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第163回 事例で学ぶ現場改善:『通販会社X社の自社センター改善』

地方の名産品をインターネットで扱う通販会社から物流コンサルティングの依頼が入った。
生産地に自社運営の物流センターを置いて全国に発送しているが、スペースが手狭になったので機械化を検討しているという。しかし実際に現場を視察してみると、投資より前にすべきことがたくさんあった。

増床工事が作業性に影響
インターネット通販会社のX社は、地方に自社運営のセンターを構え、地元の名産品や工芸品を中心とする約700アイテムを全国に販売している。そのうち9割は地元の生産者やメーカーからの調達品だが、残りの1割はX社のプライベートブランド(PB)商品の雑貨品をセンター内で生産して出荷している。
現在の年商は約30億円。新興のネット通販会社としてはうまく軌道に乗せることができたといえるレベルだろう。楽天市場などのネットモールにも出店しているが、自社ホームページでの販売に力を入れている。テレマーケティングによる電話営業も実施しており、大きな武器となっている。
同社から物流コンサルティングの依頼を受け、初回は大阪にあるX社の親会社のオフィスでTV会議システムを使って打ち合わせを行った。センターが手狭になってきたので、改善してスペースを確保したいという。そのために機械化と導線の見直しを考えているとのことであった。
現場の状況について、画像データが準備されていた。モニターを介してのやり取りなので今一つ分かりにくいところもあったが、画像を見る限り、スペースの広さだけでなくレイアウトや通路の作り方にも問題があるようだとわれわれは指摘した。
それから約1週間後に現地入りした。筆者の住む大阪からかなりの時間を要した。地方空港から町の中心部まで空港バスで移動し、そこからタクシーに乗り継いでようやくセンターに到着した。画像データの印象よりも外観は立派で、かつしっかりとした建物であった。
ただし、過去に増床工事をしたのであろう。2棟がL字型に接続された構造で、つなぎ部分の高さが違うことが少し気に掛かった。
今回のプロジェクトリーダーを務めるM専務がわれわれを出迎えてくれた。ちょうど作業中の時間帯とのことで、あいさつもそこそこにセンターの内部に入った。まずはざっと1周して見て回り、2周目で気になる点についてM専務や現場の担当者にいくつか質問した。
機械化を進める前に実施しておかなければならないことが多くあった。
その後、関係者へのインタビューやデータ分析を行い、次の改善項目を提示した。

①建物の構造に合わせたゾーニング
②ロケーション/レイアウトの作成
③棚番地の設定
④「定物定位」の徹底
⑤ライン化(線引き)
⑥通路スペースの確保
⑦直置きの禁止
⑧高積みの禁止
⑨6つの「ない」の実践
⑩現場のショールーム化
⑪〝かがみ作業〟のゼロ化
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①「建物の構造に合わせたゾーニング」は先に触れた通り、同センターは過去に増床工事を行っており、L字型の使いにくい設計となっていた。そこで新たにスペースを2つの長方形のエリアに区分し直して、一方は在庫および資材置き場、もう一方を作業エリアと位置付けた。それまで事実上〝開かずの扉〟となっていた旧建物と新建物のつなぎ部分にある出入口を「入荷口」とした。至ってシンプルな改善だが、それだけで商品と人の流れが清流化し、作業動作に規則性が生まれた。
②「ロケーション/レイアウトの作成」は、保管場所を見てもどこに何が置いてあるのか分からなかったので、あらためて出荷頻度に基づくABC分析を行い、アイテムをランク付けして保管場所を決定した。並行して保管棚の位置も見直した。Aランク品のエリアは作業生産性、B、Cランク品エリアは保管効率を優先してレイアウトを決めた。
③「棚番地の設定」について、Aゾーン、Bゾーン、Cゾーンという大きなくくりでの区分は、われわれが現場に入った時点で既に表示があった。これを受けて棚番号と棚段までを決めることにした。通常、棚番地は棚段をさらに区分した「コマ」まで設定するのだが、その前にWMSの導入、ピッキングリストの見直し、商品マスター整備などを進めるべきだと判断した。
④「『定物定位』の徹底」は、いわゆる「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」の強化を目的としている。「5S」をただ声高に叫んでも、現場にはなかなか伝わらないものだ。そこで改善の対象を絞り込んだ。
カッター(本来は作業員のけが防止と商品破袋防止のため使用したくないところだが、同センターではやむを得ず使っている)、ガムテープ、エプロン、ビニールラップ、ハンドリフトの5品目について置き場所(返却場所)を決め、それぞれ貸し出し数量分の間口やフックを設けた。
これによって、いくつが使用中で、いくつ戻ってきていないかが一目で分かるようになった。従来は作業員がこれらの備品を探している場面が多く見受けられた。会社の備品を特定の作業員が抱え込んでしまうことのないよう意識付ける狙いもあった。
倉庫の床にラインを敷いてスペースを明示する⑤「ライン化(線引き)」も定物定位と連動する施策である。在庫や備品のほか、ほうきやちり取り、ハンドリフトなどが本来置くべき場所からはみ出していることが多かった。空きパレットや出荷用段ボールなども、放っておくとすぐにさまよって場所をふさいでしまう。それぞれの置き場所を明確にして、そこからはみ出させないようにすればスペースを広く使える。

手狭な拠点ほど通路幅に注意
⑥「通路スペースの確保」は、手狭になっている現場では特に重要である。スペースに余裕がないと、ついつい通路に在庫や備品を置き、さらに通路が狭くなるという悪循環に陥る。繁忙期の出荷の大きな妨げになる。在庫型センター(DC)における通路は血管であると同時に心臓部でもある。十分な幅を確保しなければ血流が悪くなる。
通路幅は台車ピッキングの相互通行であれば1500ミリメートル、一方通行であれば750ミリメートルを基準として、ハンドリフトや台車の旋回幅の大きさを考慮して決定する。同センターは、一方通行の680ミリメートルで狭過ぎた。しかも、通路の突き当たりが行き止まりとなっているため、無駄な移動が多かった。そこで在庫量を減らしながら通路幅を広げた。
在庫の⑦「直置き」は原則禁止にした。どうしても置かなければならない場合はマットやダンボールを敷くことをルール化した。食品を多く取り扱っている以上は当然のことである。
⑧「高積み」も禁止した。無理な高積みによってスペースを確保しているのは一目瞭然であった。荷物が落ちてきたら、大けがになる恐れがある。しかし自社運営ということもあるだろう。安全に対する意識が希薄なところが見受けられた。この点については、M専務およびセンター長と時間をかけて話し合った。
⑨「6つの『ない』の実践」とは、これまでにも本連載で何度か紹介しているが、「持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない」という改善のガイドラインであり、具体的には次を実施することである。センター長に伝えて徹底を促した。

「持たせない」=ダブルハンドリングをなくす
「書かせない」=手書き、転写業務のゼロ化
「歩かせない」=導線の短縮
「待たせない」 =待機車両のゼロ化/手待ちのゼロ化
「考えさせない」=誰もが分かり、できる現場づくり/ビジュアル化
「探させない」=定物定位/棚番地の明確化

⑩「現場のショールーム化」は、改善活動の定性的目標だ。センターを見て「ここなら安心だ。おたくから買わせてもらうよ」と言われるような現場を目指す。そのためには5Sに加えて、例えば作業員の「あいさつ力」を強化する。センターを訪れた客に対して作業員が、やらされるのではなく自身の意思で、気持ちの良いあいさつを行うところまで持っていく。
庫内照明の照度を上げるなど〝舞台づくり〟も行った。
⑪「〝かがみ作業〟」は腰を悪くする。肉体に与える負荷が大きく、生産性や作業品質にも影響する問題である。この点では近年、自動化ロボットや作業支援装置の開発が進んでいる。
現場のショールーム化にも一役買ってくれる。一連の改善活動が定着した暁には、X社に導入を提案するつもりである。こうしてX社のセンターは大きく転換しようとしている。