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第158回 事例で学ぶ現場改善:『ローカル外食チェーンW社の物流整備』

店舗数20のローカル外食チェーンが将来に備えて物流体制の整備に乗り出した。それまで自社生産品は社員がトラックを運転して店舗に配送し、それ以外はベンダーの店舗納品に依存してきた。ほぼゼロからのスタートであった。成長段階に合わせた現実的なプランを心掛ける必要があった。

一括納品で店舗人件費を15%削減
W社は年商約20億円のローカル外食チェーンだ。ご当地の麺類が売りの飲食店を隣県と併せて20店舗展開している。自前にこだわり、麺の生地、だし、具材の野菜類に至るまで自家生産を行っている。店舗展開においても通常のフランチャイザー(本部)とフランチャイジー(加盟店)の関係を嫌い、時間をかけて店長を育てる〝のれん分け〟制度を採用している。
物流も生産の一貫でW社の本部が直接手掛けていた。繁忙期にもなるとW社の本部は前倒し生産した生地、だしのハンドリングでごった返す。それを社員兼ドライバーが2トン車2台でラウンド輸送して各店舗に届けていた。ただし、それ以外の油や卵、副資材などのサプライ品は、それぞれ調達先のメーカーや卸業者が各店舗に納品する体制だった。
今回の案件でわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)の窓口を務めてくれたスーパーバイザーのM氏はW社に入社して3年だが、以前に外食産業2社で物流担当を経験していた。
1社目は比較的大手で物流体制が既に整っていたため、M氏の任務はオペレーションの課題、問題点をつぶしていくことだった。
2社目はチェーン展開を本格的に開始したばかりの段階だった。それまで数店舗を構えているだけだった飲食店が、見る見るうちに出店を加速していった。大急ぎで物流体制を構築する必要があった。そのドタバタと、結果として部分最適に陥ってしまった苦い経験から、W社では将来の事業展開を見越した物流体制を整備しておきたいとM氏は考えた。
W社のT社長は外食チェーン以外にも農業や他の事業を手掛けている地元の実力者だが、物流については不案内だ。そこでM氏が〝戦略的に物流体制をつくることが売り上げ増につながる〟という趣旨の提案を行い、社長を口説いて物流整備プロジェクトの実施へと導いたのであった。
社長からOKをもらったM氏は、スーパーバイザー業務の傍ら、まず改革の第1弾として店舗間のラウンド配送を外部に委託した。しかし、委託先は食品物流やルート配送が得意とはいえない路線会社の下請けであった。そのため割高な運賃となっていた。
このような状況下でプロジェクトの支援を求められたわれわれは、今後の指針と目安を次のように伝えた。

●メーカーや卸(ベンダー)からセンターフィーを徴収できるようになるのは30店舗レベルから。60店舗レベルまでは仕入れ先の集約によるボリュームディスカウントも期待できない。
●60店舗レベル以降は自社物流センター開発のメリットが出てくる。ただし、ドミナント出店が前提であり、センターは規模に関係なく賃貸物件が望ましい。チェーン展開次第で最適な拠点立地は変化するし、セントラルキッチンなどセンターの機能拡張が求められることもあるため、スクラップ・アンド・ビルドに対応できるよう身軽にしておく必要がある。
●100店舗レベルを超えるとチルドに強い食品卸を使って仕入れコストを下げ、品ぞろえの強化を図ることも可能になる。その際にベンダーは、恐らく商物をセットにした提案を行ってくる。しかし、それをうのみにしてはならない。
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昨今、商流は赤字でも物流で利益を出すというベンダーが増えている。そのため仕入れ価格だけで判断してしまうと、物流費を含めたトータルコストはかえって上がってしまうことがある。とりわけドライバー不足が深刻化している今は、いかに実力のあるベンダーでも新規契約の運賃は高くなる可能性が高い。
店舗納品や段取りを一通り覚えて一人前になったドライバーを代えると誤納などが発生してしまうこともある。既存の物流会社の品質、コストに満足しているのであれば、既存物流会社を指定業者として商流だけ切り分けるという選択肢もある。両案をシミュレーションして比較することが不可欠である。

これらのアドバイスをしたところ、M氏から「少し先が見えるようになった」という返答があった。続いてわれわれは今回のプロジェクトの具体的な実施項目を次のように抽出した。

①店舗の荷受け負担軽減
②配送費の削減
③容器の標準化
④ノー検品への早期移行
⑤温度管理の徹底
⑥「納品カルテ」の改善

①「店舗の荷受け負担軽減」は必須項目であった。各ベンダーから直接店舗に納品しているサプライ品の納品伝票が、多い日には15社分にも上っていた。店舗スタッフが1日15回も立ち会い検品をして、受領印を押していることになる。W社の各店舗の平均的な運営人員は昼食時のピークタイムで3人、アイドルタイムは1〜2人である。これでは接客への対応が不十分となり、麺が伸びてしまう。
われわれNLFでは過去にドラッグストアのコンサルティングを行った際、店舗スタッフが荷受けから陳列までの物流業務に割いている時間を算出したことがある。その結果、全労働時間の37%を物流業務に割いていることが分かった。W社でも近い値になるかもしれない。
これを受け、物流会社の既存施設の一角を賃借する形で、在庫を持たないTC(トランスファーセンター)型のセンターを急ぎ立ち上げることにした。W社近隣の物流会社をリストアップし、NLFの物流会社リストを加えて候補を探した。当面必要なスペースは35坪だったが50坪超まで拡張できるスペースが見つかり、これを手配した。その結果、サプライ品の一括納品が可能になり、店舗人件費の約15%削減が実現した。

納品容器を「盤重」とオリコンに集約
②「配送費の削減」も確実な効果を期待できる施策であった。ラウンド配送車の1日の走行距離、拘束時間、納品店舗数、納品作業の諸条件をあらためて確認したが、現状の支払運賃はどう見ても割高であった。そこでまずは元請けの路線会社の担当者と料金交渉を行い、それでも割高のままであれば他の物流会社を当たるという手順で進めることとなった。
③「容器の標準化」は、食品業界で広く利用されている薄型の盤重(ばんじゅう)とオリコンの2種類に集約した。それまで麺生地の容器に盤重を使う以外、だし汁や他の具材には決まった容器がなく、サイズもばらばらだった。そのためラウンド配送のドライバーは店舗納品時に車両と店舗を何度も往復する必要があった。
そこで麺生地以外の容器を定番のオリコンに統一した。当面、オリコンは協力物流会社で余っていたものを提供してもらい、洗浄して使用、新たに補充する分からW社負担で準備することになった。
これによって納品作業の生産性が向上し、朝1便のセンターの帰社時間が1時間強早くなった。店別仕分けや車両の荷台作業、積載率も向上した。またオリコンの使用は店舗で食材を床に直置きしてしまうのを防ぐことにもなり、衛生管理にも一役買ったのであった。
④「ノー検品への早期移行」は、納品品質の向上が大前提であった。一括納品に切り換える以上、店舗納品時のノー検品は当たり前といえる。しかし、実際には納品ドライバーによる持ち出しミス、数量間違い、品間違い、納品先間違いが頻繁に発生し、店舗からのクレームが絶えなかった。
そこでミスの原因を究明し、その対応策を一つ一つ消し込んでいった。その結果、改善はされるのだが、毎週のようにまた新たな原因によるミスが発生するといういたちごっこがしばらく続いた。しかし、それもようやく落ち着き、納品ミス率は0・02%まで改善してきた。このペースを維持できれば、2カ月後にはノー検品に移行する予定だ。
⑤「温度管理の徹底」は、センターにおけるドッグシェルターの開閉、店舗納品時におけるチルド車の扉の開閉(夏場にもなると開閉時に車内温度は5度も上昇する)、走行中における温度計チェックの3点に絞って管理を徹底した。またチルド装置の冷風が葉物野菜などに直接当たらないよう風よけの板を立てる、霧吹きで水を吹き掛けるなどの工夫を施した。
⑥「『納品カルテ』の改善」も進めた。W社では従来、各納品先の留意事項を記入した納品カルテを使用していたが、そこに納品現場の見取り図(車両置き場、入店経路など)や箇条書きした作業手順を追加するなどして、誰が見ても分かりやすいものに仕上げていった。

改善前のW社の現場は実に旧態依然としており、物流整備は事実上、ゼロからのスタートであった。しかし、この経験を通してわれわれは、普段は当然と考えている現場運営のプロセスやルールがなぜそうでなくてはならないのか、あらためて確認することになった。
どれほど管理レベルが上がろうが、折に触れて基本に立ち返ることが必要だと再認識した。