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第167回 事例で学ぶ現場改善:『雑貨品メーカーD社の物流外注化』

売り上げがピーク時の半分以下に低迷。経営の立て直しを迫られた雑貨品メーカーが、 外部から再建請負人を招き入れた。まずは物流にメスを入れることにした。自社所有 の物流センターを売却し、運営も外注化して物流コストを変動費化する。そのために 組織したプロジェクトチームのアドバイザー役を物流コンサルタントに求めた。

風変わりな再建請負人
D社は年商約100億円の雑貨品メーカーだ。生産工場をタイと日本国内の2カ所に 置いている。国内工場から20キロメートルほど離れた所に物流センターを所有し、運 営も自社で行っている。
D社の製品は組み立て品が中心で、ホームセンターや専門店チェーンが主要な納品先 となっている。うち最大顧客の専門店チェーンL社は売り上げ全体の20%以上を占め ており、L社向けの物流対応や商品提案には全社一丸で力を入れている。また近年、BtoCのネット通販を開始しており、暗中模索しながら個人消費者に対応している。
ある日、D社の実質的なナンバー2のB氏からメールで連絡が入った。「物流体制が整っておらず困っている」という。数日後、弊社のオフィスにB氏が相談に訪れた。
予定の時間よりも早く着きそうだとの連絡があったのだが、実際に到着したのは約束の時間を20分ほど過ぎたころであった。道に迷ったらしい。
メールでのやり取りから凛とした紳士を思い浮かべていたのだが、実際にB氏に会って、予想は見事に裏切られた。髪の毛はいつ床屋に行ったのか分からないほどぼさぼさで、身なりもラフ。あいさつもそこそこに席に着くと、来社の途中に購入したらしいコンビニ袋に手を突っ込み、がさがさと探し物をしながらいきなり本題を切り出してきた。
実はその日のB氏だけでなく、D社自身もまた経営の道に迷い、かつては200億円以上あった年商が半分以下に落ち込んでしまっているという。そこで経営を立て直すためにD社のオーナーが同業他社からヘッドハンティングしたのがB氏であった。
つまりB氏は再建請負人であり、その役割は物流にメスを入れて、D社のP/L(損益計算書)とB/S(賃借対照表)を正常な状態に戻すことであった。
具体的には物流業務を外注してコストを変動費化し、自社倉庫は売却もしくは賃貸に出したいとB氏は考えていた。自前の物流運営と物流資産から離れて、いったん身軽にしたいという。それと並行し365日のBtoC対応を整備する。そして将来は日本市場に見切りを付け、東南アジアでの拡販を視野に入れているという。
そうビジョンを語る一方でB氏は、D社の現状の物流業務がすぐに外注へ出せる状態ではないことを理解していた。現場のオペレーションが担当者の長年の勘と経験によって支えられている上、外注化に当たっての基本方針も明確になっていなかった。
この打ち合わせの約1カ月後にプロジェクトをカットオーバーすることになった。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)の今回の役どころは、プロジェクトマネジャーとして陣頭指揮を執ることではなく、プロジェクトチームのアドバイザーであった。
B氏いわく「今回のプロジェクトは将来リーダーを担える人材が社内にどれだけいるのかを確認することも狙いの一つ。そのためあえて若手にプロジェクトマネジャーをやらせてみたい」とのことであった。これを受け、われわれはアドバイザーとして物流デザインを検討するとともに、D社の人的リソースにも目を光らせることになった。
まずはプロジェクトメンバーたちと物流センターの現場視察を行った。庫内は照度が足りていなかった。薄暗がりに在庫が山のように無造作に積み上げられていた。現場スタッフの高齢化が進んでいることも気掛かりだった。
さらに問題なのは、このセンターの何が問題なのか、プロジェクトメンバーたちが理解できないことであった。そこで視察中に何度も足を止めて、筆者がその作業エリアの課題を指摘して、問題意識を共有し、メンバーの目線を合わせることに努めた。
その後、メンバー間で具体的な改善策を協議して、次のようなテーマを抽出した。

①物流拠点の売却
②物流パートナー候補のリストアップ
③提案見積書(RFP)の作成
④WMSの検討
⑤物流部の発足
⑥最寄り港、工場からの顧客直送
⑦共同配送の推進
⑧将来の東南アジア圏での販売を見据えた現地物流拠点の設置

このうち①「物流拠点の売却」は、B氏が真っ先に目を付けたところであった。彼にとっては物流センターである以前にD社の所有不動産であり、売却すれば財務体質の改善に大きく寄与する。拠点は敷地が4500坪あり、地形も〝良〟のレベルであった。ただし、立地にあまり魅力がない。地方都市の郊外に位置し、高速道路とのアクセスは決して良いとはいえなかった。売却には長期戦を強いられることを覚悟した。
メーンバンク経由で物件情報を流したところ、意外に多くの見学依頼があったが、実際に手を挙げる会社がなかなか現れない。要は値段の問題であった。B氏が売りたい値段を周辺相場と比べると坪当たり約500円の差がある。値段さえ下げれば買い手が付くということでもあるため、メーンバンク、不動産鑑定士を交えて現在見直しを行っている。

物流資産を売却して業務を外注化
物流拠点の売却は、②「物流パートナー候補のリストアップ」とも関係してくる。物流業務の外注先の物流会社に拠点を購入してもらう、もしくは賃貸してもらえる可能性がある。あるいは物件を売却後に売却先から賃借し直す、つまりリースバックで同じ場所にとどまるという選択肢も残されている。
そのことを考慮して、当該エリアに強いことやD社と同分野の製品の取り扱い実績などと並び、D社の拠点を購入してくれる可能性のある物流企業を外注先候補としてNLFのネットワークから選んでいった。これにD社側でリストアップした既存の協力配送業者など4社を加えた計11社をパートナー候補とした。
この11社にそれぞれ連絡してヒアリングを行い、案件に対して前向きな姿勢か否かの感触をつかみ、フィルターをかけた。昨今、業務は受託したものの後になって人を集められないと音を上げる物流会社も珍しくない。そうなっては元も子もないため、最初の段階で業務の推進力に関する手応えを確かめておきたかった。
並行して③「提案見積書(RFP)の作成」を進めた。われわれNLFで使用している一般的なRFPのテンプレートをD社向けにアレンジすればよいのだが、その中身となる物流スペックが明確でなかった。「年間稼働日数を何日とするか」といった基本的な要件から「誤出荷件数は現状から見て年間何件までを許容範囲とするか」といった詳細なサービスレベルに至るまで、一つ一つ検討を進めた。
その過程で1日の作業スケジュールを整理していったところ、物流用語の統一という問題に直面した。他社でもよくあるのだが、同じ作業を「ピッキング」と呼んだり「引き当て」と呼んだり、「梱包」と「パッキング」が人によって混在している。結局、ゼロからセンター業務を洗い直すことになった。
④「WMSの検討」もまたB氏の肝いりのテーマであった。システム化することで属人化している作業を可視化すれば、総人員も削減できるだろうという発想だった。必要な投資について事前にメーンバンクに話もしているという。われわれもWMSの必要性は感じていた。在庫差異を解消し、KPI管理の導入に役立つ。
ただし、中堅以下のメーカーが自社でWMSを所有するケースはそう多くはない。W MSを所有している物流会社を業務委託先に選び、必要に応じてD社向けにカスタマイズしてもらうという選択肢もあることを説明した。
このプロジェクトにおける物流コンペの結果は守秘義務もあり詳しく解説することができないのだが、結局は最終的にパートナーに選んだ物流会社のWMSを使用して、そのカスタマイズ費用を折半することで落ち着いた。高額なシステム投資を回避することができた。

無題
業務部を解散して物流部を発足
⑤「物流部の発足」はわれわれNLFから見れば、今回のプロジェクトの最重要テーマであった。D社には物流専門の管理組織がなく、物流センターの現場業務を担当している業務部は、営業部門の傘下にあった。顧客のわがままが優先され、物流コストの上がりやすい体制である。製販に中立な物流管理部門が必要であった。
物流に軸足を置いた組織を設立することで、製造、販売、システム、組織、諸々の課題・問題点が自然と浮かび上がってくる。それを基にシステムの重要性を社内に理解させて、在庫適正化のロジックを確立する狙いである。
旧業務部を解散して、新たに物流部を発足した。その役割は上図の通りである。スタート時点でのメンバーは6人。従来の業務部から2人、他に製造、販売、システムからそれぞれ1人、パートのアシスタント1人という陣容である。少人数ながらも精鋭であることを前提にB氏と相談して人選した。
⑥「最寄り港、工場からの顧客直送」は、一つはタイで生産して現地で検品を済ませ、日本側で検査・検品が不要な製品が対象であった。D社の物量全体の8割を占めるタイ生産品のうちの約半分、全体の4割を日本の荷揚げ港から得意先のセンターへ直接送り込むことができた。
国内工場からの直送も、ラベル・伝票発行と最終梱包機能を工場に追加整備する必要があったが、国内生産分の半分弱を、物流センターを経由しない直送に切り換えることができた。その結果、トータルで年間6800万円の横持ち運送が削減された。
⑦「共同配送の推進」は、現在2つのアプローチで進めている。1つはD社の同業他社や調達先などとの共同配車である。もう1つは配送協力会社T社のネットワークを使った共同納品だ。T社は別の荷主の案件でホームセンター納品を行っている。それ
をベースカーゴとしてD社の荷物を混載して一緒に納品するというアイデアで、現状では最有力と考えている。
最後に⑧「将来の東南アジア圏での販売を見据えた現地物流拠点の設置」については、実は既にD社は現地販売を一部で開始しているだが、販売金額が年間10億円を突破した時点で具体的に動けばよいとの判断から、再検討テーマとして次年度に持ち越した。
こうしてD社のプロジェクトは、単なる物流改善を超え、経営の立て直しに向かって進んでいる。中堅・中小企業をクライアントとする物流コンサルティング案件では決して珍しいことではない。その期待に応えるため、われわれは物流コンサルタントである前に経営コンサルタントであらねばならないと自覚している。