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第162回 事例で学ぶ現場改善:『衣料品メーカーN社の誤出荷ゼロ化』

誤出荷が多く、納品先からクレームを受けていた。在庫差異も大きかった。年に2度の 棚卸しを毎月実施するようにしたところ、誤出荷の原因がだんだんと見えてきた。しかし、どうやって改善すればよいのか分からない。物流コンサルタントの支援を受けることにした。

直置きの段ボール箱がずらり
N社はヤングミセスを主なターゲットとするアパレルメーカーだ。年商は約80億円。メーンの販売先は大手専門店チェーンで、量販店の平場にも一部卸している。生産拠点は国内2カ所に自社工場を構えている他、中国、ベトナム、バングラデシュにもそれぞれ工場を置いている。物流センターは関東に1カ所のみ。物流会社からスペースを賃借し、運営は社員と直接雇用のパートスタッフで行っている。
われわれ日本ロジファクトリー(NLF)のホームページを見たというN社のY会長から連絡が入り、その数日後にN社の本社を訪問することになった。Y会長が他に側近も置かず自らわれわれを出迎えてくれた。会長といってもまだ40歳代で、アパレルメーカーの経営者らしいすらりと背の高いおしゃれな人物である。
ショールーム兼商談ルームに通された。Y会長は小さな声ではあったが、言葉を選んで的確に自社の物流の状況と課題を語ってくれた。その話しぶりから非常に温和で物腰柔らかな人物であることがうかがえた。
主要納品先の一つである某専門店チェーン向けで、誤出荷トラブルが多く発生し、クレームを受けているとのことであった。物流センターでもかなりの在庫差異が発生している。そこで従来は年に2回だった棚卸しを最近になって月1回に変更したという。その際には営業からも応援を7〜8人駆り出しているという。
簡単な説明を受けた後、われわれは現場調査に着手した。物流センターは本社から車で50分ほどの場所にあった。庫内には段ボールに入った商品がずらりと平置きされており、保管棚やラックは使用されていなかった。6ブランドを展開していることから、段ボール箱の山が無作為に6つのゾーンに固められていた。
センターの運営人員は社員7人にパートが16人。社員比率が高い上、スペースに対して人員が多く、手待ち状態のスタッフが至る所に見受けられた。高コストは明らかで、基本的な商品管理レベルから手直しする必要があった。その後、本社に戻って、営業、生産管理、システム担当者からヒアリングを行い、出荷などのデータ関係にも目を通した上で、後日、次のような改善項目を提示した。

①ピッキング方法の見直し
②棚卸し方法の見直し
③商品マスターの整備
④返品処理のルーティン化
⑤検品方法の見直し
⑥商品保管方法の見直し
⑦ロケーション・レイアウトの作成
⑧通路幅の適正化
⑨評価制度の導入
⑩誰もが分かる、誰もができる現場づくり

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Y会長から承諾を得てすぐにプロジェクトをスタートした。といっても、正式にプロジェクトチームが発足したわけではなく、われわれNLFのメンバーと物流センター長、それにアシスタントとして経営企画担当のスタッフが入り、Y会長がオブザーバーという陣容である。

①「ピッキング方法の見直し」は、若干の投資を必要とした。同センターではショッピング用のかごをピッキングに使用していた。かごを出荷場に広げ、スタッフが一品一品必要な商品を見つけてきてかごに入れるという方法であった。そのため段ボール箱を置いたエリアとピッキングかごを何度も往復する必要があった。そこでY会長にお願いしてショッピングかごを上段に2つ、下段に2つセットできる中型のピッキング台車を5台投入した。ピッキング台車を押して保管エリアを回る方法に移行したわけである。
②「棚卸し方法の見直し」は、それまで1人で作業していたのを、読み上げ担当者と記入者の2人1組の作業に改めて、チェック機能が働くようにした。また販売システムから出力される在庫データの下2桁をあえてマーカーで消すことによって、実在庫をカウントした実数を空欄に書き込ませるようにした。最初から〝正解〟が書いてあると、カウントで差異が出ても確認しない、〝正解〟を当てにいってしまうことが往々にしてあるためだ。

返品処理のデイリー化が大きな効果
③「商品マスターの整備」は骨の折れる作業となった。N社には「定番」と呼べる商品がほとんどなかった。アイテム数は各シーズン1800SKU程度で、毎月70〜80種類の新製品が投入されて、それらを売り切るというスタイルだった。
アパレル品は同じデザインでもサイズ、色展開があるためSKUは製品数の何倍にもなる。返品や良品・不良品の区分を加えるとさらにSKUは増える。しかし、N社は在庫金額こそ販売管理システムで管理しているものの、そのデータを物流現場作業に使うことはほとんどなく、マスター管理に対する意識が著しく低かった。
システムを改修して在庫管理の項目を増やすことになった。その際、今では使われていない管理項目や、終売商品などのデータの削除も行い、マスターを整備するという計画である。具体的に誰がその作業をやるかが問題であった。検討の末、物流センター長のデイリー業務にマスターの整備を組み込むことにした。
④「返品処理のルーティン化」は、大きな効果があった施策だ。誤出荷が発生した場合、普通はまず在庫をチェックする。間違った商品を出荷したのであれば、その商品の実在庫は帳簿上より少なく、本来出荷すべき商品の実在庫は多く残っているはずである。しかしN社は在庫のチェック自体をしていなかった。在庫管理がルーズで元の数字も怪しかったからである。
Y会長が命じて月単位で棚卸しを実施するようになって、在庫差異の原因が少しずつ分かってきた。その一つが返品処理の対応だった。それまでは閑散時に返品をまとめて処理していた。そのため出荷ミスが原因で返品されたものと不良品が混在し、原因を突き止めることもできていなかった。返品商品の山の中には再出荷が可能なA品もたくさん残っていた。
そこで返品処理をセンターの毎日の業務フローに組み込んで、その日に返品されたものはその日のうちに処理するようにした。その結果、在庫差異の抑制に効果があっただけでなく、欠品になっていた商品が返品から見つかり、追加生産を中止したり、B品を修理してA品に戻したり、早期にセール品に仕分けることなどが可能となった。
⑤「検品方法の見直し」にも踏み込んだ。従来はピッキング後の梱包前に点数の検品のみ行っていた。これを改め、点数だけではなく、納品伝票に基づいて商品番号と照合するようにした。従来よりも検品作業に時間はかかるようになったが、SKUレベルでの出荷間違いが確実に発見できるようになり、誤出荷が減った。
⑥「商品保管方法の見直し」は、先述の通り同センターでは従来、段ボールケースを床に直置きして在庫を保管していた。本来であれば、高さ1800ミリメートルの軽量ラックを導入したいところだが、出費がかさむためそれは次のステップに持ち越しとした。
その代わりアパレル用の透明の両開きオリコンを30個購入して小物はそこで保管するようにした。袋入り品や、中物、大物に関しては引き続き段ボール保管だが、3段積みで保管するルールを決め、段ボールの横にカッターで窓枠を作り、そこから商品を取り出せるようにした。最下段はピッキング時に作業者が屈まないといけないため、2枚のプラスチックパレットを段ボールの下に敷いて高さを確保した。

うろ覚えの商品名でピッキング
⑦「ロケーション・レイアウトの作成」は、ほぼ何もない状態から一つ一つルールを作っていった。同センターの作業員の多くは、うろ覚えの商品名を基にピッキング作業を行っていた。それが誤出荷の主な原因の一つであった。ロケーションやレイアウトという概念自体を欠いていた。
まずプラスチック製のパウチでアルファベットのつるし看板を作成して、ゾーン区分がはっきりと分かるようにした。その上で棚番地を明確化した。棚番地を基に作業することを定着させるため、ロケーション番号は大きな文字で、商品番号と商品名は小さな文字で表示した。本来であれば表示はロケーション番号だけでいいのだが、同センターでは段階を踏む必要があると判断した。
⑧「通路幅の適正化」は、ショッピングかごを持って往復するピッキングから台車ピッキングに変更した以上、外せない項目だった。繁忙時には人がごった返して身動きが取れない状態が発生していた。通路という概念もまた、あらためて理解させる必要があった。3段積みダンボールとオリコンの組み合わせで保管エリアを設定し、対面ですれ違うことができるように、エリア間の通路幅を1450ミリメートルに設定した。
庫内作業員を対象とする⑨「評価制度の導入」は、Y会長自らの要望であった。インセンティブ制度も導入したいという。しかし、われわれの見立てでは、それ以前の問題が多く、時期尚早であった。当たり前のことをできるようにするのが先決である。その旨をY会長に伝え、評価制度とインセンティブはセンター運営が正常化した後にあらためて検討することにした。
⑩「誰もが分かる、誰もができる現場づくり」は、棚番地はもとより、進行方向を示す矢印や、注意しなければいけない作業の正誤画像など、ビジュアル化を推し進めた。同センターは、社員はもちろんアルバイトにもベテランが多かった。そのために、あうんの呼吸やハウスルール、ローカルルールがはびこっていた。しかし、誰もが分かり、誰もができるセンターでなければコストは下がらない。次のステップではパート比率を上げて、余った社員を本社の他の業務に振り分ける計画だ。既に具体的な人事案も並行し
て作成を進めている。
このように、N社の改善は基礎的な課題を一つ一つつぶしていく作業であった。そして基礎的な課題ほど、しっかりとできている現場とできていない現場の差が激しいことを筆者はあらためて痛感させられたのであった。