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第161回 事例で学ぶ現場改善:『機械部品メーカーM社の改革“第2章”』

物流改革の第1フェーズで拠点集約を実施したクライアントが第2フェーズに駒を進めた。創業社長はやる気満々だ。遠大なビジョンを掲げ、社員たちをけしかけている。他のメン バーたちは付いていくのがやっとという状態だ。物流コンサルタントもうかうかしてはいられない。

マザーセンターの物件探しが難航
機械部品メーカーM社は1年ほど前に改革の第1ステージを終えたクライアントである。
その後、難航していた物流センターの新設にめどが立ったので改革を第2ステージに進めたいとの連絡が入り、引き続きわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)がサポートすることになった。
M社は年商約80億円。国内と海外に1カ所ずつ自社工場を置いて、約3500アイテムを生産している。販売先は今のところ国内だけだが、同社の創業者でもあるS社長は国内の物流体制整備が済んで運営が安定した段階で、タイやベトナムに販路を広げたいと考えている。
改革の第1ステージでは、それまで全国7カ所に置いていた在庫型の物流センターを再編し、北関東にマザーセンターを新設して、リードタイムが長くなる北海道と九州にはそれぞれエリア拠点を配置するという3拠点体制への移行を実施する計画だった。
ところが、肝心の北関東センターの物件がなかなか見つからない。数十もの候補を検討したが、いずれも〝帯に短したすきに長し〟で条件を満たせる物件がない。S社長の個人的なつてでようやく良い物件が見つかったと思ったら、契約直前になって地主から売却を断られるといった不運にも見舞われた。
やむなく、老朽化のため取り壊しを予定していた北関東の既存施設を改修し、マザーセンターとして利用することになった。門扉の撤去、昇降機の設置、2階事務所フロアの圧縮による保管スペースの確保、外壁の修理などを施した。予想していたよりもかなりましな拠点に仕上げることができた。結果論ではあるが、大きな投資をせずに済んだのは幸いだった。
しかし、マザーセンターの物件探しに手間取ったことで、本来であれば不要なはずの1年を費やしてしまった。S社長と番頭役のT専務は焦っていた。ハードの手当てに早くけりをつけ、第1フェーズの終了時点で中断していたソフト面の改革、物流機能の強化をすぐに再開したいという気持ちが強かった。
1年ぶりの打ち合わせで、2人はたまっていた鬱憤を爆発させるかのように「あれをする」「これがしたい」「それはやるべきだ」と矢継ぎ早にまくしたてた。その場に同席していたS社長の実子の常務や他の幹部たちは議論に付いていくのが精一杯で、とても口を挟む余地はなさそうだった。
口角泡を飛ばすS社長の手元には、われわれNLFが1年前に作成・提出したリポートが置かれていた。ありがたいことにリポートは手垢で黒ずみ、いくつもの付箋が貼られていた。トップの物流への思いが相当なものであることを推察できた。
こうして久しぶりの打ち合わせで、われわれはまとめようのないくらい広範囲にわたるリクエストを聞くことになった。中には1年前のリポートに組み込まれていたテーマもあったが、棚卸し精度の向上やリードタイムの短縮、売り上げ拡大に向けた新たな在庫型センター(DC)の設置など、新しい項目もたくさん含まれていた。
アクションプランの詳細については後日、常務たちと筆者で詰めることになった。といっても、M社ではS社長が物流の一番のスペシャリストである。T専務を除けば他のメンバーたちは思い付きの代替案をいくつか口にする程度であった。実質的には、S社長の意向を受けて著者がリードしてアクションプランを作成した。
最終的には次の項目をM社の役員会に提出した。

①各種運営マニュアル/チェックリストの作成
②現場運営・管理ルールの決定
③運営フローの見直し・作成
④作業分担の見直し
⑤物流責任者に対する教育・研修
⑥製・販・物の連携強化
⑦物流KPIの設定
⑧適正在庫の設定
⑨WMSの導入
⑩西日本マザーセンターの新設
⑪受注センターの設置

役員会の承認はすぐに下りた。トップが物流に明るく、進め方をNLFに任せてもらえるプロジェクトはコンサルタントにとって仕事がしやすく、成功の確度も上がる。しかし、先に挙げた項目を全てクリアするには少なくとも2年は必要であった。
S社長に限らず経営者は往々にして気が短いものである。改革を成功させるには必要なステップを踏まなければならないことを、S社長も承知してはいるが果たして2年を待てるであろうか。一抹の不安を感じた。

生産計画、営業活動にもメス
①「各種運営マニュアル/チェックリストの作成」は、先の打ち合わせでS社長から直接リクエストされたテーマの一つであった。M社のセンターはベテラン作業員の勘と経験を頼りに運営されていた。現場作業には他のスタッフとのあうんの呼吸が必要であった。
〝人に仕事が付いている〟典型的なケースであり、作業を標準化することでこれを〝仕事に人が付いている〟状態に逆転させる必要があった。
「入荷」「入庫(格納)」「ピッキング(在庫引き当て)」「出荷」「梱包」「検品」「配車管理」「棚卸し」の各作業についてマニュアルの作成を進めた。しかし、M社にはISOマニュアルがあるだけで、マニュアルの作成を経験したスタッフがいなかったため、事務作業には時間を要した。

②「現場運営・管理ルールの決定」もS社長からの強いリクエストであった。①で作成した運営マニュアル/チェックリストを基に「入荷締め切り時間」「当日出荷受注締め切り時間」「センター内リフト通行方向」「先入れ先出し」「入荷検品の実施」などの多くのルールや業務の枠組みを設定した。その大半は〝あるべき姿〟として他の会社にも共通する基本的なものである。

③「運営フローの作成」は、①と②を受けて運営フローをチャート化したものである。入荷フロアにPCを1台設置し、従来は商品を格納した後に行っていたオーダーエントリー(入荷計上)を入荷検品と同時に処理するようにした。同様に梱包前だった出荷検品も箱詰め後に修正した。

④「作業分担の見直し」は、センターの運営組織・人員体制全般に関わる大きなテーマであった。従来からM社の物流現場は社員による自社運営を基本としていた。しかし、現場担当者の作業能力や適正をテストしたり、適正人員を算出したりしたことはなかった。
個々の残業時間はチェックされるものの、仕事の中身は管理できていなかった。その結果、現場ではできる人に仕事が集中し、仕事量に格差が生じていた。それが待遇や昇進に反映されるわけでもないため、公平感が失われていた。その点でも属人的な能力に頼った現場運営を改め、〝誰もが分かる、誰もができる現場づくり〟に注力しなければならなかった。

⑤「物流責任者に対する教育・研修」は、新しいマザーセンターが稼働するまで暫定的に各地のセンター長を常務が兼務しており、実質的にセンター長が不在であったため、フェーズ1から先送りされていたテーマだった。第2フェーズに入って、ようやく中途採用でセンター長を確保した。新センター長は物流業出身でメーカー勤務の経験がないため、NLFのカリキュラムから必要なテーマを抜粋して研修を行った。

⑥「製・販・物の連携強化」とは、製造部門、販売部門、物流部門の役割分担を明確化して各部門の連携を強化する取り組みである。第1フェーズでNLFはM社に対し、製・販・物の連絡会議を週1回開催することを提案した。それ以降、連絡会議は継続されてはいたものの、その目的である過剰在庫解消やリードタイム厳守に向けた具体策は十分に展開できていなかった。そこで製・販・物それぞれの責任範囲を明確にするところまであらためてさかのぼり、部門間の連携の在り方を再定義することになった。

⑦「物流KPIの設定」は、M社に限らず物流の可視化と改善活動には不可欠の施策である。そのキーパーソンとなってもらうため、新センター長に重点的に適切なKPIの設定方法とKPIを使った管理方法を指導した。KPIの実運用に当たっても新センター長と繰り返し打ち合わせを行い、数字で物流を語ることができる管理体制を目指した。

⑧「適正在庫の設定」はM社の長年の課題であった。工場は製造ラインの段取り替えの回数が少ないほど効率が上がるため、生産ロットをできるだけ大きくしたがる傾向にある。
しかし、作りだめすれば当然ながら在庫が膨らんでしまう。一方、販売部門は小ロットの注文にも即座に対応して顧客満足度を高めたい。しかし、ロットが小さくなり過ぎると製造ラインが採算分岐点を割ってしまう。その調整に常に四苦八苦していた。
これを改善するため、生産部門ではラインの段取り替えのスピードアップに取り組んだ。
その結果、従来比24%の段取り替えの所用時間短縮を実現した。これに合わせて生産ロットを見直した。並行して営業部門では顧客との取引条件に発注ロットを加え、製品別の生産効率を反映した新規顧客向けのキャンペーンを行い、デッドストック化を回避するためのディスカウントルートの開拓などを行った。

在庫拠点集約から再び分散へ
⑨「WMSの導入」は必須であった。S社長は循環棚卸しを毎日行う、いわゆる〝デイリー在庫〟を近く実施したい考えであった。人手の集計作業で追い付かないのは明らかだった。現在、システムの仕様決定(用件定義)とシステム開発会社の選定を進めている。開発会社と正式に契約を結んでから6カ月後に新システムを稼働させる計画だ。
前述の通り、M社は物流センターを外部委託せずに自社運営しているが、WMSでもS社長は自前にこだわった。そのための投資も覚悟していた。大手小売りや卸などの流通業者が独自のWMSを構築することは今でも多いが、メーカーでは大手であっても少数派だろう。それだけS社長は物流に高い管理レベルを期待しているのであった。

⑩「西日本マザーセンターの新設」は、第1フェーズでは議題に上っていなかったテーマだ。しかし、S社長は当初から北関東への集約が済んだら、西日本にもマザーセンターを新設して再び拠点を分散させるつもりだったようだ。拠点の集中による効率化に続き、分散化によってサービスレベルを向上することで、事業を発展させていく考えであった。
一般的には、拠点集約の次のステップは受注センターの設置である。商物分離に続き、受注機能も営業所から分離して物流部門に取り込む。さらにその次は需給調整部門としてSCM部門を設立する。そして昨今だと協力運送会社と一緒に配車センターを新設して輸送ネットワークを最適化する、といったステップで管理領域を広げていく。

M社は既に⑪「受注センターの設置」までは駒を進めるべき段階に来ていると筆者はみている。そのことをS社長とT専務に伝えたところ、2人とも大きくうなずいた。ただし、それまでにクリアすべき課題がたくさん残っている。そのため西日本マザーセンターと受注センターの設置は2018年夏以降を想定している。
こうして一度は中断していたM社のプロジェクトが再び大きく動き出した。それは現在の第2フェーズでとどまることはなく、第3フェーズ、第4フェーズと続いていくことだろう。トップダウンの物流改善・物流改革には本来、それだけの推進力があるということを筆者はM社からあらためて学んでいる。