Top > 雑誌寄稿 > 第160回 事例で学ぶ現場改善:『化学品メーカーF社のコスト削減』

第160回 事例で学ぶ現場改善:『化学品メーカーF社のコスト削減』

極端に容積がちで安価な製品を扱うメーカーでは、物流の効率性が営業力や製品開発力以上に重要な経営課題となり得る。F社がそうだった。対処療法では限界があった。
物流コストの削減を目的としてスタートしたプロジェクトは、やがて抜本的な経営改革へと広がっていった。

商物分離を商物一致に戻す
F社は年商約180億円の化学品メーカーだ。国内に工場9カ所、営業所25カ所を展開している。取扱品目数は約330。その多くは空気を運んでいるかのような、容量に対して非常に軽い、いわゆるかさがちで安価な製品だ。そのため物流コストが支払経費の中で最も大きな割合を占めている。
F社は同分野では国内トップメーカーではあるものの、さほど売り上げをつくることができていなかった。理由の一つは、調達先の原料メーカーが自ら川下に動き、F社と競合する製品を販売することがあるためだった。通常であれば〝ご法度〟とされるやり方だが、同業界では珍しいことではなかった。
F社には約60年の社歴があり、経営者こそ2代目になっているが、実質的には先代からの古参組が経営の中心を占めていた。そこに中途採用で後から加わったN取締役が、今回のプロジェクトのリーダーであった。N取締役は入社7年。社長にその能力を認められて役員に抜擢されたばかりであった。
筆者はN取締役と以前にも仕事をしたことがあった。N取締役がF社への転職前に勤務していた会社で、筆者がコンサルタント、N氏がプロジェクトメンバーという関係で一緒に物流コスト削減プロジェクトに取り組んだ。今回もやはり物流コスト削減がテーマであった。ただし前回、N氏は工場サイドに籍を置いていたが、今回は管理本部という立場から物流を見ることになる。
N取締役との再会を済ませた後、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)のメンバーはF社の現場に出向いて一連の調査を行い、F社の役員会で改善課題を次のように提示した。

①拠点立地の最適化
②自社便比率の向上
③出荷拠点の見直し
④共同配送の推進
⑤工場渡しの推進
⑥工場直送化
⑦生産委託先との拠点統合

いずれも今後のF社の在り方に影響する内容だが、その時点では提案に対して役員メンバーたちから異論は出なかった。早急に現状の検証を進め、優先順位を決め、重要な項目から着手することになった。
①「拠点立地の最適化」は、現状の工場や物流拠点を兼ねた営業所の多くが、土地は安価だが人手の確保が難しく、納品運賃が高くつくエリアに配置されていることを問題視したものだった。
先述の通りF社の製品はかさがちのため、納品コストの抑制とリードタイム短縮を目的に、電機、精密メーカーなど主要顧客の工場近隣に自社工場や営業所を置いていた。
しかし、顧客の多くがその後、生産を海外に移してしまい、さらには納品先の顔ぶれも時代とともに変化したことで、一定エリア内で需給を完結する、いわゆる〝地産地消〟が形骸化していた。
そこで現在の納品先をマッピングして着地点分析により、ゼロベースで最適な拠点立地をはじき出した。その結果、これまで工場がなかった関東と南東北に、新たに工場を置くべきであることが分かった。これを受けて既存工場の移転に向け、自社保有資産の確認と賃貸物件の調査を急いだ。
②「自社便比率の向上」は、営業担当者が自分でトラックを運転して納品する〝商物一致〟を進めようという提案であった。F社は営業力の強化を目的に、協力物流会社に納品を委託し、営業担当者を物流業務から解放する商物分離を実施していた。
しかし、期待された効果を発揮しているとは言い難かった。商物分離の本来の目的である提案営業の深掘りや新規チャネルの開発に、二の足を踏んでいる営業担当者が少なからず見受けられた。そうであれば、かさがちで割高な輸送費を支払うより、提案営業に不向きな人材は営業活動を兼ねた納品に戻した方が賢明だという提案だった。
これには営業を統括する役員や傘下の営業部門がやや難色を示した。しかし、最終的には社長判断であらためて商物一致を部分的に再開することを決定した。自社便の納品には自社トラックが必要であったが、幸い各営業所はそれぞれ2台の車両を所有していた。
そのため体制変更は比較的スムーズであった。
結果として、この商物一致への回帰はうまく機能した。支払運賃が減っただけでなく、納品を担当するようになった営業担当者は現場に対する理解が深まり、ユーザーの意見を基に開発部隊へ試作品を依頼するという流れが強化されたのであった。
iuae.JPG

“運ばない納品”へ発想を切り換える
③「出荷拠点の見直し」は、F社に限らず出荷拠点が複数ある場合には、常に検討材料に挙がるコスト削減手法である。どの拠点から出荷すれば最も運賃が安くなり、かつリードタイムを維持できるのかを再検証する。その結果、A営業所の車両がB営業所の近くの会社まで納品に来ているという実態が分かってくる。よくある話だ。つまり出荷元の振り分けには定期的なメンテナンスが不可欠なのである。
それに比べると④「共同配送の推進」は難易度が高い。F社のかさがち品は、重量品と積み合わせるのが理想だが、そう簡単にパートナーを見つけられるものではない。
F社の輸送は、工場→営業所→エンドユーザーという2段階である。このうち工場→営業所の幹線輸送には、スペースを確保するため、荷台の長さが大型車並みの9メートルある4トン車、いわゆる〝お化け4トン〟を導入した。小ロット配送については一般雑貨との積み合わせも実現したが、対象はまだ一部にとどまっている。現在、本格的な共同配送パートナーを物色中で、方面別に中・重量品積載車両をわれわれNLFのネットワークから一つずつ当たっている状況である。
一方、営業所→エンドユーザーの2次配送は、先述の自社便比率の向上と連動しており、納品時間の制約があるため、共同化は次のステップに先送りしている。その代わりに、車両の回転率向上に力を入れ、最低でも1日2回転できるように自社便と委託車両との配車組みを工夫している。
⑤「工場渡しの推進」とは、納品先に工場まで荷物を引き取りに来てもらおうという話である。運べば運ぶほど非効率になる製品だけに、〝運ばない納品〟に発想を切り替える。われわれNLFが過去に緩衝材メーカーの改善で実施したやり方を、F社に合わせてカスタマイズし、落し込んだ。自社車両を持って
いるユーザーを対象に、営業本部長から文書でアナウンスしてもらい、各営業担当者からもプッシュすることになった。
この取り組みの推進に当たってはポイントが二つある。一つはユーザーへのインセンティブの設定である。F社の運賃が不要になる代わりに、ユーザーが輸送コストと手間を負担することになるため、通常は〝値引き〟の形で還元することになる。そのさじ加減に留意する必要がある。
もう一つが、引き取り車両の受け入れ体制である。具体的には、引き取り車両の待機・ 積み込みスペースを確保することである。工場が手狭な場合は、車両が到着する前にユーザーから連絡を入れてもらい、スペースを空けるといった運用が必要になる。
先の緩衝材メーカーのケースでは、工場渡しを受け入れたのは最終的に全得意先の3・0%だった。それでも物流コスト削減効果は決して小さくはなかった。それに対してF社の場合、当初から3・2%の得意先が工場渡しに応じている。当初は対象としていな
かったユーザーが調達物流(ミルクラン)の内製化の一環として加わるといったケースも出てきている。

ビジネスモデルを改革する
⑥「工場直送の推進」は、現在の工場→営業所→エンドユーザーの2段階輸送を、工場→エンドユーザーの1段階に短縮しようというものである。F社の事業構造に抜本的にメスを入れる大きな改革となる。①〜⑤までの改善の方向性とは異なり、B案とでも表現した方がよいであろう。
安価でかさがちな製品を扱っているメーカーの物流は、ハンドリング回数を可能な限り少なくすることが鉄則である。しかし、F社の物流は営業所を経由するためダブルハンドリングとなり、コストが上がる構造になっていた。われわれNLFは営業所在庫をなくし、メーカーの基本である直送化を推し進めることを提案した。それは会社の在り方そのものを大きく変えることもあり、古参組役員を中心に困惑と反対意見が沸き上がっ た。
しかし、F社の本業はモノづくりであり、在庫拠点は競争力の決定的な要因ではない。
しかも、F社の製品はアフターフォローを必要としない。営業所に在庫を持つことを正当化するのは難しい。当案は今も検討中だが、社長の頭の中では数年後には営業所から在庫を引き上げるだけでなく、営業所を全廃する方向で考えがまとまりつつある。
それでは営業活動はどうするのか。その準備のため、提案営業、開発営業のキーメンバーを東京本部に集約した。7人の少数精鋭体制だが、彼らには特別なカリキュラムを用意して、営業所では習得していなかった詳細な製品特性・知識、海外における他社同製品の使用方法などを教え込む予定である。
⑦「生産委託先との拠点統合」も工場直送のバリエーションといえる。現状では委託先の製品を全て、いったんF社の工場に納品した後で各地の営業所に横持ちしている。
本来であれば、委託先から直接エンドユーザーに納品したいところだ。しかし、委託先工場にはF社製品として出荷するのに必要な品質検査、得意先ラベルの発行、車両手配などの物流機能がない。
そこでF社の工場敷地内に〝店子〟として委託先に入居してもらい、F社の自社生産品と同様にエンドユーザーへ直送する。とっぴなアイデアに聞こえるかもしれないが、〝作る〟ことよりもむしろ〝運ぶ〟ことにコストが掛かっているビジネスでは現実的な選択肢となる。実際、複数の生産委託先がこの提案に乗ってきた。
調査した結果、F社の全国9工場のうち新たに生産ラインを誘致できるだけの広さを持つ工場が6つあった。さらに緑化面積の確保、レイアウトの効率性、外注先の意向などから対象は4工場に絞られた。繁忙期を避けて段階的に移設を進め、来年3月までには、誘致に応じた全委託先の移設を完了する計画だ。