りの容認(退職理由の内容による)

最近はドローンや自動運転車など、ドライバーに頼らない輸送方法も検討されるようになっている。しかし、完全自動化が実現するのはかなり先のことだろう。鉄道や船舶へのモーダ ルシフトも対象は幹線輸送に限られる。メーンの輸送モードにはなり得ない。つまり今後も国内物流はトラック輸送が主役であり続ける。そのなり手がいないという問題は、これからの物流業界を規定する最大の要因となるだろう。