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第166回 事例で学ぶ現場改善:『外資系高級雑貨G社の拠点集約』

日本法人代表のドイツ人と、ライバル会社からヘッドハンティングされた日本人物流責任者が今回のカウンターパートだ。本国の指示で拠点集約に着手したものの、社内に本格的なプロジェクトチームを組織するだけのマンパワーはない。急ぎ物流コンサルタントに支援を依頼することにしたという。ゼロからのスタートではなかった。

時間的余裕は常にない
外資系G社は世界中に事業を展開している高級雑貨品メーカーだ。日本法人の年商は約80億円。約6500SKU(Stock Keeping Unit)を全国の百貨店、専門店、そして直営店で販売している。日本国内の物流拠点は関東の東部と西部にそれぞれ1カ所、関西に1カ所の計3カ所に設置していた。そのうち関西の拠点は、サービス向上の一環でリードタイムを短縮するため一昨年に新設したばかりであった。
ところが本国の意向で、拠点配置を急遽、見直すことになった。物流の効率化、作業マニュアルの統一、セキュリティーの確保という3つの理由から、拠点を1カ所に集約するよう指示が出た。商品単価を考えるとG社の物流費の負担は決して重くはなかったが、本社のCEOが交替してコスト重視にかじを切ったとのことであった。
筆者はある人物から紹介を受け、G社で日本事業を統括しているドイツ人のM氏と、日本人マネジャーのT氏の2人と接触した。T氏はG社と同様の輸入ブランド雑貨の物流管理を担っていたところをヘッドハンティングされた人物であった。ただし、前職で経験したのは輸入物流のみで、国内物流に詳しい〝助っ人〟を求めていた。
またG社に移ってからT氏は物流以外の業務を兼務しており、今回のプロジェクトを進めるに当たっては、T氏以外にプロジェクトマネジャーを務める人物が必要であった。
しかし、G社の日本法人は少人数体制を敷いており、社内に適任者もいないことから、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に支援が依頼された。
そうした背景の下、キックオフミーティングを開催した。その時点で既にM氏とT氏の2人が先行して進めていた事項があった。次の通りである。

●集約先拠点の運営を委託する候補企業に「RFP(見積依頼書)」を提示して、当初  の4社を2社に絞り込んでいた。
●それに伴い集約先となる拠点の立地や物件の当たりも付けていた。
●G社には現状の3拠点とは別に、eコマース用の拠点があり、それも新拠点に統合するという意思決定をしていた。
●自社WMSの開発に着手していた。

その詳細を説明するM氏とT氏の様子から、2人の間でもまだ十分にコンセンサスが取れていないところが相当にありそうだと感じた。今回はその意見調整もわれわれNLFの役割の一つになるであろう。また、繁忙期を避けて拠点を移管するには、かなりタイトなスケジュールにならざるを得ないことも明らかになった。
筆者としては、プロジェクトの基本コンセプトの策定や納品先の着地点分析による最適立地の選定など、本来のスタート地点から関わりたかったところである。その方が良い結果になるとの自負もあるがやむを得ない。初回ミーティングを受けて、今回のNLFの役割を次のように整理した。

①移管プロジェクトのマネジメント
②庫内ロケーション/レイアウトの検証
③作業マニュアル作成
④SLA(サービスレベル・アグリーメント)締結
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①「移管プロジェクトのマネジメント」は、毎度のことながら、時間のないことが最大の制約であった。そもそもコンサルタントを導入する目的の一つが〝時間を買う〟ことであろう。そのため時間に余裕のある案件などほとんどないのが実情である。
今回のスケジューリングの鍵は、G社が開発中の自社WMSが完成するまでの間、どうやって業務委託先の物流企業とインターフェースを取るかという問題が握っていた。
具体的には「a.委託先のWMSをG社の販売管理システムにつないで運営する」「b.委託先のWMSはつながず、当面の間は販売管理システムのデータを現場で出力して対応する」の二者択一であった。
物流会社の多くは、自社WMSシステムの利用を業務受託の前提にしている。使い慣れたシステムを使って早期に作業生産性、保管効率を向上させ、利益化を狙いたい考えだ。
しかし、G社の業界では荷主の販売管理システムをそのまま出力して作業指示書として使用するケースが多い。あるいは物流会社側で元データを自社のWMSシステムに再入力していることもある。
a案とする場合、物流会社側のシステム対応力で開発工期が大きく変わってくる。システム開発スタッフを社内で抱えているか、外部委託としているかの違いが大きい。
G社の委託先候補2社のうち、3PLのM社はa案、もう一方の地場中堅倉庫会社N社はb案を提案してきた。現在その詳細を検討しているところだが、最終的な依託先の決定と一緒に結論を出す予定である。

物流特性を協力会社に理解させる
②「ロケーション/レイアウトの検証」とは、M社とN社からそれぞれ提案されるプランの妥当性を検証する作業だが、その前に、G社の本社で使用している作業マニュアルを確認し、物流業務の委託先に何を求めるのか、G社側で〝答え〟を用意しておく必要があった。
荷主が理想とするオペレーションと、委託先の運営方法および作業目的には大なり小なり乖離があるのが普通である。物流企業は当然ながら作業の生産性と保管効率を何より重視する。われわれプロジェクトチームは、そこに品質、セキュリティー面を加味して、荷扱いの丁寧さ、盗難防止、日焼け防止(遮光対策)、空調機器からの距離による温度・湿度の違いなどを配慮して、独自のロケーション/レイアウトを作成した。
ちなみに外資系荷主、とりわけ高級品を扱っている場合には「流通加工エリアでの照度は300LUXを維持する」「専用エレベーターを使用する」など、物流拠点の細部に至るまで細かく本社で規定していることも珍しくはない。
しかし後日、委託先候補から提出されたプランは、ごく一般的なものであり、G社の商品の特性を十分に理解したものとはいえなかった。そこであらためて両社に情報提供を行い、プランの修正を重ねていくことで荷主と物流企業との認識ギャップを埋めていった。
③「マニュアルの作成」は本来であれば、委託先候補から提出されたプランを検証すればいいのだが、G社の場合は百貨店納品があるため事前にG社側でたたき台を作成する必要があった。
百貨店納品は、百貨店ごと、売場ごとに伝票作成と納品形態が細かく異なるため、マニュアルが重要なツールとなる。同じ百貨店でも商品カテゴリーや売り場、さらには担当者ごとに仕様を変えなければならないこともあり、実績のある物流企業でもてこずる場合が多い。
そこで、われわれNLFのスタッフが主体となってT氏に何度もヒアリングして、マニュアルを仕上げた。それを委託先に提示して、それぞれ独自の作業マニュアル、作業手順書に変換させて、その内容をプロジェクトチームがあらためてチェックするという流れで作り込んでいった。SKU別に作業内容が変わるケースも少なくなかったことから、最終的にマニュアルはかなり分厚いものになった。
荷主と物流企業が事前にサービス水準に関して合意書を交わす④「SLA締結」は、KPIの設定がポイントである。G社の本国および他国の事例を参考にしながら委託先候補と協議を進めた。本国と同じKPIだけでは日本の現場レベルの実態は把握できないと判断し、オリジナルのKPIを追加設定した。
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参考までに一般的なKPI報告書を上に掲載しておく。
こうして何とか計画通りにプロジェクトを進めていたが、一つ問題が発生した。委託先2社の再見積もりの金額に大きな開きが出た。原因を探ったところ、G社が物流会社に提出した提案依頼書の内容が不十分であることが分かった。
プロジェクトを正式に開始する前に既にRFPは提出済みと聞いていた。しかし機密保持契約書(NDA)を締結する前であったため、出荷量や在庫量の実績データや、詳細な業務範囲が明示されておらず、情報開示が不十分であった。
そこで必要なデータを整理して再度RFPを作成し直すことにした。本国とのコミュニケーション不足によりデータの入手には手間取ったが、何とか物流会社の希望する期限には間に合わせることができた。来月中には最終的に委託先を決定し、すぐに移管業務に着手する計画だ。