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第159回 事例で学ぶ現場改善:『小規模な物流現場のKPI作成』

オフィスビルの一角を倉庫スペースとして使用している小規模な現場の改善を行った。物流工程に検品作業が含まれていることから、庫内業務は全て正社員で行っている。まだ外部に業務を委託してメリットが出る規模ではない。それでも同社のトップは物流コンサルティングを受けることを決意した。

100坪の倉庫に正社員3人体制
P社は年商約30億円の部品卸である。精密機械などの部品約3200アイテムの販売と、部品の改修(修理)・検査を行っている。本社から歩いて2分の場所にあるオフィスビルにテクニカルセンターとショールームを構えており、そこに物流センターも併設している。
物流センターといっても大きさは100坪程度で、入出荷(搬入・搬出)に時間のかかる最上階に設置されていた。基本的にはテクニカルセンターにおける改修作業を軸にした施設であり、物流は後付けだった。それでも出荷量が多いときには本社や他部門のスタッフの応援が必要で、かなりの人手を取られていた。
P社のF社長と担当のM次長からコンサルティングの打診を受けた。依頼内容は至ってシンプルで、「物流を評価する基準、管理の物差しがないので診てほしい」というものであった。早速、物流現場の視察を行ったが、KPI(重要業績評価指標)を設定する前に、まずは基礎的な現場改善が必要であった。次のような課題が確認できた。

①入荷検品の不徹底
②保管棚に空きが目立つ
③庫内作業員が全て正社員
④身体への負荷が大きな作業
⑤物流サービスレベルの設定

①「入荷検品」は受領印を押すだけの〝ながら〟作業と化していた。梱包を開いて中身を確認することはおろか、ケース数量をチェックする〝検数〟ですらあいまいになっていた。これでは在庫が合うはずもない。「在庫差異率」をKPIの一つに設定する必要があった。
②「保管方法」も問題だった。保管棚として使っている軽量ラックはすき間だらけで、地代の高いオフィススペースに空気を保管している状態だった。筆者にいわせれば、ビジネスの英気が失われる風景であった。そこで、まずは25日分を適正在庫量とした一覧表を作成するよう、M次長とシステム部の担当に依頼した。その表に合わせて棚の間口を設定し直すのである。
そもそもこの現場は、何がどこに置かれているのか、保管ロケーションが分からなかった。棚に貼られたラベルと実際にそこに保管されている商品が合っていない。ラベルは何重にも貼られていたり、ほとんど読めないものもある。棚番地は定期的なメンテナンスが必要で、途切れると後が続かなくなってしまう。P社もそうだった。
物流センターに配属されている社員3人だけがロケーションを分かっている。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)が現場最適化のスローガンの一つに掲げる〝誰もが分かる現場〟の対極であった。
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NLFでは〝誰もが分かる現場〟の目安を次のように考えている。「初めて現場に入ったスタッフが2日目の作業で一人前のスタッフの仕事の30%を理解できる」、そして「中学2年生でも全ての作業ができる」というものである。その大前提が番地である。番地さえあれば子どもでも新聞や年賀状を配達できる。庫内作業も同じである。
棚番のメンテナンスは、新商品情報と終売情報のタイムリーなアップデートが鍵になる。そこで情報のフロー図をあらためて作成し、新製品情報については営業部門に、終売情報については調達先にそれぞれ遅滞なく情報を流すよう要請した。

検品業務の付加価値を検証
続いて、物流担当3人の頭の中にある運営ノウハウ、暗黙知のマニュアル化、ビジュアル化に取り組んだ。これには手間を要した。現場には前任者が作成したと思われる作業マニュアルのようなものが残されていたが、表現が難解でわれわれが読んでもさっぱり分からない。ゼロから作り直す必要があった。
社員3人にも相談したが自社ではやり切れないとのことで、われわれNLFがヒアリングと実査を行い、マニュアルの作成を代行した。また、この作業を通じて庫内作業の棚卸しを行い、③「庫内作業員が全員正社員」という体制が妥当かどうかを判断した。
実はP社が今回、われわれにコンサルティングを依頼した狙いの一つがそこにあった。
F社長とM次長は庫内作業のパート化が可能ではないかと考えていた。その仮説が正しければ社員をコア業務に投下できる。それを第三者の目で検証してもらいたかったと後になって告げられた。
それまで庫内作業に正社員を投入していた最大の理由は、物流工程に部品の検品業務が組み込まれていたからであった。検品は正社員でなければ品質を保証できない付加価値の高い業務と目されていた。しかし、われわれNLFが見たところ、同センターで行われている検品業務は、多くの物流会社が流通加工の一環として請け負っている業務と変わりがなく、専門性が高いとはいえなかった。非正社員でも十分対応は可能だった。
そこで派遣1人、パート1人を新たに採用し、社員3人体制から社員1人×派遣1人×パート1人体制に移行した。既存の物流担当3人のうち、経験豊富なベテラン社員は品質管理部へ、入社間もなく物流センターに配置された若手は製品企画部へ異動した。
並行して④「作業環境の細かな改善」を行った。その一つがファイリングボックスの使用廃止である。小さなねじやボルトなど、ラックに直置きできない「小物」の保管にはファイリングボックスなどのケースがよく使用される。しかし、ファイリングボックスは背が高いため、ピッキングの際に作業者は中をのぞき込まなくてはならない。動作が一つ増える。
調べたところ、ファイリングボックスで保管している小物も立派なケースに入って入荷されていた。それをわざわざファイリングボックスに入れ替えていたのである。過去にメーカーの外装改善もしくは購入ロットの変更があったにもかかわらず、保管方式を変えなかったのだろう。迷うことなく直接保管に切り替えた。
梱包作業用のスペースも拡充した。これも作業内容が変わっているのにツールは昔のままというパターンだった。部品のサイズ自体が大きくなったことに加え、送り先によって「シールを貼る」「取扱説明書を付ける」など、出荷の仕様が多様化したことで、明らかに作業台が手狭になっていた。
大きなサイズの梱包をする際には地べたで作業するというあり様であった。腰に相当な負担が掛かるはずだ。そこでスペースを確保して作業台を1台増設し、しゃがんで作業する必要をなくした。

短納期を求められていない?
⑤「物流サービスレベルの設定」は、P社の〝パンドラの箱〟ともいえた。P社の営業、購買、システム、経営幹部達はそろって「当社は短納期を求められていない。比較的リードタイムは長くても大丈夫で、取り寄せに応じてくれる販売先も多い」と言い張っていた。今どき珍しい業界もあるものだと著者は疑心暗鬼であった。
案の定、受注担当のスタッフに尋ねたところ、「リードタイムを短くしてほしい」「欠品をなくしてほしい」といった意見が販売先から届いているという。そもそもP社が日本総代理店となっている取扱品目や品目数などを考えると、年商30億円という規模は小さ過ぎるように感じていた。50億円程度はありそうなものである。
原因の一つは過小在庫であった。現会長の先代社長に資金繰りが悪かった時代の経営が染みついていて、在庫の保有に積極的になれないでいた。そのため欠品が多く、営業も納期調整に慣れてしまっているため、短納期を求める得意先は他社に流れていた。
在庫投資が必要であった。しかし、これについては今も先代と現社長の間で意見調整が続いている。
こうして初歩的な改善を実施した上で、「在庫差異率(金額・アイテム数)」「在庫回転率」「誤出荷率」「1人当たり1時間当たり(MH)梱包数」の4つのKPIを、物流管理の〝物差し〟として設定した。
さらに次のステップとして、物流センターの移管を指摘しておいた。現在、物流センターを置いているオフィスビルの賃料は倉庫としては高過ぎる。郊外に移転することで賃料の坪単価は3分の1程度に抑えることができる。トラブル発生時やピーク時に他部門の応援が必要な場合でも、車で45〜60分圏内であれば問題は起きないはずだ。
P社はまだ物流を外部に委託してメリットが出るレベルの規模ではない。それでも同社が物流改善を思い立ったことを、筆者はうれしく感じている。どんな小規模な会社にも、企業活動の一環として物流が必ず存在する。その実態と経営に与えるインパクトを理解することで、売り上げ規模には関係なく物流を武器にできる。
物流を単なるコストセンターとして捉えるのではなく、プロフィットセンター、セールス支援部隊と位置付けて戦略的な物流サービスを設定し、適切な販売管理システムを構築することが可能になるのである。