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第157回 事例で学ぶ現場改善:『農業ベンチャーの物流改善プロジェクト』

農業の再生を掲げる異色のベンチャー企業が物流危機に陥った。取扱量の急拡大で出荷機能がまひしてしまった。このままでは、せっかく収穫した農産物を駄目にしてしまう。
外部の物流コンサルタントに緊急支援を依頼することにした。連絡を受けた筆者は急きょ産地に飛んだ。

異業種のノウハウで農業を再生
B社は年商約45億円の農業法人だ。現在、全国6カ所で穀物、コメ、果物などを栽培している。金融、証券会社、自動車メーカー、システムエンジニア、コンサルティングなど、30〜40代を中心とする各分野のスペシャリストたちが集まって9年前に創業した。
農業に関してはほとんど素人集団であったが、異業種のノウハウや幅広い人的ネットワークを生かして農業再生に取り組み、事業を軌道に乗せた。
例えば農産物流通の特徴の一つは受注という概念がなく、市場価値が最大となる少し手前(リードタイムを差し引く)の段階で出荷することだ。そこでB社では金融業界における価格変動の分析技術を使って、売りと出荷のタイミングを判断している。またB社が取り扱っている農産物の95%以上は農協をはじめとする既存の流通チャネルを経由しない直納となっている。
他にも、ものづくりにおける生産管理や採算管理のノウハウ、オムニチャネル型の販売展開、マーケティングとブランディング、さらには農地開発からM&Aに至るまで、それまでの農業の常識に縛られない斬新なアプローチをB社は武器にしている。
ある日、B社の代表を務めるS氏からわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)に連絡が入った。「Xエリアでの農産物の出荷が間に合わない。物流の専門家の力を借りて早急に改善したい」と言う。
そこはB社が最近M&Aを行った会社が所有する農地で、温暖化による豊作と大口契約の締結により、収穫量が昨年の4・5倍に膨らんだ結果、物流機能がパンクしてしまったとのことだった。一刻も早く手を打たないと、気温の上昇で熟成が進んで製品価値がなくなってしまう。
急ぎS代表やB社のスタッフたちと現地の空港で合流することになった。そこから目的地まで車で移動する1時間ほどの間に、車中でミーティングを行い、問題解決の糸口を探った。
それ以前からS代表は当地に何度も足を踏み入れて、現場の責任者と対策を話し合ってきた。しかし、改善効果が出荷量の増大に追い付かず、改善の方法自体も詰められたものではなかったため、好転の兆しは見えずにいた。現場では残業と休日出勤が常態化し、はかどらない作業のために疲弊が進んできたという。
車が現地に近づくと説明を受けるまでもなく、地面からせり上がるように積み上げられた収穫物の山が目に飛び込んできた。その迫力に驚いて「○○万トンはありそうだ」と筆者が呟いたところ、S代表が「ほぼドンピシャです」と反応した。ちょうど今回出荷する分を貯蔵庫から作業場に取り出したところだという。
資料によると農地は敷地全体の広さが約3万平方メートルあり、そのうち7割が田畑、残り3割に貯蔵庫や洗浄場、仕分け、検品、出荷スペースをレイアウトしている。しかし、現場を見渡しても、どこが何のエリアなのか全く分からない。収穫物を無作為にばらまいたようにしか見えなかった。
いやはや、やりがいのある現場であった。われわれNLFは過去に卸売市場における野菜・果物物流の改善を経験している。現地に来るまでは、その時のノウハウを今回は生かせるだろうと踏んでいた。しかし、この時点では、いつ運営を安定化することができるのか明確に答える自信はなかった。
われわれは広大なエリアを見て回り、現場担当者にインタビューを行った。その情報を持ち帰ってデータや定点チェックも行った上で、次のような改善策を抽出した。

①出荷計画表の作成
②作業フローの確立
③役割分担表の作成と作業別責任者の設置
④昼礼の実施
⑤レイアウトの見直し
⑥作業環境の改善

さらに、これらを「改善に使用する資材の発注先をリストアップする」といったレベルの具体的な実務に落し込んだ。その結果、実行項目は計73にも及んだ。同地では自社生産品だけではなく、他社から仕入れた収穫物の入出荷作業も行っていて、プロセスがそれだけ複雑だったためである。

簡易的レイバーコントロールを実施
農産物の収穫量と出荷量は当日になるまで確定しない。その日にどの区画を刈り取るか、貯蔵庫から何をどれだけ出荷するかは、通常のメーカーで言えば工場長兼物流センター長に当たる「生産長」が、当日朝に収穫物の熟成度を見極める目利きと経験に基づいて判断する。そのため事前に準備ができない。
これを改善するため「①出荷計画表の作成」に取り組んだ。ただし、これには反発が予想された。生産長に見込みで構わないのでカレンダーに日別の出荷予定数量を書き込んでもらうよう打診したが、案の定「その日の天候や気温次第なので作成できない」と突っぱねられてしまった。
この反応は想定内で、落としどころは次の提案にあった。「それでは予定数量に幅を設けましょう。その日の作業が順調にいった場合の『順調ペース』と、普通だった場合の『標準ペース』、遅れた場合の『遅れペース』について、それぞれの予定数量をフォーマットの上段・中段・下段に記入してください」と依頼したのである。これを突破口に、貯蔵庫からの出庫量についても同様の計画表を作成することに成功した。
現場の作業フローはあいまいだった。刈り取った収穫物は、手が空いたスタッフがそれぞれ状態を判断し、必要な物には加工を施して、貯蔵庫や洗浄場に運んでいた。しかし、取扱量が大幅に増加したことで属人的な判断に基づく運営は破綻を来していた。そこであらためて②「作業フローの確立」を進めた。一連のフローを整理してそれぞれ工程を定義した。
そして工程ごとに5つのチェックポイントを設定して、作業マニュアルを作成した。チェックポイントとは、例えば収穫物を選別する検品作業であれば「製品のチェックのための回転は2回転まで(とする)」「打音が鈍い場合は不明かごに入れ、責任者が最終判断を行う」といった作業ルールのことである。
それを5項目に絞ったのは、あまり多くのチェックポイントを設けても機能しないことが過去の経験から分かっていたためである。また当産地の現場スタッフには作業経験の長い熟練者が多いため、5項目で十分という面もあった。
次に③「役割分担表の作成」と作業別責任者の設置」を行うことで分業化と作業責任の明確化を図った。出荷作業を担当する総勢56人を第1班から第8班までのグループに分けて、それぞれ班長を決めた。
そのうち第1班から第7班までは、「出庫」「洗浄」「検品」「梱包・出荷」などの工程別の専門部隊だ。一方、第8班は製造業でいう〝ミズスマシ〟役である。ただし、ここではライン側(そく)に必要な物を届けて各工程の橋渡しをするというだけでなく、作業が滞留している場合は作業そのものをサポートするマルチプレーヤーとして機能させている。
この第8班に加えてそれぞれの班に、作業の対応幅が広く、熟練度が高く、なおかつ新人に作業を指導することができる三拍子そろったメンバーをサブリーダーとして配置した。
班長は自分の担当する工程の進捗に責任を持つ一方、作業に遅れが出ている工程があればサブリーダーを応援に派遣する。
そのコントロールのために④「昼礼の実施」に取り組んだ。以前から同産地では勤怠管理のための朝礼と、翌日の出勤を確認するための終礼を行っていた。それに対して昼礼では各工程の進捗の状況を共有し、遅れている班への応援を判断する。
これらの体制を整えて、日別の作業計画と進捗管理に基づく、簡易的なレイバーコントロールを実施した。通常の工業製品とは異なり自然を相手にする農業は、その日の天候によって物量や作業の生産性が大きく左右されてしまうことから、平均作業時間を一律に適用するのではなく、プラスマイナス10%の幅を持たせて運用している。
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地元の民謡をBGMに
⑤「レイアウトの見直し」は、作業エリアに大型設備が設置されているため制約が大きかった。それでも搬送ラインの向きを調整してトラックが到着するまで、ライン上に一時保管ができるようにするなど、可能な限り最適化を図った。
⑥「作業環境の改善」は細かな施策の積み重ねである。例えば風よけを設置した。同地特有の空っ風が建物の内部にまで入り込み、スタッフの手を中断させることがしばしばあった。
そのため軽量のトタン板で風の通り道につい立てを作った。
〝かがみ〟作業のゼロ化は必須であった。洗浄や仕分け、出荷場などで、腰に負担の掛かる作業が目に付いた。踏み台を作ったり、空パレットを1〜2枚敷いて高さを調整することで、荷物の上げ下げや下向きの作業を削減することに注力した。
貯蔵庫から出庫して最終的に箱詰めするまでの作業には、それまで大型のかごを使用していた。小柄なスタッフだと奥に残った製品を取り出すのに背伸びをしなければならない。
そこでかごよりも一回り小さな物流用の透明なオリコンに順次切り替えていった。こうした作業改善の結果、腰痛を訴えるスタッフが大幅に減って欠勤率が下がった。
また作業生産性向上とモチベーション低下防止のために地元の民謡をBGMで流すことにした。これにより生産性も上がったが、何よりスタッフが民謡を口ずさみ笑顔を見せる場面が増えたのが印象的であった。
こうして緊急措置的な改善を優先して実施したが、何とか最悪の事態は回避して安定化にこぎ着けることができた。近年、農業の近代化が急速に進んでいるが、こと物流に関しては改善すべき点がまだ数多く残されているようである。それに対してB社は、われわれのような外部の物流コンサルタントを利用することで解決を試みた。そのアプローチと感性にB社の真骨頂を見た気がした。